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本編 第一部 ~騎士の娘は茶会にて~

影武者なんて、おやめなさい。

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「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・?」

紅茶を飲んで熱が少し下がった私は、ある事に気付いた。ノックの音が聞こえなかったのか、影武者が未だ入室の許可を出していない事だ。
人払いをしてしまった以上、使用人達は許可が無いと入室出来ない。チラリと影武者の方に目を向けると、俯いていて表情が読み取れない・・・。

(こっ、これは・・・まさか・・・怒っていらっしゃる?!)

ふと思い返して見れば、今日の殿下単体で考えると大変良くして頂いた気がする・・・。

控え室で一緒に紅茶を飲んでくれて、
(前回迄が露骨過ぎるだけな気もするけれど・・・)

ドレスを褒めて下さって、
(半ば強制的に言わせた様なものだけれど・・・)

優しくエスコートしてくれて、
(別に頼んでないけど・・・)

大勢の人の前で手の甲にキスまでして見せて、婚約者としてアピールしてくれた。
(別に頼んではいないけれど・・・っ!)

それなのに私は、婚約者としての役目をそっちのけでキースランド伯爵令嬢と騒ぎを起こし、挙句の果てに殿下を巻き込んだ・・・。
にも関わらず、交渉を迫り今日の事を報告しないでくれと高圧的に言い立てている私・・・。

途端に、何だか申し訳なくなってきてしまい、一先ず謝罪しようと声を掛ける。

「あの・・・、今日は本当になんというか・・・とても助かりましたわ。先程は・・・一方的過ぎましたわよね?ごめんなさい・・・。」

「・・・・・・・・・。」

影武者は顔を俯かせたまま、全く何のアクションも無かった。『無言でも全然へっちゃらだ!』と数時間前に言っていた癖に、この沈黙に耐え切れなくなった私は再度口を開いてしまう。

「私は殿下に相当嫌われてしまっている様ですわね・・・。今日は良い夢を見させて頂きましたわ。・・・・・・よくよく考えてみれば、貴方が殿下に報告しなくても、出席者の方々があれだけいらっしゃったのだから、遅かれ早かれ殿下の耳には入ると思いますし、報告は貴方にお任せしますわ。」

「・・・・・・・・・。」

影武者はもう黙りを決め込んでしまったのか、私が殿下への報告内容は任せると言っているのに、何の反応も無い。
でも私は・・・〝報告〟を譲るのであれば、譲りたくないものが有った。

「その代わり、一つお約束して頂きたい事が有りますの・・・」

「・・・・・・・・・?」

無言のまま数分ぶりに少し顔を上げた影武者は、何だか別人の様な顔付きになってしまっていて・・・少し驚いてしまった。
もしかすると、これが本来の姿なのかもしれない。そう考えが過り、〝やはり言わなくては!〟と再確認する。



「もう二度と殿下の影武者なんてするのは、やめなさい。」



今まで何回、殿下のフリをして人前に出て来たのか分からないが・・・、こんな事は長くは続かない。絶対に気付かれる日が来る。その時が来た時に・・・この人も殿下も必ず罪に問われてしまうし、知ってしまった以上、やはり見過ごす事など出来ない。

「フローラ・・・帰る前に会わせたい人が居るんだ。良いか?」

「へ・・・?」

やっと口を開いてくれたかと思えば、私の想像の斜め上を行くその発言に、思わず素の声がもれ出してしまった。

(馬車も相当待たせて居るし・・・出来れば断りたいけど・・・この流れで断りにくいなぁ・・・。)

「時間は取らせないと約束する。」

私の表情から答えを読み取ったのか、追い討ちをかけられてしまった私は、こう答えるしか無くなってしまった。

「それならば・・・お願い致します。」

とーーー。







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