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本編 第一部 ~騎士の娘は茶会にて~

私から奪ってみなさい!

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少し困惑気味の影武者は、それでも笑顔で私の元へとやって来た。

「ご機嫌よう、ご令嬢方。それで・・・えーと、僕を呼びましたか?フローラ」

まさか私達2人の仲が愛称を呼び合う程の仲だと思っていなかったご令嬢方は、私の後ろで固まってしまっていた。そんなご令嬢達に向かって、先ずは軽く挨拶をした殿下(偽物)に対し、キースランド伯爵令嬢が我先にと淑女の礼をとった。

「殿下、本日はお招き頂き有難うございます。わたー」

「ルークぅ!とても怖かったわぁ・・・っ!」

キースランド伯爵令嬢の言葉をわざと遮って、私は影武者の胸に飛び込み、手で顔を覆い、小さくしゃくりあげ、泣いているフリをした。

「っ・・・ー!?」

突然の事で驚いている影武者は、私を抱き締める訳でも慰める訳でも無く、手が宙をさ迷っていた。
指の隙間から横目でキースランド伯爵令嬢の方を覗き見ると、顔を真っ赤にして今にも怒鳴り出しそうなキースランド伯爵令嬢と、その真逆でサーッと血の気が引いている取り巻きズの姿が見えた。

「私がルークの婚約者にふさわしくないと・・・皆様が仰るのです・・・。ルークが本日の為に下さったドレスも・・・〝はしたない〟と言われて・・・!」

「ーーー本当・・・なのですか?」

殿下(そっくりさん)に睨まれたご令嬢達は、全員が全員、顔を俯かせて黙りを決め込んでしまった。

「否定しないという事は、肯定と捉えますが?」

この言葉からの取り巻きズの変わり身の速さは、呆れてしまう程早かった。

「わっ、私は何も言っておりませんわ・・・!」
「私もです!たっ、たまたまこちらに居合わせただけで・・・」
「全てキースランド伯爵令嬢のお戯れで、私達は無関係ですわ!」

「なっ・・・?!貴女達、よくもまぁ・・・!」

(まぁ、予想通りの展開よね・・・。)

「分かりました。では、無関係の方は席を外して頂けますか?」

殿下の黒い満面の笑みに少し狼狽えながらも、取り巻きズは揃いも揃って回れ右をして立ち去っていった。

「ああ、そうそう!もし次も〝たまたま居合わせて〟しまったら・・・その時は同罪と見なしますからね?気を付けて下さい?」

(影武者・・・グッジョブ!お灸はしっかりと据えてやらなきゃね!)

取り巻きズは殿下の忠告に振り返りはしたが、礼などをする余裕が無かったのか、無作法にそのまま立ち去ってしまった。

「ルーク、ありがとうございます。私、もう大丈夫ですわ。」

私はようやく影武者の胸での嘘泣きをやめて、キースランド伯爵令嬢の方へと顔を向けた。

「フローラ・・・?本当に大丈夫なのですか?その、色んな意味で・・・」

「・・・?えぇ、勿論ですわ。」

色んな意味でって・・・どういう意味?私が泣いた事以外に何を心配する必要が・・・?

「私はっ!!謝りませんわよ・・・っ!殿下の隣に立てる様にと、殿下に相応しい女性になろうと、幼い頃より努力を重ねてきた令嬢は、沢山おりますわ!それを・・・急に横から入って来て・・・、奪い取ってしまわれたのですから!僻み位、甘んじて受けるべきですわ・・・っ!それ位、殿下は特別なのですわ・・・っ!」

噴火寸前だった一人残されたキースランド伯爵令嬢は、噴火してしまったらしく・・・止める隙が無いほど言葉を連ね、泣き出してしまいそうな顔で、必死に殿下に訴えかけていた。

影武者がキースランド伯爵令嬢に何か言おうとしたが、その言葉を手で制した私は影武者の前に立った。今の彼女に何か言葉を掛けるのは、偽物なんかじゃ駄目。それ位に彼女の告白は本物だと思ったから・・・。

「キースランド伯爵令嬢・・・、だから貴女、間違っていますよ?」

「わ、分かっていますわ・・・っ!でも・・・諦めきれませんのよ・・・!」

ついに大粒の涙を綺麗で大きな瞳から零し始めたキースランド伯爵令嬢は、泣いている事を悟られまいと、涙が落ちる前に拭おうと必死の様子だ。

「諦めなくて良いでは無いですか。そんなに殿下が・・・いえ、この男性が好きならば・・・」



「私から奪い取って見せなさい!!!」



「なっ?!ご自分が何を仰っているかお分かりですの・・・?!」

(えぇ、勿論分かっているわよ。こっちから婚約破棄してやろうと思ってるのだもの。奪い取ってくれると、手間も省けるし色々と都合も良いわ!)

「え、ちょ・・・フローラ?何を言って・・・」

(あんたは黙ってて!この影武者がっ!)

「キースランド伯爵令嬢、貴女のこと今日まで苦手・・・いえ、大嫌いでした。でも、今この場で立ち向かえる強さを持つ貴女は・・・好きになれそうです。」

そう私、キースランド伯爵令嬢がこんなに芯のある女性だと思って居なかった。てっきり、取り巻きズが居なくなったら、怖気付いて縮こまると思っていたのに、彼女は最後まで闘い抜いたのだ。私が〝ルークフォン〟という最強のカードを出しても尚、信念を貫いたのだ。それは、口先ばかりのこの貴族社会で、とても素晴らしい事だと思った。彼女の事を素敵だと思ってしまった・・・。だからーーー、




「私とお友達になってくれませんか・・・?」




キースランド伯爵令嬢に手を差し出すと、彼女の瞳から再度大粒の涙が流れ初めた。

「私・・・だって・・・貴女の事・・・嫌いですわ!私の欲しかった物もっ・・・!望んだものも・・・何も無くなってしまって・・・」

彼女はついにしゃがみ込んでしまい、泣き顔を見られたく無いのか顔を俯かせて、しゃくりあげながら必死に声を振り絞っていた。

「ずっと・・・殿下の隣を夢見て・・・努力し続けたのに・・・!ずっと・・・ずっと・・・!」

その姿に耐えられなくなってしまった私は、振り払われる覚悟で彼女を抱き締めた。

すると、彼女が私に縋り付く様に私の胸で泣き始めたので、私は彼女の背中を優しく摩った。

後ろで私達2人を見守っていた影武者が、私達の周りに集まり出した人達を丁寧に誘導し、お茶会を進行してくれていたーーー。

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