10 / 66
本編 第一部 ~騎士の娘は茶会にて~
私から奪ってみなさい!
しおりを挟む
少し困惑気味の影武者は、それでも笑顔で私の元へとやって来た。
「ご機嫌よう、ご令嬢方。それで・・・えーと、僕を呼びましたか?フローラ」
まさか私達2人の仲が愛称を呼び合う程の仲だと思っていなかったご令嬢方は、私の後ろで固まってしまっていた。そんなご令嬢達に向かって、先ずは軽く挨拶をした殿下(偽物)に対し、キースランド伯爵令嬢が我先にと淑女の礼をとった。
「殿下、本日はお招き頂き有難うございます。わたー」
「ルークぅ!とても怖かったわぁ・・・っ!」
キースランド伯爵令嬢の言葉をわざと遮って、私は影武者の胸に飛び込み、手で顔を覆い、小さくしゃくりあげ、泣いているフリをした。
「っ・・・ー!?」
突然の事で驚いている影武者は、私を抱き締める訳でも慰める訳でも無く、手が宙をさ迷っていた。
指の隙間から横目でキースランド伯爵令嬢の方を覗き見ると、顔を真っ赤にして今にも怒鳴り出しそうなキースランド伯爵令嬢と、その真逆でサーッと血の気が引いている取り巻きズの姿が見えた。
「私がルークの婚約者にふさわしくないと・・・皆様が仰るのです・・・。ルークが本日の為に下さったドレスも・・・〝はしたない〟と言われて・・・!」
「ーーー本当・・・なのですか?」
殿下(そっくりさん)に睨まれたご令嬢達は、全員が全員、顔を俯かせて黙りを決め込んでしまった。
「否定しないという事は、肯定と捉えますが?」
この言葉からの取り巻きズの変わり身の速さは、呆れてしまう程早かった。
「わっ、私は何も言っておりませんわ・・・!」
「私もです!たっ、たまたまこちらに居合わせただけで・・・」
「全てキースランド伯爵令嬢のお戯れで、私達は無関係ですわ!」
「なっ・・・?!貴女達、よくもまぁ・・・!」
(まぁ、予想通りの展開よね・・・。)
「分かりました。では、無関係の方は席を外して頂けますか?」
殿下の黒い満面の笑みに少し狼狽えながらも、取り巻きズは揃いも揃って回れ右をして立ち去っていった。
「ああ、そうそう!もし次も〝たまたま居合わせて〟しまったら・・・その時は同罪と見なしますからね?気を付けて下さい?」
(影武者・・・グッジョブ!お灸はしっかりと据えてやらなきゃね!)
取り巻きズは殿下の忠告に振り返りはしたが、礼などをする余裕が無かったのか、無作法にそのまま立ち去ってしまった。
「ルーク、ありがとうございます。私、もう大丈夫ですわ。」
私はようやく影武者の胸での嘘泣きをやめて、キースランド伯爵令嬢の方へと顔を向けた。
「フローラ・・・?本当に大丈夫なのですか?その、色んな意味で・・・」
「・・・?えぇ、勿論ですわ。」
色んな意味でって・・・どういう意味?私が泣いた事以外に何を心配する必要が・・・?
「私はっ!!謝りませんわよ・・・っ!殿下の隣に立てる様にと、殿下に相応しい女性になろうと、幼い頃より努力を重ねてきた令嬢は、沢山おりますわ!それを・・・急に横から入って来て・・・、奪い取ってしまわれたのですから!僻み位、甘んじて受けるべきですわ・・・っ!それ位、殿下は特別なのですわ・・・っ!」
噴火寸前だった一人残されたキースランド伯爵令嬢は、噴火してしまったらしく・・・止める隙が無いほど言葉を連ね、泣き出してしまいそうな顔で、必死に殿下に訴えかけていた。
影武者がキースランド伯爵令嬢に何か言おうとしたが、その言葉を手で制した私は影武者の前に立った。今の彼女に何か言葉を掛けるのは、偽物なんかじゃ駄目。それ位に彼女の告白は本物だと思ったから・・・。
「キースランド伯爵令嬢・・・、だから貴女、間違っていますよ?」
「わ、分かっていますわ・・・っ!でも・・・諦めきれませんのよ・・・!」
ついに大粒の涙を綺麗で大きな瞳から零し始めたキースランド伯爵令嬢は、泣いている事を悟られまいと、涙が落ちる前に拭おうと必死の様子だ。
「諦めなくて良いでは無いですか。そんなに殿下が・・・いえ、この男性が好きならば・・・」
「私から奪い取って見せなさい!!!」
「なっ?!ご自分が何を仰っているかお分かりですの・・・?!」
(えぇ、勿論分かっているわよ。こっちから婚約破棄してやろうと思ってるのだもの。奪い取ってくれると、手間も省けるし色々と都合も良いわ!)
「え、ちょ・・・フローラ?何を言って・・・」
(あんたは黙ってて!この影武者がっ!)
「キースランド伯爵令嬢、貴女のこと今日まで苦手・・・いえ、大嫌いでした。でも、今この場で立ち向かえる強さを持つ貴女は・・・好きになれそうです。」
そう私、キースランド伯爵令嬢がこんなに芯のある女性だと思って居なかった。てっきり、取り巻きズが居なくなったら、怖気付いて縮こまると思っていたのに、彼女は最後まで闘い抜いたのだ。私が〝ルークフォン〟という最強のカードを出しても尚、信念を貫いたのだ。それは、口先ばかりのこの貴族社会で、とても素晴らしい事だと思った。彼女の事を素敵だと思ってしまった・・・。だからーーー、
「私とお友達になってくれませんか・・・?」
キースランド伯爵令嬢に手を差し出すと、彼女の瞳から再度大粒の涙が流れ初めた。
「私・・・だって・・・貴女の事・・・嫌いですわ!私の欲しかった物もっ・・・!望んだものも・・・何も無くなってしまって・・・」
彼女はついにしゃがみ込んでしまい、泣き顔を見られたく無いのか顔を俯かせて、しゃくりあげながら必死に声を振り絞っていた。
「ずっと・・・殿下の隣を夢見て・・・努力し続けたのに・・・!ずっと・・・ずっと・・・!」
その姿に耐えられなくなってしまった私は、振り払われる覚悟で彼女を抱き締めた。
すると、彼女が私に縋り付く様に私の胸で泣き始めたので、私は彼女の背中を優しく摩った。
後ろで私達2人を見守っていた影武者が、私達の周りに集まり出した人達を丁寧に誘導し、お茶会を進行してくれていたーーー。
「ご機嫌よう、ご令嬢方。それで・・・えーと、僕を呼びましたか?フローラ」
まさか私達2人の仲が愛称を呼び合う程の仲だと思っていなかったご令嬢方は、私の後ろで固まってしまっていた。そんなご令嬢達に向かって、先ずは軽く挨拶をした殿下(偽物)に対し、キースランド伯爵令嬢が我先にと淑女の礼をとった。
「殿下、本日はお招き頂き有難うございます。わたー」
「ルークぅ!とても怖かったわぁ・・・っ!」
キースランド伯爵令嬢の言葉をわざと遮って、私は影武者の胸に飛び込み、手で顔を覆い、小さくしゃくりあげ、泣いているフリをした。
「っ・・・ー!?」
突然の事で驚いている影武者は、私を抱き締める訳でも慰める訳でも無く、手が宙をさ迷っていた。
指の隙間から横目でキースランド伯爵令嬢の方を覗き見ると、顔を真っ赤にして今にも怒鳴り出しそうなキースランド伯爵令嬢と、その真逆でサーッと血の気が引いている取り巻きズの姿が見えた。
「私がルークの婚約者にふさわしくないと・・・皆様が仰るのです・・・。ルークが本日の為に下さったドレスも・・・〝はしたない〟と言われて・・・!」
「ーーー本当・・・なのですか?」
殿下(そっくりさん)に睨まれたご令嬢達は、全員が全員、顔を俯かせて黙りを決め込んでしまった。
「否定しないという事は、肯定と捉えますが?」
この言葉からの取り巻きズの変わり身の速さは、呆れてしまう程早かった。
「わっ、私は何も言っておりませんわ・・・!」
「私もです!たっ、たまたまこちらに居合わせただけで・・・」
「全てキースランド伯爵令嬢のお戯れで、私達は無関係ですわ!」
「なっ・・・?!貴女達、よくもまぁ・・・!」
(まぁ、予想通りの展開よね・・・。)
「分かりました。では、無関係の方は席を外して頂けますか?」
殿下の黒い満面の笑みに少し狼狽えながらも、取り巻きズは揃いも揃って回れ右をして立ち去っていった。
「ああ、そうそう!もし次も〝たまたま居合わせて〟しまったら・・・その時は同罪と見なしますからね?気を付けて下さい?」
(影武者・・・グッジョブ!お灸はしっかりと据えてやらなきゃね!)
取り巻きズは殿下の忠告に振り返りはしたが、礼などをする余裕が無かったのか、無作法にそのまま立ち去ってしまった。
「ルーク、ありがとうございます。私、もう大丈夫ですわ。」
私はようやく影武者の胸での嘘泣きをやめて、キースランド伯爵令嬢の方へと顔を向けた。
「フローラ・・・?本当に大丈夫なのですか?その、色んな意味で・・・」
「・・・?えぇ、勿論ですわ。」
色んな意味でって・・・どういう意味?私が泣いた事以外に何を心配する必要が・・・?
「私はっ!!謝りませんわよ・・・っ!殿下の隣に立てる様にと、殿下に相応しい女性になろうと、幼い頃より努力を重ねてきた令嬢は、沢山おりますわ!それを・・・急に横から入って来て・・・、奪い取ってしまわれたのですから!僻み位、甘んじて受けるべきですわ・・・っ!それ位、殿下は特別なのですわ・・・っ!」
噴火寸前だった一人残されたキースランド伯爵令嬢は、噴火してしまったらしく・・・止める隙が無いほど言葉を連ね、泣き出してしまいそうな顔で、必死に殿下に訴えかけていた。
影武者がキースランド伯爵令嬢に何か言おうとしたが、その言葉を手で制した私は影武者の前に立った。今の彼女に何か言葉を掛けるのは、偽物なんかじゃ駄目。それ位に彼女の告白は本物だと思ったから・・・。
「キースランド伯爵令嬢・・・、だから貴女、間違っていますよ?」
「わ、分かっていますわ・・・っ!でも・・・諦めきれませんのよ・・・!」
ついに大粒の涙を綺麗で大きな瞳から零し始めたキースランド伯爵令嬢は、泣いている事を悟られまいと、涙が落ちる前に拭おうと必死の様子だ。
「諦めなくて良いでは無いですか。そんなに殿下が・・・いえ、この男性が好きならば・・・」
「私から奪い取って見せなさい!!!」
「なっ?!ご自分が何を仰っているかお分かりですの・・・?!」
(えぇ、勿論分かっているわよ。こっちから婚約破棄してやろうと思ってるのだもの。奪い取ってくれると、手間も省けるし色々と都合も良いわ!)
「え、ちょ・・・フローラ?何を言って・・・」
(あんたは黙ってて!この影武者がっ!)
「キースランド伯爵令嬢、貴女のこと今日まで苦手・・・いえ、大嫌いでした。でも、今この場で立ち向かえる強さを持つ貴女は・・・好きになれそうです。」
そう私、キースランド伯爵令嬢がこんなに芯のある女性だと思って居なかった。てっきり、取り巻きズが居なくなったら、怖気付いて縮こまると思っていたのに、彼女は最後まで闘い抜いたのだ。私が〝ルークフォン〟という最強のカードを出しても尚、信念を貫いたのだ。それは、口先ばかりのこの貴族社会で、とても素晴らしい事だと思った。彼女の事を素敵だと思ってしまった・・・。だからーーー、
「私とお友達になってくれませんか・・・?」
キースランド伯爵令嬢に手を差し出すと、彼女の瞳から再度大粒の涙が流れ初めた。
「私・・・だって・・・貴女の事・・・嫌いですわ!私の欲しかった物もっ・・・!望んだものも・・・何も無くなってしまって・・・」
彼女はついにしゃがみ込んでしまい、泣き顔を見られたく無いのか顔を俯かせて、しゃくりあげながら必死に声を振り絞っていた。
「ずっと・・・殿下の隣を夢見て・・・努力し続けたのに・・・!ずっと・・・ずっと・・・!」
その姿に耐えられなくなってしまった私は、振り払われる覚悟で彼女を抱き締めた。
すると、彼女が私に縋り付く様に私の胸で泣き始めたので、私は彼女の背中を優しく摩った。
後ろで私達2人を見守っていた影武者が、私達の周りに集まり出した人達を丁寧に誘導し、お茶会を進行してくれていたーーー。
18
お気に入りに追加
3,395
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
愛されない王妃は、お飾りでいたい
夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。
クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。
そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。
「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」
クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!?
「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜
氷雨そら
恋愛
婚約相手のいない婚約式。
通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。
ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。
さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。
けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。
(まさかのやり直し……?)
先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。
ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。
小説家になろう様にも投稿しています。
悪役令息の婚約者になりまして
どくりんご
恋愛
婚約者に出逢って一秒。
前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。
その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。
彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。
この思い、どうすれば良いの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる