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本編 第一部 ~騎士の娘は茶会にて~

お兄様のお話

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こんな立派な御屋敷では無く、私が産まれたのは郊外の緑豊かな場所にある、ごくごく普通の庶民的なお家だった。

お父様は騎士の家系で子爵位だったが、お母様は農民の子だったので、お父様がほとんど居ないのであれば、『慣れ親しんだ所で私を育てたい』と建てたお家だったらしい・・・。

劣勢な状態だと囁かれていた隣国との戦争だったが、お父様の活躍により我が国が勝利したと知らせが届いたのは、お父様が帰って来る2日前だった。

その間の事は、今でも鮮明に覚えている・・・。

知らせを聞いて泣いて喜ぶお母様の横顔・・・、お父様の為に二人でご馳走を用意した事・・・、明日が待ち遠しくて眠れずにお母様と夜更かしした事・・・、

そして、お父様が帰ってきた瞬間の事。

戦地からでは無く、お城からのお帰りだった為か、服装はいつものくたびれた私服では無く、騎士の式典服でとても煌びやかな服だった。

そしてお父様の後ろに半分隠れた状態で、居心地が悪そうに、申し訳無さそうに俯いている男の子。

サラサラの黒髪に、ルビーの様に彩やかな赤い瞳は、幼心に美しいと思ってしまうほど・・・本当に綺麗だった。



「『とても綺麗な瞳ね!まるでルビーみたいだわ・・・。ねぇ、もっと近くで見ても良い?』って、第一声に言われたんだ。僕だって忘れられないよ。」

口元を綻ばせながら、お兄様がチラリと私の方に視線を向ける。

「おまけにフローラときたら、その後1ヶ月位は、ヴァンスにベッタリだったしな!・・・・・・でも、フローラが受け入れてくれて・・・とても、とても嬉しかったんだよ・・・。」

お父様は、大切な思い出を懐かしむ様に、そっと最後に瞳を閉じた。

お兄様、ヴァンス・アナスタシアは私の2つ上で、婚約者であるルークフォン殿下とは同い年に当たる。

現在はアカデミーに通っており、卒業後はお父様の跡を継ぐ為、騎士団への入隊が決まっている。

「私は今でも、お兄様の瞳より美しいルビーなど見た事有りませんわ。それ位、お兄様の瞳が美しいのです。幼い私が執着するのは仕方ないですわ。」

お兄様は照れていらっしゃるのか、飲んでいた紅茶を吹き出しそうになり、慌てて使用人が席に駆け寄って行った。

「フ、フローラ・・・っ?!」

何を言い出すんだ!とでも言いたげなその視線が全く理解出来ず、きょとんとしてしまう。私の頭上には?マークすら、飛んでいるかもしれない。

「ヴァンス。フローラは本来、家族思いの子なのですよ?幼い頃は、貴方の事を褒めるのなんて、日常茶飯事だったのですから。」

お母様が小さく笑いながら、?マークの私の代わりにお兄様に返答した。

「お兄様を悪く言う材料が有りませんわ?見目美しく、勉学も剣術も優れておいでですもの!それに、優しく包み込む余裕と空気を」

「頼む!もう、もう・・・止めてくれ。せめて居ない所で頼むよ・・・。」

手で覆っているにも関わらず、お兄様の顔が茹で蛸の様に真っ赤なのが分かり、思わず笑ってしまった・・・。すると、釣られてお母様、お父様も笑い出し、お兄様は益々赤くなってしまった。

「・・・~っ!ぼっ僕、アカデミーの準備が有りますので、先に自室に戻らせて頂きます!」

耐えきれなくなってしまったのか、侍従を連れてお兄様は食堂を出てしまった。
皆で笑い過ぎたかしら・・・?後で、謝らなくっちゃ。

「はぁぁ、楽しい朝食だった・・・!では、私もそろそろ出るとしよう。」

お父様が侍従に目で合図を出し、席を立つ。お母様もお見送りが有る為、併せて席を立った。

「フローラ・・・。本日の茶会、楽しんで来なさい。〝騎士の娘〟として・・・な!」

食堂の扉に手を掛けたまま、最後にウインクを飛ばして、お父様は私が一番欲しかった言葉を最後に言ってくださった。

「はい!お父様もお気を付けて・・・」

もう姿が見えなくなったお父様に頭を下げて、私はお父様のお墨付きを貰ったお茶会が楽しみで仕方なくなったーーー。
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