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プロローグ

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「フローラ、君との婚約を解消したい。」

「・・・・・・・・・。」

「えらく冷静なのだな。もっとショックを受けると思っていたのだが・・・?」

優雅に紅茶を嗜み続ける私への嫌味なのだろうが・・・お生憎様。
もう4度目ともなると、流石に耐性も付きますよ。

それに誕生パーティー前日の忙しい日に、自身が出向くのでは無くわざわざ登城を命じてきている時点で、殿下が私に対して快く思っていない事は、ひしひしと感じ取っておりましたし!!



そう私フローラ・アナスタシアは、何十年も続いていた隣国との戦争で、劣勢だった我が国を勝利に導いたお父様の活躍により、公爵位を賜った・・・成り立てほやほや公爵令嬢で、数秒前迄は目の前に居る第二王子ルークフォン・ヴェストリアの婚約者だった、シンデレラガールです。

で!ここからが、とっても重要!
実は、このやり取り・・・・・・



これで4回目です。



俄には信じられないでしょうが、私は14歳から18歳前日迄・・・つまり今日迄をもう4回繰り返しているのだ。

この後、放心状態となった私は思い切り泣ける場所を探して、城下をひたすら歩くんだけど、大通りで占い露店をしている老婆に話し掛けられるのよ。

それで老婆に〝やり直したい〟と泣いて伝えると・・・目の前の水晶に吸い込まれーーー

王家主催のお茶会の前日・・・つまり私がルークフォン様に婚約者として初めてエスコートされる前日まで戻っている。って流れをもう3回ほど繰り返している事になるわね・・・。

それで・・・私も馬鹿じゃないので、殿下に気に入られる様にとあらゆる手を尽くしたわ。

1回目は・・・可愛げが無いと婚約破棄された事を反映し、積極的に殿下に愛を伝え、媚びに媚びて纏わりついた。
結果・・・ひどく馬鹿っぽい脳内お花畑令嬢っぽくなってしまい、プライドの無い女だと破棄された。

2回目は・・・魅力的な女性になろうと美を極め、学業に励んだ。勿論、殿下へ愛を伝える事も忘れず行った。ただ、流行を過敏に追い求め過ぎて浪費がひどく、ミーハーな令嬢の一員として社交界で定着してしまい、王族になる器ではないと破棄された。

そして今回は、我ながら非の打ち所が無い位に完璧に立ち回れたと思ったのだが・・・何がご不満だったのだろうか?

優雅にティーカップをソーサーに置き、私は口を開く。

「理由を・・・お聞かせ願いますか?私には、知る権利が有ると思いますので。」

私の方をちらりと横目で見た殿下は、少しの沈黙の後、小さな溜息をついて話始めた・・・。

「・・・・・・愛の無い結婚などしたくないのだ。王族としての務めだと我慢してきたが・・・賞品の様に扱われ、この先好いた者の傍に立つことも許されないのは、生き地獄だと思ったのだ。」

「えーと・・・つまり、殿下は今、恋をしていらっしゃるという事ですか?」

「違う。そんな不埒な事はしていない。だが、君と私の間には愛が無いから・・・」

「いえ、私は殿下の事をお慕い申しておりまー」

「やめろ!そんな世辞は!君のその仮面の様な笑みと、教本とやり取りをしている錯覚を覚えるかの様な隙の無い会話に・・・もう、うんざりなのだ・・・っ!」

堰き止めていた本音が思わず出てしまったと言わんばかりに、口を覆い狼狽える殿下は、立ち上がると窓の方へと歩み私に背を向けた。



つまり・・・
私が完璧過ぎて一緒に居て疲れるって事?
それとも人形みたいで気持ち悪いって事?

愛が無い訳では無かったが、そもそも父が賜った公爵位を括弧たるモノにする為の政略結婚なのだから・・・お互いにお勤め感は否めないわよね。

「殿下、お気持ちを察しきれず御無礼を働きましたわ。お許しを・・・」

腐っても私は公爵令嬢・・・。王族に恥をかかせる訳にはいかない。
私の感情が1mmも盛り込まれていない、100点の謝罪をする。

「はぁ・・・、私の言葉はどうやら届かなかった様だな・・・。」

とぼやきながら、深いため息をついた殿下は、正面のソファーへ再度腰を掛けた。

「君はとても美しく、知性に溢れている。〝君を妻に〟と望む者は多いんだ。だから、明日のパーティーで私との婚約破棄を発表すれば、縁談が舞い込んで来るのにそう時間は掛からないであろう・・・、こんな形になってしまったが、君には幸せになって欲しい・・・。」

「勿体無いお言葉ですわ、殿下。最後までお気遣い頂き感謝致します。・・・・・・婚約破棄、お受け致しますわ。」

最早、悲しいという感情も無い。
だけど最後まで完璧な公爵令嬢で在ろうとする私は、笑顔を貼り付けたまま、出された紅茶を優雅に飲み干した。



その後、私は婚約破棄の書面に4度目のサインをしたーーーー。









城門を出て、私はひたすら考える。
もう打てる手は全て打ってきた。
やり直した所で、この婚約破棄は変わらない気がする・・・。

このまま屋敷まで帰り、明日のパーティーを迎えて見ても良いかもしれない・・・。



「ちょいと、そこのお嬢ちゃん」

「・・・あ。」

黒いローブを目深に被った老婆に話し掛けられ、自分が考え込んでいた間に随分と歩いてしまっていた事に気付く・・・。

何を隠そう・・・この老婆こそが、私を3度もタイムリープさせた占い師の老婆なのだ。

「何か悲しい事でも有ったのかい?」

「そうなの。明日が誕生パーティだと言うのに、婚約破棄を言い渡されてしまって・・・」

「やり直したいかい?」

(あれ・・・?何か前回迄とやり取り違う気がするぞ・・・?)

「やり直したとして、何をどうして良いのか分からないわ・・・」

「ありのままの自分を受け入れて、過ごせば良いと思うがね・・・クックック」

「ありのままの自分・・・。公爵令嬢としては、0点になってしまうでしょうね。」

「また、やり直せば良いさね。」

「・・・え?今、何とーーーー?」

「おやまぁ、自分だけが繰り返していると思っていたのかい?」

4回目にして驚愕の新事実だわ・・・。
全く持ってその通りです・・・。自分だけが、繰り返していると思って居ました。

「まぁ、そんな事はどちらでも良いさね。・・・さぁ、

(うーん・・・。まだ私、決めた訳でも無いのだけれど・・・)

確かに私は、〝殿下に婚約破棄されない事〟に全てを捧げていて、自分の気持ちや感情を蔑ろにしていたわね・・・。

「ありのままの自分ね・・・。やってみるわ!」

前回迄と同様、水晶に手を伸ばすと体が吸い込まれていった。



そして、5回目の14歳が始まったーーー。
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