【完結】豚公爵様は、実はスパダリ?!~ただ一緒に居ただけの没落令嬢な私が、何故か溺愛されています~

ゆきのこ

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番外編〜太陽と野菜とマチルダさんと〜

騎士様の正体 1

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嫌な予感を振り払うかの様に、俺はとにかく無我夢中で郊外へと馬を走らせたが———

今朝方、俺がマチルダ嬢と会話をした畑に着いた時には既に辺りは暗くなってしまっており・・・月明かりだけが頼りの状態だった。



(ここは・・・夜になると、こんなに暗く人気も無いのか・・・。人攫いが狩場として居着く訳だ・・・。)



日中に見せる風景からは想像も出来ないほどに、ここは静かでとにかく暗かった。
それは騎士として鍛えてきた自分ですら・・・見えない恐怖を感じてしまうほどの・・・静けさと闇だった。

マチルダ嬢の家を見れば灯りが灯っており・・・中で騒いでいる様子もない為、ほっと胸を撫で下ろした次の瞬間だった。



「———騎士様っ?!!」



家の扉が開き、ランタン片手にマチルダ嬢が出てきたのだ。
マチルダ嬢は勿論のこと・・・咄嗟の出来事に俺も驚いてしまい、お互い固まってしまっていた。

「夜分遅くにすみません・・・。驚かせてしまいましたね・・・。」

「いえ・・・・・・。また何か物騒な事でも起こりましたの?」

——これから貴女の身に起こる可能性が有るので飛んで来ました!とは流石に言えなかった。
確かに鋼鉄のハートを思わせるマチルダ嬢だが・・・彼女も年頃の女性なのだ。恐怖を煽る様な事はしたくない。

「いえいえ・・・!いつものパトロールですよ?——所で、マチルダ嬢は?」

いつもの様にニコニコとした表情でそう返してみたものの、恐らく怪しまれてしまうだろう。
掘り下げられてしまったら何と言い訳を連ねようかと考えていたのだが・・・

「まぁ!丁度良かったですわ!私、本日は大事な逢瀬がありますの・・・!横槍が入らぬ様にしっかりとして頂きます様にお願い致しますわ!!!」



(——全然怪しまれなかった。というか、気にすらしてなかった。流石・・・マチルダ嬢だ。)



表情だけはニコニコと崩さなかったが・・・流石はマチルダ嬢だ!と腹を抱えて笑い出したい気持ちになった。
おまけに俺の〝パトロール〟がマチルダ嬢の〝護衛〟にすり替わってるし・・・。
本当に世界は自分中心に回っていると信じて疑わない女性だな・・・と心の中で溜息をついてしまう。

(まぁ・・・今回ばかりは、そちらの方が都合が良いからノッてやるとするが・・・。)

「分かりました。お任せ下さい。」

「これも星のお導きですわね・・・!やはり私とダージン様はどう足掻いても結ばれる運命ですのね~っ!!!」

興奮冷め遣らぬ状態の彼女を尻目に俺は彼女と歩き始めた———。













「———?!!ま、ま、マチルダ嬢・・・?!!そちらの方は・・・?」

「こちら王国騎士団の騎士様ですわ!私の護衛ですから、どうかお気になさらないで?」

「キキキキ、騎士だと・・・?!!」

かなり焦った様子の貴族風の衣服を身に纏った男は・・・月明かりだけで細部が見えなくても、貴族では無いと一目で分かる粗末な仕上がりだった。

どう見ても、伯爵家の御子息で通用する出来では無いが・・・マチルダ嬢の目にはこの男が伯爵家の次男坊に見えるらしい。
淑女の礼を優雅に取ると、その瞳からは手で覆いたくなるほどの眩しい光線が放たれているのだから。

おまけにマチルダ嬢が待ち合わせ場所にと指定された、この大きな木の下は・・・視界も悪く足元も悪い場所だ。
走って逃げる事はおろか、後退りする事も難しそうだ。

(どう考えても恋人同士が逢瀬に使う場所では無いと思うのだが・・・。)

——まぁ、こんな分かりやすい嘘を平然とつく様な雑な仕事の仕方だからな・・・。

相手の男は、別に長い時間をかけてマチルダ嬢を懐柔したりする気では無く、短期決戦を目論んでいるとすぐに察しがついた。

(とは言え・・・。こんな仕上がりで騙される女性方にも少なからず非は有るが・・・)



騙す方が何百倍も悪いに決まっている!!!



「おい、そこの偽貴族。大人しく投降しろ。」

先手必勝。
俺は剣を抜くと偽者に向かって剣先を向けた。

「ちょっと・・・!騎士様!!何を仰っておりますの?!お止めなさい!!この方を誰と心得ているのですか?!」

「そ、そうだぞ・・・!俺は、モンド伯爵家の─」



「 そんな嘘、俺には通用しないぞ?俺はモンド伯爵家の次男をよ~く知っている。」



ため息混じりにそう返答をすれば、流石にこれ以上の言い逃れは無理だと判断したらしく、男は黙り込んでしまった。

俺の背後に居るマチルダ嬢は、俺の吐いた言葉に冷や汗を流しながら顔を強ばらせている男を目前にしても、未だ本物だと信じて疑っていないのか・・・俺の制止を無視して男の方へと駆け寄ってしまった。



「あ──っ!マチルダ嬢・・・っ?!」



そう手を伸ばしたが───その手は届かず、
彼女はまんまと男に捕われてしまうと、ナイフを突き立てられてしまった。

「このクソアマッ!!頭おかしいとは思っていたが、まさか騎士団の奴を連れて来るとは・・・!どれだけめでてぇんだよッ!!テメェは!!!」

ようやく本性を現した・・・とでも言うべきなのだろうか。
男は乱暴な口調でマチルダ嬢を捲し立てるが、マチルダ嬢には全く効いておらず、キョトン顔で男の方をじーっと見ている。

「貴方・・・モンド伯爵家の方では無いの?」

俺も男も思わずガクッとずっこけそうになってしまった。

「今更ですか?!先程からそう言っているでしょう?!恐らく奴は・・・ここら辺を狩場にしている賊の一員ですよ!」

俺の突っ込みに激しく同意している男の姿に、マチルダ嬢はようやく状況を理解出来たのか・・・そのまま顔を俯かせてしまった。
よく見てみれば体は恐怖のあまり小さく震えてしまっており・・・いつものマチルダ嬢らしさは欠片も無くなってしまった。

「ははっ・・・。ようやく自分の置かれている状況が分かったのか?馬鹿おん—」

そんな怯えた様子のマチルダ嬢を嘲笑うかの様にニヤリと口角を上げながら、そうマチルダ嬢に吐き捨てる男の言葉を最後まで聞く事はどうやら叶わなかった・・・・・・。



「こんの———無礼者っ!!!」



大きな木で休んでいた鳥達が飛び立ってしまうほどの怒号が響き渡ったと同時に、マチルダ嬢が思い切り偽物の股間を蹴り上げてしまったのだ。

「痛っーーーー!!!!!?ああぁぁ~・・・。」



「私を誰と心得ておりまして?!!このマチルダの体に賊の分際で触れるなど・・・!!賊なら賊らしく、木の影から私に見惚れる位にしておきなさいませ!!!若しくは、男爵位以上になってから出直して来て下さいませ!!このマチルダは・・・そんな安い女じゃなくてよ?!!!」



(先程震えていたのは・・・怒りの余り震えてしまっていたのか———。)


マチルダ嬢は勢いそのままに蹲っている男性を忌々しそうに見下ろしながら、そう言葉を続けると・・・一先ず言いたい事が言えたのか・・・大きく肩で息をし始めた。

「・・・・・・・・・。マチルダ嬢、一先ずこちらへ・・・。念のため。」

股間を抑えて蹲ってしまっている男に反撃の余力が有るとは思えないが・・・万が一を考えてマチルダ嬢を自分の後ろに居るようにと促す。

未だマチルダ嬢は顔を真っ赤にしてとにかく怒った様子で・・・本当は色々と言いたい事も有ったのだが、俺は口を噤むことにした。
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