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番外編〜太陽と野菜とマチルダさんと〜
星の導き・・・? 1
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彼女はいつも畑を耕していた。
別にそれ自体は珍しい事では無いのだが、俺は彼女を無視する事がただの一度も出来なかった。
「あなた達!!この私が手入れをしているにも関わらず・・・枯れる事など許されませんわよ!!きちんと美味しく育ちなさいませ!!」
彼女は郊外にあるこの緑豊かな場所で住んでいるマチルダ・ハンメルンという女性だ。
着ている衣服もしている事も平民の娘と呼ぶに相応しいものなのだが・・・貴族被れの様な喋り方と高慢ちきな態度から察するに恐らく没落令嬢ではなかろうか・・・と、俺は内心思っている。
「トマトさん・・・、あなた、またこんなに赤く染まってしまって!私が美しさって本当に罪ですわね・・・。」
こんな事を言うのは気が引けるのだが・・・彼女は決して美しくは無い。
だが彼女は自分が気高く美しい存在であると信じて疑っていない。
それは宛ら・・・プライドが高い事で有名な西の隣国の王女様を彷彿とさせるレベルだ。
ちなみに信じられないだろうが・・・彼女は先程から畑の野菜達に向かって話掛けているのだ。
それも、独り言のボリュームでは無く少し離れている俺が余裕で聞き取れる位のボリュームで・・・。
さて、君たちに問いたい─────。
俺の今までの話を聞いて、マチルダ・ハンメルンという女性を何歳だと思っただろうか?
100人中99人は・・・まだ幼い夢見がちな少女だと答えるのでは無いだろうか?
驚く事なかれ・・・
彼女は今年20歳を迎える立派なレディーなのだ。
だからこそ、俺は彼女を無視する事が一度も出来なかったのだ。
「・・・・・・あら?騎士様、今日もいらしたんですね?」
俺に気付いたマチルダ嬢は、特に先程までの野菜とのやり取りを恥ずかしがる訳でもなく、普通に話掛けてくる。
「あ、あぁ・・・。たまたま近くで騒ぎがあったのでその確認で。」
(べ、別に嘘では無いぞ・・・!この近辺は物騒な噂が絶えないから・・・!連日、様子を見に来ているだけだ・・・!)
マチルダ嬢に「今日も」と言われた事に対して何故か自分で自分に弁明をしてしまう。
俺と彼女はもう半年ほど顔見知りの仲だが、俺の名は敢えて教えてはいない。
ただ、王国騎士とだけ伝えているので・・・彼女が俺を呼ぶ時は「騎士様」と呼ぶのだ。
「それはそれは・・・お疲れ様で御座います。」
泥まみれの顔で貴族のご令嬢の様な隙のない笑みを浮かべた彼女は、淑女の礼をとると徐ろに畑仕事を続けている。
そのちぐはぐな行動に思わず肩を竦めたくなったが・・・今日も今日とて桑裁きは見事なものだ。
聞けば、この畑仕事を任されて1年と少しだけだと言うのだから・・・彼女には農業の才があるのやもしれない。
「マチルダ嬢・・・今日も野菜を一つ買わせて頂きたいのですが・・・」
彼女と初めて出会った時に一口食べてからというもの・・・俺は彼女の育てる野菜の虜だ。
——そうそう!
俺達が初めて出会った時の話も中々面白んだよ、聞いてくれる?
別にそれ自体は珍しい事では無いのだが、俺は彼女を無視する事がただの一度も出来なかった。
「あなた達!!この私が手入れをしているにも関わらず・・・枯れる事など許されませんわよ!!きちんと美味しく育ちなさいませ!!」
彼女は郊外にあるこの緑豊かな場所で住んでいるマチルダ・ハンメルンという女性だ。
着ている衣服もしている事も平民の娘と呼ぶに相応しいものなのだが・・・貴族被れの様な喋り方と高慢ちきな態度から察するに恐らく没落令嬢ではなかろうか・・・と、俺は内心思っている。
「トマトさん・・・、あなた、またこんなに赤く染まってしまって!私が美しさって本当に罪ですわね・・・。」
こんな事を言うのは気が引けるのだが・・・彼女は決して美しくは無い。
だが彼女は自分が気高く美しい存在であると信じて疑っていない。
それは宛ら・・・プライドが高い事で有名な西の隣国の王女様を彷彿とさせるレベルだ。
ちなみに信じられないだろうが・・・彼女は先程から畑の野菜達に向かって話掛けているのだ。
それも、独り言のボリュームでは無く少し離れている俺が余裕で聞き取れる位のボリュームで・・・。
さて、君たちに問いたい─────。
俺の今までの話を聞いて、マチルダ・ハンメルンという女性を何歳だと思っただろうか?
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驚く事なかれ・・・
彼女は今年20歳を迎える立派なレディーなのだ。
だからこそ、俺は彼女を無視する事が一度も出来なかったのだ。
「・・・・・・あら?騎士様、今日もいらしたんですね?」
俺に気付いたマチルダ嬢は、特に先程までの野菜とのやり取りを恥ずかしがる訳でもなく、普通に話掛けてくる。
「あ、あぁ・・・。たまたま近くで騒ぎがあったのでその確認で。」
(べ、別に嘘では無いぞ・・・!この近辺は物騒な噂が絶えないから・・・!連日、様子を見に来ているだけだ・・・!)
マチルダ嬢に「今日も」と言われた事に対して何故か自分で自分に弁明をしてしまう。
俺と彼女はもう半年ほど顔見知りの仲だが、俺の名は敢えて教えてはいない。
ただ、王国騎士とだけ伝えているので・・・彼女が俺を呼ぶ時は「騎士様」と呼ぶのだ。
「それはそれは・・・お疲れ様で御座います。」
泥まみれの顔で貴族のご令嬢の様な隙のない笑みを浮かべた彼女は、淑女の礼をとると徐ろに畑仕事を続けている。
そのちぐはぐな行動に思わず肩を竦めたくなったが・・・今日も今日とて桑裁きは見事なものだ。
聞けば、この畑仕事を任されて1年と少しだけだと言うのだから・・・彼女には農業の才があるのやもしれない。
「マチルダ嬢・・・今日も野菜を一つ買わせて頂きたいのですが・・・」
彼女と初めて出会った時に一口食べてからというもの・・・俺は彼女の育てる野菜の虜だ。
——そうそう!
俺達が初めて出会った時の話も中々面白んだよ、聞いてくれる?
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