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番外編〜二人のその後〜
幕間 エマの苦悩 2
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「ーーーエマ?」
私が不敬な事を考えてしまっていた事を見透かしていたかの様なその問いかけに、またもや背筋がピンッと伸びてしまう。
「は、はい。如何されましたか?エドマンド様・・・」
エドマンド様の方を向いて見れば、こちらに視線は向けておらず私の淹れた紅茶に視線を落としたままだった。
「そろそろ休暇が欲しいのでは無いかい?」
サァーッと血の気が引く感覚とは・・・恐らくこの事なのでしょうね。
私が不敬な事を考えてしまっている事をやはり見透かしていたとでも言うのでしょうか・・・
エドマンド様は薄っすら笑みを浮かべながら私にそう言い放ったのです。
「あの、エドマンド様・・・私、フレイヤ様に全身全霊をかけてお仕え致します。だから・・・」
「エマは今までも良くやってくれているとフレイから聞いているけど?・・・違うのかい?」
「・・・・・・・。」
勿論で御座います!と即答出来ない私は侍女長どころか・・・侍女失格だと思った。
私なんぞの教育が必要なフレイヤ様を何故、エドマンド様が選んだのか?と毎日、考えてしまっていたから・・・。
「爺やもそうらしいが・・・君も休みなく働いているのだろう?屋敷から離れているこのタイミングで少し休暇を取れば良いじゃないか、」
「ご配慮痛み入ります・・・。ですが、フレイヤ様のレッスンはどうすれば宜しいでしょうか・・・?」
「勿論、それもお休みにするよ。時間がいくらあっても足りないレベルだと言っても・・・フレイにも休みは必要だろう?」
エドマンド様は怒っている訳でも無ければ、私を糾弾している訳でも無い。
それでも・・・言葉の端端に感じる有無を言わせないものは、私の錯覚なのか?
それとも選ばれた人間だけが出せる、いわゆる王族の方達特有のあの覇気の様なものなのか・・・。
「か、畏まりました・・・。」
完全にエドマンド様に呑まれてしまった私は・・・そう頭を下げる他無かった。
あのマトン様が四苦八苦する訳だ。エドマンド様には・・・何か特別な者だけが出せるオーラの様なものが確かに有る。
「それで・・・エマ、休みの間だけどーーー分かっているよね?」
「・・・。も、申し訳御座いません、その何かありましたでしょうか?」
必死に頭の引き出しを全て引き出してみたが・・・エドマンド様が何を要求していらっしゃるのか分からなかった。
(いつもメイド達に、『主人に皆まで言わせるのは三流の仕事です』と偉そうに言っているのに・・・!)
何を過信していたのだ・・・私は・・・!
こんなにも未熟な分際で侍女長として屋敷で偉そうにしていたかと思うと、自分自身に反吐が出る。
「勿論、婚約者の務めについてに決まっているだろう・・・?有能な君の事だ、既に書類は整っているよね?」
ーーーギクっ。
実はフレイヤ様の様子を見る限り・・・寝屋のお相手など、まだまだ先の事になるだろうと高を括ってしまっていた為・・・全く何の準備も進めていない。
だが・・・今この状況でそんな事を伝えれば、私の無能さが更に露呈されてしまう・・・。
それだけは、侍女長としてのプライドが許さなかった。
(今日から寝ずに走り回れば・・・何とか明後日には揃えられる筈・・・!)
「ーーー勿論で御座います。明後日には全て揃えられます。」
「ふ~ん・・・。明後日・・・ねぇ、」
エドマンド様の品定めをするかの様な視線に嫌な予感しか感じない。
恐らく〝明後日〟という所で私が何の準備も進めていない事を勘付かれているのかもしれない・・・。
「流石はエマだ・・・!宜しく頼むよ?」
何故なのかは分からない・・・。だけど、エドマンド様の笑顔が今は不気味なほど怖く映った。
「畏まりました。お任せ下さいませ・・・!」
自分がそんな風に思っている事を悟られたく無かった事もあるが・・・何よりもエドマンド様の表情を見る事が怖かった私は、頭を下げたまま戻さなかった。
額には薄ら汗を浮かべてしまっていたらしく、絨毯にぽたりと私の汗が滴り落ちた。
エドマンド様の足元を見れば書斎の方へと向かっており、ほっと一安心してしまい頭を上げる。
「ーーーエマ、良かったね?フレイが君の事を良く思っていて・・・。君の全身全霊とやらに期待するとしようじゃないか・・・僕を失望させないでおくれよ?」
振り返ったエドマンド様は美しい隙のない笑顔を浮かべると・・・私にそう一言いい残し、書斎の扉を閉めました。
それは・・・つまり、フレイヤ様に自分は救われたという事なのでしょうか。
当たり前と言えば当たり前です。一介の侍女なら未だしも・・・私は侍女長を任されている人間。
なのにも関わらず・・・主人の要求を察する事も出来ず、準備を進める事を怠っていた訳ですから・・・。
(そしてエドマンド様は・・・私がフレイヤ様の事をお相手として相応しくないと思っていた事を・・・恐らく見透かしておいでですね・・・。)
自分の方こそ分不相応な事を考えてしまっていたと・・・今になって自嘲が止まらない。
滑稽とは正しく・・・今の私の為にある言葉なんでしょうね。
マトン様ーーー。
旦那様ーーー。
私が間違っておりましたわ・・・。
フレイヤ様は間違い無くハイネス公爵家の平穏の為に必要不可欠な存在ですわ。
そして私もお二方と同様ーーー
今日から徹夜でフレイヤ様とエドマンド様の為に走り回る事となってしまいました。
「エマ・・・?何か急ぎの仕事なの?手伝おうか?」
明け方前のボロボロな私にそうブランケットを掛けて下さり、暖かいミルクティーを淹れてくれたフレイヤ様は・・・
ええ・・・マトン様の言う通り・・・私の目にも女神様に映りました。
私が不敬な事を考えてしまっていた事を見透かしていたかの様なその問いかけに、またもや背筋がピンッと伸びてしまう。
「は、はい。如何されましたか?エドマンド様・・・」
エドマンド様の方を向いて見れば、こちらに視線は向けておらず私の淹れた紅茶に視線を落としたままだった。
「そろそろ休暇が欲しいのでは無いかい?」
サァーッと血の気が引く感覚とは・・・恐らくこの事なのでしょうね。
私が不敬な事を考えてしまっている事をやはり見透かしていたとでも言うのでしょうか・・・
エドマンド様は薄っすら笑みを浮かべながら私にそう言い放ったのです。
「あの、エドマンド様・・・私、フレイヤ様に全身全霊をかけてお仕え致します。だから・・・」
「エマは今までも良くやってくれているとフレイから聞いているけど?・・・違うのかい?」
「・・・・・・・。」
勿論で御座います!と即答出来ない私は侍女長どころか・・・侍女失格だと思った。
私なんぞの教育が必要なフレイヤ様を何故、エドマンド様が選んだのか?と毎日、考えてしまっていたから・・・。
「爺やもそうらしいが・・・君も休みなく働いているのだろう?屋敷から離れているこのタイミングで少し休暇を取れば良いじゃないか、」
「ご配慮痛み入ります・・・。ですが、フレイヤ様のレッスンはどうすれば宜しいでしょうか・・・?」
「勿論、それもお休みにするよ。時間がいくらあっても足りないレベルだと言っても・・・フレイにも休みは必要だろう?」
エドマンド様は怒っている訳でも無ければ、私を糾弾している訳でも無い。
それでも・・・言葉の端端に感じる有無を言わせないものは、私の錯覚なのか?
それとも選ばれた人間だけが出せる、いわゆる王族の方達特有のあの覇気の様なものなのか・・・。
「か、畏まりました・・・。」
完全にエドマンド様に呑まれてしまった私は・・・そう頭を下げる他無かった。
あのマトン様が四苦八苦する訳だ。エドマンド様には・・・何か特別な者だけが出せるオーラの様なものが確かに有る。
「それで・・・エマ、休みの間だけどーーー分かっているよね?」
「・・・。も、申し訳御座いません、その何かありましたでしょうか?」
必死に頭の引き出しを全て引き出してみたが・・・エドマンド様が何を要求していらっしゃるのか分からなかった。
(いつもメイド達に、『主人に皆まで言わせるのは三流の仕事です』と偉そうに言っているのに・・・!)
何を過信していたのだ・・・私は・・・!
こんなにも未熟な分際で侍女長として屋敷で偉そうにしていたかと思うと、自分自身に反吐が出る。
「勿論、婚約者の務めについてに決まっているだろう・・・?有能な君の事だ、既に書類は整っているよね?」
ーーーギクっ。
実はフレイヤ様の様子を見る限り・・・寝屋のお相手など、まだまだ先の事になるだろうと高を括ってしまっていた為・・・全く何の準備も進めていない。
だが・・・今この状況でそんな事を伝えれば、私の無能さが更に露呈されてしまう・・・。
それだけは、侍女長としてのプライドが許さなかった。
(今日から寝ずに走り回れば・・・何とか明後日には揃えられる筈・・・!)
「ーーー勿論で御座います。明後日には全て揃えられます。」
「ふ~ん・・・。明後日・・・ねぇ、」
エドマンド様の品定めをするかの様な視線に嫌な予感しか感じない。
恐らく〝明後日〟という所で私が何の準備も進めていない事を勘付かれているのかもしれない・・・。
「流石はエマだ・・・!宜しく頼むよ?」
何故なのかは分からない・・・。だけど、エドマンド様の笑顔が今は不気味なほど怖く映った。
「畏まりました。お任せ下さいませ・・・!」
自分がそんな風に思っている事を悟られたく無かった事もあるが・・・何よりもエドマンド様の表情を見る事が怖かった私は、頭を下げたまま戻さなかった。
額には薄ら汗を浮かべてしまっていたらしく、絨毯にぽたりと私の汗が滴り落ちた。
エドマンド様の足元を見れば書斎の方へと向かっており、ほっと一安心してしまい頭を上げる。
「ーーーエマ、良かったね?フレイが君の事を良く思っていて・・・。君の全身全霊とやらに期待するとしようじゃないか・・・僕を失望させないでおくれよ?」
振り返ったエドマンド様は美しい隙のない笑顔を浮かべると・・・私にそう一言いい残し、書斎の扉を閉めました。
それは・・・つまり、フレイヤ様に自分は救われたという事なのでしょうか。
当たり前と言えば当たり前です。一介の侍女なら未だしも・・・私は侍女長を任されている人間。
なのにも関わらず・・・主人の要求を察する事も出来ず、準備を進める事を怠っていた訳ですから・・・。
(そしてエドマンド様は・・・私がフレイヤ様の事をお相手として相応しくないと思っていた事を・・・恐らく見透かしておいでですね・・・。)
自分の方こそ分不相応な事を考えてしまっていたと・・・今になって自嘲が止まらない。
滑稽とは正しく・・・今の私の為にある言葉なんでしょうね。
マトン様ーーー。
旦那様ーーー。
私が間違っておりましたわ・・・。
フレイヤ様は間違い無くハイネス公爵家の平穏の為に必要不可欠な存在ですわ。
そして私もお二方と同様ーーー
今日から徹夜でフレイヤ様とエドマンド様の為に走り回る事となってしまいました。
「エマ・・・?何か急ぎの仕事なの?手伝おうか?」
明け方前のボロボロな私にそうブランケットを掛けて下さり、暖かいミルクティーを淹れてくれたフレイヤ様は・・・
ええ・・・マトン様の言う通り・・・私の目にも女神様に映りました。
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