【完結】豚公爵様は、実はスパダリ?!~ただ一緒に居ただけの没落令嬢な私が、何故か溺愛されています~

ゆきのこ

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本編

初めての決裂 ・・・2

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「ベルダ・・・!もう来ていたのね・・・!」

「フレイヤ~!上級生は終わるの早いからね~、」

ベルダとこの裏庭で講義の休憩の合間や、放課後のメイド業務に行くまでの時間にこうして会うようになってから、もう一ヶ月が過ぎようとしていた。
お互いの暗黙ルールで、主人が誰なのかだけは未だにお互い告げていない。

ベルダはこんな幼い姿形をしているが・・・何と上級生で、今年度で卒業だ。
見た目とは反して、私の愚痴をいつも笑い飛ばしてくれる大きい器の持ち主で理想のお姉ちゃんという感じだ。

(マチルダ姉様に爪の垢を煎じて飲ませたいわ・・・本当に・・・。)

遠い地できっと家事を頑張っているであろう・・・お姉様に思いを馳せていると、ベルダに笑われてしまった。

「また遠い目してる・・・!どうしたの?」

「な、何でも無いよ!ちょっと、家族の事を考えていただけ・・・」

「家族かぁ・・・!私には居ないから、分かんないや。ご主人様だけだなぁ・・・私の家族は」

少し俯きながら笑顔でそう告げたベルダに慌てて謝罪すると、「気にしないで」と、いつもの調子で笑い飛ばしてれた。

(あぁぁぁ~!私の馬鹿!!今後、発言には気をつけないと・・・。)

「本当に気にしないでよ~!フレイヤ!私が全然、気にしてないんだから!」

私が猛省している様子を見かねて背中を叩いてそう励ましてくれるベルダに、何とか笑顔を向けるが・・・申し訳なさは払拭しきれない。

小さな溜息をついた、その時だったーーー。



「フレイ・・・?」



聞き慣れたその声がする方を咄嗟に向いて見れば・・・案の定、エドマンドが驚いた様子で私達を見ていた。

「エド・・・マンド様・・・。」

(な、何故・・・ここが分かったんだ・・・。)

驚きの余り目が点になってしまった私とは違い、隣に居たベルダはすぐにベンチを離れ、エドマンドに対して深々と礼をした。

「エドマンド様・・・ご無沙汰しております。」

「・・・?あぁ!ベルダか!こんな所で何をしているんだ?」

どうやらベルダとエドマンドは顔見知りだったらしく・・・ベルダはエドマンドにそう聞かれて目を泳がせてしまっている。

メイド業務に支障の無い範囲で会っていたとは言え・・・メイドが勝手に主人の知らぬ所でお喋りを楽しむなど言語道断である。
ベルダの様子を見るに・・・きっと此処で私と会っていた事が主人に告げ口されると良く無いのだろう・・・。

「エドマンド様、そちらの御令嬢は庭園で迷子になってしまい・・・裏庭へ迷い込まれた様です。」

「・・・?迷子?・・・ベルダが?」

咄嗟についた嘘だったが・・・普通に考えて見れば私が迷子になったというなら未だしも・・・上級生であるベルダが迷ったというのは無理が有る。
嘘だとバレれば、逆に「主人に言えない様なやましい事をしていた」と言っている様なものになってしまうと気付いた私は、冷や汗が止まらない。

(どうしよう・・・!どうしよう・・・!墓穴掘ってしまった・・・!!!)

「エドマンド様、彼女の言う通りで御座います。私、昔から方向音痴なものでして・・・考え事をしながら歩いていたら、気づけば此方だったのです。」

私の様子を察してベルダがそう援護してくれた。
腑に落ちない様子のエドマンドだったが・・・とりあえず納得したらしく、ベルダから視線を外すと私に方へとやって来た。

「それよりもフレイ・・・!ずっと探していたんだよ?!何処に居たんだよ・・・!」

「お、お傍を離れてしまい申し訳ありません・・・エドマンド様・・・。」

私の手を握り締めながらそう憤るエドマンドの姿はベルダも初めて見る光景だったらしく・・・開いた口が塞がらない様子だ。

(やめてよ・・・!もう、ベルダが見ているのに・・・!!!)

「今日はね、とても美味しい果物を隣国から取り寄せたんだ!フレイ、果物好きだろう?フレイの為に取り寄せたんだよ?」

「・・・・・・・有難う御座います。」

(あぁ・・・きっともう完全にベルダにもバレてしまったわね・・・。私が噂の女だって・・・。)

私の手を握りながら熱量を上げるエドマンドに反して・・・私はどんどん熱が下がっていく。
ベルダの顔をチラリと覗けば、居た堪れない様子でエドマンドの許しを待っていた。
その困った表情に私の中でブチっと何かが切れる音がした。



「・・・・・・・して下さい。」

「え?何だい?フレイー」

「いい加減にして下さいって言ったのよ!!!エド!!!」

我ながらこんな大きな声が出るのか・・・と、自分でもびっくりな位なので、間近で聞いていたエドマンドが驚かない訳は無かった。

「何でいつもそうやって考え無しなの?!!エドがそうやって・・・人目を気にせずにやりたい放題するから・・・!だから、学園に居場所が無くて・・・裏庭まで来ていたの!!」

「え・・・あ、そう・・・なの?」

「そうよ!!変な噂まで流されて・・・!!いつもジロジロ見られるし、見知らぬ人から陰口は叩かれるし・・・私はメイドなの!メイドとして契約をしてこの学園に来ているの!!もう・・・子爵令嬢では無いし・・・幼なじみでも無いって・・・何度も言っているのに・・・」

「ごめん、フレイ・・・泣かないで?」

エドが私に差し伸べた手を、思わずバシン!と叩いてしまう。

違う。エドが悪いんじゃない・・・。
ただ・・・何一つ上手く行かないこの学園生活への鬱憤をエドにぶつけているだけだ。
頭では分かっているのに・・・もう堰き止めていた感情が爆発してしまった私は、止められない。

「結局、エドは自分の事ばっかりよ・・・!私が困っているとか・・・考えた事無いでしょう?!自分が言いたい事を言って、したい事をしてるだけよ!そんなのは・・・愛でも親切でも無い!!ただの我儘よ・・・!!!」



「フレイヤ・・・そこまでにしときなよ。」

ベルダの聞いた事無いほどに低い声と肩に置かれた手の感触で我に帰った私は・・・滲む視界越しに悲しそうに俯くエドマンドの姿を捉えた。
咄嗟に謝罪を口にしそうになったが・・・私に謝罪を述べる権利など無いと思い、思わず口を噤んだ。



「・・・解雇して頂いても構いません。先にお部屋でお待ちしております。」

暫くの沈黙の後・・・それが私に言えた精一杯だった。

その後、雨が激しく降ったがーーー・・・
エドマンドは部屋へ帰っては来なかった。
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