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本編

自分で言ってて悲しくなる

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「何を考えておいでなのですか?!」

男子寮へと続く道は舗装されてはいるものの・・・人一人分の細い道でおまけに木々が生い茂っている為、外からは見えにくい。
登園開始時刻が目前に迫っているこの時間では・・・元々人通りがほとんど無いこの道を使っている人は、いない様で誰ともすれ違わないし、人影も見えない。
周りに誰も居ない事を確認した私は・・・エドマンドの背中から手を離すと、彼と向き合った。

「いや・・・フレイが道とか分からないんじゃ無いかと思って・・・。迎えに行ったら喜んでくれるかと思ったんだけど・・・、」

「いや・・・お気持ちは嬉しいですけど・・・」

(ーーーって!駄目駄目ぇぇぇ!)

俯きながら子犬の様な瞳で訴えてくるエドマンドの姿に・・・危うく流されてしまいそうになった私は、
エドマンドへと差し伸べそうになった手を自分の反対の手でパシん!と掴むと、放り投げた。

「エドマンド様・・・無礼を承知で申し上げますが・・・ご自分の立場がよく分かっておいででは無い様ですね?」

「爺やみたいな事言わないでくれよ・・・」

「いいえ!言わせて頂きます!ーーーエドマンド様は王族からの信頼も厚いハイネス公爵家の跡取りで・・・何より・・・なのですよ?!!公衆の面前で・・・メイドの私にあ、あ、愛を囁くなど御法度なのです!!」

私のお説教にわざとらしく耳を指に突っ込んで聞こえないフリをするエドマンドに・・・さらに腹が立ってしまった私は、思わず感情的になってしまった。

「大体・・・私はメイドなのですよ?もう以前の様な子爵令嬢では無いんですから・・・!幼なじみとして大切に扱って下さっている事には感謝しておりますが・・・私達二人はもう・・・幼なじみでは無く・・・雇い主とメイドという・・・主従関係なのですから・・・。」

(・・・あ。やばい。自分で言ってて泣きそうになって来たーーー。)

エドマンドに涙を悟られる訳にはいかない私は、俯いたまま動けなくなってしまった。
当たり前の事なのに・・・分かっていた事なのに・・・いざ言葉にして見ると、悲しくなって来てしまったのだ。

だって私はーーー・・・本音を言えば、没落なんてしたくなかったし・・・エドマンドとも幼なじみのままで居たかった。

成金子爵でも良いから・・・エスコートの申し出を受けられる・・・貴族の一員で居たかった・・・。



(そして・・・今、目の前に居るエドマンドと・・・もう一度、舞踏会に行きたかった・・・。)



「フレイ・・・?」

私の様子がおかしい事に気付いたのか・・・少し心配そうに私の名を呼ぶエドマンドの声にハッと我に返る。

「とっ、とにかく・・・!誤解を生む様な行動は慎んで下さいませ!エドマンド様は、これから婚約者を見つけるお立場の方なのですから・・・!メイドである私との要らぬ噂が立っては、出来るものも出来ませんから・・・!」

以前顔を俯かせたまま・・・そう言葉を続ける私に、違和感を感じ始めたエドマンドが、こちらへと歩み寄って来ているのを足音で感じた。

「フレイ・・・?大丈夫・・・?」

この声を私は知っているーーー。
私を心配してくれている時にいつも、エドマンドが掛けてくれた言葉だ。
とても優しくて懐かしい声。

「だ、大丈夫に決まっています!」

それでも顔は上げられない・・・。
だってもう・・・涙が溢れて止まらない状態なのだ。
自分でもどうにも出来ない状況に私が出来る事と言えば・・・虚勢を張り続ける事位だけだ。

「ーーー!!!・・・・ちょっ?!!」



「フレイが大丈夫って言う時は・・・ほとんど大丈夫じゃ無いんだよ。」


まさかの行動に思わず変な声を出してしまった・・・。

だってーーー・・・

俯いている私をエドマンドが抱擁して来たのだ・・・。

6年前とは違い・・・すっぽりとエドマンドの腕の中に収まってしまった私は、咄嗟に離れようと抵抗したがびくともしない。
丁度顔に当たる胸板はとても硬く・・・男らしさを感じてしまった私は、恥ずかしくなってしまい心臓がドキドキと強く鼓動を打ち始めた事を感じる。

(6年前のエドマンドとは違う・・・どこもプニプニしてないし・・・腕もゴツゴツして・・・力も全然敵わない・・・)

「もうどこもプニプニしてないだろ?」

「わ、私は・・・!あれはあれで抱き心地が良くて、気に入ってたのよ?」

私が幼い頃に・・・エドマンドを抱き締めては、「プニプニしてて気持ちが良い」と揶揄っていた事をどうやら根に持っているのか・・・
そんな事を意地の悪い笑みを浮かべて聞いて来るエドマンドに・・・悪口のつもりで言っていた訳では無いと反論する。

でも確かに、まぁ・・・抱き締めて貰うのだったら、今のエドマンドの方が良いかもしれない・・・。なんちゃって・・・ね。



(・・・・・・・って、おおおおおぉぉい!!!)



ロマンス小説の世界にでもトリップしてしまったのか・・・自分のお役目を忘れて乙女の様に恥じらっていた自分に、自分で突っ込みを入れると・・・再度、腕から離れようと力を入れるが・・・びくともしない。

「エド・・・マンド様!今、まさに私が注意した事!!こういう事なんですけど?!!」

「ふふ・・・離して欲しいの?」

エドマンドの顔を見上げてそう注意をするが・・・当の本人には全く届いておらず・・・何となく話が噛み合わない。

そして私は・・・このエドマンドの返答を知っている。かつての自分がよく言っていた台詞だからね・・・。

「ええ・・・そろそろ登園しないと流石に不味いですし・・・ね。離して頂けると嬉しいのですが・・・」

(嫌な予感しかしないけど・・・10年以上前の事だもの・・・覚えて無いわよね?)

「違うよ~!フレイ!いつも自分が僕に言ってきてた事なのに、忘れちゃったの?」

嫌な予感が的中してしまい・・・思わず頭がクラクラとした。

「あ、あの頃はまだお互い幼かったから・・・!出来た事で・・・!今は駄目よ!絶対に駄目!!!」

「じゃあ良いよ。離さないから!」

私が必死にそう説得をしても・・・エドマンドはそれ以外の方法を元より受け入れるつもりが無いらしく・・・
腕に力を込めて、私を抱き人形かの如くギューっとしてきた。

(これ以上は・・・!私の心臓が持たないわ・・・!!!)

エドマンドの体とかつて無い程に密着してしまっている私は・・・もう、頭が沸騰しそうな勢いで恥ずかしい。
改めて周りに誰も居ない事を入念にチェックした私は・・・、自分に「時間も無いし、仕方ない!」と言い訳を繰り返すと・・・覚悟を決めた。

幼い頃に私がエドマンドを抱き締めて揶揄っていた時・・・いつも、離して欲しいと言うエドマンドにさせていた事。



それはーーーほっぺにちゅうだ。



ーーーちゅっ、

「~っ!こ、これで良いでしょ?!さぁ、遅刻してしまいますから・・・いい加減学園に向かいましょう!」

照れ隠しでエドマンドの緩んだ腕をすぐに解くと、エドマンドに背を向けたままそう言葉を放つ。

エドマンドの姿を見る勇気が無い私は・・・学園の方へと我先にと歩き出した。

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