上 下
17 / 48
本編

クラスで人気者な私のご主人様

しおりを挟む
「フレイヤ・ハンメルンと申します。本日からどうぞ宜しくお願い致します。」

私が教壇の前で深々と礼をすると、クラス中から拍手が起こった。



無事、学園前の広い道へと戻って来れた私は・・・、恥ずかしさの余りそのままエドマンドの方を振り返る事なく、ひたすら学園の門を目指した。

校舎へ入る際に流石に気になってしまい、チラリと後ろを見た時には、エドマンドの姿は無かった。

(あれー・・・?居ない・・・?)

てっきり後ろを付いてきていると信じて疑わなかった私は・・・少し安心した様な、少し寂しい様な・・・複雑な感情に襲われたが・・・自分にはそんな資格は無い!と頬を叩いて気合いを入れる。

(何て自分勝手な事を・・・!!エドの親切を断ったのは自分よ?!全く・・・!)



校舎に入れば・・・先ず視界に入ってくるのは、かつて王宮で見たものと同じ位に豪勢なシャンデリアだ。

それだけでは無く・・・細部まで拘りぬかれている内装に、思わず感激してしまった私は・・・まさに空いた口が塞がらなくなってしまっていた。

(外装も凄かったけれど・・・内装はもっと素敵だわ!ーーー流石、王立学園ね・・・!)

何年ぶりかに見る美しい景色に心踊ってしまった私は、目を輝かせながらくるくると学園内を見て回ってしまう。

「フレイヤ・ハンメルン・・・さん・・・?」

ちょろちょろと走り回る私に声を掛けてくれたのは・・・優しい笑みを浮かべる壮年の女性だった。

「あ、はい。私の事ですが・・・?」

「ああ、良かった・・・!初めまして。私は貴方のクラスの顧問を務める事となります・・・メイヤー・クリスフォードです。宜しくお願いしますね!」

そう言われて丁寧に礼をしてくれたメイヤー先生に慌てて私も礼を返す。
終始ニコニコとした様子に大きい三つ編みを右肩に流しているメイヤー先生は・・・一目で見て分かる程、人が良さそうな人物で有った。

「それじゃあ・・・折角、ここで会えた訳ですし、一緒に教員室へ行きましょうか?」

「あ、はい・・・宜しくお願い致します!」


その後、メイヤー先生から色んな説明受けながら楽しい雑談をした私は・・・自分が今日から一員となるBクラスへと足を踏み入れていた。


「じゃあ・・・ハンメルンさんのお席はーーー・・・」

私の隣でメイヤー先生が席を探していた時だった。

「宜しいでしょうか?」

美しい顔をした男性は、クラス中が先生の動向を見守る中、そう手を上げる。

(・・・・・・?!!同じ・・・クラスだったの・・・。)

「ん?ハイネスさん・・・如何されましたか?」

その見慣れた姿に驚く私を置いて、優雅に席を立ったエドマンドに・・・クラスのご令嬢方のうっとりとした視線が集まる。

「彼女は転校初日で講義の内容も分からない事が多いでしょうから・・・是非、私の隣の席で勉強を教えて差し上げたいのですが・・・。」

「それはいい考えね!ハイネスさんは新入生首席の実力ですし・・・ハンメルンさん、あちらの席をお使い下さい。」

満面の笑みでエドマンドの隣の席を差す先生に・・・反論など出来る筈も無い私は、嫌な予感しかしなかったが・・・大人しくその席へと座った。



でも、やはり人間、嫌な予感とはよく当たるものでーーー・・・



「フレイヤ様はどちらから、いらっしゃった方なのかしら?」
「是非、お聞かせ願いたいわ?」

「こらこら御令嬢方・・・入学初日にそんな質問責めにしては可哀想ですよ・・・?」

休憩時間の度にご覧の有り様であるーーー。

さりげなく私を守っているつもりなのだろうが・・・完全に逆効果となってしまっているエドマンドの返答に、頭痛が激しくなる。

「エドマンド様・・・!」
「きゃあああ!」

「でも私達、フレイヤ様とお近付きになりたいんですの~!」
「エドマンド様、フレイヤ様の事よくご存知なのでしょう?教えて下さいな!」

「ふふっ・・・そうだなぁ、また機会があれば・・・ね?」

「嫌だ、もう!エドマンド様ったら・・・!」
「焦らさないで下さいませー!」

最早、誰が見ても分かるだろう・・・。
御令嬢達は、私をダシにしてエドマンドと話をしたいだけだとーーー。

(息が詰まるわ・・・!この席・・・!)

でもまぁ・・・御令嬢方が夢中になってしまうのも分かる。

学園でのエドマンドは・・・ハイネス公爵家の嫡男という事も去る事ながら
新入生首席という頭脳に、このルックス、どんなお洋服でも様になる高身長に、男らしさを感じる体躯・・・。

(まさに理想そのものよね・・・。おまけに未婚約とくれば、この学園在学中に自分が婚約者にと御令嬢達が必死になる訳だ・・・。)

ぼんやりそう考えながら、エドマンドの横顔を見ていると目が合ってしまった。



「僕・・・本当はああいう御令嬢達、苦手なんだ。」

一気に距離を詰められて身構えてしまった私は、耳元でそう囁かれたが・・・全く意味が分からず、思わず首を傾げてしまう。

「フレイが嫉妬してるんじゃ無いかと思って・・・」

再度耳元でそう囁かれた私は、有り得ないエドマンドの勘違いに感情的になってしまう。

「なっ・・・?!そ、そんな訳ないでしょう・・・?!」

思わず裏返ってしまった声でそう反論したが・・・これではまるで、図星を突かれたと勘違いされてもおかしくない。

(おまけにメイドという立場を忘れて、言葉遣いまで乱れてしまったわ・・・、いけない、いけない。)

エドマンドの玩具にされては、たまったものじゃないと思った私は、わざとらしく咳払いをすると、次の講義で使う教本とノートを広げて予習を始める。

「・・・・・・。」

「・・・・・・っ、」

(見てる・・・!めっちゃくちゃ見てる・・・!)

エドマンドが私の顔を覗き込む様に、じぃーっと見ている視線が突き刺さる・・・。
私はその視線に無視を決め込んだものの、少しずつ上がり続ける体温は止められない。

すると・・・エドマンドまでペンを持ち出し、私の広げたノートの端に何やら書き始める。

(落書きしないで!と言いたい所だけど・・・このノートもハイネス公爵家から頂いた物なのよね・・・。)

贈り主に注意なんぞ出来る筈も無い私は、引き続きエドマンドを無視してひたすら予習を進める事とするが・・・
どうしても何を書いているのか気になってしまい、チラリとノートの端を見てしまう。

〝フレイ・・・綺麗になったね。〟

「・・・・っ!!!」

まさかそんな事を書いていると思っていなかった私は、思わずエドマンドの方をついに向いてしまう。

そんな私の様子を見てクスクスと笑っているエドマンドはさらにペンを走らせる。

〝フレイ・・・本当にずっと会いたかった〟

〝隣に居るなんて夢みたいだ・・・〟

〝制服似合ってる・・・可愛いね。〟

間髪入れずにスラスラと書き続けるエドマンドの甘い言葉の数々に・・・いよいよ直視出来なくなってしまった私は、
教本で顔を覆うと、真っ赤に染まっているであろう自分の顔を隠した。

(え?!え?!エドって・・・こんな甘ったるい言葉を簡単に言える男性だったっけ・・・?!!)

この6年間の間に女性の喜ばせ方の訓練でも受けて来たのか・・・エドマンドのペンは止まらない。

もう何を書いているのか気になって仕方がない私は、よせば良いのに・・・ついつい見てしまう。



〝今度は僕がフレイを守るから・・・傍に居て〟



(えーーー・・・今度って?私がエドをいつ守ったと言うのだろうか・・・?)

「あの、これってーーー」

エドマンドに今度の意味を聞こうと掛けた言葉は、講義開始を告げる鐘の音に掻き消されてしまう。
クラス中が沈黙に包まれてしまった為、言葉を続ける事が出来なくなってしまった。

〝今度〟の意味は分からなかったけれど・・・
この言葉が何だか一番嬉しかった私は、エドマンドの言葉の下に返事を書いた。



〝じゃあ私も・・・エドマンド様をお守り致します。〟



私の返事を見たエドマンドが優しく笑ってくれたので・・・何の権力も力も無い私だけど、彼の事だけは守りたいと思った。
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか

まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。 己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。 カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。 誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。 ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。 シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。 そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。 嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。 カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...