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本編

学園では別人みたいな私のご主人様

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何とかエドマンドとの〝略称呼び攻防〟に終止符を打った私は・・・登園開始時刻の30分前に女子寮の自室へと戻る事が出来た。

(昨日、『きっと明日からはもう・・・エドだなんて呼べない』と感傷に浸っていた私を返して欲しい気分だけどね・・・!)

とは言え・・・エドマンドが自分の事を〝メイド〟としてでは無く〝フレイヤ〟として接してくれている事も、扱おうとしてくれている事も・・・嬉しく無い訳が無い。
一番の問題は・・・エドマンドの我儘が嬉しくて嬉しくて仕方がない自分自身なのかもしれない。

(でも・・・エドの為にも私がしっかりしないと・・・!私はもう・・・没落令嬢なのだから・・・。)

姿見に映る自分の姿がふと目に入った私は・・・先程まで一緒に居たエドマンドと自分がいかに不釣り合いかという事を分らされてしまい、自嘲してしまう。

「馬鹿みたい・・・。こんなボロ服来てる女が公爵家の嫡男と対等な訳など無いのに・・・」

姿見に映る自分の姿を手でなぞりながら呟いたその言葉は・・・少し自惚れてしまいそうになっている自分を戒めるための言葉でも有った。

「いけない・・・!早く支度しないと・・・!転校初日から私が遅刻してしまうわ・・・!」

俯きそうな顔を上げて、掛け時計を確認した私は・・・自室へ戻って来てから既に10分も経っている事に気付き、慌てて制服に袖を通した。






「ふんふふん~♪」

思わず鼻歌混じりに女子寮の廊下を歩いてしまう。
それもその筈・・・王立学園の制服はとても洗練されたデザインで、使っている生地も勿論一級品で着心地が良い上に軽く、スカートが靡く様はドレスと変わりない。

(こんな素敵なお洋服を着るのは何年ぶりかしら・・・?とっても素敵・・・!)

新品のピカピカの皮ブーツはまだ足に馴染んでおらず少し痛いが、いつも履くツギハギだからけの靴に比べれば1000倍はマシだ。



「ん・・・?何だか女子寮の外が騒がしいわね・・・?」

小さく見えて来た女子寮の出入り口には、何故か同じ制服を身に纏っている御令嬢方の人集りが出来ていた。

(何だろう・・・?王族の方でもいらっしゃっているのかしら・・・?」

貴族の令嬢の大好物と言えば、王子様である。

(確か・・・第三王子のラファエル殿下は同い年だったわよね?こちらの学園に通われているのかしら?)

おまけにこの学園には東の隣国の王太子様が、王族同士の交流の一環として来ていると風の噂で聞いた事もある。
この令嬢達のハートマークの瞳と黄色い声援から察するに・・・恐らく、どちらかの殿下が来られているのだろう。

(御身自ら出迎えに来てしまうほど・・・メロメロの御令嬢がいらっしゃるという事よね・・・?)

私の様なメイド如きがお近づきになれる相手では無いのは、重々承知の上だが・・・やはり、この国に生まれ落ちた者として、殿下のお姿を一目見たい・・・そして、殿下を虜にしてしまう様な美しい御令嬢が気になってしまった私は、人集りの方へと足を進めた。

「エドマンド様、誰をお待ちになって居ますの?」
「その御令嬢が羨ましいですわ!」
「どうか教えて下さいませ!」
「エドマンド様・・・私で良ければ探して参りますわよ?」
「いえいえ!エドマンド様、それならば・・・私の方が寮には詳しいですわよ!」

集まっている御令嬢達の口々から発されているその名前に、嫌な予感を感じつつも・・・益々、確かめたくなってしまった私は、少し強引にひょこっと顔を出して渦中の人物を確認する事が出来た。



(・・・げ。)



「御令嬢方・・・有難うございます。でも大丈夫ですから・・・どうか、私の事はお気になさらないで下さい。」

(だ・だ・誰だ・・・!?さっきまでシーツに包まっていた人と同一人物とは思えない・・・!!!)

制服を完璧に着こなし、優雅な振る舞いで御令嬢方に礼をした男性は・・・先程までとは別人の様なエドマンドだった。
そして・・・恐らく、待っているのは・・・私なのでは無いだろうか?

(いや!今ここで声なんて掛けられたら針のむしろじゃないのよ・・・!)

少しずつ後退を始めた私は・・・どうやら未だエドマンドには見付かっていない様だ。

エドマンド・・・本当に、本当に御免なさい。
貴方の気持ちだけはしっかりと受け取ったわ・・・!

でも、でもね・・・私ーーー・・・

(流石に転校初日からその立ち位置は嫌なのぉぉぉ!!!)



「・・・あれ?フレイ?」

見付からない内に立ち去ろうと背を向けた私の後ろでエドマンドの声が聞こえる。
それと同時に、無数の御令嬢方の刺すような視線も感じた。

「あら・・・?エド・・・マンド・・・様?」

本音を言うと無視をして走り去ってしまいたかった。
だけど私はメイドなのだ。主人を無視するなど許される事では無い。

「初日だから色々と分からない事が有るんじゃないかと思ってね・・・迎えに来たんだよ?」

私を見付けたエドマンドが周りに居る御令嬢方を手で簡単に遇らうと、私に方へと歩き出す。
先程までの隙のない笑みでは無く・・・蕩けそうな程に甘い笑みを浮かべて。

(耐えろ・・・!フレイヤ・・・!ここで照れてしまっては、恋人同士だと勘違いを生んでしまうわ!)

「え、いや・・・あの、のお手を煩わせる訳にはいきませんから・・・私は一人で大丈夫です。お気遣い、痛み入ります。」

わざと「ご主人様」と言った。
これで察しの良い御令嬢で有れば、私がただのメイドだという事を理解して貰える筈だ。

「フレイ・・・君の悪い癖だよ?いつも遠慮して・・・自分の事を後回しにしようとする。」

(してない!してない!全然、遠慮なんてしてないからーっ!!!)

「昔からフレイはそうだよね?ああ!でも、私はそんなフレイが大すー」

「あああああ!大変ですわ!ご主人様・・・お召し物に汚れが付いてしまっておいでです!早く、ええ一刻も早くお着替えに戻りませんと・・・!!!」

そう大声で言いながらエドマンドの背中を押して、人影のない男子寮へと続く道の方へと入る。

勿論、エドマンドの制服に汚れなんて付いていない。数十分前にくまなくチェックしたしね。
エドマンドがあの数の御令嬢方の聞いている前で私の事を「大好き」などと口を滑らせそうになってしまったので、離れる為の口実だったのだが・・・

やはり女の勘とは恐ろしいもので・・・

嘘だとバレてしまっているのか、振り返った時に見えた御令嬢達の怖い顔は・・・夢に出て来そうな程だった。



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