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本編

ならば命令して下さい!

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「エドマンド様、エドマンド様ーっ!起きて下さいませー!」

王立学園で迎える初めての朝ーーー。

私も晴れて今日からは、ハイネス公爵家のメイド!
朝の支度のお手伝いをするべく・・・主人であるエドマンドの自室に居た。

「私をメイドに!」とエドマンドが強く望んでくれた為、誰も使用人を連れて来なかったらしく
既に入学してから一月ほどの時間が経っているが、その間は自分で支度を済ませ、学園へと通っていたと聞いていた為・・・

(と言う事は・・・朝は私の出る幕はあんまり無いかな?もしかして・・・余裕を持って自室に帰って来れるかな?)

と思っていた自分の浅はかさを現在、悔いている所である。






この王立学園寮では・・・朝6時より使用人は行動する事を許されていて、外部からでも事前申請さえしていれば入る事が可能だ。

クローゼットにメイド服らしきものが無かった私は、結局・・・自分の家から持ってきた無地のワンピースに年季と汚れだけは入っているエプロンを身に纏って来たのだが・・・。

(やっぱり・・・ハイネス公爵家の品位を疑われてしまいかねないし・・・メイド服だけはお願いしよう。)

流石は王立学園寮・・・とでも言うべきなのか、すれ違う使用人、使用人・・・みんな、パリッとした綺麗なメイド服やボーイ服なのだ。

いくらメイド服が無かったからとはいえ・・・こんな服装で来てしまった事に恥ずかしさを覚える。

とは言え仕事は仕事だ!きっちりとしなくては!

昨日、爺やから教えて貰った通り・・・男子寮の寮父さんからエドマンド宛の書類を預かり、預かっている鍵でエドマンドの部屋へ入ると・・・玄関ホールにある花瓶の水を代え、部屋の掃き掃除とモップがけを終わらせる。
毎朝必ず飲まれるという、薄めのコーヒーの準備をした所で定刻になった為、エドマンドを必死に起こすのだが・・・・・・・・・



「フレイが〝エド〟って呼んでくれる迄は、絶対に起きない!」

ーーーご覧の有り様である。

「エドマンド様・・・お気持ちは嬉しいのですが・・・、主人を略称呼びするメイドなど聞いた事有りませんよ。」

「どうでも良いよ・・・他のメイドの事なんて。僕はフレイに〝エド〟と呼ばれたい・・・それだけだ!」

そう言い放つとエドマンドは、シーツの中にくるまってしまう。
子供の様な駄々のこね方をするエドマンドに、初日から先が思いやられてしまった私は思わず溜め息をついてしまう。

「エドマンド様・・・、遅刻してしまいますよ?」

「構うものか!!フレイに〝エド〟と呼んで貰う事の方がよっぽど大事だ・・・!!」

(いや・・・、そんな理由で遅刻する事の方が一大事でしょ・・・。)

だが・・・エドマンドは昔から意外に頑固な所が有るのも事実。そして拘りだすと異常な程、拘る性格であった。
このまま、このやり取りを繰り返していたら本当に遅刻は愚か、『今日は休む!』と言い出しかねない・・・。

この状況を打破すべく・・・私も折れる事とする。

(私情は無いわよ・・・!これは、あくまでもメイドとして・・・主人を学園に気持ち良く送り出す使命が有るから・・・!!)



「分かりました。ーーーならば、私に命令して下さい。」



「命令・・・?何と・・・?」

シーツからひょこっと顔だけ出したエドマンドが不思議そうに首を傾げる。

「そうです。私に『自分の事はエドと呼ぶ様に』と命令して下さいませ。」

正直に白状してしまうと・・・私自身も「エドマンド様」と呼ぶ度にむず痒い気持ちになってしまっていたので、
「エド」と呼ばして貰えるのなら願ったり叶ったりなのだが・・・
この状況下でそれを悟られる訳にはいかない私は、何とか我存ぜぬの真顔をキープして頭を下げる。



「・・・・・・嫌だ。」



少しは悩んだのか・・・暫しの沈黙の後にそうポツリと呟いたエドマンドは、再びシーツの中へと戻っていく。

「なっ・・・!ゴホンゴホン、エドマンド様、失礼を承知で申し上げますがー」

「その喋り方も嫌だし・・・命令をするのは、もっと嫌だ!フレイに何と言われても・・・昨日の様に戻してくれる迄、絶対にシーツからは出ない!!」

私の譲歩した提案をいとも簡単に拒絶したエドマンドに思わず素で反応してしまった私は、慌てて取り繕うが・・・
このシーツに包まっている大きな子供を冷めた目で見据える事位は、どうか許して欲しい。

爺やは一体、どうやってこのの我儘を解決して来たのだろうか・・・。

(しまった・・・。爺やにちゃんと聞いておくべきだったわね・・・。一番大事な事を聞きそびれてしまったわ)

ダイニングに掛けられている鳩時計が8時を告げる音を聞いた私は、本格的に焦る。

(制服を着替えに女子寮の部屋まで戻る時間を考慮すると・・・後45分以内には、この部屋を出ないといけないんだけど・・・)



悩みに悩み抜いた私は・・・大きな溜め息をつくとエドマンドとの根比べに敗北を認めた。



「エド・・・分かった!分かったから・・・この部屋で二人きりの時だけは・・・以前の様にするから・・・。」

「本当かい?!!」

エドマンドが剥がしたシーツが勢い余って宙に舞う。
中から出て来た当の本人であるエドマンドは、目をキラキラと輝かせていた。

「但し!この部屋で!二人きりの時だけ!だからね・・・?」

ずいっと顔を近づけて人差し指を突き立てた私に対して、芸を褒められた犬の如く何度もコクコクと頷くエドマンドの姿に・・・すっかり毒気を抜かれてしまった私は、強めの灸を据えてやるつもりだったにも関わらず・・・笑顔をこぼしてしまう。

「とりあえず・・・いいよ!あまり最初からお願いばかりして、フレイに嫌われても嫌だからね?」

「・・・・っ!」

ベッドから起き上がったエドマンドが体を伸ばしながら、視線だけこちらに向けてそう告げる。
さらっとそんな事を言ってしまえるエドマンドに思わず顔が熱を持ち始めてしまう。

(深い意味は無い・・・!深い意味は無い・・・!エドが言っているのは、〝幼なじみとして〟よ!)

自分にそう言い聞かせながら、邪念を追い払うかの如く首を左右に振った私は・・・
30分でエドマンドの朝食を用意し、支度を済ませて・・・女子寮へと走った。
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