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本編

騙されました

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『それで、エド・・・使用人部屋は何処に有るのかしら・・・?』

『寮母さんに話はしてあるから・・・名前を伝えたら案内して貰えるよ。本当だったら部屋まできちんとエスコートしたかったんだけど・・・僕は女子寮には行けないから・・・ごめんね?』

ーーーあれ?おかしいなって思ったよ?私、女子寮なの?って・・・。
だって私が今日、男子寮へと足を踏み入れた時にメイド服に身を包んでいる女性が数人は居たし・・・
王立学園寮なんて格式高い場所で〝使用人部屋〟が無いの?って思ったけども・・・!



『とんでもないわ!色々と気を回してくれて本当に有難うね。エド・・・。』

『制服なんかの当面着る洋服は、見繕ってクローゼットに掛けて有るから・・・それを着てくれたら良いよ。』

ーーーおかしいよね?え?寧ろ、私が勘違いしてしまっているのか?
昨今のメイドは・・・メイド服では無くドレスに身を包んでお仕事をするものなのかな?
アクセサリーを付けて、着飾ったりするのも仕事の内とかになっているのかな?



そ ん な 訳 は 無 い !



どうやら私は、エドマンドに完全にーーー・・・



「だ、だ、だ、騙されたーーー!!!」



エドマンドのお部屋で夕暮れ時まで楽しく過ごさせて貰った私は、ようやく自室へと足を踏み入れていた。

男子寮と女子寮は向かい合う形で建っており、間には噴水広場と明日から私も通わせて頂ける学園が有る。
徒歩で10分程度の距離だったし、学園の敷地内は道が舗装されていて分かりやすかった為、女子寮までは迷わずに来れたし、
寮母さんも私の事を今か今かと待っていたみたいで、入るなりすぐに声を掛けて貰えたので・・・部屋まではすんなり来れたのだが・・・。

男子寮と同様、女子寮にもランクが有って・・・私は使用人だし、物置小屋レベルの部屋も覚悟していたのだが・・・。

(これって男爵令嬢とかに宛てがわれるお部屋じゃ無いの・・・?)

エドマンドの部屋の様に金の装飾が施されている様なお部屋では無いものの・・・使用人である私には分不相応と言うか、有り得ない部屋だ。

(天蓋付きベッドに・・・キッチン、バスルーム、ダイニングまで有る・・・。)

おまけにエドマンドの奴・・・!寮母さんに何を吹き込んだんだが知らないが・・・

『どんな美少女が来るのかと期待していたんだが・・・。何だ!普通の子で安心したよ・・・!』

とか言われちゃったじゃ無いのよーーー!!!!

(いやまぁ・・・普通以下だからね。そう寮母さんが言いたくなる気持ちも分かるけれど・・・。)

夢の様な時間の連続で疲れを忘れてしまっていたが・・・早朝から馬車に揺られてやって来た為、
体は思いの外疲れてしまっているらしく・・・私は、ベッドに腰を掛けるとそのまま倒れ込んでしまった・・・。

正直、エドマンドの気持ちは嬉しいし・・・今回のお話だって本当に有り難い。
私は成金子爵からの没落令嬢で・・・別にこれ自体も特別って訳では無く、よく有る話だ。

こうして良い部屋を用意してくれたり・・・国宝級のティーセットをプレゼントしてくれたり・・・クローゼットいっぱいにドレスを用意してくれたり・・・

きっと私がまだ子爵令嬢だったら・・・もっと素直に喜べたのかもしれない。
ううん、普通の女の子ならきっと・・・シンデレラストーリーの様だともっと感激出来たと思う。

でも私は・・・残念ながらそこまで馬鹿にはなれない。

契約書にサインをして御給金を頂く以上・・・今日の様な接し方は、やっぱり駄目だと思うし、
ほとんどの生徒はこの学園在学中に婚約者を見付けるものだ・・・。
私の様な馴れ馴れしい女が近くに居ては、要らぬ誤解とトラブルを生むだけ・・・。
メイドならばメイドらしく・・・エドマンドにきちんと接しなければ・・・彼の邪魔をする事になってしまう。

(今日は本当に楽しかったな・・・まるで、6年前のあの頃に戻ったみたいーーー・・・。)



「エド・・・本当に格好良くなってたな・・・。びっくりしちゃった・・・。」

きっと明日からはもう〝エド〟だなんて呼べない・・・。
そう思うと、何だか寂しくなってしまって口に出してしまいたくなった。

「もし・・・私が・・・あのまま向かいに住み続けられていたら・・・」

もしかして、婚約者に何かなっちゃったりして・・・。

(馬鹿ね・・・ハイネス公爵が許す訳無いわよ。成金子爵の娘だなんて・・・)

ぼうーっと考えていた私は自分の恥ずかし過ぎる考えに気づき、ガバっと堪らず起き上がった。

「な、何を考えているの・・・?!私は・・・!エドは幼なじみよ?それ以上でも以下でも無いわ!!」

一人きりの部屋では、私の言い訳に反応してくれる人なんて居る筈も無く・・・沈黙だけが続く。

(な、何をしているんだ・・・私は・・・。)

誰かに見られたと言う訳でも無いのに・・・恥ずかしさが込み上げ来てしまい、自分自身に思わず笑ってしまう。



「さぁ・・・!明日の準備をしなくちゃ・・・!」

そう自分の頬を叩いて気合を入れた私は、ベッドから立ち上がると・・・自分の中にある悶々とした気持ちに蓋をした。


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