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本編
エドマンドの使い
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「フレイヤ・・・私、準備して来た方が宜しいんじゃ無いの?」
いそいそとティーセットをお盆に並べていると、お姉様が私の耳元で小さく囁いた。
「はぁ・・・?いや、特にお姉様に用事が有るとは仰って無かったですけれど・・・」
何を言っているのか理解出来なかった私は、いつもの要領でお姉様の言葉を軽く躱した。
「だってあの人、私を迎えに来たっぽいでしょ?!どう見ても伯爵位以上の従者じゃないと・・・あんな良い服は着れないわ!やっと・・・!やっと、来てくれたのよ!」
(まぁ・・・私も扉を開けて爺やを見た瞬間、『まさか?!』と同じ考えが過ぎってしまったからね・・・夢見がちなお姉様がそう考えてしまう気持ちが分からんでは無いが・・・)
「ご名答、あのお方はハイネス公爵様の従者です。」
「え?!あの・・・豚の?!ーふごゴゴゴっ」
失礼な言動が爺やに聞こえない様にと咄嗟にお姉様の口を塞ぐ。
以前の成金子爵位の立場ならお咎め程度で済んだかもしれないが・・・我が家は今やしがない平民だ。
公爵家の悪口など口が裂けても言ってはいけないし、許されるものでもない。
「何を考えているのですか?!ご自分の立場が・・・我が家の立場が未だ分からないのですか?!公爵様を蔑むなど・・・不敬罪でしょっ引かれますよ?!」
ダイニングテーブルに座っている爺やに聞こえない様に、精一杯の小声でお姉様にお説教をしてやると、
事の重大さ気付いたのか・・・コクコクと何度も頷き、目を丸くして私を見ていた。
一先ず立場を弁えられた様子のお姉様の口から手を離すと、そのままお盆を持ち上げてダイニングテーブルの方へと向かった。
「すみません・・・安物の葉なのですが、体が暖まるかとは思いますので・・・」
そう伝えながら、爺やの前に紅茶の入ったティーセットを置くと爺やはすぐに一口含み、満面の笑みを向けてくれた。
その一連の動作はきっと、私への気遣いからの行動だと分かってはいたが・・・とても嬉しくなり思わず私まで笑顔になる。
「お話は分かりましたわ。フレイヤも16歳の立派な女性ですから・・・私はこの子の判断に任せます。」
お母様と爺やは、私がキッチンで紅茶を淹れている間に何やらお話をしていたらしく・・・お母様はそう言葉を返すと時計を見てそそくさと出る準備を始めた。
「大したおもてなしも出来ませんが・・・どうぞ、ごゆっくりして下さい。すみませんが、私とマチルダは仕事が有りますので、これで・・・」
「へ?私?!私に仕事なんて・・・」
急に自分の名前が出て来たお姉様はキッチンから、キョトン顔でお母様を眺めている。
そんなお姉様の腕を無理矢理掴み、引っ張る形でお母様とお姉様が玄関口へと向かって行く。
「良いから来なさい!!ーーーフレイヤ、後のことは任せましたよ?」
「あ、はい。かしこまりました・・・。」
嵐の様に去っていったお母様とお姉様に呆気を取られながらも・・・扉が閉まる音を確認した私は、爺やの向かいの席へと腰を掛ける。
「すみません・・・騒がしい家で・・・、」
「フレイヤ様、お止め下さい。昔の様に普通にお話して下さって構いませんから・・・」
他人行儀な私に少し悲しそうに眉を下げた爺やがそう告げる。とは言え、私は没落貴族令嬢で・・・爺やは公爵邸を任される執事だ。
『昔の様に』と言うのは些か問題がある気がしてならないのだが・・・。
(でも・・・あんな悲しそうな顔されたら・・・断れないよぉぉ!)
「わ、分かった・・・!分かったから!そんな悲しそうな顔をしないで頂戴!!以前の様に話すから!・・・まぁ、でも二人きりの時だけよ?」
「我儘を聞き届けて頂き、有難うございます。」
私の言葉を聞くや満面の笑みで礼をする爺やに、かつて貴族令嬢として夢の様な時間を過ごしていた頃を思い出し・・・何だかくすぐったくなってしまう。
「それで・・・?色々、聞きたい事が沢山有るんだけれど・・・わざわざこんな郊外まで足を運んで貰ったんだもの、爺やの用件を先に聞くわ?」
手で「どうぞ」と促すと爺やは以前と変わらず・・・こんな没落した私に対して丁寧に頭を下げると、真っすぐ真剣な表情で口を開いた。
「本日は・・・エドマンド様から使いを頼まれて参った所存で御座います。」
いそいそとティーセットをお盆に並べていると、お姉様が私の耳元で小さく囁いた。
「はぁ・・・?いや、特にお姉様に用事が有るとは仰って無かったですけれど・・・」
何を言っているのか理解出来なかった私は、いつもの要領でお姉様の言葉を軽く躱した。
「だってあの人、私を迎えに来たっぽいでしょ?!どう見ても伯爵位以上の従者じゃないと・・・あんな良い服は着れないわ!やっと・・・!やっと、来てくれたのよ!」
(まぁ・・・私も扉を開けて爺やを見た瞬間、『まさか?!』と同じ考えが過ぎってしまったからね・・・夢見がちなお姉様がそう考えてしまう気持ちが分からんでは無いが・・・)
「ご名答、あのお方はハイネス公爵様の従者です。」
「え?!あの・・・豚の?!ーふごゴゴゴっ」
失礼な言動が爺やに聞こえない様にと咄嗟にお姉様の口を塞ぐ。
以前の成金子爵位の立場ならお咎め程度で済んだかもしれないが・・・我が家は今やしがない平民だ。
公爵家の悪口など口が裂けても言ってはいけないし、許されるものでもない。
「何を考えているのですか?!ご自分の立場が・・・我が家の立場が未だ分からないのですか?!公爵様を蔑むなど・・・不敬罪でしょっ引かれますよ?!」
ダイニングテーブルに座っている爺やに聞こえない様に、精一杯の小声でお姉様にお説教をしてやると、
事の重大さ気付いたのか・・・コクコクと何度も頷き、目を丸くして私を見ていた。
一先ず立場を弁えられた様子のお姉様の口から手を離すと、そのままお盆を持ち上げてダイニングテーブルの方へと向かった。
「すみません・・・安物の葉なのですが、体が暖まるかとは思いますので・・・」
そう伝えながら、爺やの前に紅茶の入ったティーセットを置くと爺やはすぐに一口含み、満面の笑みを向けてくれた。
その一連の動作はきっと、私への気遣いからの行動だと分かってはいたが・・・とても嬉しくなり思わず私まで笑顔になる。
「お話は分かりましたわ。フレイヤも16歳の立派な女性ですから・・・私はこの子の判断に任せます。」
お母様と爺やは、私がキッチンで紅茶を淹れている間に何やらお話をしていたらしく・・・お母様はそう言葉を返すと時計を見てそそくさと出る準備を始めた。
「大したおもてなしも出来ませんが・・・どうぞ、ごゆっくりして下さい。すみませんが、私とマチルダは仕事が有りますので、これで・・・」
「へ?私?!私に仕事なんて・・・」
急に自分の名前が出て来たお姉様はキッチンから、キョトン顔でお母様を眺めている。
そんなお姉様の腕を無理矢理掴み、引っ張る形でお母様とお姉様が玄関口へと向かって行く。
「良いから来なさい!!ーーーフレイヤ、後のことは任せましたよ?」
「あ、はい。かしこまりました・・・。」
嵐の様に去っていったお母様とお姉様に呆気を取られながらも・・・扉が閉まる音を確認した私は、爺やの向かいの席へと腰を掛ける。
「すみません・・・騒がしい家で・・・、」
「フレイヤ様、お止め下さい。昔の様に普通にお話して下さって構いませんから・・・」
他人行儀な私に少し悲しそうに眉を下げた爺やがそう告げる。とは言え、私は没落貴族令嬢で・・・爺やは公爵邸を任される執事だ。
『昔の様に』と言うのは些か問題がある気がしてならないのだが・・・。
(でも・・・あんな悲しそうな顔されたら・・・断れないよぉぉ!)
「わ、分かった・・・!分かったから!そんな悲しそうな顔をしないで頂戴!!以前の様に話すから!・・・まぁ、でも二人きりの時だけよ?」
「我儘を聞き届けて頂き、有難うございます。」
私の言葉を聞くや満面の笑みで礼をする爺やに、かつて貴族令嬢として夢の様な時間を過ごしていた頃を思い出し・・・何だかくすぐったくなってしまう。
「それで・・・?色々、聞きたい事が沢山有るんだけれど・・・わざわざこんな郊外まで足を運んで貰ったんだもの、爺やの用件を先に聞くわ?」
手で「どうぞ」と促すと爺やは以前と変わらず・・・こんな没落した私に対して丁寧に頭を下げると、真っすぐ真剣な表情で口を開いた。
「本日は・・・エドマンド様から使いを頼まれて参った所存で御座います。」
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