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本編
こうして我が家は没落した
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「どうして?!何で私がいつも力仕事なんですの?!」
食後の後片付け中にも関わらず駄々を捏ねているのは、私の姉でハンメルン家長女のマチルダ・ハンメルン、19歳だ。
もう19歳の立派なレディだと言うのに・・・未だに幼子の様にこうして駄々を捏ねたり出来るのだから、ある意味凄いと思う。
ちなみに私の名はフレイヤ・ハンメルンーーー歳は16歳になる。
もう一つちなみに、私が11歳の頃迄は貿易商として成功していたハンメルン家は子爵位を賜っていた。
おまけに中央貴族の一員として、王都の一等地にあるとても立派なお屋敷で贅沢な暮らしをしていたのだ。
私の幼なじみのエドマンド・ハイネスの父親であるハイネス公爵家が、王命により隣国へと移り住んだのはもう6年も前の出来事だ。
3つの大国と川を挟んで隣接しあっている我が国は、貿易商が盛んでお父様もその一人だった。
だがしかし、ハイネス公爵様のご活躍で気軽に隣国へと行ける橋が次々と掛けられると・・・
隣国の商人から直接、安価でより良い物が買えてしまう為・・・お父様も含め貿易商を営んでいるお家は次々と厳しくなっていってしまった。
それでも手堅く顧客を大事にして続けていれば、良かったのかもしれないが・・・
貿易商で成功したご自分の手腕を過大評価していたお父様は、次々と新事業に手を出しては失敗を繰り返し・・・
屋敷から調度品が無くなり・・・、部屋から装飾品が無くなり・・・、クローゼットからドレスが無くなり・・・、ご自慢の屋敷が無くなり・・・、
最後には子爵位までもが無くなった。
つまり我が家は没落してしまったのだ。
そんな訳で今は、郊外の小さな一軒家で家族4人だけで暮らしている。
お父様は・・・お仕事をいくつも掛け持ちして、借金を返しつつ何とか生活を支えて下さっている。
私とお姉様で・・・田畑を耕したり、家の事をしている。
お母様は・・・昔の好みでとあるお屋敷のメイドとして働かせて頂いている。
(でもそうね・・・、私も16歳になったし、そろそろ出稼ぎに行った方が良いわよね?)
お姉様は没落したにも関わらず、未だ自分が美しく特別な女だと勘違いを拗らせており・・・はっきり言って文句ばかりで何の役にも立たない。
そんな姉が外で仕事なんて出来る訳も無く・・・何処も一日で仕事を放り出して帰って来てしまう為、こうして家の事を私と二人でしているのだ。
「仕方無いでしょう・・・!マチルダは食器を割ったり、水を出しっぱなしにしたりと、仕事を増やす事しかしないのですから!単純作業の繰り返しである、力仕事位しか任せられません!!」
お姉様の言葉に頭痛がする様子のお母様が、頭を抱えながら姿見の前に座ると・・・お姉様もひょこひょことその後について行く。
「お母様・・・!そんな・・・!でも、私をいつか迎えに来て下さる貴族のご子息方には何と説明をするのですか?!私の手がタコだらけでは、縁談を破棄されてしまいますわ!」
「マチルダ・・・。貴女、夢物語はやめて頂戴。もう19歳になったのですよ?お迎えに来るなら、とっくに来ています!!」
(また・・・始まった。本当に我が姉ながら、おめでたい人ですこと・・・。)
ほとほと呆れ果てているお母様の姿を横目に、朝食の後片付けをそそくさとやっていると、こんな朝早くにも関わらず誰かが訪ねて来た様で我が家に来客用ベルの音が響き渡った。
「誰かしら?フレイヤ、出て頂戴な。」
「あ、はい。」
お母様から言われ、朝食の片付けを中断して玄関の方へと小走りで向かう。
小さな家なので、ベルからものの数秒で扉を開ける事が出来た。
「はい。あの~・・・どちら様ですか?」
扉の前に佇んでいた老年の男性は、見るからに高級そうなコートを身に纏っていて・・・
その身なりから一目で高位貴族の使いの者だと分かった。
(ま、まさか・・・!!本当にお迎えに来たとでも言うの?!お姉様を・・・!)
思わず目が点になりそうな勢いで驚いた私に、帽子を取り丁寧に頭を下げる老年の男性は、よくよく見てみると・・・何処かでお会いした事が有るのか、見覚えのある顔だった。
「ご無沙汰しております。フレイヤ様・・・」
その声を聞いてやっと思い出した私は、驚きの余り思わず口を両手で覆い、懐かしいその姿に思わず目頭が熱くなる。
「爺や!爺やなのね・・・!!」
「はい。お元気そうで何よりです・・・フレイヤ様」
そう優しい声でゆっくりと頷く姿に、幼い頃の記憶が蘇る。
彼は、かつて我が家の向かいに有ったハイネス公爵邸で執事を務めていた男性だった。
エドマンドが『爺や、爺や』と呼んでいたので私までつられてそう呼んでしまっていた。
「フレイヤー?お客様はどうしたのー?」
玄関先から戻ってこない私を不思議に思ったお母様の声を背後に感じて振り返ると、
お母様も一目で高位貴族の使いだと察しがついたらしく、慌てて身なりを整えると深くお辞儀をした。
「あ!お母様、こちら覚えていらっしゃらない?ハイネス公爵邸で執事を務めていらっしゃった・・・」
(えーと・・・あれ?そういえば、私・・・爺やの名前知らないぞ??)
「まぁまぁ!こんな所までご足労頂きまして・・・狭い所ですが、どうぞお入り下さいませ」
私の泳いでる目を見て察して下さったお母様が、咄嗟の機転で爺やを家の中へと手招きする。
それに応じて爺やが我が家に入ると、私は扉を閉めて・・・慌ててキッチンで紅茶の準備を始めた。
食後の後片付け中にも関わらず駄々を捏ねているのは、私の姉でハンメルン家長女のマチルダ・ハンメルン、19歳だ。
もう19歳の立派なレディだと言うのに・・・未だに幼子の様にこうして駄々を捏ねたり出来るのだから、ある意味凄いと思う。
ちなみに私の名はフレイヤ・ハンメルンーーー歳は16歳になる。
もう一つちなみに、私が11歳の頃迄は貿易商として成功していたハンメルン家は子爵位を賜っていた。
おまけに中央貴族の一員として、王都の一等地にあるとても立派なお屋敷で贅沢な暮らしをしていたのだ。
私の幼なじみのエドマンド・ハイネスの父親であるハイネス公爵家が、王命により隣国へと移り住んだのはもう6年も前の出来事だ。
3つの大国と川を挟んで隣接しあっている我が国は、貿易商が盛んでお父様もその一人だった。
だがしかし、ハイネス公爵様のご活躍で気軽に隣国へと行ける橋が次々と掛けられると・・・
隣国の商人から直接、安価でより良い物が買えてしまう為・・・お父様も含め貿易商を営んでいるお家は次々と厳しくなっていってしまった。
それでも手堅く顧客を大事にして続けていれば、良かったのかもしれないが・・・
貿易商で成功したご自分の手腕を過大評価していたお父様は、次々と新事業に手を出しては失敗を繰り返し・・・
屋敷から調度品が無くなり・・・、部屋から装飾品が無くなり・・・、クローゼットからドレスが無くなり・・・、ご自慢の屋敷が無くなり・・・、
最後には子爵位までもが無くなった。
つまり我が家は没落してしまったのだ。
そんな訳で今は、郊外の小さな一軒家で家族4人だけで暮らしている。
お父様は・・・お仕事をいくつも掛け持ちして、借金を返しつつ何とか生活を支えて下さっている。
私とお姉様で・・・田畑を耕したり、家の事をしている。
お母様は・・・昔の好みでとあるお屋敷のメイドとして働かせて頂いている。
(でもそうね・・・、私も16歳になったし、そろそろ出稼ぎに行った方が良いわよね?)
お姉様は没落したにも関わらず、未だ自分が美しく特別な女だと勘違いを拗らせており・・・はっきり言って文句ばかりで何の役にも立たない。
そんな姉が外で仕事なんて出来る訳も無く・・・何処も一日で仕事を放り出して帰って来てしまう為、こうして家の事を私と二人でしているのだ。
「仕方無いでしょう・・・!マチルダは食器を割ったり、水を出しっぱなしにしたりと、仕事を増やす事しかしないのですから!単純作業の繰り返しである、力仕事位しか任せられません!!」
お姉様の言葉に頭痛がする様子のお母様が、頭を抱えながら姿見の前に座ると・・・お姉様もひょこひょことその後について行く。
「お母様・・・!そんな・・・!でも、私をいつか迎えに来て下さる貴族のご子息方には何と説明をするのですか?!私の手がタコだらけでは、縁談を破棄されてしまいますわ!」
「マチルダ・・・。貴女、夢物語はやめて頂戴。もう19歳になったのですよ?お迎えに来るなら、とっくに来ています!!」
(また・・・始まった。本当に我が姉ながら、おめでたい人ですこと・・・。)
ほとほと呆れ果てているお母様の姿を横目に、朝食の後片付けをそそくさとやっていると、こんな朝早くにも関わらず誰かが訪ねて来た様で我が家に来客用ベルの音が響き渡った。
「誰かしら?フレイヤ、出て頂戴な。」
「あ、はい。」
お母様から言われ、朝食の片付けを中断して玄関の方へと小走りで向かう。
小さな家なので、ベルからものの数秒で扉を開ける事が出来た。
「はい。あの~・・・どちら様ですか?」
扉の前に佇んでいた老年の男性は、見るからに高級そうなコートを身に纏っていて・・・
その身なりから一目で高位貴族の使いの者だと分かった。
(ま、まさか・・・!!本当にお迎えに来たとでも言うの?!お姉様を・・・!)
思わず目が点になりそうな勢いで驚いた私に、帽子を取り丁寧に頭を下げる老年の男性は、よくよく見てみると・・・何処かでお会いした事が有るのか、見覚えのある顔だった。
「ご無沙汰しております。フレイヤ様・・・」
その声を聞いてやっと思い出した私は、驚きの余り思わず口を両手で覆い、懐かしいその姿に思わず目頭が熱くなる。
「爺や!爺やなのね・・・!!」
「はい。お元気そうで何よりです・・・フレイヤ様」
そう優しい声でゆっくりと頷く姿に、幼い頃の記憶が蘇る。
彼は、かつて我が家の向かいに有ったハイネス公爵邸で執事を務めていた男性だった。
エドマンドが『爺や、爺や』と呼んでいたので私までつられてそう呼んでしまっていた。
「フレイヤー?お客様はどうしたのー?」
玄関先から戻ってこない私を不思議に思ったお母様の声を背後に感じて振り返ると、
お母様も一目で高位貴族の使いだと察しがついたらしく、慌てて身なりを整えると深くお辞儀をした。
「あ!お母様、こちら覚えていらっしゃらない?ハイネス公爵邸で執事を務めていらっしゃった・・・」
(えーと・・・あれ?そういえば、私・・・爺やの名前知らないぞ??)
「まぁまぁ!こんな所までご足労頂きまして・・・狭い所ですが、どうぞお入り下さいませ」
私の泳いでる目を見て察して下さったお母様が、咄嗟の機転で爺やを家の中へと手招きする。
それに応じて爺やが我が家に入ると、私は扉を閉めて・・・慌ててキッチンで紅茶の準備を始めた。
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