上 下
2 / 48
本編

くすぐったい空間

しおりを挟む
「ーーーっという訳で、私が一緒に行く事になったの!宜しくお願いね?エド!」

「父上から〝マチルダ嬢宛にエスコートの申し出をした〟と聞いた時はどうなる事かと思ったけれど・・・フレイなら安心だよ。こちらこそ宜しくね?」

ハイネス公爵邸へとエスコートの申し出の返事をしにお父様とやって来た私は、勝手知ったるエドマンドのお部屋でいつものお喋りを楽しんでいた。
幼なじみである私達は互いに略称呼びで〝エド〟〝フレイ〟と呼び合っている。

「僕・・・こういう大きなパーティーは初めてで、きっとフレイに迷惑をかけると思うけど・・・。」

俯いて意地らしく指をくるくるとしているエドマンドに、思わず背中を軽く叩いて喝を入れる。

「何言ってるの!エドがしっかりエスコートしてくれなくちゃ!それに、茶会だけなら私も場数を踏んでいるし、2人で力を合わせれば大丈夫よ!」

「う、うん・・・。」

尚、不安そうなエドマンドの様子に少し違和感を感じてはいたが・・・舞踏会を翌日に控えていた為、それ以上深くは聞かなかった。

「明日、とっても楽しみね?エド!」

「うん・・・そうだね・・・フレイ。」

歯切れの悪いエドマンドの答えを聞いた所でメイドからお呼びがかかり、私は帰宅する事となってしまった。





「お父様・・・このドレスを、私に・・・?」

帰宅して早々、お父様に呼ばれて書斎を訪ねると・・・私の為に誂えて下さったというドレスがマネキン人形に着せられていた。

私はお姉様のようにドレスに目がないという訳では無いが・・・そんな私でも目を輝かせてしまう程に素敵なドレスは、
お父様の経営するお店にも並べた事のない珍しい島国のドレスらしく、リボン等の大きな装飾は一つも無いが、キラキラと輝く小さな石が散りばめられていて・・・とても美しく輝いている。

色は私の年齢では先ず着ないスカイブルーのお色味のドレスだったが、私が着ても違和感のないパステル調に仕上げられており・・・

要約すると・・・とても人目を集める新作ドレスだった。

「お前の舞踏会デビューだ。これ位のドレスで無くてはな!」

「でも・・・お姉様にお小言を頂いてしまいそうですわ・・・。」

とにかく目立ちたがり屋の姉は、私がこんな素敵なドレスを着る事をきっと許さないだろう・・・。
何より、同じ舞踏会に参加すると聞いている手前、非常に面倒くさい事に発展してしまいそうだ。

「マチルダにも納得のいくドレスを用意しているから、心配しなくて良い。楽しんで来なさい。」

お父様の優しい笑顔に嬉しくなった私は、少し不安因子を残しつつも・・・この素敵なドレスを素直に受け取る事とした。

「有り難うございます・・・!お父様・・・!」














そして迎えた舞踏会当日の夕刻ーーー・・・

「どうかな?エド・・・」

お迎えに来てくれたエドマンドにとっておきのドレスと一応、綺麗に身支度した自分の姿をゆっくり回って見せてみる。

「え・・・あ・・・。」

顔を赤くしながら目を見開いているエドマンドは、恐らく悪くは思っていないという事位は推測出来るが・・・

どう思っているのかきちんと口にして欲しい私は、じぃぃっとエドマンドの言葉を待つ。

「か、か、可愛いよ・・・フレイ。」

益々赤くなるエドマンドの熱が移ってしまったのか・・・聞いた私まで顔が赤くなる感覚に襲われてしまった。

「あ、あ、ありがとう・・・エド。」

何だかくすぐったい様な、恥ずかしい様な、心地良い様な・・・産まれて初めて味わう空間に戸惑いながらも私達二人は馬車へと乗り込み、舞踏会の会場である王宮へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】没落令嬢の結婚前夜

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢アンジェリーヌは、裕福な家で愛されて育ったが、 十八歳のある日、突如、不幸に見舞われた。 馬車事故で家族を失い、その上、財産の全てを叔父家族に奪われ、 叔父の決めた相手と結婚させられる事になってしまったのだ。 相手は顔に恐ろしい傷を持つ辺境伯___ 不幸を嘆くも、生きる為には仕方が無いと諦める。 だが、結婚式の前夜、従兄に襲われそうになり、誤ってテラスから落ちてしまう。 目が覚めると、そこは見知らぬ場所で、見知らぬ少年が覗き込んでいた___  異世界恋愛:短編(全8話)  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜

悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜 嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。 陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。 無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。 夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。 怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……

婚約破棄される前に逃げます

monaca
恋愛
没落令嬢のわたくしと婚約した意味がわかりました。 婚約破棄されるまえに、わたくしは逃げます。

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

没落寸前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更手のひらを返しても遅いのです。

木山楽斗
恋愛
両親が亡くなってすぐに兄が失踪した。 不幸が重なると思っていた私に、さらにさらなる不幸が降りかかってきた。兄が失踪したのは子爵家の財産のほとんどを手放さなければならい程の借金を抱えていたからだったのだ。 当然のことながら、使用人達は解雇しなければならなくなった。 多くの使用人が、私のことを罵倒してきた。子爵家の勝手のせいで、職を失うことになったからである。 しかし、中には私のことを心配してくれる者もいた。 その中の一人、フェリオスは私の元から決して離れようとしなかった。彼は、私のためにその人生を捧げる覚悟を決めていたのだ。 私は、そんな彼とともにとあるものを見つけた。 それは、先祖が密かに残していた遺産である。 驚くべきことに、それは子爵家の財産をも上回る程のものだった。おかげで、子爵家は存続することができたのである。 そんな中、私の元に帰ってくる者達がいた。 それは、かつて私を罵倒してきた使用人達である。 彼らは、私に媚を売ってきた。もう一度雇って欲しいとそう言ってきたのである。 しかし、流石に私もそんな彼らのことは受け入れられない。 「今更、掌を返しても遅い」 それが、私の素直な気持ちだった。 ※2021/12/25 改題しました。(旧題:没落貴族一歩手前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更掌を返してももう遅いのです。)

【完結】初恋の伯爵は愛を求めない!買われた契約妻は恋心をひた隠す

白雨 音
恋愛
男爵令嬢のセリアは結婚を間近に控えていたが、両親の死により全てを失ってしまう。 残された負債の為、債権者の館で下女となるが、元貴族という事で、 風当たりも強く、辛い日々を送っていた。 そんなある夜、館のパーティで、セリアは一人の男性に目を奪われた。 三年前、密かに恋心を抱いた相手、伯爵レオナール___ 伯爵は自分の事など記憶していないだろうが、今の姿を彼に見られたくない… そんな気持ちとは裏腹に、セリアはパーティで目立ってしまう。 嫉妬した館の娘ルイーズの策謀で、盗人の汚名を着せられたセリア。 彼女の窮地に現れたのは、伯爵だった…  異世界恋愛 ※魔法要素はありません。《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

【本編完結】私の婚約者が七つ年下の幼馴染に変わったら、親友が王子様と婚約しました。

橘ハルシ
恋愛
 婚約者との年齢差に拘ったばかりにハズレを引いた伯爵令嬢イザベルと、初恋にこだわる王子に説教したら興味を持たれて婚約させられた男装の子爵令嬢ノアのWヒロインです。            【イザベル編】   賑わう街のカフェで突然、婚約破棄を言い出された伯爵令嬢イザベル十七歳。  暴力まで振るわれかけたところで割り込んできたのは、七つも年下の幼馴染パトリックだった。彼は幼い頃に一度彼女に婚約を申し込んでおり、今回またどさくさに紛れて再びイザベルに婚約を申し込んできた。破棄と申し込みを同時にされてイザベルは混乱を深める。   【ノア編】  イザベルのお供で公爵家のお茶会に出掛けた子爵令嬢のノアは、そこでクラウス王子と会う。彼は幼い日に出会った何処の誰かも分からない初恋相手を未だに想っている夢見る王子だった。  彼女が「それは思い出にして次へ行け!」と叱咤したところ、後日家に王子が婚約の申し込みにやってきた。断るべく城へ乗り込んだノアだったが、あっさり説得されて婚約を続けることになってしまう。  王子はそれでも迷う彼女に卒業までと時を区切り、好きになってもらうために努力することを宣言した。 ※男装令嬢は性別を偽っておらず、ただ男物の服を着ているだけの令嬢です。 ※ざまぁはお子様カレーくらいの甘口です。きついざまぁは読むのは好きですが書くのは難しいです・・・。    こちらの話は「色褪せ令嬢」シリーズのスピンオフですが、読んでなくても全く問題ない内容になっております。    まだ完結しておりませんが、きりのいいところ(約40話)まで書けたので投稿を始めます。よろしければ覗いてやってください。 第16回恋愛小説大賞にエントリーしております。読んで頂き、投票していただけたら大変嬉しいです。

処理中です...