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5章 表舞台へ、静かに階段を上る

75話 後顧の憂いなくと男は笑みを浮かべる

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「お、俺は負けないっ!」

 俺には背負うモノ、その背の背後にも守らなければならないモノが多数ある。そう、それは人として尊厳というより1人の男としてのである。

 これでも巷で『名もなき英雄』と呼ばれてる俺は負けは認められない。

 どんな苦難であろうとも挫ける事は許されない。

 陽が落ちて気温が下がり始めた外気が部屋のどこからか漏れシャツを剥ぎ取られて露出した上半身に触れる。

 思わず俺は身を震わせる。

 け、決して怖気づいてる訳じゃないからねっ!?

 シャツどころかズボンまで剥ぎ取られている俺は必死に死守する俺。

 その守るモノは『パンツ』である。

 俺の眼前には両手をワキワキさせる女と腕組みをしている女、2人がいる。

 両手をワキワキさせる女が

「ふっふふ、無駄な抵抗は止めてソレをウチに渡すといいよ?」

 サイドテールを揺らす短パンから健康的な足を見せる女が悪戯っ子のような笑みを浮かべて俺ににじり寄る。

 俺は思わず1歩後ずさる。

「刑は確定したんだ。おとなしく罪を償えシーナ」
「くっ!」

 褐色の肌に見事にビキニアーマーを着込む超安産型の魅力的なお尻の持ち主である女がウンウンと頷きながら言ってくる。

 俺を追い詰めているのはターニャとパメラである。

 愛しい嫁であるはずである2人が今は俺にとって魔王のようだ。

 ど、どうしてこうなったんだっ!

 農場に帰ってきた俺はティテールの件で嫁裁判が開かれた。

 事情説明をさせられ、5分でギルティ判決を受けた俺。

 確かにティテールの初めてを奪ったのは俺にも責任はあるから本人が嫁ぎたいというなら受け入れる。

 だから無罪は無理でも減刑を求めたが却下されたのである。

「さあ、刑に服しよ? 今夜ウチ達の『おもちゃ』になるシーナ」
「ティテール、シーナが逃げないように扉を任せた」
「ハッ!」

 パメラに言われて扉の前で敬礼するティテール。

 どうやら嫁裁判での出来事でティテールの中で格付けがなされたようだ。


 ターニャ、パメラ>他の女の子>>>>>>>>>>>>>>俺


 という悲しい図式を……

 おかしくない? おかしいよな?

 人に上下付けるのって間違ってると思うんだ! 特に家庭内でそれは不味いと思うんだよ!

 そんな事を考えていると聞き覚えがある声が俺の耳に響く。

 空耳だ。

「家庭内は主導権争い」

 従姉の言葉。あの酔った時に自慢げに語っていた時に言われた一言。

 家庭は平等というのは空想でどちらかが主導を取っている方が上手くいくと語っていた。

 主導権を勝ち取っているとない胸を張る従姉がだから家は上手く回っていると豪語していた。

 勿論、常識、善意、愛という要素が前提と告げていたのを思い出した俺は

 愛 ○

 善意 △

 常識 △

 俺の言い分を聞かずにギルティ判決し、このにじり寄るこの2人の嫁+αに常識と善意に疑問有りと奮い立つ。

 俺がそれを正して見せる!

 意を決した俺は男らしくパンツを脱ぎ棄てる。

「俺が持てる力全てを持って迎え撃つ!」
「きゃあぁ~シーナ素敵」
「うむ、漸く観念したか」

 ターニャはわざとらしく黄色い声を上げ、パメラは鷹揚に頷く。それを背後で見ていたティテールは俺のマイサンを凝視してゴクリと唾を飲み込む。

 持てる力、スキルを屈指して負けられない戦いに身を投じる俺は一歩前を踏み出す。

 頭の片隅の冷静な俺が呟く「これって善意と常識ってあるん?」という言葉を聞き流すのであった。



 よろよろとして足下が覚束ない俺はパンツ一丁で家を出る。

 風呂に向かう為である。

 全身にキスマークを付けられている俺は震える右手を天に突き上げる。

「完勝だ……」
『良くて辛勝だったのでは?』

 俺の呟きに速攻で突っ込みを入れるスキル製造機。

 その言葉に俺は思わずクッと唸る。

 スキルを屈指した俺は歯止めの効かなくなった3人に蹂躙された。

 途中でスキルは使わない方が良かったのでは? と思ったが後の祭りである。

『貴方は墓穴を掘っていくスタイルですね。前から気付いてましたが』

 俺もちょっと感じてた事だからショックを受ける。

 現に俺はフラフラなのにターニャ達はお肌艶々に気持ち良さそうに寝息を立てて今は夢の世界の住人だ。

 俺だけ衰弱しているのが納得出来なかったのでスキル製造機に頼む。

「精力増大だけじゃ足らん気がするんよ。無限大とかないん?」
『似たようなスキルはなくはないですが実質人間辞めますよ?』
「俺は人間辞めるぞぉぉ! JOJ○~~~~」

 俺はどこからか取り出した『名もなき英雄』の時に使う仮面を取り出して半身立ちしつつ仮面で口許を隠す。

『……』
「……」

 シーンという静けさ、夜風が半裸の俺の身を吹き抜けていく。

 何も言えずそのままの姿勢で固まる俺。

『満足しましたか?』
「……お願い、スル―だけは止めて」

 俺は静かに涙を流し仮面を片付ける。

 とぼとぼと風呂へと歩き出す俺は

「やっぱりハーレムって大変だよな~」

 勿論、ターニャ達は大好きだし、エッチは大好きだが色々と思う所は有る訳だよ、諸君!

 何を贅沢を! と言う気持ちは良く分かる。

 だが聞いて欲しい。

 翻弄する側という憧れがあるんだ!

「だ、駄目なのに腰が動いちゃうぅ~~!」

 とか言わせたいんよ! でも実情は俺が翻弄を超えて蹂躙と言える状況なんよ!

 全面的に頷けないかもしれないがちょっと分かってくれるだろ?

 ターニャとパメラも最初の頃はそういう節あったのにと思って遠い目をしている俺にスキル製造機が話しかけてくる。

『ちょっと思ったのですが貴方のはハーレムじゃない気がするのですが』
「えっ? どういう事よ」

 これがハーレムじゃなければ何なんだ?

 そう首を捻っている俺にスキル製造機が続ける。

『これって貴方を女達がシェアしてるだけでは?』
「……」

 思わずスキル製造機の言葉に絶句する俺。

 えっ、待って、違うよね、違うって言って!

 思考の海で答えが見つからないまま歩き続けた俺は風呂の入口で立つ3人の少女の姿を捉える。

 ラフィとセアンとミサの3人である。

 笑顔で手を振るラフィとセアン、そして両手を握りフンスとするミサ。

 ミサの口がパクパクと動いているが遠く離れていて声は届かないがどうやら同じ言葉を言っているようだと気付いた俺はその言葉を拾おうと読唇術を試みる。

 えっと、『ご』かな? 次は『ば』ぽいな……最後は『い』……

 その答えに辿りついた俺は血の気が引いて思わず足を止める。

 ふ、増えとるぅぅ。

 あれ? 俺、巫女と対決する前に死ぬんじゃねぇ?

 足を止めてこちらに来ない俺に痺れを切らした3人が駆け寄ってくる。

 それを現実と受け止められない俺は「夢、夢だよな、あのまま俺はきっと寝たんだ」と呟くが自分の声はちゃんと耳に届いていた。

 3人に捕まった俺は両手を引っ張られて風呂場へと連行される。

 まだ現実じゃないと現実逃避する俺に溜息混じりのスキル製造機が思考の海で見つけられなかった答えを残酷に告げる。

『やっぱりシェアが適当のようですね』

 俺はスキル製造機の言葉にイヤイヤするように頭を被り振りながら生死を分ける戦いに身を投じるのであった。



 なんとか朝を迎える事が出来た俺は疲労を抱えつつも冒険者ギルドへと向かっている。

 一時はミイラにされるかという3人、特にミサの猛攻を受けたが生き残った。

 5倍というのは比喩表現ではなく確実に俺は狩られたと思う。

 褒めて、良く生き残った俺って!

 まあ、それはともかく俺は今、王都に向かうのにあたって農場に残して行く人、子供達の護衛をお願いする為に冒険者ギルドに向かっている訳である。

 一応、結界もあるし王国側も俺が王都に乗り込んでくるのにそんな余剰戦力を捻出するのは無理だろうとはゾロに言われている事もあり問題はないだろうとは思っているが万が一の備えはしておきたい。

 正直、今回の件で動ける冒険者の数は期待は出来ないだろうが農場に住む者達の安心と万が一の場合にちょっかいかける相手への牽制の為に備えておいて間違いない。

 警備隊の方はパメラが行ってお願いして貰える予定である。

 そんな訳で冒険者ギルドにやってきた俺は扉を抜けると剣呑な空気で出迎えられ思わず足を止める。

 何事?

 そう思う俺は近くにいた熊族のベアに気付いて近寄ると不機嫌なのを隠さない様子でこちらに顔を向けてくる。

 今回の事で俺が迷惑をかけてみんなが怒っているのかと思って頭を下げる。

「本当にご迷惑おかけしました」

 お怒りですか? と下手に出る俺に手を振るベアさん。

「え? ああ、それは俺達はまったくお前に思う所はないさ。むしろ力になれなくて申し訳ないぐらいだ。今、俺達が苛立ってるのは別件だ……ケッ!」

 舌打ちするベアさんが顎で受付がある方向に指す。

 それに釣られて視線を向ける先にはモヒンとスピアの姿があった。

「もうみんな酷いんだからっ、痛くないモヒンさん」
「これぐらいヨユーヨユー」

 モヒンの腕に抱き着きながら脱脂綿で鼻に出来てる擦り傷に消毒するスピアの姿があった。

 不機嫌そうに鼻を鳴らすベアに視線を向けるが何も言ってくれなくて困っていると別の冒険者が俺に告げる。

「目を覚ましたモヒンに我等のアイドルのスピアさんが愛の告白をしたんだ……チクショウ!」

 悔しそうに涙を流す冒険者。

 どうやらルイーダに振られて毎日のように仕事後に飲んだくれて潰れているモヒンの面倒を見てる辺りから気になっていたらしい。

 仕事をしている最中はルイーダの事を考えずにいれるがその後はどうしても考えてしまうモヒンが酒に逃げてはいたがその一途さにキュンとしていたと告げられたの聞いた冒険者達は拳を握ったらしい。

 今回の事で男を魅せたモヒンの姿がトドメになって遂に告白に至ったようだ。

 頬を赤く染めたスピアが嬉しそうにする姿とデレデレのモヒンを微笑ましげに見つめる俺は扉の前へと戻る。

 そしてクラウチングスタートをする俺はモヒンさんに飛びかかる。

「羨ましいぞ、コンチキショウ! おめでドロップキック!!」

 俺は膝を使ってモヒンさんの胸を押すようにして吹き飛ばす。

 勿論、ダメージを与えるつもりでやった訳ではないのでスピアの抱擁を剥ぎ取って背後に転がるモヒンはデレデレ顔したままである。

 転がったモヒンが受付に頭がぶつかって止まるが蹴られたのに嬉しげだ。

「おいおい、ヤメろよ、コーハイ」

 幸せ一杯と鼻の下を伸ばすモヒンであるがスピアがお怒りのようで腰に両手を添えて俺に詰め寄る。

「シーナ君、モヒンさんに何するのよ!」
「あっ、すんません。羨ましかったんで」

 プンプンと怒るスピアにペコペコを頭を下げる俺がモヒンに回復魔法を行使する。

 俺が与えたダメージも元からあった擦り傷も綺麗に治る。

 それを見ていた冒険者達が暗い声を上げる。

「おっ、そうか、シーナがいればまだやれるな」

 そう言うとモヒンはベアを筆頭に冒険者達に囲まれる。

「羨ましいぞ、こら」
「おめでとう、ボケ」
「幸せだろ? 殺す」

 揉みくちゃにされるモヒンはバシバシと叩かれるがデレデレ顔は継続中で痛みを感じているかもあやしい。

 若干1名危ない発言をしているのはいるが叩く冒険者達の口許は好意的な笑みを浮かべている。

 叩く冒険者達に両手を突き上げるスピアが「止めなさい」と怒っているのを眺める俺は歯を大きく見せる笑みを浮かべる。

 おめでとうございます、パイセン!

 それからもおめでとうという洗礼を受け続けたモヒンに何度目かの回復魔法を行使した俺は他の冒険者たちと共にマジギレしたスピアに正座させられる。

「悪乗りし過ぎですっ!!」
「「「「「すんませんした!!!」」」」」

 土下座をさせられた俺達。

 俺が農場の件を依頼出来たのはそれから説教タイムに突入して1時間後の事であった。
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