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4章 求められる英雄、欲しない英雄
41話 初めてのお仕事斡旋に男は内心、緊張っ!
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俺はマロン達に案内されてスラムにある広場に連れてこられた。
そこは当初は噴水もあって広い場所だったという面影を残して、粗大ごみが散乱していた。
糞尿のすえた匂いに一瞬、眉を潜ませるとエルがペコペコと頭を下げてくる。
「この辺りで人が集まれるような場所はここしかありません。我慢してあげてください」
「いや、勝手に乗り込んできたのに大丈夫だよ」
いかんな、説明会の最中に顔に出てたら不味かった……気をつけねば。
エルに直接関係ないのに、えらく低姿勢だな、と思っていたら「仲間達にお仕事を有難うございます」と言ってくるのを聞いて、なるほど、と思うと同時に俺の行動は間違ってないと感じる。
頼もうとしてる事柄は、信用を重要視したい。その追い風になる言動だったからだ。
良く見るとマロンとレティアから向けられる視線にも尊敬の念を感じる。
そんな3人の頭にポンと手を置いて行き、苦笑いをして話しかける。
「なぁ~に、俺も打算ありの話なだけだ」
すると、余計に嬉しそうにする3人に驚かせられる。
今の言葉に喜ぶポイントがどこにあったの!?
なんで? と後ろにいるターニャ達に顔を向けるとニコニコと笑みを浮かべていた。
パメラが爆笑したいのを我慢するように言ってくる。
「もう騙されるようなモノはこの場にいないと気付かないものなのかな?」
「はい?」
どういう事だ? と首を傾げる俺が見つめる先にいたターニャの服の裾を掴んで引っ張るキャウが、いい? と言ってるような仕草を見せるとターニャが頷く。
いつも幼い笑みをするキャウであるが、いつも以上にリラックスした様子でクスクスと笑いながら、肩まである黒髪と神官服を迫り上げる胸の前で祈るようにして揺れるのを押さえながら俺の下に来る。
そして、俺の腕を引っ張って屈むように指示して、渋々、屈むとキャウが俺の耳元に口を寄せる。
「先輩、先輩ぃ~、今回の裏の意味はなんですかぁ~」
キャウに言われた瞬間、噴き出しそうになって、ちょっと鼻が出る。
固まって動けない俺に近づいてきたスイがスカートのポケットからハンカチを取り出すと俺の鼻から出てしまった物を拭って仕舞う。
そして、腰のところで両手を組んで、首を傾げると綺麗な白髪が流れるように動かして俺を見上げてくる。
「裏の意味って何ですか、先輩?」
目の奥が熱くなり、鼻がツーンとしてくる。
泣きたい。
ちょっと意地悪な顔をしたターニャが俺の肩に手をおいて話しかける。
「恥ずかしいなら、お姉さんが代弁してあげようか?」
覗き込もうとするターニャから勢いよく背を向けて、空を見つめる。
「今日は暑いな……」
カッカと顔から発せられる熱を覚まそうと手団扇をしていると後ろから、笑い声がする気がする。
勿論、振り返って確認しようなんて思わない。
早く、1時間経たないかな~
この居た堪れない空間から逃れられるお仕事説明会をする事を、俺は切に願った。
そして、待望の1時間が経った。
広場には20人もいない人数が集まるのを見て、俺は思ったより少ないな、と思い目の前にやってきたラフィに話しかける。
「思ったより少ないんだが、やっぱり信用されなかったか?」
「まあね、特にアタイ等ぐらいの年の娼婦は胡散臭いし、ちゃんと娼婦で稼げてるから興味ないって言って来てないのも多い。後は病気で動けないのと5歳以下のガキ共が10人ぐらいかな」
そう言った後「娼婦でいつまで今の稼ぎが出来ると思ってるだろうね、まったく馬鹿だよ」と聞くだけでもこなかった仲間に悪態を吐く。
その様子ではラフィも半信半疑のようだ。
それで充分だ。
来た面子を見ると俺達と同じぐらいの年齢の子はラフィを入れて3人だ。後は、30代以上のやつれた女が6人おり、おそらく元娼婦だろう。残りは、5~8歳ぐらいの子供達でこの中には見た感じ3,4人、男の子が混じっているようだ。
集まったメンバーを見ていた俺に「説明はまだ?」と腰に両手を当てて睨んでくるラフィ。
「ああ、悪い。今日、集まって貰ったのは仕事の斡旋に寄らせて貰った。説明をする前に西の城門外で農場をやり始めたという話を知らない者はいるかな?」
いたら、手をあげてくれ、と告げるが誰も上げないので続ける。
「そこで作物を育ているのを知っているという前提で進めるな?」
「畑を耕せって仕事かい?」
「その選択肢もある。メインはそれじゃない。君達にはこの国にない調味料、もしくは酒を作って貰いたい」
俺の言葉に驚いた顔をスラムのみんながするがすぐに諦めたような顔をして、ラフィが代表で答える。
「アタイ達にそんな知恵なんてないよ。無茶を言うな!」
「大丈夫だ、作り方は異国の女性が知っている。酒に関しては作った事がないから不安があるとは言ってたが調味料は大丈夫と言ってたから心配いらない」
俺の言葉を受けて、スラムのみんなが隣と話し出して、ざわざわとし出す。
それを黙って見守ってた俺に、ラフィが食いついてくる。
「安心出来るかどうかはいいよ。アタイ達が一番欲してるのは金さ。明日を生きる為に必要のね」
「当然だよね、報酬は日当、銅貨5枚で食事付きだ……」
「安い! いや、確かに1人個人と考えれば破格だし、ガキ共達には有難い話だけど、こっちには働きたくても働けないチビや、病気の仲間もいるんだ。そいつ等を養うのに足りない!」
激昂して手を振るラフィが俺を睨みつけてきて、ラフィと同じ娼婦と思われる女の子2人も頷く。
思わず、言い過ぎたと思ったラフィと、その後の反応を恐れたスラムのみんなが俺の顔色を伺うと驚いた顔をする。
何故なら、俺だけでなく、俺の脇を固めるターニャもパメラも笑っていた為だ。
その言葉を待っていた、それが言える君達なら信用出来る。
「君の熱い思いは分かった。出来れば最後まで話をさせて欲しかったな」
「……ごめん」
「いいよ、怒ってる訳じゃないし、さっきの続きになるんだけど、病気の子の面倒、そして5歳以下の子達の食事も提供しよう」
これを聞いたラフィ、スラムのみんなが声を上げて驚く。
今まで以上に興味を持った様子のみんなが詰め寄って来て「妹もいいんですか?」「お母さんもいいの!?」などと引っ切り無しに言ってくる。
思った以上の反響に静かにさせる術が見つからない俺が困っているとラフィが声を張る。
「黙りなっ!!」
ラフィの一喝でみんなは口を噤む。どうやら、ラフィはみんなを世話をしている筆頭なのかもしれない。
最初に会えたのがラフィであった事は幸運だったようだ。
「その話、本当? アンタにどんな得があるっていうの」
「勿論、本当だ。得というか、それをするのは病気になった子が治った後、5歳以下の子が5歳以上になった時に勧誘したら、仕事をしようと思う子が多いという打算だから。それに俺達から提供出来るのはそれだけじゃない」
そう言う俺が目の前に詰め寄って来ていた元娼婦の腕を三角巾で吊っている女性に近づいて、腕を触って状態を確認すると骨折のようだと分かるとヒールをかける。
ヒールをかけられた女性が痛みが消えて、腕が動くのを確認して泣き始める。
「このように働いてくれてる人の回復魔法で治療もするよ。それに俺は薬学の心得もある。今の骨折も折れてすぐだったら、冒険者見習いだけど、この子でも治療可能だ」
そう言ってキャウを前に押し出すとびっくりされる。
何も言ってないからビックリするのは当然だよな。
しかし、俺の意図、回復魔法の実地訓練も兼ねている事を察してくれたようで気持ち良い笑顔で頷いてくれる。
俺の目の前には信じられないと目を大きく見開くラフィが「有り得ない」と呟き、俺が提案してくるものを否定する内容を必死に考えるようにして唇を震わせて言ってくる。
「す、凄い雇用条件だけど、どうしてスラムのアタイ達なの? それにその仕事がどこまで続けられる保証があるのさ!」
「そうだよな、調味料、醤油と味噌というんだが、それがまったく利益を生まなければ……心配だよな」
そう言うと手近にあった石で土台の足を作って、ポシェットから大きな平たい石を載せる。
同じように簡易竈のような物を作ると後ろにいる冒険者見習いの5人のマロン達に薪になるものを集めて貰う。
俺がいきなり何をしだしたんだろうと注目するなか、集められた薪をそれぞれの場所に置いて火を点ける。
載せられた石に触れて、事前に覚えておいた火魔法で軽く熱する。
「ターニャ、パメラ頼むな?」
「わかった」
「任された」
快諾を受けた俺はターニャには醤油が入った入れ物とハケを渡し、パメラには大皿に沢山のった真っ白なおにぎりを手渡す。
ターニャはパメラが持っている皿からおにぎりを受け取って醤油を塗って石の上に置くと良い音と良い香りが辺りに広がる。
生唾を飲み込むスラムのみんなに告げる。
「この白い三角のがおにぎりと言って、農場で作ろうとしてるコメだ。そのおにぎりに黒い液体を塗ってるのが君達に作って欲しいと言っている醤油。そして……」
火の付けられた竈の上にポシェットから取り出した大鍋を置く。大鍋の中は茶色い液体で満たされており、俺はお玉でかき混ぜていると辺りから再び、生唾を飲み込む音が聞こえてくる。
「こっちが味噌をお湯で溶かした、お味噌汁というものだ」
それを淵のある皿に掬ってやり、焼き上がった焼きおにぎりと一緒にラフィの前に差し出す。
「ラフィ、この醤油と味噌に未来があるかどうかは俺の言葉ではなく、君の舌で確かめてみろ」
渡す時に「熱いから気を付けるように」と告げて渡すと熱そうにしながらも手にする。
そして、俺とおにぎりと味噌汁を順々に見て、おそるおそる、おにぎりに齧りつく。
口に入れた瞬間、目を大きく見開く。
「表面の焦げたみたいなところがパリッとして、この香ばしいのは醤油? 黒い硬い者の下にある白いところは、ほんのりと甘い、こんな味、食べた事ない……」
瞳に涙を浮かべたラフィがもう一つの手にある味噌汁に口を付ける。
「ああっ……体に沁み渡る。飲んだ事がないのにとても優しくて、どこか懐かしい味……どっちも美味しい」
泣きながら食べるラフィに驚いた様子のスラムのみんなも焼きおにぎりと味噌汁に注目する。
俺は両手を大きく広げて笑みを浮かべて、スラムのみんなに言う。
「さあ、みんなも確認してみてくれ!」
殺到してくるスラムのみんなに俺達は頑張って給仕をする。
その給仕を女の子達に任せて、その場から少し離れると終始無言だった空気と化してたトリルヴィが俺にボソッと話しかけてくる。
「どうして、貴方はこうしよう……いえ、こんな事が出来るのですか?」
「こんな事って?」
「スラム化している場所など街ごとにあります。その対策を国はまったく動きません。しかし、個人で出来る事などたかが知れてます。なんとかするなら国の中枢で力を……偉くなるしかないはずなんです」
俺を見上げてくるトリルヴィの瞳は反射の加減で眼鏡によって分からない。
何を言いたいんだ?
「トリルヴィさん、本当にどうしたんだ?」
「変な事を口にしました。申し訳ありません、忘れて下さい」
そう言うとこの場から離れていくトリルヴィの背中は一段と小さく頼りなく見えた。
追いかけた方がいいか?
何故か、そう思った俺だが、近づいてくるラフィに気付き、トリルヴィを追うのは断念する事にした。
俺の傍に来たラフィが俺を見上げてくる。
「1つ……質問に答えて貰ってない。どうして、アタイ達、スラムの人間に頼んだの? アタイ達にこの作り方を覚えさせたら、誰かに知識を売るとか思わなかった?」
「そうだな、話を始める前は半々だと思ってたけど、説明してる最中に俺はその心配は杞憂になると思ったよ」
「どうして?」
先程まで気を張っていたせいか、少し大人びてたように見えたラフィが俺と同じ年頃の少女に戻ったように首を傾げる。
そのラフィの頬に手を添えると赤面するラフィを見て微笑む。
「だって、ラフィが言ったじゃないか。病気の友達、子供達の為に受けられないって。自分だけを考えれば安全な生活が出来るのにね? どれだけの金額を相手が積んでくるか知らないけど、この仕事で生計を立て始めた仲間を売るようなヤツはいないんじゃないか? とラフィを見て俺は思ったよ」
更に顔を真っ赤にさせたと思ったら、俯いてしまったので苦笑いしながら頬から手を離そうとするとガッシリとラフィは掴んで止める。
少し、モジモジして口をモゴモゴさせたラフィがこちらに顔を向けてくる。
「アンタ、良い男だな!」
「ありがと」
ラフィに笑みを浮かべると柔らかい笑みを浮かべてラフィも笑った。
次の日の早朝、農場の入口に20人弱のスラムのみんなの姿があった。
「今日からよろしくお願いします!」
出会った時より、明るい声で嬉しそうにする少女の声が響き渡った。
そこは当初は噴水もあって広い場所だったという面影を残して、粗大ごみが散乱していた。
糞尿のすえた匂いに一瞬、眉を潜ませるとエルがペコペコと頭を下げてくる。
「この辺りで人が集まれるような場所はここしかありません。我慢してあげてください」
「いや、勝手に乗り込んできたのに大丈夫だよ」
いかんな、説明会の最中に顔に出てたら不味かった……気をつけねば。
エルに直接関係ないのに、えらく低姿勢だな、と思っていたら「仲間達にお仕事を有難うございます」と言ってくるのを聞いて、なるほど、と思うと同時に俺の行動は間違ってないと感じる。
頼もうとしてる事柄は、信用を重要視したい。その追い風になる言動だったからだ。
良く見るとマロンとレティアから向けられる視線にも尊敬の念を感じる。
そんな3人の頭にポンと手を置いて行き、苦笑いをして話しかける。
「なぁ~に、俺も打算ありの話なだけだ」
すると、余計に嬉しそうにする3人に驚かせられる。
今の言葉に喜ぶポイントがどこにあったの!?
なんで? と後ろにいるターニャ達に顔を向けるとニコニコと笑みを浮かべていた。
パメラが爆笑したいのを我慢するように言ってくる。
「もう騙されるようなモノはこの場にいないと気付かないものなのかな?」
「はい?」
どういう事だ? と首を傾げる俺が見つめる先にいたターニャの服の裾を掴んで引っ張るキャウが、いい? と言ってるような仕草を見せるとターニャが頷く。
いつも幼い笑みをするキャウであるが、いつも以上にリラックスした様子でクスクスと笑いながら、肩まである黒髪と神官服を迫り上げる胸の前で祈るようにして揺れるのを押さえながら俺の下に来る。
そして、俺の腕を引っ張って屈むように指示して、渋々、屈むとキャウが俺の耳元に口を寄せる。
「先輩、先輩ぃ~、今回の裏の意味はなんですかぁ~」
キャウに言われた瞬間、噴き出しそうになって、ちょっと鼻が出る。
固まって動けない俺に近づいてきたスイがスカートのポケットからハンカチを取り出すと俺の鼻から出てしまった物を拭って仕舞う。
そして、腰のところで両手を組んで、首を傾げると綺麗な白髪が流れるように動かして俺を見上げてくる。
「裏の意味って何ですか、先輩?」
目の奥が熱くなり、鼻がツーンとしてくる。
泣きたい。
ちょっと意地悪な顔をしたターニャが俺の肩に手をおいて話しかける。
「恥ずかしいなら、お姉さんが代弁してあげようか?」
覗き込もうとするターニャから勢いよく背を向けて、空を見つめる。
「今日は暑いな……」
カッカと顔から発せられる熱を覚まそうと手団扇をしていると後ろから、笑い声がする気がする。
勿論、振り返って確認しようなんて思わない。
早く、1時間経たないかな~
この居た堪れない空間から逃れられるお仕事説明会をする事を、俺は切に願った。
そして、待望の1時間が経った。
広場には20人もいない人数が集まるのを見て、俺は思ったより少ないな、と思い目の前にやってきたラフィに話しかける。
「思ったより少ないんだが、やっぱり信用されなかったか?」
「まあね、特にアタイ等ぐらいの年の娼婦は胡散臭いし、ちゃんと娼婦で稼げてるから興味ないって言って来てないのも多い。後は病気で動けないのと5歳以下のガキ共が10人ぐらいかな」
そう言った後「娼婦でいつまで今の稼ぎが出来ると思ってるだろうね、まったく馬鹿だよ」と聞くだけでもこなかった仲間に悪態を吐く。
その様子ではラフィも半信半疑のようだ。
それで充分だ。
来た面子を見ると俺達と同じぐらいの年齢の子はラフィを入れて3人だ。後は、30代以上のやつれた女が6人おり、おそらく元娼婦だろう。残りは、5~8歳ぐらいの子供達でこの中には見た感じ3,4人、男の子が混じっているようだ。
集まったメンバーを見ていた俺に「説明はまだ?」と腰に両手を当てて睨んでくるラフィ。
「ああ、悪い。今日、集まって貰ったのは仕事の斡旋に寄らせて貰った。説明をする前に西の城門外で農場をやり始めたという話を知らない者はいるかな?」
いたら、手をあげてくれ、と告げるが誰も上げないので続ける。
「そこで作物を育ているのを知っているという前提で進めるな?」
「畑を耕せって仕事かい?」
「その選択肢もある。メインはそれじゃない。君達にはこの国にない調味料、もしくは酒を作って貰いたい」
俺の言葉に驚いた顔をスラムのみんながするがすぐに諦めたような顔をして、ラフィが代表で答える。
「アタイ達にそんな知恵なんてないよ。無茶を言うな!」
「大丈夫だ、作り方は異国の女性が知っている。酒に関しては作った事がないから不安があるとは言ってたが調味料は大丈夫と言ってたから心配いらない」
俺の言葉を受けて、スラムのみんなが隣と話し出して、ざわざわとし出す。
それを黙って見守ってた俺に、ラフィが食いついてくる。
「安心出来るかどうかはいいよ。アタイ達が一番欲してるのは金さ。明日を生きる為に必要のね」
「当然だよね、報酬は日当、銅貨5枚で食事付きだ……」
「安い! いや、確かに1人個人と考えれば破格だし、ガキ共達には有難い話だけど、こっちには働きたくても働けないチビや、病気の仲間もいるんだ。そいつ等を養うのに足りない!」
激昂して手を振るラフィが俺を睨みつけてきて、ラフィと同じ娼婦と思われる女の子2人も頷く。
思わず、言い過ぎたと思ったラフィと、その後の反応を恐れたスラムのみんなが俺の顔色を伺うと驚いた顔をする。
何故なら、俺だけでなく、俺の脇を固めるターニャもパメラも笑っていた為だ。
その言葉を待っていた、それが言える君達なら信用出来る。
「君の熱い思いは分かった。出来れば最後まで話をさせて欲しかったな」
「……ごめん」
「いいよ、怒ってる訳じゃないし、さっきの続きになるんだけど、病気の子の面倒、そして5歳以下の子達の食事も提供しよう」
これを聞いたラフィ、スラムのみんなが声を上げて驚く。
今まで以上に興味を持った様子のみんなが詰め寄って来て「妹もいいんですか?」「お母さんもいいの!?」などと引っ切り無しに言ってくる。
思った以上の反響に静かにさせる術が見つからない俺が困っているとラフィが声を張る。
「黙りなっ!!」
ラフィの一喝でみんなは口を噤む。どうやら、ラフィはみんなを世話をしている筆頭なのかもしれない。
最初に会えたのがラフィであった事は幸運だったようだ。
「その話、本当? アンタにどんな得があるっていうの」
「勿論、本当だ。得というか、それをするのは病気になった子が治った後、5歳以下の子が5歳以上になった時に勧誘したら、仕事をしようと思う子が多いという打算だから。それに俺達から提供出来るのはそれだけじゃない」
そう言う俺が目の前に詰め寄って来ていた元娼婦の腕を三角巾で吊っている女性に近づいて、腕を触って状態を確認すると骨折のようだと分かるとヒールをかける。
ヒールをかけられた女性が痛みが消えて、腕が動くのを確認して泣き始める。
「このように働いてくれてる人の回復魔法で治療もするよ。それに俺は薬学の心得もある。今の骨折も折れてすぐだったら、冒険者見習いだけど、この子でも治療可能だ」
そう言ってキャウを前に押し出すとびっくりされる。
何も言ってないからビックリするのは当然だよな。
しかし、俺の意図、回復魔法の実地訓練も兼ねている事を察してくれたようで気持ち良い笑顔で頷いてくれる。
俺の目の前には信じられないと目を大きく見開くラフィが「有り得ない」と呟き、俺が提案してくるものを否定する内容を必死に考えるようにして唇を震わせて言ってくる。
「す、凄い雇用条件だけど、どうしてスラムのアタイ達なの? それにその仕事がどこまで続けられる保証があるのさ!」
「そうだよな、調味料、醤油と味噌というんだが、それがまったく利益を生まなければ……心配だよな」
そう言うと手近にあった石で土台の足を作って、ポシェットから大きな平たい石を載せる。
同じように簡易竈のような物を作ると後ろにいる冒険者見習いの5人のマロン達に薪になるものを集めて貰う。
俺がいきなり何をしだしたんだろうと注目するなか、集められた薪をそれぞれの場所に置いて火を点ける。
載せられた石に触れて、事前に覚えておいた火魔法で軽く熱する。
「ターニャ、パメラ頼むな?」
「わかった」
「任された」
快諾を受けた俺はターニャには醤油が入った入れ物とハケを渡し、パメラには大皿に沢山のった真っ白なおにぎりを手渡す。
ターニャはパメラが持っている皿からおにぎりを受け取って醤油を塗って石の上に置くと良い音と良い香りが辺りに広がる。
生唾を飲み込むスラムのみんなに告げる。
「この白い三角のがおにぎりと言って、農場で作ろうとしてるコメだ。そのおにぎりに黒い液体を塗ってるのが君達に作って欲しいと言っている醤油。そして……」
火の付けられた竈の上にポシェットから取り出した大鍋を置く。大鍋の中は茶色い液体で満たされており、俺はお玉でかき混ぜていると辺りから再び、生唾を飲み込む音が聞こえてくる。
「こっちが味噌をお湯で溶かした、お味噌汁というものだ」
それを淵のある皿に掬ってやり、焼き上がった焼きおにぎりと一緒にラフィの前に差し出す。
「ラフィ、この醤油と味噌に未来があるかどうかは俺の言葉ではなく、君の舌で確かめてみろ」
渡す時に「熱いから気を付けるように」と告げて渡すと熱そうにしながらも手にする。
そして、俺とおにぎりと味噌汁を順々に見て、おそるおそる、おにぎりに齧りつく。
口に入れた瞬間、目を大きく見開く。
「表面の焦げたみたいなところがパリッとして、この香ばしいのは醤油? 黒い硬い者の下にある白いところは、ほんのりと甘い、こんな味、食べた事ない……」
瞳に涙を浮かべたラフィがもう一つの手にある味噌汁に口を付ける。
「ああっ……体に沁み渡る。飲んだ事がないのにとても優しくて、どこか懐かしい味……どっちも美味しい」
泣きながら食べるラフィに驚いた様子のスラムのみんなも焼きおにぎりと味噌汁に注目する。
俺は両手を大きく広げて笑みを浮かべて、スラムのみんなに言う。
「さあ、みんなも確認してみてくれ!」
殺到してくるスラムのみんなに俺達は頑張って給仕をする。
その給仕を女の子達に任せて、その場から少し離れると終始無言だった空気と化してたトリルヴィが俺にボソッと話しかけてくる。
「どうして、貴方はこうしよう……いえ、こんな事が出来るのですか?」
「こんな事って?」
「スラム化している場所など街ごとにあります。その対策を国はまったく動きません。しかし、個人で出来る事などたかが知れてます。なんとかするなら国の中枢で力を……偉くなるしかないはずなんです」
俺を見上げてくるトリルヴィの瞳は反射の加減で眼鏡によって分からない。
何を言いたいんだ?
「トリルヴィさん、本当にどうしたんだ?」
「変な事を口にしました。申し訳ありません、忘れて下さい」
そう言うとこの場から離れていくトリルヴィの背中は一段と小さく頼りなく見えた。
追いかけた方がいいか?
何故か、そう思った俺だが、近づいてくるラフィに気付き、トリルヴィを追うのは断念する事にした。
俺の傍に来たラフィが俺を見上げてくる。
「1つ……質問に答えて貰ってない。どうして、アタイ達、スラムの人間に頼んだの? アタイ達にこの作り方を覚えさせたら、誰かに知識を売るとか思わなかった?」
「そうだな、話を始める前は半々だと思ってたけど、説明してる最中に俺はその心配は杞憂になると思ったよ」
「どうして?」
先程まで気を張っていたせいか、少し大人びてたように見えたラフィが俺と同じ年頃の少女に戻ったように首を傾げる。
そのラフィの頬に手を添えると赤面するラフィを見て微笑む。
「だって、ラフィが言ったじゃないか。病気の友達、子供達の為に受けられないって。自分だけを考えれば安全な生活が出来るのにね? どれだけの金額を相手が積んでくるか知らないけど、この仕事で生計を立て始めた仲間を売るようなヤツはいないんじゃないか? とラフィを見て俺は思ったよ」
更に顔を真っ赤にさせたと思ったら、俯いてしまったので苦笑いしながら頬から手を離そうとするとガッシリとラフィは掴んで止める。
少し、モジモジして口をモゴモゴさせたラフィがこちらに顔を向けてくる。
「アンタ、良い男だな!」
「ありがと」
ラフィに笑みを浮かべると柔らかい笑みを浮かべてラフィも笑った。
次の日の早朝、農場の入口に20人弱のスラムのみんなの姿があった。
「今日からよろしくお願いします!」
出会った時より、明るい声で嬉しそうにする少女の声が響き渡った。
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「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。
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ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。
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