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2章 危険を冒す者である事を知る
17話 やっぱり男は格好付けたがる馬鹿だと思う
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準備を済ませた、済ませたといっても満足とは言い難い状態ではあったが集合場所の城門へと向かう。
金の都合というのもあるが、他の冒険者達も掻き集めるようにして買っていたので品薄になっていたせいである。
俺の所持金も遂に銀貨が消えた。シズクが持たせてくれたお金があっさり消えたのである。
必要経費だったのは間違いないが稼いでないのだからしょうがない。
薬草の依頼分は終わってるから落ち着けば……銅貨50枚か。足らなさ過ぎる。
そんな事を考えていると背中をパンと叩かれ、振り返った先にいたのは大槌を担いだモヒンであった。
「コーハイ、始まる前から項垂れてどうするってんだ? 気合いだ、気合い!」
「いや~、この緊急依頼を終えても俺にはその後に辛い戦いが待ってるな、と思いまして」
はぁ? と変顔して首を傾げられたので情けない事ではあったが先程まで考えていた事を素直に話す事にする。
先輩は見た目はアレだけど良い人だから馬鹿にしないし、良い知恵があれば教えてくれそうだしな。
モヒンはキョトンとしたと思ったら弾けるようにお腹を抱えて笑い出す。
あれれれ??
「おい、コーハイよ。てめぇ、余裕有りまくりだな? この緊急依頼でビビりまくってるヤツが結構いるのに後の心配かよ?」
「シーナ、大丈夫だから! ウチが面倒みてあげる!」
余裕なのかな? 挑む以上、生きて帰るつもりでやるし、そしたら後の事が気になるのは当然な気がする。
確かに色々と心配だが、ターニャ、俺にも矜持があるんだ……ヒモだけは勘弁してくれ。
ターニャの頭を抱いて、「気持ちだけは貰っておくから」と言うが「心配ないってウチはやりくり上手でへそくりもあるから」と言ってくる。
まったく俺の真意はターニャには伝わってないようだ。
笑い過ぎて引き攣り気味のモヒンがターニャに「いらん、いらん」と言う。
「心配ねぇってターニャちゃん、コーハイは無事、この依頼を乗り越えたら小金持ちになるからよぉ?」
「どういう事ですか?」
「今回の問題発覚のキッカケになったのとそれを信じたくない奴等を黙らせる証拠を残したという事で報奨金がギルドと警備隊から両方ともから出るらしい」
キッカケというのはティテールを助けた事と50匹以上のゴブリンを屠ったからだそうだ。
50か30ぐらいかと思ってた。
しかも、俺が倒したゴブリンの右耳を全部、冒険者ギルドに証拠として提出され、俺の依頼達成にもなっているらしい、無事帰ってきたらこれだけで銀貨2枚と銅貨50枚、首の皮が繋がったってヤツだ。
とりあえず、後にいきなり路頭に迷う未来は無くなりそうだ。
安堵している俺に何やら思い出したらしいモヒンが聞いてくる。
「そのゴブリンの死体の山が発見された場所、俺がコーハイに薬草集めとゴブリン狩りに勧めた場所からだいぶ離れていたが俺が教えた場所には行かなかったのか?」
「いえ、先輩に教わった場所でしてましたよ」
「それはおかしかねぇーか? どうやってティテールが襲われてるのが分かったってんだ?」
それに気付けた理由が初めての戦闘で情けない事になったからそれに悔やんだらスキルを手に入れましたとはさすがに言えず、たまたま、探査のスキルに引っ掛かって気になって見に行ったと告げる。
そう言うとモヒンは黙り込み、そうこうしてると集合場所に到着するとモヒンが見つめてくる。
「本当に探査が使えるんだな?」
「えっ、はい」
「ちょっと、ここで待ってろ」
そう言うとモヒンは冒険者が集まっている中でも目立つ大柄の獣人、ベアの下へと向かう。
モヒンがベアとその隣にいる若い警備兵と話ながらチラチラと俺を見てくる。
それを見てちょっと不安になったので隣にいるターニャに質問する。
「探査って持ってると不味い感じなのか?」
「ううん、そんな事ないよ。とても珍しいスキルだけど有能だし、今みたいな時は重宝されるんじゃないかな?」
良かった、珍しいぐらいで済んで、失われたスキルとかで騒がれたら今みたいに変な空気になってる状態でゴブリンは俺のせいみたいな、とんでも理論が生まれたらどうしようと一瞬、本当に一瞬だけ思っただけだかんな?
そんな馬鹿な事を考えているとモヒンがベアと若い警備兵を連れて帰ってくる。
「おい、モヒンに聞いたが探査を使えると聞いたがどうなんだ?」
「はい、使えますが……」
「じゃ、この辺りにゴブリンの集落があるのですがどうなってるか分かりますか?」
ベアの質問に答えると若い警備兵が地図を広げて森の奥を指を指す。
うーん、感覚的に届かないって思ってしまうな。多分、本当に届かないんだろう。
スキルレベルを1つ上げるか。
探査をLv3にしてみると感覚で届くと感じたので探査を発動させる。
すると、若い警備兵が言う辺りに凄い数の集団のモンスター、おそらくゴブリンの塊がある事が分かる。
その周辺に僅かに10人にも満たない数の人の反応を捉える。
これは不味い。
本人達は気付いているかどうかは分からないが包囲されてる。しかも、1人で単独で追われてる人物がいる事が分かる。
その人物に意識を向けると『人間 ♀』と表示され、背筋に冷たいものが走る。
待て、警備兵で女だと!
俺の脳裏に過った人物と決め付けるのは早いと思い、目の前の若い警備兵に答える。
「確認出来た。包囲されようとしている。確認したい事がある。残ってるメンバーで女は誰だ」
「むっ? 残ってる女性はパメラ副隊長のはずだ」
嫌な予感ほど当たるっていうがクソッタレ!
一旦、探査を切ろうとしたが大きな見落としに気付く。それはこちらに向かっている集団、200匹前後のゴブリンがこちらに向かっている事に。
くっ! これがスキルのレベルを上げても使いこなせてないヤツか……
「……後、プリットに向かってきているゴブリンの集団も捉えました。数は200匹……もう間もなく森から姿を現します」
「それは本当か!」
「はい、そして、その対応に追われたら現地にいる警備隊はおそらく……」
全滅すると俺は言葉に出来なかった。しなかったがこの場に居る者達は理解してしまっただろう。
かといって、迫りくるゴブリンを放置して助けに走って間に合うか? おそらく間に合わない。
それはモヒン達も辛そうな表情を浮かべる様子からも同じ結論に至っているようだ。
だが、単独で俺が行けばどうだろう?
間に合うかもしれない。しかし、それは下手をしたら、いや、まず間違いなくティテールという獣人の女の子を助けた時以上の無茶だ。
俺はその件でシズクを悲しませ、怒らせてしまっている。同じように悲しませ、泣かせた少女、隣にいる俯いてしまっているターニャが俺の服の袖をギュッと掴んでいる。
俺は舌の根が乾いてもないような状態で同じ愚を犯すのか。
やっぱり俺は馬鹿だな……
「ベアさん、先輩、聞いてください。俺だけで戦闘を避けながら行けば、間に合うかもしれません」
「お前一人、先行したところで何になる!」
「まあ、待て。お前達、警備隊が証拠として献上したゴブリンを単独で討伐したのが目の前のシーナだ。コイツなら本気でやるかもしれん」
俺の言葉に若い警備兵が激昂するが腕組みして考えるベアに諭される。
若い警備兵が「コイツが!?」と驚いているが正直相手にしてられない。
「コーハイ、俺も出来れば助けてやりてぇとは思う。だが、同時に俺はお前を単独で飛びこませるのはいい気はしねぇーよ。でもよ、吐いた唾は飲み込めねぇーよな、男だもんな」
俺の肩をポンポンと叩き、モヒンはベアを見つめる。
モヒンから俺に視線を向けるベアが見つめていると背後に固まってる冒険者達から悲鳴に似た報告が飛ぶ。
「ゴブリン多数! ベアさん! 指示を!!」
騒ぎ始める冒険者が呼ぶ声に反応を示さないベアが俺に簡潔に聞く。
「行くのか? 行かないのか? お前が決めろ」
「行きます!」
俺の返事を受けたベアが頷くとモヒンが肩に担いでた大槌を地面に叩きつける。
その音で浮足立ってた冒険者が我に換える。
「よし、コーハイ、俺が道を切り開いてやる。そこを突っ切れ……後の事はパイセンである俺達に任せやがれ」
「頼んだぞ」
「はいっ!」
くぅ、先輩、かっけええよ。男が言ってみたいセリフベスト5入り確定だろ?
モヒンがゴブリンの集団に突っ込む為に走り始め、ベアは冒険者達に「三人一組で戦え」と指示を飛ばす。
俺は終始、俺の腕の袖を掴んで離さないターニャの手を優しく包む。
「もう無茶しないでって言った……」
「ごめん……でもやっぱり見捨てられない。ザンのオッサンとパメラさんはこの街に来た時に初めて会った人だ。しかもオッサンには生活の糧に冒険者ギルドを紹介して貰って、そして先輩に会った。その先輩から『どら焼き亭』を紹介され、俺はターニャと会ったんだ」
ターニャは何も言わない。優しく指を一本一本外していく。最後の一本というところでターニャが涙で濡れた顔で見上げる。
「ウチはそんなシーナが馬鹿しないように止める為に冒険者に……」
「うん、ターニャの存在が俺にとって、とても大きく感じたよ。いなければベアさんに許可を取らずに突っ走ってた。必死に考えたよ、有難う」
最後の指を解くと俺はニッコリと笑いかける。
「ちょっと行ってくるな?」
「ちょっとだけだかんねっ!」
うん、と頷くと俺はモヒンがヒャッハァーと叫びながら大槌を振り回している場所へと駆ける。
通り抜ける間際にモヒンが言ってくる。
「女を泣かせたまま、死ぬんじゃねぇーぞ?」
「はい、肝に命じます」
そうモヒンに言われて、シズクの顔も思い出す。
今度は絶縁状叩きつけられないといいけど……
苦笑しているとモヒンに、行ってこい、と見送られた俺は一気に加速してゴブリンを蹴散らして森の中へと飛び込んだ。
探査を使いながら走り続けてる俺は警備隊の動きを追っていた。
10人ぐらい集まっている所に50匹程のゴブリンが集まっており、その中には上位種がいるようだ。普通のゴブリンとは違う反応があるのでそれにだいぶ苦戦しているようだ。
もう片方、おそらくパメラは5匹程度だが、そのうち1匹が上位種のようだ。全部普通のゴブリンであればパメラも多少の傷を貰う覚悟があれば倒せているかもしれないがそうもいかないらしい。
位置的に警備隊が集まる場所を突っ切ってパメラの救出が良さそうだ。
しばらく走り続けると飛び抜けて、でかいオッサン、ザンの姿を捉えるとその周りに集まるゴブリン達に向けてサンダ―レインをぶち込む。
一気に20匹ぐらい殲滅出来た!
不意打ちを食らったゴブリン達が一斉に俺を見るがそれに感知せずにザンに叫ぶ。
「冒険者達がこっちに向かってる。すぐに立て直して街に向かって走れ!」
「助かったっ! しかし、パメラが!」
「分かってる。そっちは俺に任せろ」
そう言うと今度はプリット方向に固まってるゴブリンのど真ん中にサンダーボールを叩き込んで突破口を作る。
一瞬の躊躇を見せたが飲み込んだらしいザンが撤退命令を出すと警備隊は先頭を走るザンに着いて行く。
俺はそれを見送らずにパメラの反応を追って走り出した。
走る俺は脳裏に浮かぶ地図での俺とパメラの距離がじわじわとしか縮まらない事に苛立ちを感じる。
パメラも出来るならプリット側に逃げたいと思っているだろうが結果として反対側、俺も追う形になって合流を遅らせていた。
そして、遂に追い付いた時は崖っぷちに追い込まれたパメラがゴブリン達ににじり寄られてるところであった。
パメラの名を呼んでゴブリンの意識をこちらに向けようかとも思ったが本当にギリギリまで崖に寄っているのを見て、断念する。
それで驚いて落ちたら目も当てられない。
後、一歩で掴まえられるという距離に詰め寄られるが、なんとか間に合ったと思った瞬間、パメラは意を決して崖から飛び降りる。
崖下が川だから一か八かしちゃったかっ!!
こんな展開だったら叫べば……考えてる場合じゃない。
俺は一杯一杯に加速して突っ込む。
「どけぇぇ!!」
ゴブリンを蹴っ飛ばしてそれを踏み台にするようにして俺も崖下へと勢いを付けて飛び込む。
勢いが付いてる分、俺の速度が勝り、気を失っているらしいパメラの手を掴んで抱き寄せる。
ホッとしたのも束の間、迫る川の水面を睨む。
くっ、このまま叩きつけられたら助からないか!?
「頼むぞ、信じてるからなっ!」
盾術スキル
「シールドバッシュ!!」
俺は左腕に装着してあるバックラーを着水するタイミングで叩きつけ、俺を中心に大きな水柱が立ち上がった。
金の都合というのもあるが、他の冒険者達も掻き集めるようにして買っていたので品薄になっていたせいである。
俺の所持金も遂に銀貨が消えた。シズクが持たせてくれたお金があっさり消えたのである。
必要経費だったのは間違いないが稼いでないのだからしょうがない。
薬草の依頼分は終わってるから落ち着けば……銅貨50枚か。足らなさ過ぎる。
そんな事を考えていると背中をパンと叩かれ、振り返った先にいたのは大槌を担いだモヒンであった。
「コーハイ、始まる前から項垂れてどうするってんだ? 気合いだ、気合い!」
「いや~、この緊急依頼を終えても俺にはその後に辛い戦いが待ってるな、と思いまして」
はぁ? と変顔して首を傾げられたので情けない事ではあったが先程まで考えていた事を素直に話す事にする。
先輩は見た目はアレだけど良い人だから馬鹿にしないし、良い知恵があれば教えてくれそうだしな。
モヒンはキョトンとしたと思ったら弾けるようにお腹を抱えて笑い出す。
あれれれ??
「おい、コーハイよ。てめぇ、余裕有りまくりだな? この緊急依頼でビビりまくってるヤツが結構いるのに後の心配かよ?」
「シーナ、大丈夫だから! ウチが面倒みてあげる!」
余裕なのかな? 挑む以上、生きて帰るつもりでやるし、そしたら後の事が気になるのは当然な気がする。
確かに色々と心配だが、ターニャ、俺にも矜持があるんだ……ヒモだけは勘弁してくれ。
ターニャの頭を抱いて、「気持ちだけは貰っておくから」と言うが「心配ないってウチはやりくり上手でへそくりもあるから」と言ってくる。
まったく俺の真意はターニャには伝わってないようだ。
笑い過ぎて引き攣り気味のモヒンがターニャに「いらん、いらん」と言う。
「心配ねぇってターニャちゃん、コーハイは無事、この依頼を乗り越えたら小金持ちになるからよぉ?」
「どういう事ですか?」
「今回の問題発覚のキッカケになったのとそれを信じたくない奴等を黙らせる証拠を残したという事で報奨金がギルドと警備隊から両方ともから出るらしい」
キッカケというのはティテールを助けた事と50匹以上のゴブリンを屠ったからだそうだ。
50か30ぐらいかと思ってた。
しかも、俺が倒したゴブリンの右耳を全部、冒険者ギルドに証拠として提出され、俺の依頼達成にもなっているらしい、無事帰ってきたらこれだけで銀貨2枚と銅貨50枚、首の皮が繋がったってヤツだ。
とりあえず、後にいきなり路頭に迷う未来は無くなりそうだ。
安堵している俺に何やら思い出したらしいモヒンが聞いてくる。
「そのゴブリンの死体の山が発見された場所、俺がコーハイに薬草集めとゴブリン狩りに勧めた場所からだいぶ離れていたが俺が教えた場所には行かなかったのか?」
「いえ、先輩に教わった場所でしてましたよ」
「それはおかしかねぇーか? どうやってティテールが襲われてるのが分かったってんだ?」
それに気付けた理由が初めての戦闘で情けない事になったからそれに悔やんだらスキルを手に入れましたとはさすがに言えず、たまたま、探査のスキルに引っ掛かって気になって見に行ったと告げる。
そう言うとモヒンは黙り込み、そうこうしてると集合場所に到着するとモヒンが見つめてくる。
「本当に探査が使えるんだな?」
「えっ、はい」
「ちょっと、ここで待ってろ」
そう言うとモヒンは冒険者が集まっている中でも目立つ大柄の獣人、ベアの下へと向かう。
モヒンがベアとその隣にいる若い警備兵と話ながらチラチラと俺を見てくる。
それを見てちょっと不安になったので隣にいるターニャに質問する。
「探査って持ってると不味い感じなのか?」
「ううん、そんな事ないよ。とても珍しいスキルだけど有能だし、今みたいな時は重宝されるんじゃないかな?」
良かった、珍しいぐらいで済んで、失われたスキルとかで騒がれたら今みたいに変な空気になってる状態でゴブリンは俺のせいみたいな、とんでも理論が生まれたらどうしようと一瞬、本当に一瞬だけ思っただけだかんな?
そんな馬鹿な事を考えているとモヒンがベアと若い警備兵を連れて帰ってくる。
「おい、モヒンに聞いたが探査を使えると聞いたがどうなんだ?」
「はい、使えますが……」
「じゃ、この辺りにゴブリンの集落があるのですがどうなってるか分かりますか?」
ベアの質問に答えると若い警備兵が地図を広げて森の奥を指を指す。
うーん、感覚的に届かないって思ってしまうな。多分、本当に届かないんだろう。
スキルレベルを1つ上げるか。
探査をLv3にしてみると感覚で届くと感じたので探査を発動させる。
すると、若い警備兵が言う辺りに凄い数の集団のモンスター、おそらくゴブリンの塊がある事が分かる。
その周辺に僅かに10人にも満たない数の人の反応を捉える。
これは不味い。
本人達は気付いているかどうかは分からないが包囲されてる。しかも、1人で単独で追われてる人物がいる事が分かる。
その人物に意識を向けると『人間 ♀』と表示され、背筋に冷たいものが走る。
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「確認出来た。包囲されようとしている。確認したい事がある。残ってるメンバーで女は誰だ」
「むっ? 残ってる女性はパメラ副隊長のはずだ」
嫌な予感ほど当たるっていうがクソッタレ!
一旦、探査を切ろうとしたが大きな見落としに気付く。それはこちらに向かっている集団、200匹前後のゴブリンがこちらに向かっている事に。
くっ! これがスキルのレベルを上げても使いこなせてないヤツか……
「……後、プリットに向かってきているゴブリンの集団も捉えました。数は200匹……もう間もなく森から姿を現します」
「それは本当か!」
「はい、そして、その対応に追われたら現地にいる警備隊はおそらく……」
全滅すると俺は言葉に出来なかった。しなかったがこの場に居る者達は理解してしまっただろう。
かといって、迫りくるゴブリンを放置して助けに走って間に合うか? おそらく間に合わない。
それはモヒン達も辛そうな表情を浮かべる様子からも同じ結論に至っているようだ。
だが、単独で俺が行けばどうだろう?
間に合うかもしれない。しかし、それは下手をしたら、いや、まず間違いなくティテールという獣人の女の子を助けた時以上の無茶だ。
俺はその件でシズクを悲しませ、怒らせてしまっている。同じように悲しませ、泣かせた少女、隣にいる俯いてしまっているターニャが俺の服の袖をギュッと掴んでいる。
俺は舌の根が乾いてもないような状態で同じ愚を犯すのか。
やっぱり俺は馬鹿だな……
「ベアさん、先輩、聞いてください。俺だけで戦闘を避けながら行けば、間に合うかもしれません」
「お前一人、先行したところで何になる!」
「まあ、待て。お前達、警備隊が証拠として献上したゴブリンを単独で討伐したのが目の前のシーナだ。コイツなら本気でやるかもしれん」
俺の言葉に若い警備兵が激昂するが腕組みして考えるベアに諭される。
若い警備兵が「コイツが!?」と驚いているが正直相手にしてられない。
「コーハイ、俺も出来れば助けてやりてぇとは思う。だが、同時に俺はお前を単独で飛びこませるのはいい気はしねぇーよ。でもよ、吐いた唾は飲み込めねぇーよな、男だもんな」
俺の肩をポンポンと叩き、モヒンはベアを見つめる。
モヒンから俺に視線を向けるベアが見つめていると背後に固まってる冒険者達から悲鳴に似た報告が飛ぶ。
「ゴブリン多数! ベアさん! 指示を!!」
騒ぎ始める冒険者が呼ぶ声に反応を示さないベアが俺に簡潔に聞く。
「行くのか? 行かないのか? お前が決めろ」
「行きます!」
俺の返事を受けたベアが頷くとモヒンが肩に担いでた大槌を地面に叩きつける。
その音で浮足立ってた冒険者が我に換える。
「よし、コーハイ、俺が道を切り開いてやる。そこを突っ切れ……後の事はパイセンである俺達に任せやがれ」
「頼んだぞ」
「はいっ!」
くぅ、先輩、かっけええよ。男が言ってみたいセリフベスト5入り確定だろ?
モヒンがゴブリンの集団に突っ込む為に走り始め、ベアは冒険者達に「三人一組で戦え」と指示を飛ばす。
俺は終始、俺の腕の袖を掴んで離さないターニャの手を優しく包む。
「もう無茶しないでって言った……」
「ごめん……でもやっぱり見捨てられない。ザンのオッサンとパメラさんはこの街に来た時に初めて会った人だ。しかもオッサンには生活の糧に冒険者ギルドを紹介して貰って、そして先輩に会った。その先輩から『どら焼き亭』を紹介され、俺はターニャと会ったんだ」
ターニャは何も言わない。優しく指を一本一本外していく。最後の一本というところでターニャが涙で濡れた顔で見上げる。
「ウチはそんなシーナが馬鹿しないように止める為に冒険者に……」
「うん、ターニャの存在が俺にとって、とても大きく感じたよ。いなければベアさんに許可を取らずに突っ走ってた。必死に考えたよ、有難う」
最後の指を解くと俺はニッコリと笑いかける。
「ちょっと行ってくるな?」
「ちょっとだけだかんねっ!」
うん、と頷くと俺はモヒンがヒャッハァーと叫びながら大槌を振り回している場所へと駆ける。
通り抜ける間際にモヒンが言ってくる。
「女を泣かせたまま、死ぬんじゃねぇーぞ?」
「はい、肝に命じます」
そうモヒンに言われて、シズクの顔も思い出す。
今度は絶縁状叩きつけられないといいけど……
苦笑しているとモヒンに、行ってこい、と見送られた俺は一気に加速してゴブリンを蹴散らして森の中へと飛び込んだ。
探査を使いながら走り続けてる俺は警備隊の動きを追っていた。
10人ぐらい集まっている所に50匹程のゴブリンが集まっており、その中には上位種がいるようだ。普通のゴブリンとは違う反応があるのでそれにだいぶ苦戦しているようだ。
もう片方、おそらくパメラは5匹程度だが、そのうち1匹が上位種のようだ。全部普通のゴブリンであればパメラも多少の傷を貰う覚悟があれば倒せているかもしれないがそうもいかないらしい。
位置的に警備隊が集まる場所を突っ切ってパメラの救出が良さそうだ。
しばらく走り続けると飛び抜けて、でかいオッサン、ザンの姿を捉えるとその周りに集まるゴブリン達に向けてサンダ―レインをぶち込む。
一気に20匹ぐらい殲滅出来た!
不意打ちを食らったゴブリン達が一斉に俺を見るがそれに感知せずにザンに叫ぶ。
「冒険者達がこっちに向かってる。すぐに立て直して街に向かって走れ!」
「助かったっ! しかし、パメラが!」
「分かってる。そっちは俺に任せろ」
そう言うと今度はプリット方向に固まってるゴブリンのど真ん中にサンダーボールを叩き込んで突破口を作る。
一瞬の躊躇を見せたが飲み込んだらしいザンが撤退命令を出すと警備隊は先頭を走るザンに着いて行く。
俺はそれを見送らずにパメラの反応を追って走り出した。
走る俺は脳裏に浮かぶ地図での俺とパメラの距離がじわじわとしか縮まらない事に苛立ちを感じる。
パメラも出来るならプリット側に逃げたいと思っているだろうが結果として反対側、俺も追う形になって合流を遅らせていた。
そして、遂に追い付いた時は崖っぷちに追い込まれたパメラがゴブリン達ににじり寄られてるところであった。
パメラの名を呼んでゴブリンの意識をこちらに向けようかとも思ったが本当にギリギリまで崖に寄っているのを見て、断念する。
それで驚いて落ちたら目も当てられない。
後、一歩で掴まえられるという距離に詰め寄られるが、なんとか間に合ったと思った瞬間、パメラは意を決して崖から飛び降りる。
崖下が川だから一か八かしちゃったかっ!!
こんな展開だったら叫べば……考えてる場合じゃない。
俺は一杯一杯に加速して突っ込む。
「どけぇぇ!!」
ゴブリンを蹴っ飛ばしてそれを踏み台にするようにして俺も崖下へと勢いを付けて飛び込む。
勢いが付いてる分、俺の速度が勝り、気を失っているらしいパメラの手を掴んで抱き寄せる。
ホッとしたのも束の間、迫る川の水面を睨む。
くっ、このまま叩きつけられたら助からないか!?
「頼むぞ、信じてるからなっ!」
盾術スキル
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同級生の女の子を交通事故から庇って異世界転生したけどその子と会えるようです
砂糖流
ファンタジー
俺は楽しみにしていることがあった。
それはある人と話すことだ。
「おはよう、優翔くん」
「おはよう、涼香さん」
「もしかして昨日も夜更かししてたの? 目の下クマができてるよ?」
「昨日ちょっと寝れなくてさ」
「何かあったら私に相談してね?」
「うん、絶対する」
この時間がずっと続けばいいと思った。
だけどそれが続くことはなかった。
ある日、学校の行き道で彼女を見つける。
見ていると横からトラックが走ってくる。
俺はそれを見た瞬間に走り出した。
大切な人を守れるなら後悔などない。
神から貰った『コピー』のスキルでたくさんの人を救う物語。
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