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第二十章 キューバ戦役

キューバの反撃Ⅱ

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 一九五六年三月二十六日、キューバ国首都ハバナ。

 アメリカ軍キューバ遠征軍総司令官のマーク・クラーク大将は、アイゼンハワー首相からの命令を受けて今度の大規模攻勢の指揮を執っていた。

「大将閣下、迎撃に出た基地航空隊は全滅しました。日本軍はサンタ・クララ周辺の道路を爆撃し、我が軍の補給線は壊滅状態です」
「まったく、船魄というものは恐ろしい。人間では相手にならないな」

 日本空軍はメキシコでの総力戦に忙しくキューバに回す戦力がほとんどないので、空について心配することはないだろうとクラーク大将は思っていたのだが、この有様である。

「敵が発艦した時点でエンタープライズに救援を要請していたとしても、間に合いませんでした……」
「ああ。海軍の連中がフロリダに引き籠ってるのが悪いんだ。800km先からどうやってキューバの制空権を維持するつもりなんだか」

 日本軍がキューバに張り付いているのに対して、エンタープライズらは遥か彼方のジャクソンヴィルにいる。ここに来るだけで1時間近くかかるので、日本軍が動き出してから出撃しても間に合わないのだ。

 クラーク大将が海軍に文句を言っていると、海軍の連絡将校が苛立った口調で反論する。

「お言葉ですが、軍艦というのは四六時中稼働できるものではありません。常に整備が必要ですし、損傷したとなればなおのことです」
「超大型空母を三隻一緒に整備しているのか?」
「エンタープライズ以外の空母を、彼女なしでここに寄越しても意味がありません」

 アメリカ海軍の東半分は今やエンタープライズに頼り切りである。エンタープライズに他の空母の制御を与えるのは常態化しているし、そうでないと日本の船魄に全く太刀打ちできないのだ。

「海軍は危機管理がなってないんじゃないか?」
「そのご指摘ならば甘んじて受け入れますが、海軍は決して怠慢によってメイポート補給基地に留まっている訳ではないことを、ご理解いただきたい」
「分かった分かった。で、エンタープライズはいつ自由に動けるようになるんだ?」
「それについては未定ですが……陸軍がそれを強く希望するのであれば、可能な限り早く動かせるようにします」
「具体的には?」
「個人的な予想を申し上げることをお許しいただけるのなら、10日程度かと」
「おお、結構早いじゃないか。それで頼む」
「はっ……」

 実際、クラーク大将がスプルーアンス元帥に問い合わせたところ、海軍としても10日でエンタープライズを前線に復帰させることは可能という返答を得た。

「しかし閣下、補給が寸断されている現状、10日も前線を維持することは不可能なのでは……」
「ああ。何とかしないとな。まずは、工兵隊を全部出して道路の敷設だ」
「日本軍に襲われたら一溜りもないのでは?」
「……構わん。幾ら死んでも構わない。全力で道路を修理させるんだ」
「は、はあ……」
「そして、それを囮にして、本命の作戦を行う」
「囮、ですか?」
「ああ、囮だ。そもそも幾ら道路を直したところですぐに破壊されるだけだろう」
「では何をするおつもりで?」
「海上輸送だ。海から物資を運び込む。それならエンタープライズとも歩調を合わせられるからな」
「しかし、あの辺りにマトモな港はないのでは……」
「戦車揚陸艦で物資を運べばいい」

 基本的に強襲上陸を目的にしている戦車揚陸艦であるが、物資の輸送にも使い勝手はいい。クラーク大将は海軍に協力を要請して(揚陸艦もエンタープライズも海軍の管轄なのだが)作戦は早速開始された。

 ○

 さて、その動きは帝国海軍がすぐに察知した。アメリカ東海岸に配置されている伊六百七潜水艦が、メイポート補給基地を出航してキューバ中部に向かう船団を確認したのである。その報せは有賀中将を通してすぐ瑞鶴やゲバラに伝わった。

「――どうやら、海から補給物資を運び込むつもりみたいだ」

 鳳翔艦内の会議室で、ゲバラは船魄達にそう告げた。

「なるほど。船ならエンタープライズの護衛も付けられるって訳ね」
「ああ。空にはエンタープライズの艦載機が飛び回っている」
「エンタープライズが全力で護衛する中で船を沈めるか……」
「君でも厳しいのか?」
「相手の数にもよるけど、何十っていう桁でいるなら、全部を沈めるのはまず無理ね。キューバに到着する前に撃沈するっていう条件があるなら尚更よ」
「そうか……。阻止するのは無理か」
「私達には無理でも、妙高達ならできるんじゃない?」

 と唐突に話を振ると、妙高は一瞬理解が及ばずに固まってから大声を上げた。

「えっ、妙高ですか!?」
「そう言ったわ」
「つまり……敵の輸送船団を攻撃してこい、ということですか……?」
「ええ。私達がエンタープライズは押さえておくから、その間に揚陸艦を沈めるのよ」
「な、なるほど。最近はあまりやってませんでしたけど、通商破壊は巡洋艦の役目です。妙高は大丈夫です。高雄と愛宕さんは?」
「わたくしも喜んで出撃します。巡洋艦の本懐を果たしましょう」
「ちゃんと護衛してくれなかったら帰るわ」
「うん、問題ないわね。あんまり時間はなさそうだから、今すぐに出撃して」

 制空権があるとは言え、重巡洋艦三隻だけの戦隊とは寂しいものである。
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