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第二十章 キューバ戦役

キューバの反撃

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 瑞鶴も鳳翔も、それぞれの艦橋に戻った。空母にとって船魄がどこにいるかは大して重要ではないのだが、やはり艦橋にいる方が一番集中できるというものである。

 瑞鶴とツェッペリンはそれぞれ艦上戦闘機を30機ずつ出し、鳳翔は艦上爆撃機を100機も出した。鳳翔の最大搭載機数は150機なので、爆撃機を多めに持ってきたというのは本当のようだ。

『全機、発艦を終えました』
『我はとうに準備できているぞ』
「こっちは時間かかるのよ。ちょっと待って」

 鳳翔は非常に広大な飛行甲板を活かして最大4機の同時発艦が可能である。飛行甲板が損傷して1機ずつしか発艦させられない瑞鶴とは段違いだ。

「こっちも発艦し終わったわ」
『では出発しましょう』
「ええ。アメリカ軍に目にもの見せてやるわ」

 瑞鶴、ツェッペリン、鳳翔の航空隊はキューバ北部を目指して進軍を開始した。が、作戦開始早々、出鼻を挫くように文句を言ってくる船魄が一人。

『おい、瑞鶴、日本の戦闘機はどうなっているのだ? こんな低速とは』

 艦上戦闘機の補充を鳳翔から受けたツェッペリンが、飄風に文句を付けてきたのである。

「そんなこと私に言われても知らないわよ」
『世界で最初にジェット戦闘機を実用化したのはドイツですし、後退翼や翼厚比の研究など、ドイツはジェット機の技術を独占していますから、仕方ないでしょう。ドイツのジェット機は、他国より10年進んでいるとよく言います』
「まあよく分かんないけど、嫌なら自前の戦闘機だけ使えばいいじゃない」
『べ、別に、嫌という訳ではない』
『ツェッペリンさんなら、どんな艦載機でも使いこなせますからね』
『あ、当たり前であろうが! 日本の戦闘機であろうと我が有効活用してくれるわ!』
「あ、うん、頑張って」

 ツェッペリンのやる気が出たようで何よりである。合計で160機の航空艦隊は、つい数日前まで前線があったサンタ・クララの上空に向かっていた。

「おっと、敵の迎撃よ」
『地上から上がってきたもののようですね』

 アメリカ軍のF89スコーピオンが大挙して迎撃に出て来た。その数はおよそ200機である。

『ふん。人間が幾ら要撃機を出して来ようがどうということはない』
「まあ私達はそうだけど。鳳翔は気を付けてね」
『はい。敵はよろしくお願いします』
「よーし。アメリカ人を皆殺しにするわよ、ツェッペリン」
『我に任せろ』

 別に瑞鶴はアメリカ人を殺すことを楽しんでいる訳ではないが、鳳翔の明星に手を出される前に殲滅するべきというのは、軍事的に妥当な結論である。鳳翔の艦上爆撃機は高高度を飛行しつつ、瑞鶴とツェッペリンの艦上戦闘機60機が上がって来る200機の敵の群れに突入した。

「まあ……別に面白くもないわね」
『ああ。張合いがなくてつまらん』

 どうなるかなど最初から目に見えている。アメリカ側はあっという間に蹴散らされて統制を失った。しかし逃げることはなくしぶとく粘っている。末端まで軍と国家への忠誠心が刷り込まれているようだ。

 と、その時であった。無理やりにでも爆撃機を落としたいのか、瑞鶴とツェッペリンの航空隊をすり抜けるスコーピオンが10機ほどあった。

「あ、敵に抜けられたわ」
『この程度ならば問題なかろう』
「多分ね。鳳翔、大丈夫よね?」
『ええ。この程度は心配無用です。お二人こそお気を付けを』

 鳳翔の爆撃隊は見下ろす敵機に20mm機銃の雨を浴びせた。一方的な銃弾の雨でスコーピオンにはたちまち火が付き、墜落するかその場で爆発四散した。鳳翔側には傷一つ付かなかった。

「やるじゃない」
『数の差が圧倒的でしたからね』
『そろそろ敵も全滅するな』
「逃げる気がないなら、お望み通り英霊にしてあげるわ」

 残りの敵も簡単に排除し、一行は目的地上空に到着した。そこでゲバラから通信が入る。

『サンタ・クララは交通の結節点になっている。ここから東側に伸びている道路を徹底的に破壊してくれ。くれぐれも、都市そのものは爆撃しないでくれよ』

 敵に占領されているとは言え、多くのキューバ市民がサンタ・クララに取り残されている。

『承知しております。しかし、東側だけでいいのですか? 西からの道路も封鎖してしまえばよいのに』
『そうしたら、サンタ・クララの住民に物資が届かなくなってしまう。最前線のアメリカ人だけを飢えさせるんだ』

 アメリカも多少の人道的配慮を行うつもりはあるようで、占領地の人間を食わせる為の食糧は日々輸送されている。その交通を断つことは、ゲバラにはできない。

『分かりました。ではそのように』

 鳳翔はゲバラに指示された通りの道路に爆撃を開始した。アメリカ軍は車載の機関砲などで健気な抵抗を行って来たが、何ら意味はなく消し飛ばされた。アメリカ軍の大動脈になっている道路は全て破壊され、マトモに使えるようになるには数ヶ月はかかるという有様である。

 任務を完遂した三隻の空母は、出撃した時と全く同じ数の艦載機を収容した。これでアメリカ軍は補給が途絶え、総崩れに陥る筈である。

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