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第二十章 キューバ戦役
混迷の情勢
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一九五六年三月二十六日、大日本帝国大阪府大阪市北区、国際連盟本部。
サンフランシスコ陥落の報せを受けてもなお、世界の足並みは揃っていなかった。最も重大な問題は、国連軍最高司令官を誰にするかである。最高司令官を輩出した国がアメリカ討伐においてはもちろん、戦後処理においても主導権を握ることは間違いないからだ。
日本は山下奉文元帥陸軍大将を、ソ連はゲオルギー・ジューコフ陸軍元帥を、ドイツはエルヴィン・ロンメル陸軍元帥をそれぞれ推薦しているが、どの国も譲ることはできず、議論という議論もほとんど進んでいなかった。
「サンフランシスコは大変なことになっているそうじゃないか。そろそろ国連軍の体勢を固めないといけないと思うんだがね」
石橋湛山首相は武藤章参謀総長に問い掛ける。
「そうは言いましてもね。国連軍最高司令官の座は至尊の地位と言ってもいいものです。譲れる訳がありません」
「アメリカ分割の主導権、か。事前にアメリカ分割の方法を決めておけば、こんなことにはならなかったんだがね」
「今からそんな議論をしている時間はないでしょう」
「分かっているよ。しかし、どうしたものか……」
意気揚々とアメリカ討伐を決議したにも関わらず、国際連盟は具体的な行動を起こせずにした。その点においてアメリカの先制攻撃は効果的だったと言えるだろう。
○
一九五六年三月二十四日、アメリカ合衆国フロリダ州メイポート補給基地。
少しだけ時を遡って、メキシコ湾から撤退したエンタープライズらの艦隊は、フロリダ半島の東側にあるメイポート補給基地に入っていた。この基地はアメリカでも最大級の海軍施設であり、補給はもちろんのこと修繕もある程度は行うことができる。
「ここからでも、キューバのほぼ全域に艦載機を飛ばすことができます。いい場所ですね」
「前線が射程圏内に入っていれば十分だ。今後とも働いてもらうぞ、エンタープライズ」
「ええ、構いませんよ。こんな場所からでは敵を鹵獲することができないのが残念ですが」
「そんな余裕は今の俺達にはない」
「しかし、これからどうなさるつもりなんですか? ドイツの主力艦隊が到着したら、私達はお終いなのでは?」
ドイツ軍は46cm砲8門のモルトケ級二隻、51cm砲8門のグラーフ・ローン級二隻を自由に動かすことができる。
「ソ連を警戒せずに全力を出して来ると思うか?」
「さあ。私に政治のことは分かりません。しかし、こんな状況で裏切りなんて非現実的なのでは?」
「まあ、それはそうだな。東海岸に残っているマトモな戦力は、ここにいるのを除けばモンタナとオハイオ、それにアイオワだけ。絶望的だな」
41cm砲12門を搭載する強力なモンタナ級戦艦であるが、ドイツがバミューダ諸島に残しているグラーフ・ローンへの警戒の為に、ワシントン周辺に留まることを強いられている。もちろんグラーフ・ローンの動きを拘束できているということでもあるが。
「おや、アイオワはまた建造したんですか?」
「ああ。アイオワ級はすっかり量産品の扱いだ」
「それで五隻……。とてもドイツ海軍には太刀打ちできませんね」
「お前でも、流石にどうしようもないだろ?」
「そうですね。ドイツ海軍相手だけなら、戦艦を特攻させて大和級以上の戦艦を黙らせれば何とかなるかもしれませんが、そうしたら日本軍とソ連軍相手にどうしようもありません」
「ああ。どうしたもんかな」
「では、今のうちにキューバを落とせばいいのでは? 先日の戦闘で、日本軍もソ連軍も大きく傷付いていますし、メキシコへの援護で忙しいでしょう」
「確かに、それは一理あるな。国連の名目は基本的にキューバの解放だ。軍事的には全く重要じゃないが、無視することはできん。キューバを落とせれば、時間を稼げる」
そもそも国連軍はキューバを解放することを目的として結成されたのである。アメリカ本土への侵攻よりキューバ解放の方が優先されて然るべきだ。そうでなければ国連軍の名目が立たない。
「言われてみれば、そういう利点もありますね」
「じゃあお前は何で提案したんだ?」
「まだ瑞鶴と遊べるかと思いまして」
「……だと思ったよ。だがキューバへの攻勢は悪くない選択肢だ。アイゼンハワーに提案しておこう」
マッカーサー元帥はアイゼンハワー首相にキューバへの大攻勢を提案し、すぐに承諾を得た。
「敵は分散せざるを得ず、今だけは私達の方が戦力的に優位です。ここで一気に攻勢に出るとしましょう」
「ああ、そうしよう。一ヶ月以内に、キューバを落とす」
ドイツ本土から主力艦隊が到着するまでの間にキューバ全土を占領する。それが叶わずとも、キューバ軍に壊滅的な打撃を与え、占領地を大幅に拡大する。果たして時間を稼いだところでアメリカに勝機があるのかは分からないが、マッカーサー元帥はやれるだけのことをするつもりでいた。
サンフランシスコ陥落の報せを受けてもなお、世界の足並みは揃っていなかった。最も重大な問題は、国連軍最高司令官を誰にするかである。最高司令官を輩出した国がアメリカ討伐においてはもちろん、戦後処理においても主導権を握ることは間違いないからだ。
日本は山下奉文元帥陸軍大将を、ソ連はゲオルギー・ジューコフ陸軍元帥を、ドイツはエルヴィン・ロンメル陸軍元帥をそれぞれ推薦しているが、どの国も譲ることはできず、議論という議論もほとんど進んでいなかった。
「サンフランシスコは大変なことになっているそうじゃないか。そろそろ国連軍の体勢を固めないといけないと思うんだがね」
石橋湛山首相は武藤章参謀総長に問い掛ける。
「そうは言いましてもね。国連軍最高司令官の座は至尊の地位と言ってもいいものです。譲れる訳がありません」
「アメリカ分割の主導権、か。事前にアメリカ分割の方法を決めておけば、こんなことにはならなかったんだがね」
「今からそんな議論をしている時間はないでしょう」
「分かっているよ。しかし、どうしたものか……」
意気揚々とアメリカ討伐を決議したにも関わらず、国際連盟は具体的な行動を起こせずにした。その点においてアメリカの先制攻撃は効果的だったと言えるだろう。
○
一九五六年三月二十四日、アメリカ合衆国フロリダ州メイポート補給基地。
少しだけ時を遡って、メキシコ湾から撤退したエンタープライズらの艦隊は、フロリダ半島の東側にあるメイポート補給基地に入っていた。この基地はアメリカでも最大級の海軍施設であり、補給はもちろんのこと修繕もある程度は行うことができる。
「ここからでも、キューバのほぼ全域に艦載機を飛ばすことができます。いい場所ですね」
「前線が射程圏内に入っていれば十分だ。今後とも働いてもらうぞ、エンタープライズ」
「ええ、構いませんよ。こんな場所からでは敵を鹵獲することができないのが残念ですが」
「そんな余裕は今の俺達にはない」
「しかし、これからどうなさるつもりなんですか? ドイツの主力艦隊が到着したら、私達はお終いなのでは?」
ドイツ軍は46cm砲8門のモルトケ級二隻、51cm砲8門のグラーフ・ローン級二隻を自由に動かすことができる。
「ソ連を警戒せずに全力を出して来ると思うか?」
「さあ。私に政治のことは分かりません。しかし、こんな状況で裏切りなんて非現実的なのでは?」
「まあ、それはそうだな。東海岸に残っているマトモな戦力は、ここにいるのを除けばモンタナとオハイオ、それにアイオワだけ。絶望的だな」
41cm砲12門を搭載する強力なモンタナ級戦艦であるが、ドイツがバミューダ諸島に残しているグラーフ・ローンへの警戒の為に、ワシントン周辺に留まることを強いられている。もちろんグラーフ・ローンの動きを拘束できているということでもあるが。
「おや、アイオワはまた建造したんですか?」
「ああ。アイオワ級はすっかり量産品の扱いだ」
「それで五隻……。とてもドイツ海軍には太刀打ちできませんね」
「お前でも、流石にどうしようもないだろ?」
「そうですね。ドイツ海軍相手だけなら、戦艦を特攻させて大和級以上の戦艦を黙らせれば何とかなるかもしれませんが、そうしたら日本軍とソ連軍相手にどうしようもありません」
「ああ。どうしたもんかな」
「では、今のうちにキューバを落とせばいいのでは? 先日の戦闘で、日本軍もソ連軍も大きく傷付いていますし、メキシコへの援護で忙しいでしょう」
「確かに、それは一理あるな。国連の名目は基本的にキューバの解放だ。軍事的には全く重要じゃないが、無視することはできん。キューバを落とせれば、時間を稼げる」
そもそも国連軍はキューバを解放することを目的として結成されたのである。アメリカ本土への侵攻よりキューバ解放の方が優先されて然るべきだ。そうでなければ国連軍の名目が立たない。
「言われてみれば、そういう利点もありますね」
「じゃあお前は何で提案したんだ?」
「まだ瑞鶴と遊べるかと思いまして」
「……だと思ったよ。だがキューバへの攻勢は悪くない選択肢だ。アイゼンハワーに提案しておこう」
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「敵は分散せざるを得ず、今だけは私達の方が戦力的に優位です。ここで一気に攻勢に出るとしましょう」
「ああ、そうしよう。一ヶ月以内に、キューバを落とす」
ドイツ本土から主力艦隊が到着するまでの間にキューバ全土を占領する。それが叶わずとも、キューバ軍に壊滅的な打撃を与え、占領地を大幅に拡大する。果たして時間を稼いだところでアメリカに勝機があるのかは分からないが、マッカーサー元帥はやれるだけのことをするつもりでいた。
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