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第十九章 メキシコ戦役
危ない橋
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『敵はコメットを出してるわよ。そっちを攻撃する気ね』
『了解した。全艦、対空戦闘用意!』
瑞鶴からの報告を受け、長門は命令した。長門の麾下にあるのは陸奥、扶桑、山城、妙高、高雄、愛宕の六隻である。コメットを迎撃するには心許ない戦力であるが、エンタープライズに一泡吹かせるにはこの危険を冒すしかないのだ。
別働隊は、戦艦を敵側にして複縦陣を組み、そして間もなく全艦で三式弾による砲撃を開始した。この場面では主砲の多い扶桑型が頼りになるのだが、その片方を不運が襲う。
『あ゛っ』
山城は素っ頓狂な声を漏らした。
『……どうかしましたか、山城』
扶桑はどんな悪い報告が飛んでくるかと身構えた。
『4番砲塔が故障したわ』
『そうですか……。故障したのなら仕方がありません。残りの主砲で頑張りましょう』
『分かってるわ。どうして私はいつも……』
山城は深く溜息を吐いた。
『二度までも、こんなことがあるのだな……』
機銃くらいならまだしも、主砲が故障するなど山城以外では聞いたことがない。山城には本当に悪霊か何かが取り憑いているのではないかと、長門は思わざるを得なかった。
しかし、そんな悠長な会話を交わしている暇はない。コメットを全て撃ち落とすことなど最初から期待していないが、三式弾の斉射を三度行って機銃の射程に入った時点で、コメットはまだ15機残っていた。
『クソッ……。やはり、厳しいか……』
次の瞬間、コメットが突入したのは扶桑型の二隻であった。大正初期に建造された扶桑型ではやはり防御力が不十分であり、貫徹力はそう高くないコメットにも装甲を貫通されてしまった。
『扶桑! 山城! 被害状況はどうなっている!?』
『わ、わたくしは、何とか……。5番、6番主砲が破壊されましたが、航行には影響ありません』
『そうか。よかった……。山城はどうだ?』
『……缶室が吹っ飛ばされて動かないわ』
『山城!? ちゃんと浸水は止められていますよね!?』
軍艦にとって心臓とも言えるボイラーが損傷したと聞いて、扶桑は落ち着いてなどいられなかった。
『大丈夫よ、姉さん。沈みはしないわ。誰かに曳航して欲しいのだけれど』
『そ、そう、ですか……。よかった……』
『山城、すまないがお前を曳航している余裕はない。戦闘が終わるまでそこで待っていろ』
『ええ、構わないわ。そのくらい、慣れたことよ……』
山城は盛大に溜め息を吐いて『どうしていつも私ばかり』と独り言ちた。扶桑も本当は今すぐに山城を曳航して去りたかったが、今はその余裕もなかった。
『全艦、このまま前進せよ!』
実のところエンタープライズが残すコメットは僅かなのだが、長門がそんなことを知っている訳もなく、これ以上の攻撃を受ける前に一刻も早くエンタープライズとの距離を詰める必要があると判断した。山城を失い大きく戦力が低下した今、次の攻撃を受ければ壊滅的な被害を受けるだろう。
と、その時、妙高が長門に具申を持ちかけた。
「長門様、意見具申、いいでしょうか……?」
『うむ。構わん』
「は、はい。あの、陣形を単縦陣に変更しては、いかがでしょうか……?」
『ふむ。それは何故か』
「複縦陣ですと、妙高達の機銃が使えないですし、高角砲も射角に制限を受けますので……」
重巡達は戦艦の後ろに隠れる格好になっているので、コメットが至近距離にまで近付いてくると何もできなくなってしまうのだ。
『なるほど。お前の案を採用しよう。全艦、単縦陣!』
と言った側から、反論をぶつけてくる者が一人。
『ちょっと待って。お姉ちゃんを危険に晒すなんてダメに決まってるじゃない』
『愛宕……! 今はそんなことを言っている場合では……』
『そんなこと、じゃないわよ、お姉ちゃん。もしもあれが重巡洋艦の私達に当たれば、一撃で轟沈してもおかしくないのよ?』
『そ、それはそうですが……』
「あ、あの、愛宕さん、敵は妙高達を狙っては来ないと思います。戦艦を無力化する方が優先される、筈ですから……」
『狙ってくるかもしれないってことでしょう?』
「か、仮にそうなら、もう妙高達は攻撃されている筈です。でもそうなっていないのは、敵が戦艦を優先的に狙っている証拠です」
戦艦の陰に隠れているとは言え、エンタープライズは妙高を攻撃しようと思えばできたのだ。
『そ、そうですよ、愛宕。わたくしは大丈夫です』
『…………分かった。何かあったら絶対に許さないからね、妙高?』
「は、はい……」
愛宕は嫌々ながら命令を受け入れ、敵が来た際には全艦で単縦陣を組んで対応することとした。エンタープライズの準備は、30分ほどで整った。
『敵が発艦を始めたわ』
瑞鶴から報告が入る。
『クッ……。その前にカタをつけたかったが、間に合わなかったか』
『ん? ちょっと待って。普通の攻撃機を発艦させてるわ』
『何? 普通に攻撃してくる気か?』
『知らないけど、それならこっちで何とかできるわ。すぐに直掩機を送る』
『頼む』
アメリカ側は艦上攻撃機スカイレイダーを60機ばかり発艦させたが、自らの頭上で待機させているばかりで攻撃してくる気配がない。その間に機動部隊本隊から90機の瓢風が到着した。
『了解した。全艦、対空戦闘用意!』
瑞鶴からの報告を受け、長門は命令した。長門の麾下にあるのは陸奥、扶桑、山城、妙高、高雄、愛宕の六隻である。コメットを迎撃するには心許ない戦力であるが、エンタープライズに一泡吹かせるにはこの危険を冒すしかないのだ。
別働隊は、戦艦を敵側にして複縦陣を組み、そして間もなく全艦で三式弾による砲撃を開始した。この場面では主砲の多い扶桑型が頼りになるのだが、その片方を不運が襲う。
『あ゛っ』
山城は素っ頓狂な声を漏らした。
『……どうかしましたか、山城』
扶桑はどんな悪い報告が飛んでくるかと身構えた。
『4番砲塔が故障したわ』
『そうですか……。故障したのなら仕方がありません。残りの主砲で頑張りましょう』
『分かってるわ。どうして私はいつも……』
山城は深く溜息を吐いた。
『二度までも、こんなことがあるのだな……』
機銃くらいならまだしも、主砲が故障するなど山城以外では聞いたことがない。山城には本当に悪霊か何かが取り憑いているのではないかと、長門は思わざるを得なかった。
しかし、そんな悠長な会話を交わしている暇はない。コメットを全て撃ち落とすことなど最初から期待していないが、三式弾の斉射を三度行って機銃の射程に入った時点で、コメットはまだ15機残っていた。
『クソッ……。やはり、厳しいか……』
次の瞬間、コメットが突入したのは扶桑型の二隻であった。大正初期に建造された扶桑型ではやはり防御力が不十分であり、貫徹力はそう高くないコメットにも装甲を貫通されてしまった。
『扶桑! 山城! 被害状況はどうなっている!?』
『わ、わたくしは、何とか……。5番、6番主砲が破壊されましたが、航行には影響ありません』
『そうか。よかった……。山城はどうだ?』
『……缶室が吹っ飛ばされて動かないわ』
『山城!? ちゃんと浸水は止められていますよね!?』
軍艦にとって心臓とも言えるボイラーが損傷したと聞いて、扶桑は落ち着いてなどいられなかった。
『大丈夫よ、姉さん。沈みはしないわ。誰かに曳航して欲しいのだけれど』
『そ、そう、ですか……。よかった……』
『山城、すまないがお前を曳航している余裕はない。戦闘が終わるまでそこで待っていろ』
『ええ、構わないわ。そのくらい、慣れたことよ……』
山城は盛大に溜め息を吐いて『どうしていつも私ばかり』と独り言ちた。扶桑も本当は今すぐに山城を曳航して去りたかったが、今はその余裕もなかった。
『全艦、このまま前進せよ!』
実のところエンタープライズが残すコメットは僅かなのだが、長門がそんなことを知っている訳もなく、これ以上の攻撃を受ける前に一刻も早くエンタープライズとの距離を詰める必要があると判断した。山城を失い大きく戦力が低下した今、次の攻撃を受ければ壊滅的な被害を受けるだろう。
と、その時、妙高が長門に具申を持ちかけた。
「長門様、意見具申、いいでしょうか……?」
『うむ。構わん』
「は、はい。あの、陣形を単縦陣に変更しては、いかがでしょうか……?」
『ふむ。それは何故か』
「複縦陣ですと、妙高達の機銃が使えないですし、高角砲も射角に制限を受けますので……」
重巡達は戦艦の後ろに隠れる格好になっているので、コメットが至近距離にまで近付いてくると何もできなくなってしまうのだ。
『なるほど。お前の案を採用しよう。全艦、単縦陣!』
と言った側から、反論をぶつけてくる者が一人。
『ちょっと待って。お姉ちゃんを危険に晒すなんてダメに決まってるじゃない』
『愛宕……! 今はそんなことを言っている場合では……』
『そんなこと、じゃないわよ、お姉ちゃん。もしもあれが重巡洋艦の私達に当たれば、一撃で轟沈してもおかしくないのよ?』
『そ、それはそうですが……』
「あ、あの、愛宕さん、敵は妙高達を狙っては来ないと思います。戦艦を無力化する方が優先される、筈ですから……」
『狙ってくるかもしれないってことでしょう?』
「か、仮にそうなら、もう妙高達は攻撃されている筈です。でもそうなっていないのは、敵が戦艦を優先的に狙っている証拠です」
戦艦の陰に隠れているとは言え、エンタープライズは妙高を攻撃しようと思えばできたのだ。
『そ、そうですよ、愛宕。わたくしは大丈夫です』
『…………分かった。何かあったら絶対に許さないからね、妙高?』
「は、はい……」
愛宕は嫌々ながら命令を受け入れ、敵が来た際には全艦で単縦陣を組んで対応することとした。エンタープライズの準備は、30分ほどで整った。
『敵が発艦を始めたわ』
瑞鶴から報告が入る。
『クッ……。その前にカタをつけたかったが、間に合わなかったか』
『ん? ちょっと待って。普通の攻撃機を発艦させてるわ』
『何? 普通に攻撃してくる気か?』
『知らないけど、それならこっちで何とかできるわ。すぐに直掩機を送る』
『頼む』
アメリカ側は艦上攻撃機スカイレイダーを60機ばかり発艦させたが、自らの頭上で待機させているばかりで攻撃してくる気配がない。その間に機動部隊本隊から90機の瓢風が到着した。
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