366 / 386
第十九章 メキシコ戦役
エンタープライズの攻勢
しおりを挟む
「だがエンタープライズ、やり合うのはいいとして、お前の飛行甲板はぶっ壊れてるじゃないか? どうする気だ?」
「あなた達が何とかしてくださいよ。何の為に私に乗っているのですか?」
エンタープライズ含め、船魄達は基本的に無人運用を前提にしているので、艦載機を格納庫からエレベーターで飛行甲板に上げてカタパルトに取り付けて発艦させるまでの過程は全て自動化されている。それ故に飛行甲板に支障が出ると無力化されてしまうのだが、アメリカ軍は基本的に全ての軍艦に人間を乗せているので、こういうトラブルにも対処することが可能なのだ。
「何を出せばいい?」
「取り敢えず、コメットを更に出しましょう。ソ連海軍を下がらせることは必要です」
「了解だ。任せておけ」
飛行甲板は真ん中に穴が空いているのでコメットを端の方に置いて、発艦を始める。エンタープライズの長大な飛行甲板があればカタパルトがなくても離陸することは可能である。それに他の空母は無傷である。
「発艦に多少時間がかかりますが、大した問題ではないですね」
「人間にやらせたいことがあったら言ってくれ。頼んだぞ」
「ええ。全機、特攻を開始します」
再び放たれたコメット隊は、圧倒的な速度で日ソの航空隊をすり抜けていった。
○
『長門、エンタープライズがまたコメットを出してきたわよ』
瑞鶴はすぐに報告を飛ばした。今回は敵がコメットを出した瞬間に察知することができるのである。
『分かった……。全艦、対空戦闘用意!』
今度も全て撃ち落とすのは不可能だと察しつつも、長門は全艦に迎撃を命令する。だが手の内を変えていない訳ではない。
『妙高、水際防御を頼んだぞ』
「は、はい!」
どうせ狙いはソビエツキー・ソユーズだろう。ソユーズの前ではウクライナが盾になっているが、長門は更にその前に妙高・高雄・愛宕を配置して、何としてでもソ連艦隊が撤退するのを防ぐ構えでいる。
『三式弾撃ち方始め!! 一機たりとも敵を通すな!!』
前回よりもやや少ないようであるが、敵は今回も30機ばかり。戦艦が主砲斉射を行い、数秒遅れて重巡達も斉射を行う。しかし鈍重な主砲の動きはすっかり読まれているのか、まだ半分が残っている。
「高角砲、機銃、全力で撃ってください!!」
やはり敵の狙いはソビエツキー・ソユーズのようだ。ソユーズとウクライナと共に、妙高達は全力で射撃を行う。
『ここで、何としてでも落とさなければ……』
『あら、今回もダメな気がするわ、お姉ちゃん』
『何を――これは……!?』
愛宕がその予兆を嗅ぎ取った直後であった。コメットの編隊が突如として凄まじい勢いで上昇を始めたのである。高角砲ではその動きを追うことすらできない。
「な、何をする気なの!?」
『急降下し――本当にしてきたわね』
数秒で3kmほど上昇した後、今度は一転して急降下。あまりの激しい動きに歴戦のソビエツキー・ソユーズですら対応できない。そしてコメットが突入した先は、ソビエツカヤ・ウクライナであった。ウクライナの一番主砲塔の周囲に4機のコメットが突き刺さって爆発する。
『同志ウクライナ!!』
『う、ぐ、ああっ……お姉、ちゃん……』
『今すぐ弾薬庫に注水しろ!! 誘爆したら死ぬぞ!!』
ソユーズは有無を言わさぬという声で叫んだ。ウクライナの心配よりも、まずは弾薬庫の誘爆だけは阻止しなければならない。
『うん……わ、分かった……』
『急げ!! 全力で注水しろ!!』
『も、もう、お姉ちゃん、そのくらい、できるよ……』
『……それなら、いいのだ』
艦内では火災が起こっているが、ウクライナは弾薬庫に海水を素早く流し込んで水浸しにし、これで誘爆が起こることはない。一先ずの危機は回避された。
『それで……同志ウクライナ、損害はどれほどだ?』
『一番砲塔が使えなくなっちゃったけど、他は問題ないよ!』
『そうか……。それは、よかった……』
と、ソユーズが安堵するも束の間、ベラルーシが冷ややかな声で呼び掛ける。
『姉さん、どうやらよくないみたいだ』
『どうした?』
『たった今、同志フルシチョフ第一書記から連絡が入った』
『それは、同志ウクライナを撤退させろという話か?』
『ああ、その通り』
ソビエト連邦の最高指導者ニキータ・フルシチョフはウクライナ育ちである。ウクライナの名を冠する艦が沈むことは許されないのだ。
『クソッ。またか……』
『姉さんだって、ウクライナに沈んで欲しくはないだろう?』
『それはそうだが……。だが、撤退するのは同志ウクライナだけだ。我々は戦闘を継続する。それでいいな?』
『ああ、それでいい。エンタープライズは恐らく、追い打ちをすることはないだろう』
エンタープライズの一先ずの目的は連合艦隊の数を減らすことであろう。であれば、逃げる敵を追撃することにコメットを浪費するのは非合理的である。
『いや、しかし、ここで同志ウクライナを攻撃すれば、同志ウクライナを護衛せざるを得なくなるのではないか?』
『ふむ……。そういう可能性もあるね。いずれにせよ敵の出方次第だけど』
『分かった。まずは同志ウクライナを撤退させよう』
ウクライナはまだ戦えると言って譲らなかったが、ベラルーシが粛清をチラつかせて無理やり撤退させた。
「あなた達が何とかしてくださいよ。何の為に私に乗っているのですか?」
エンタープライズ含め、船魄達は基本的に無人運用を前提にしているので、艦載機を格納庫からエレベーターで飛行甲板に上げてカタパルトに取り付けて発艦させるまでの過程は全て自動化されている。それ故に飛行甲板に支障が出ると無力化されてしまうのだが、アメリカ軍は基本的に全ての軍艦に人間を乗せているので、こういうトラブルにも対処することが可能なのだ。
「何を出せばいい?」
「取り敢えず、コメットを更に出しましょう。ソ連海軍を下がらせることは必要です」
「了解だ。任せておけ」
飛行甲板は真ん中に穴が空いているのでコメットを端の方に置いて、発艦を始める。エンタープライズの長大な飛行甲板があればカタパルトがなくても離陸することは可能である。それに他の空母は無傷である。
「発艦に多少時間がかかりますが、大した問題ではないですね」
「人間にやらせたいことがあったら言ってくれ。頼んだぞ」
「ええ。全機、特攻を開始します」
再び放たれたコメット隊は、圧倒的な速度で日ソの航空隊をすり抜けていった。
○
『長門、エンタープライズがまたコメットを出してきたわよ』
瑞鶴はすぐに報告を飛ばした。今回は敵がコメットを出した瞬間に察知することができるのである。
『分かった……。全艦、対空戦闘用意!』
今度も全て撃ち落とすのは不可能だと察しつつも、長門は全艦に迎撃を命令する。だが手の内を変えていない訳ではない。
『妙高、水際防御を頼んだぞ』
「は、はい!」
どうせ狙いはソビエツキー・ソユーズだろう。ソユーズの前ではウクライナが盾になっているが、長門は更にその前に妙高・高雄・愛宕を配置して、何としてでもソ連艦隊が撤退するのを防ぐ構えでいる。
『三式弾撃ち方始め!! 一機たりとも敵を通すな!!』
前回よりもやや少ないようであるが、敵は今回も30機ばかり。戦艦が主砲斉射を行い、数秒遅れて重巡達も斉射を行う。しかし鈍重な主砲の動きはすっかり読まれているのか、まだ半分が残っている。
「高角砲、機銃、全力で撃ってください!!」
やはり敵の狙いはソビエツキー・ソユーズのようだ。ソユーズとウクライナと共に、妙高達は全力で射撃を行う。
『ここで、何としてでも落とさなければ……』
『あら、今回もダメな気がするわ、お姉ちゃん』
『何を――これは……!?』
愛宕がその予兆を嗅ぎ取った直後であった。コメットの編隊が突如として凄まじい勢いで上昇を始めたのである。高角砲ではその動きを追うことすらできない。
「な、何をする気なの!?」
『急降下し――本当にしてきたわね』
数秒で3kmほど上昇した後、今度は一転して急降下。あまりの激しい動きに歴戦のソビエツキー・ソユーズですら対応できない。そしてコメットが突入した先は、ソビエツカヤ・ウクライナであった。ウクライナの一番主砲塔の周囲に4機のコメットが突き刺さって爆発する。
『同志ウクライナ!!』
『う、ぐ、ああっ……お姉、ちゃん……』
『今すぐ弾薬庫に注水しろ!! 誘爆したら死ぬぞ!!』
ソユーズは有無を言わさぬという声で叫んだ。ウクライナの心配よりも、まずは弾薬庫の誘爆だけは阻止しなければならない。
『うん……わ、分かった……』
『急げ!! 全力で注水しろ!!』
『も、もう、お姉ちゃん、そのくらい、できるよ……』
『……それなら、いいのだ』
艦内では火災が起こっているが、ウクライナは弾薬庫に海水を素早く流し込んで水浸しにし、これで誘爆が起こることはない。一先ずの危機は回避された。
『それで……同志ウクライナ、損害はどれほどだ?』
『一番砲塔が使えなくなっちゃったけど、他は問題ないよ!』
『そうか……。それは、よかった……』
と、ソユーズが安堵するも束の間、ベラルーシが冷ややかな声で呼び掛ける。
『姉さん、どうやらよくないみたいだ』
『どうした?』
『たった今、同志フルシチョフ第一書記から連絡が入った』
『それは、同志ウクライナを撤退させろという話か?』
『ああ、その通り』
ソビエト連邦の最高指導者ニキータ・フルシチョフはウクライナ育ちである。ウクライナの名を冠する艦が沈むことは許されないのだ。
『クソッ。またか……』
『姉さんだって、ウクライナに沈んで欲しくはないだろう?』
『それはそうだが……。だが、撤退するのは同志ウクライナだけだ。我々は戦闘を継続する。それでいいな?』
『ああ、それでいい。エンタープライズは恐らく、追い打ちをすることはないだろう』
エンタープライズの一先ずの目的は連合艦隊の数を減らすことであろう。であれば、逃げる敵を追撃することにコメットを浪費するのは非合理的である。
『いや、しかし、ここで同志ウクライナを攻撃すれば、同志ウクライナを護衛せざるを得なくなるのではないか?』
『ふむ……。そういう可能性もあるね。いずれにせよ敵の出方次第だけど』
『分かった。まずは同志ウクライナを撤退させよう』
ウクライナはまだ戦えると言って譲らなかったが、ベラルーシが粛清をチラつかせて無理やり撤退させた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる