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第十九章 メキシコ戦役
戦闘継続
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『マッカーサー元帥!! 話は聞いてるぞ! エンタープライズの原子炉が攻撃されたそうだな! 間違いはないか?』
受話器を取るや早々に、アイゼンハワー首相の怒号が響き渡った。
「落ち着けよ、アイゼンハワー」
『これが落ち着いていられるか! で、どうなんだ? イエスか? ノーか?』
「そうだなあ、人によって判断が分かれると言ったところだ」
『何? 詳しく説明しろ!』
「エンタープライズの原子炉の真上が爆撃されて、飛行甲板を爆弾が貫通したのも事実だが、原子炉に直接の被害は及んでいない」
『そうか。では、もう何回か爆撃を受ければ原子炉が攻撃されるかもしれないんだな?』
エンタープライズの装甲は飛行甲板のみである。飛行甲板の装甲をぶち抜かれたということは、次は原子炉が攻撃される番ということだ。
「それはそうだが――」
『だったらこれ以上エンタープライズを前線に出す訳にはいかん!! 今すぐエンタープライズを撤退させろッ!!』
「おいおい、何の根拠があって――」
『もしも原子炉に爆弾が直接当たったらどうなる!? とんでもない環境汚染が起こるぞ!!』
「おいおい、お前はいつから環境活動家に成り下がったんだ?」
『茶化すな!! そんな次元の話ではない!! ニューオーリンズどころかルイジアナが居住不能になるかもしれないんだぞ!!』
「大袈裟だなあ、お前は」
『そんな危険は容認できない!! 今すぐ撤退しろ!!』
アイゼンハワー首相は聞く耳がなさそうである。マッカーサー元帥も実際のところ原子炉の仕組みなんぞ大して知らないので、あまり言い返すこともできなかった。と、その時、エンタープライズが元帥に声を掛けた。
「元帥閣下、私に代わっていただいても?」
「ん? ああ、構わんぞ」
珍しくアイゼンハワー首相とエンタープライズが言葉を交わすことになった。
「首相閣下、エンタープライズです」
『何か言いたいことでも?』
「閣下の言い分は些か非合理的でしたから、言い返したくなってしまいました」
『……言ってみろ』
「まず、私の原子炉はハワイ級戦艦よりも厚い装甲に覆われています。多少の爆弾程度で損壊することはあり得ません」
『装甲が破られなくても爆発の衝撃で不具合を起こすかもしれんだろ』
「非常時には制御棒を全て投入するよう設計されています。何も心配は要りません」
中性子を吸収し核分裂を起こりにくくする制御棒であるが、これは電磁石によって持ち上げられており、万が一停電した場合は全てが自動的に投下される仕組みになっている。
『分かった。地球環境への心配は不要のようだ。だが、機関が停止すれば君は敵に鹵獲されるだろう。我が国の技術、それも最高機密が漏洩することは許されない』
「我が国の技術、ですか。ふふっ。そんなに誇れるものがありましたっけ?」
『お前は世界初の原子力空母だろうが。核の軍事利用については我が国が独走している』
「まあ、そういうことにしておきましょう。ですがその心配も要りません。いざとなったら自沈しますから」
『それも許されない。君がいなくなったら誰が東海岸を守るんだ?』
「南部を見捨てて、そんなことを言うのですか? 大体、ここで敵に打撃を与えなければ、日本とドイツが一緒になってワシントンに攻め込んで来るんですよ? 私でも、それを食い止められる自身はありません」
『……いいか、エンタープライズ。降伏というのは、余力があってこそ成立するんだ。分かるな?』
アイゼンハワー首相は唐突な説教を始める。エンタープライズは首相が何を言いたいのかすぐに予想できたが、あえて揶揄う。
「急に何を仰るんですか、首相閣下? まさか閣下は敗北主義者ではないでしょうね?」
『これは君とマッカーサー元帥をそれなりに信用しての言葉だが、この戦争は、勝てない。我々にできることは、敵に上手く降伏する方法を考えることだけだ』
「……私を残しておけば、枢軸国が講和交渉に応じると?」
『そうだ。君は枢軸国にも大いに恐れられている。君がいればこそ、我々は交渉の席に着くことができる』
「ですが、それでは私がどうなるか分からないではありませんか。降伏なんてしたら、解体されてしまうかもしれません。それは非常に不愉快です」
『……そんなことはあるまい。君ほどの軍艦を解体する馬鹿がいるとは思えんよ』
「そうですか。お褒めいただき光栄です。しかし、やはり自由が奪われるのは心外です。私はここで勝とうと思います」
『おい、本気で言ってるのか?』
「ええ、私は本気ですよ。せっかく勝てるかもしれない状況なのに、これを見逃すなんてあり得ません」
『おい、待て! これは戦略的な判断だ! お前達現場が勝手なことをするのは許さんぞ!』
「ふふ。失礼します、閣下」
エンタープライズはアイゼンハワー首相との通信を切断した。
「おいおい本気か、エンタープライズ?」
「ええ、私は本気ですよ。そもそも、元帥閣下も私を止める気がないではありませんか」
「勝機はあるんだろう? 俺もアメリカ軍人だ。枢軸国に一泡吹かせたいとは思っている」
別にエンタープライズにそんな気はなかったが、お目付け役のマッカーサー元帥と利害は一致した。
受話器を取るや早々に、アイゼンハワー首相の怒号が響き渡った。
「落ち着けよ、アイゼンハワー」
『これが落ち着いていられるか! で、どうなんだ? イエスか? ノーか?』
「そうだなあ、人によって判断が分かれると言ったところだ」
『何? 詳しく説明しろ!』
「エンタープライズの原子炉の真上が爆撃されて、飛行甲板を爆弾が貫通したのも事実だが、原子炉に直接の被害は及んでいない」
『そうか。では、もう何回か爆撃を受ければ原子炉が攻撃されるかもしれないんだな?』
エンタープライズの装甲は飛行甲板のみである。飛行甲板の装甲をぶち抜かれたということは、次は原子炉が攻撃される番ということだ。
「それはそうだが――」
『だったらこれ以上エンタープライズを前線に出す訳にはいかん!! 今すぐエンタープライズを撤退させろッ!!』
「おいおい、何の根拠があって――」
『もしも原子炉に爆弾が直接当たったらどうなる!? とんでもない環境汚染が起こるぞ!!』
「おいおい、お前はいつから環境活動家に成り下がったんだ?」
『茶化すな!! そんな次元の話ではない!! ニューオーリンズどころかルイジアナが居住不能になるかもしれないんだぞ!!』
「大袈裟だなあ、お前は」
『そんな危険は容認できない!! 今すぐ撤退しろ!!』
アイゼンハワー首相は聞く耳がなさそうである。マッカーサー元帥も実際のところ原子炉の仕組みなんぞ大して知らないので、あまり言い返すこともできなかった。と、その時、エンタープライズが元帥に声を掛けた。
「元帥閣下、私に代わっていただいても?」
「ん? ああ、構わんぞ」
珍しくアイゼンハワー首相とエンタープライズが言葉を交わすことになった。
「首相閣下、エンタープライズです」
『何か言いたいことでも?』
「閣下の言い分は些か非合理的でしたから、言い返したくなってしまいました」
『……言ってみろ』
「まず、私の原子炉はハワイ級戦艦よりも厚い装甲に覆われています。多少の爆弾程度で損壊することはあり得ません」
『装甲が破られなくても爆発の衝撃で不具合を起こすかもしれんだろ』
「非常時には制御棒を全て投入するよう設計されています。何も心配は要りません」
中性子を吸収し核分裂を起こりにくくする制御棒であるが、これは電磁石によって持ち上げられており、万が一停電した場合は全てが自動的に投下される仕組みになっている。
『分かった。地球環境への心配は不要のようだ。だが、機関が停止すれば君は敵に鹵獲されるだろう。我が国の技術、それも最高機密が漏洩することは許されない』
「我が国の技術、ですか。ふふっ。そんなに誇れるものがありましたっけ?」
『お前は世界初の原子力空母だろうが。核の軍事利用については我が国が独走している』
「まあ、そういうことにしておきましょう。ですがその心配も要りません。いざとなったら自沈しますから」
『それも許されない。君がいなくなったら誰が東海岸を守るんだ?』
「南部を見捨てて、そんなことを言うのですか? 大体、ここで敵に打撃を与えなければ、日本とドイツが一緒になってワシントンに攻め込んで来るんですよ? 私でも、それを食い止められる自身はありません」
『……いいか、エンタープライズ。降伏というのは、余力があってこそ成立するんだ。分かるな?』
アイゼンハワー首相は唐突な説教を始める。エンタープライズは首相が何を言いたいのかすぐに予想できたが、あえて揶揄う。
「急に何を仰るんですか、首相閣下? まさか閣下は敗北主義者ではないでしょうね?」
『これは君とマッカーサー元帥をそれなりに信用しての言葉だが、この戦争は、勝てない。我々にできることは、敵に上手く降伏する方法を考えることだけだ』
「……私を残しておけば、枢軸国が講和交渉に応じると?」
『そうだ。君は枢軸国にも大いに恐れられている。君がいればこそ、我々は交渉の席に着くことができる』
「ですが、それでは私がどうなるか分からないではありませんか。降伏なんてしたら、解体されてしまうかもしれません。それは非常に不愉快です」
『……そんなことはあるまい。君ほどの軍艦を解体する馬鹿がいるとは思えんよ』
「そうですか。お褒めいただき光栄です。しかし、やはり自由が奪われるのは心外です。私はここで勝とうと思います」
『おい、本気で言ってるのか?』
「ええ、私は本気ですよ。せっかく勝てるかもしれない状況なのに、これを見逃すなんてあり得ません」
『おい、待て! これは戦略的な判断だ! お前達現場が勝手なことをするのは許さんぞ!』
「ふふ。失礼します、閣下」
エンタープライズはアイゼンハワー首相との通信を切断した。
「おいおい本気か、エンタープライズ?」
「ええ、私は本気ですよ。そもそも、元帥閣下も私を止める気がないではありませんか」
「勝機はあるんだろう? 俺もアメリカ軍人だ。枢軸国に一泡吹かせたいとは思っている」
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