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第十九章 メキシコ戦役
エンタープライズの特攻
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ソビエツキー・ソユーズの艦橋が一番高いので早々にコメットを発見したが、他の艦も間もなくそれを電探に捉えた。
『全艦、対空戦闘用意! 戦艦、巡洋艦は三式弾を発射用意せよ!』
長門は連合艦隊全艦に命令した。三式弾はソ連でも日本から設計図の供与を受けて生産されており、互換性はないがほぼ同じ性能である。三式弾という名前は口径と関係ないので、妙高など重巡洋艦達も三式弾を装填して、コメットの襲来を待った。
『はぁ。今度もロクなことにならない予感がするのだけど』
山城が12門の主砲を空に向けつつぼやくと、扶桑が窘めるように応えた。
『山城、そんなことを言っていたら本当に不運が訪れますよ?』
『言っても言わなくても結果は変わらないわよ』
『でしたら、艦隊の士気を下げるようなことは言わない方がいいのではありませんか?』
『事前に予告していた方がいいでしょう?』
『ふむ……そういう考え方もありますが……』
扶桑型の姉妹がすっかり内輪の会話をしていると、長門が我慢していられなくなった。
『お前達! 余計な口を叩くな!』
『これは、申し訳ありません。わたくしとしたことが、つい妹と話し込んでしまいました。ほら、山城も』
『え、あー、ごめんなさい』
『まあ、お前達のお陰で緊張も解けた。それはよかったと思うぞ』
『あら、それは喜ばしいことです』
『お前達には期待している』
扶桑型の12門の主砲は対空砲火にはもってこいである。船魄化される前は主砲で対空砲火など非現実的だったので特に役立つことはなかったが、今はコメットに対しても有効な兵器である。
『敵編隊、数はおよそ30、距離300kmを切った』
あっという間に敵が迫りつつあることを、ソビエツカヤ・ベラルーシが淡々と報告する。超音速も超音速のコメットは400kmの距離を進むのに15分もかからないのである。
『了解。報告より随分と数が少ないようだが……油断するべきではない。奴が主砲の射程に入ってから、撃てるのは精々が3発だ。百発百中させる心構えをしておけ』
『同志長門は我々の中では対空戦闘に向いていないのだ。あまり無理をするな』
『心配は無用だ。自分の役目に集中しろ』
そしてコメットが主砲の射程に入って来るのに、5分と少ししか掛からなかった。
『全艦、撃ち方始め!!』
まずは戦艦が三式弾の斉射を行い、その着弾より前に重巡洋艦達も斉射を開始した。戦艦達は更に、弾着を確認する前に次の斉射を行う。一刻も早く次の砲弾を叩き込まなければならないのだ。僅かな間を置いて戦艦の三式弾が炸裂し、コメットの前に炎の壁を作り上げた。
『――何? ほとんど落ちていないのか?』
『そうみたいね。時限信管はちゃんと調停してるから、回避されたみたいね……』
陸奥は余裕がなさそうな声で言った。和泉の戦闘経験からコメットに対して時限信管を早めに調整しておかなければならないことは知れている。しっかり調整したにも拘わらず当たらなかったということは、回避されたということだ。
『まさか、あの速度でマトモな回避運動ができるとでも?』
『さあ。私に言われても困るわよ』
『クッ……何て奴だ……』
重巡洋艦の三式弾、そして種々の高角砲や機関砲による対空砲火も回避し、最後に残った8機のコメットが突入した先はソビエツキー・ソユーズであった。
『狙いは、私か……』
『お姉ちゃんッ!! 大丈夫!?』
耳をつんざくような声でソビエツカヤ・ウクライナが叫ぶ。
『あ、ああ、同志ウクライナ。私は、クッ……問題ない』
実際のところ、空からの攻撃ということで損害はやはり艦の上部に集中し、航行に支障はない。しかしソビエツキー・ソユーズの分厚い装甲も2ヶ所で貫通され、艦内に大きな被害が出ていた。
『問題なくなんてないよ!! あいつら早く殺さないと!!』
『落ち着け、同志ウクライナ。敵は、遥か遠くにいる。今は、防御に徹するべきだ』
『そうだよ、ウクライナ。今はソユーズ姉さんの盾になってやってくれ』
『わ、分かった!! ソユーズお姉ちゃんは傷付けさせない!!』
ソビエツカヤ・ウクライナはソビエツキー・ソユーズのすぐ横に陣取って離れなかった。
○
「ふふふ。自爆なんて久しぶりです。なかなか痛いものですね」
「お前は全く辛そうに見えないな」
エンタープライズは僅かに息を上がらせて汗を垂らしていたが、その顔には笑みしか浮かんでいない。
「新しい兵器を扱うのは結構楽しいんですよ? 多少の痛みくらいどうということはありません」
「まあ俺には船魄の痛みなんぞ分からんが、並の船魄ならとっくに気を失ってるぞ」
「そうですか? 最近の若い子はひ弱ですね」
「そうかい。ところで、コメットは使い心地はどうだった? ちゃんと制御できるか?」
「私でも少し難しいですが、砲弾を回避するくらいはできますよ」
「十分だ。まあ問題は、どれくらいの損害を与えたのか分からないってことだが」
「どうでしょうね。もう一度やれば分かることです」
「いいんだな?」
「ええ。早く準備をしてください」
コメットⅢ型艦載機型は急造のもので、飛行甲板には人力で上げなければならない。
『全艦、対空戦闘用意! 戦艦、巡洋艦は三式弾を発射用意せよ!』
長門は連合艦隊全艦に命令した。三式弾はソ連でも日本から設計図の供与を受けて生産されており、互換性はないがほぼ同じ性能である。三式弾という名前は口径と関係ないので、妙高など重巡洋艦達も三式弾を装填して、コメットの襲来を待った。
『はぁ。今度もロクなことにならない予感がするのだけど』
山城が12門の主砲を空に向けつつぼやくと、扶桑が窘めるように応えた。
『山城、そんなことを言っていたら本当に不運が訪れますよ?』
『言っても言わなくても結果は変わらないわよ』
『でしたら、艦隊の士気を下げるようなことは言わない方がいいのではありませんか?』
『事前に予告していた方がいいでしょう?』
『ふむ……そういう考え方もありますが……』
扶桑型の姉妹がすっかり内輪の会話をしていると、長門が我慢していられなくなった。
『お前達! 余計な口を叩くな!』
『これは、申し訳ありません。わたくしとしたことが、つい妹と話し込んでしまいました。ほら、山城も』
『え、あー、ごめんなさい』
『まあ、お前達のお陰で緊張も解けた。それはよかったと思うぞ』
『あら、それは喜ばしいことです』
『お前達には期待している』
扶桑型の12門の主砲は対空砲火にはもってこいである。船魄化される前は主砲で対空砲火など非現実的だったので特に役立つことはなかったが、今はコメットに対しても有効な兵器である。
『敵編隊、数はおよそ30、距離300kmを切った』
あっという間に敵が迫りつつあることを、ソビエツカヤ・ベラルーシが淡々と報告する。超音速も超音速のコメットは400kmの距離を進むのに15分もかからないのである。
『了解。報告より随分と数が少ないようだが……油断するべきではない。奴が主砲の射程に入ってから、撃てるのは精々が3発だ。百発百中させる心構えをしておけ』
『同志長門は我々の中では対空戦闘に向いていないのだ。あまり無理をするな』
『心配は無用だ。自分の役目に集中しろ』
そしてコメットが主砲の射程に入って来るのに、5分と少ししか掛からなかった。
『全艦、撃ち方始め!!』
まずは戦艦が三式弾の斉射を行い、その着弾より前に重巡洋艦達も斉射を開始した。戦艦達は更に、弾着を確認する前に次の斉射を行う。一刻も早く次の砲弾を叩き込まなければならないのだ。僅かな間を置いて戦艦の三式弾が炸裂し、コメットの前に炎の壁を作り上げた。
『――何? ほとんど落ちていないのか?』
『そうみたいね。時限信管はちゃんと調停してるから、回避されたみたいね……』
陸奥は余裕がなさそうな声で言った。和泉の戦闘経験からコメットに対して時限信管を早めに調整しておかなければならないことは知れている。しっかり調整したにも拘わらず当たらなかったということは、回避されたということだ。
『まさか、あの速度でマトモな回避運動ができるとでも?』
『さあ。私に言われても困るわよ』
『クッ……何て奴だ……』
重巡洋艦の三式弾、そして種々の高角砲や機関砲による対空砲火も回避し、最後に残った8機のコメットが突入した先はソビエツキー・ソユーズであった。
『狙いは、私か……』
『お姉ちゃんッ!! 大丈夫!?』
耳をつんざくような声でソビエツカヤ・ウクライナが叫ぶ。
『あ、ああ、同志ウクライナ。私は、クッ……問題ない』
実際のところ、空からの攻撃ということで損害はやはり艦の上部に集中し、航行に支障はない。しかしソビエツキー・ソユーズの分厚い装甲も2ヶ所で貫通され、艦内に大きな被害が出ていた。
『問題なくなんてないよ!! あいつら早く殺さないと!!』
『落ち着け、同志ウクライナ。敵は、遥か遠くにいる。今は、防御に徹するべきだ』
『そうだよ、ウクライナ。今はソユーズ姉さんの盾になってやってくれ』
『わ、分かった!! ソユーズお姉ちゃんは傷付けさせない!!』
ソビエツカヤ・ウクライナはソビエツキー・ソユーズのすぐ横に陣取って離れなかった。
○
「ふふふ。自爆なんて久しぶりです。なかなか痛いものですね」
「お前は全く辛そうに見えないな」
エンタープライズは僅かに息を上がらせて汗を垂らしていたが、その顔には笑みしか浮かんでいない。
「新しい兵器を扱うのは結構楽しいんですよ? 多少の痛みくらいどうということはありません」
「まあ俺には船魄の痛みなんぞ分からんが、並の船魄ならとっくに気を失ってるぞ」
「そうですか? 最近の若い子はひ弱ですね」
「そうかい。ところで、コメットは使い心地はどうだった? ちゃんと制御できるか?」
「私でも少し難しいですが、砲弾を回避するくらいはできますよ」
「十分だ。まあ問題は、どれくらいの損害を与えたのか分からないってことだが」
「どうでしょうね。もう一度やれば分かることです」
「いいんだな?」
「ええ。早く準備をしてください」
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