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第十九章 メキシコ戦役

日ソ共同作戦

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 さて、和泉達がサンフランシスコを去った後、アメリカ海軍はすぐさま攻撃を仕掛けてきた。辻中将らが立て籠る防空壕に、地震のような衝撃が何度となく走った。

「これは……ハワイ級戦艦の艦砲射撃か。警告もなしとは、実にアメリカ人らしいな」
「民間人を避難させる場所はありません……。我々には何も……」

 アメリカ軍は民間人が数十万はいるサンフランシスコに、容赦なく艦砲射撃と空襲を行っている。本気でここに居住しているメキシコ人を皆殺しにするつもりのようだ。

「クソッ。野蛮人どもめ。だが、状況は圧倒的に不利だが、それでも我々は時間を稼がねばならない。分かっているな?」
「はっ!」
「メキシコは帝国の友邦である! サンフランシスコを守ることは帝都を守るも同じだと思え! 徹底抗戦である! アメリカ人を一人たりとも踏み入らせるな!!」

 辻中将はサンフランシスコを要塞化し、最後の一兵になるまで戦い続けるつもりであった。

 ○

 一九五六年三月十七日、大日本帝国領コスタリカ、プエルト・リモン鎮守府。

 一方その頃。パナマ運河が破壊されたことでカリブ海に孤立してしまった第五・第六・第七艦隊及び月虹であるが、西海岸のアメリカ艦隊に対しては現有の戦力だけで十分優位である。

 長門は連合艦隊司令部からある命令を受けとっていた。

「テキサスの攻略か。ようやく奴らに反撃できる」

 長門に任されたのはアメリカ本土への攻撃であった。アメリカの南海岸を攻撃し、アメリカ海軍を壊滅させて、艦砲射撃や空襲によってアメリカ陸軍の側面を脅かすのである。メキシコ湾の制海権が失われれば、アメリカ軍もそう簡単にメキシコに攻め込むことはできまい。

「敵はエンタープライズくらいしか見るところがないし、余裕なんじゃない?」

 陸奥は他人事みたく緊張感のない声で言う。

「私達は帝国本土との連絡を遮断されているも同然なのだ。慎重に作戦を進めるべきだ」
「そう。じゃあ瑞鶴にも助けを求めるの?」
「……そうだな。信濃と大鳳が太平洋に置き去りにされてしまっている以上、こちらの空母は不足している。奴らの手を借りるべきだろう」
「合理的な結論ね。で、瑞鶴への連絡は誰がやるの?」

 いつもこういう時の連絡は信濃が担当であった。

「私がやろう。今は多少のわだかまりを気にしている時ではない」
「分かったわ。それと、ソ連は助けてくれるの? 特に何の話も聞いてないけど」
「さあな。それは私の権限の及ぶところではない」

 既に第六艦隊と第七艦隊はプエルト・リモン鎮守府に向かっている。もう間もなく到着するだろう。月虹も本拠地となる海上要塞は一日の距離にある。ソ連海軍もどうやら、帝国海軍に協力してくれるらしい。

「――何の話も出てないけど、ドイツ海軍はどうするのかしらね?」
「つい先日シャルンホルストを沈めたばかりなんだ。いきなり手を取り合って戦おうというのは無理があるだろう」
「多少のわだかまりは気にしないんじゃなかったの?」
「これは多少どころではない。それに、お互いに信用を置けない状況では、作戦に支障が出かねん」

 シャルンホルストを沈められたことについてドイツ海軍がどう受け止めているのかは長門の知り及ぶところではないのだが、もしも強い恨みを持っていたら作戦が瓦解しかねない。帝国海軍とドイツ海軍は別れて行動するべきだろう。

「ふーん。瑞鶴は信用してるんだ」
「ま、まあ、奴は馬鹿なことはしないからな」
「そう」

 他愛もない話をしているとその時、急の電報が運ばれて来た。長門が開けてみると、発信所は鳳翔であった。

「――鳳翔は何て?」
「アメリカ軍の特攻機の危険が去るまで作戦には参加できないから申し訳ない、とのことだ」
「せっかく帝国海軍最大の軍艦なのに」
「まあ、原子炉とかがもしも被弾したら一大事だからな」
「何の為に原子力空母なんて造ったのやら」
「平時には原子力船ほど使い勝手がいいものもないだろう。戦時は危険過ぎで投入できないが」
「じゃあ何でエンタープライズは平然と最前線にいるの?」
「それは……奴を使わざるを得ないほどアメリカに余裕がないから、だろうな。恐らくは」

 今のところ世界にたったの二隻しかない原子力艦である。万が一にも沈められるとあっては国家の威信に関わる一大事だ。コメットの脅威がある以上、鳳翔を前線に出すことは不可能と判断された。

 とは言え、鳳翔がいなくとも、プエルト・リモン鎮守府に結集した艦隊は非常に大規模なものである。

「同志長門! また共に戦えることを嬉しく思うぞ!」

 ソビエツキー・ソユーズは早速長門の執務室に上がって来た。今日はソビエツカヤ・ウクライナやソビエツカヤ・ベラルーシは連れていないらしい。

「あ、ああ。私としても嬉しく思うぞ」
「うむ。とは言え、あの瑞鶴どもと一緒に戦うというのは、少々不快ではあるな」
「その心情は理解する。だが、今は非常時なのだ。手を貸してもらいたい」
「もちろんだとも、同志長門! 我々はそのような個人的な感情で判断を鈍らせるような愚者ではない」
「それはよかった。旗艦らには一時的に私の指揮下に入ってもらおうと思うのだが、構わないか?」
「無論だ。我々は同志なのだからな!」
「あ、ああ……」

 何についての同志なのか、長門は未だによく分かっていないのであった。ともかく、こうして長門の下には彼女自身を含めて7隻の戦艦が結集したのである。
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