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第十九章 メキシコ戦役
メキシコ侵攻Ⅱ
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一九五六年三月十三日、アメリカ合衆国コロンビア特別区、首相官邸ホワイトハウス。
「メキシコ戦線は至って順調。二週間以内にカリフォルニアは全土占領できるでしょう」
ジョージ・マーシャル元帥はアイゼンハワー首相にそう報告した。マーシャル元帥は第二次世界大戦においては陸軍参謀総長を勤め、陸軍で最も経験豊富な人材の一人である。そしてアイゼンハワー首相の要請を受け、再び陸軍参謀総長に就任していた。
「それなら、日本の連合艦隊が西海岸に押し寄せるのに間に合うな」
「ええ。日本軍もそう簡単に上陸作戦とは行かないでしょう。しかし、サンフランシスコには和泉型戦艦がいます。これをどうにかしなければ、サンフランシスコの占領は不可能でしょう」
「そうだな……。だがそれが難しい」
サンフランシスコを占領できなければ、国連軍はそこから悠々と上陸して、カリフォルニアの奪還に動くだろう。ソ連軍が上陸して来たら勝ち目はない。
「我が方の全力を出せば、幾ら強力と言っても和泉型を打倒することは可能だろう。だが、わざわざ和泉を沈める必要はないんじゃないか? どうせ制海権が確保できていなければ、大規模な上陸作戦は行えないだろう」
「いいえ、閣下。であれば、日本海軍は我が海軍を全滅させに掛かってくることでしょう。その時は恐らく、和泉型の三隻が揃います。あのような戦艦が三隻もいたら、勝ち目などありませんかと。陸軍の私には断言できませんが」
「確かに、敵の戦力が分散している好機とも言えるか。ここで和泉型を沈めるべきか……」
アイゼンハワー首相は念の為にスプルーアンス元帥に諮問したが、和泉への攻撃が適当だろうとの回答を得て、和泉への総攻撃を海軍に下命した。
○
さて、アメリカの西海岸と東海岸は、パナマ運河の主権がパナマ共和国に返還されたことで、分断されているに等しい。南アメリカ大陸を一回りして両岸を行き来するなど正気の沙汰ではない。
という訳でアメリカは西海岸と東海岸に別個に艦隊を配備しており、西海岸を担当するのは第1艦隊である。更に言うと第1艦隊の本来の根拠地であるニューポートニューズは日本の勢力圏に近過ぎるので、基本的にはカナダに配置されている。
そして実の所、第1艦隊は他の艦隊を全て合わせたものより強力な、アメリカ海軍の最大戦力である。これはアメリカ海軍にとって最大の脅威が日本海軍だからというのと、太平洋の制海権さえ保持していればソ連軍のアラスカへの補給を断てるという目論見があってのものである。
「――アメリカ第1艦隊が動き出しました。ほとんど総力を挙げて出撃してきた模様です」
草鹿大将に報告が入った。アメリカは連合艦隊が到着する前に和泉を沈めたいようだ。連合艦隊とは言わず第一艦隊だけを向かわせたとしても2週間は掛かるだろう。とても間に合わない。
「弱ったな……。流石にアメリカ海軍の半分を相手にするのは不可能だ」
「そんなことを言ったら和泉が怒るんじゃありませんか?」
「彼女とて、勝てない戦であることくらいは理解している筈だ」
と言って草鹿大将は和泉にサンフランシスコからの撤退を提案したが、彼女は非常に不満そうである。
「それなら、第五艦隊を全部こっちに回せばいい。ついでに月虹も。エンタープライズ対策は第六と第七艦隊がいれば十分だ」
「瑞鶴を呼んだとして……それでも戦力は劣勢だと言わざるを得ない」
「私がいればアメリカの46cm砲艦なんて簡単に沈められる。長門と陸奥には邪魔な雑魚の相手をしてもらえばいい」
アメリカは実の所46cm砲装備の戦艦を保有しており、それを全て第1艦隊に配備している。46cm砲を12門装備し、51cm砲はないものの超大和級と見なされるアメリカの切り札、ハワイ級戦艦である。同型艦にはアラスカとカリフォルニアがある。艦名は言わずもがな第二次世界大戦でアメリカが失った州の名前であり、ハワイ王国とメキシコが厳重に抗議したもののアメリカは黙殺した。
「ハワイ級戦艦の砲弾投射量は君と大差がない」
「だけど、46cm砲弾は私の装甲を貫けない」
「貫通できないだけであって無傷で済む訳ではない。何発も同じ場所を撃たれれば、いずれ破壊されることは目に見えている」
「なら、その前に全て沈めてやればいい」
ハワイ級戦艦の装甲は46cm砲に耐えることを目的にしている。和泉の51cm砲弾が当たれば一撃で貫通されることは間違いない。
「しかしな……」
「何を渋っているんだ、草鹿? 連合艦隊司令長官は陣頭で指揮を執ると、東郷元帥以来の伝統じゃなかったのかな?」
「……よかろう。最悪の場合は港に着底させれば、君が失われることはない」
「その割り切り方は不愉快だけど、まあいいよ。すぐに第五艦隊全艦を呼びつけて」
「まったく、連合艦隊司令長官に命令する権限なんてない筈なんだがな」
とは言いつつ、草鹿大将は第五艦隊をサンフランシスコに向かわせ、月虹にも支援要請を出した。しかし、その数時間後のことであった。地上の辻中将に緊急の電報が入った。
「閣下! フロリダよりパナマ方向に向かう敵航空機多数とのこと!」
「何? まさか、パナマ運河を破壊する気か! それはマズい! パナマ運河を死守しなければ!」
どうせ使えないのならパナマ運河は破壊した方がよいと、アメリカ軍は判断したらしい。
「メキシコ戦線は至って順調。二週間以内にカリフォルニアは全土占領できるでしょう」
ジョージ・マーシャル元帥はアイゼンハワー首相にそう報告した。マーシャル元帥は第二次世界大戦においては陸軍参謀総長を勤め、陸軍で最も経験豊富な人材の一人である。そしてアイゼンハワー首相の要請を受け、再び陸軍参謀総長に就任していた。
「それなら、日本の連合艦隊が西海岸に押し寄せるのに間に合うな」
「ええ。日本軍もそう簡単に上陸作戦とは行かないでしょう。しかし、サンフランシスコには和泉型戦艦がいます。これをどうにかしなければ、サンフランシスコの占領は不可能でしょう」
「そうだな……。だがそれが難しい」
サンフランシスコを占領できなければ、国連軍はそこから悠々と上陸して、カリフォルニアの奪還に動くだろう。ソ連軍が上陸して来たら勝ち目はない。
「我が方の全力を出せば、幾ら強力と言っても和泉型を打倒することは可能だろう。だが、わざわざ和泉を沈める必要はないんじゃないか? どうせ制海権が確保できていなければ、大規模な上陸作戦は行えないだろう」
「いいえ、閣下。であれば、日本海軍は我が海軍を全滅させに掛かってくることでしょう。その時は恐らく、和泉型の三隻が揃います。あのような戦艦が三隻もいたら、勝ち目などありませんかと。陸軍の私には断言できませんが」
「確かに、敵の戦力が分散している好機とも言えるか。ここで和泉型を沈めるべきか……」
アイゼンハワー首相は念の為にスプルーアンス元帥に諮問したが、和泉への攻撃が適当だろうとの回答を得て、和泉への総攻撃を海軍に下命した。
○
さて、アメリカの西海岸と東海岸は、パナマ運河の主権がパナマ共和国に返還されたことで、分断されているに等しい。南アメリカ大陸を一回りして両岸を行き来するなど正気の沙汰ではない。
という訳でアメリカは西海岸と東海岸に別個に艦隊を配備しており、西海岸を担当するのは第1艦隊である。更に言うと第1艦隊の本来の根拠地であるニューポートニューズは日本の勢力圏に近過ぎるので、基本的にはカナダに配置されている。
そして実の所、第1艦隊は他の艦隊を全て合わせたものより強力な、アメリカ海軍の最大戦力である。これはアメリカ海軍にとって最大の脅威が日本海軍だからというのと、太平洋の制海権さえ保持していればソ連軍のアラスカへの補給を断てるという目論見があってのものである。
「――アメリカ第1艦隊が動き出しました。ほとんど総力を挙げて出撃してきた模様です」
草鹿大将に報告が入った。アメリカは連合艦隊が到着する前に和泉を沈めたいようだ。連合艦隊とは言わず第一艦隊だけを向かわせたとしても2週間は掛かるだろう。とても間に合わない。
「弱ったな……。流石にアメリカ海軍の半分を相手にするのは不可能だ」
「そんなことを言ったら和泉が怒るんじゃありませんか?」
「彼女とて、勝てない戦であることくらいは理解している筈だ」
と言って草鹿大将は和泉にサンフランシスコからの撤退を提案したが、彼女は非常に不満そうである。
「それなら、第五艦隊を全部こっちに回せばいい。ついでに月虹も。エンタープライズ対策は第六と第七艦隊がいれば十分だ」
「瑞鶴を呼んだとして……それでも戦力は劣勢だと言わざるを得ない」
「私がいればアメリカの46cm砲艦なんて簡単に沈められる。長門と陸奥には邪魔な雑魚の相手をしてもらえばいい」
アメリカは実の所46cm砲装備の戦艦を保有しており、それを全て第1艦隊に配備している。46cm砲を12門装備し、51cm砲はないものの超大和級と見なされるアメリカの切り札、ハワイ級戦艦である。同型艦にはアラスカとカリフォルニアがある。艦名は言わずもがな第二次世界大戦でアメリカが失った州の名前であり、ハワイ王国とメキシコが厳重に抗議したもののアメリカは黙殺した。
「ハワイ級戦艦の砲弾投射量は君と大差がない」
「だけど、46cm砲弾は私の装甲を貫けない」
「貫通できないだけであって無傷で済む訳ではない。何発も同じ場所を撃たれれば、いずれ破壊されることは目に見えている」
「なら、その前に全て沈めてやればいい」
ハワイ級戦艦の装甲は46cm砲に耐えることを目的にしている。和泉の51cm砲弾が当たれば一撃で貫通されることは間違いない。
「しかしな……」
「何を渋っているんだ、草鹿? 連合艦隊司令長官は陣頭で指揮を執ると、東郷元帥以来の伝統じゃなかったのかな?」
「……よかろう。最悪の場合は港に着底させれば、君が失われることはない」
「その割り切り方は不愉快だけど、まあいいよ。すぐに第五艦隊全艦を呼びつけて」
「まったく、連合艦隊司令長官に命令する権限なんてない筈なんだがな」
とは言いつつ、草鹿大将は第五艦隊をサンフランシスコに向かわせ、月虹にも支援要請を出した。しかし、その数時間後のことであった。地上の辻中将に緊急の電報が入った。
「閣下! フロリダよりパナマ方向に向かう敵航空機多数とのこと!」
「何? まさか、パナマ運河を破壊する気か! それはマズい! パナマ運河を死守しなければ!」
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