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第十八章 日独交渉
日独和平交渉
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海上要塞は一先ず、前線より少々東に行った北緯21度3分辺りに碇を降ろして停泊した。もっと南東の安全地帯に行ってもよかったのだが、曳航が非常な労力と集中力を必要とすることは、ここにいる誰もが(ゲバラは分からないかもしれないが)知っているので、多少危険でも移動距離が短い方がよいという結論に達した。
前線に近いと言ってもアメリカの野戦砲の射程からは遠く離れており、危険と言ってもアメリカ軍がわざわざ海上要塞を攻撃する理由もないので、大して心配する必要もないだろう。
月虹はキューバのアメリカ軍を適当に爆撃したり砲撃したりして殺して回りつつ、海上要塞内部の整備に取り掛かった。部屋の掃除や家具の整理などはキューバ軍にも手伝ってもらい、月虹専用の基地ができあがりつつあった。
ようやく落ち着ける場所を手に入れた月虹であったが、どうやら世間はそれを許してくれないらしい。月虹に接触を試みる者が現れたのである。
「直に会って話をしたい、ねえ」
瑞鶴は届いた電報に目を通す。
「しかも、送り主は内大臣府秘書官って、何がどうなってるのよ」
「何だそれは?」
ツェッペリンは尋ねる。日本の省庁のことなどツェッペリンが知っている訳がないのである。まあ瑞鶴もドイツの省庁のことなどまるで知らないが。
「何って言われると……私も説明できるほどは知らないわ」
「お前も知らないのか」
「よくは知らないけど、まあ、陛下を常に輔弼している連中ってところかしら。それと、内大臣は陸軍の阿南惟幾がやってるわね」
内大臣府は宮内省の外局であり、構成員十数人の非常に小規模な部署である。その役目は天皇を常侍輔弼することだとされているが、明確に内大臣の役割を規定した法律などは存在しない。しかし重臣会議や大本営政府連絡会議の取り纏めを務めるなど、強力な政治的影響力を有している。
「そ奴は知らんが、まあ大体は分かった。党官房のようなものだな。であれば、どうして我らに電報など送ってきたのか訳が分からんな」
「そう言ってるのよ。阿南は何考えてるのかしら」
内大臣府は内大臣の補佐を主とする部局であり、内大臣府からの電報というのは阿南内大臣が積極的に関与しているということだ。
「で、我らと会いたいらしいが、どうするのだ?」
「まあそう言うなら拒否する理由はないわ。面白そうだし」
「それでよかろう」
という訳で瑞鶴は内大臣府からの使者に会うことにした。まだ海上要塞の整備は終わっていないので、いつも通り瑞鶴艦内の元艦長公室で応接することにした。
「こんにちは、瑞鶴。私は陸軍大将の下村定だ。一応は現役の将官だが、軍務からは離れて今は内大臣府で阿南さんの下で働いている」
瑞鶴に乗り込んで来たのは、あまり軍人らしくない柔和そうな男であった。
「瑞鶴よ。陸軍の人間なんて知らないけど、まあそれなりの人間みたいね」
「お褒めいただき光栄だ」
「でも阿南は来ないのね」
「阿南さんは多忙だからね。こんなところまで自ら来るほどの暇はないんだ」
「あ、そう。まあいいわ。入って」
瑞鶴は下村大将を応接間に案内した。
「で、およそ私達とは関係なさそうな内大臣府が何の用なのかしら?」
「そうだね……。まあ勿体ぶらずに言うとしようか。内大臣閣下は、ドイツとの関係改善を図っている。君達にはそれに手を貸して欲しいんだ」
「はぁ。全く話が繋がらないんだけど」
「君達にやってもらいたい仕事は、ドイツとの交渉人を交渉場所まで運ぶことだ。それだけでいい」
「それだけ? それ私達がやる必要ある?」
「それがあるんだ。現状、日本とドイツの関係は最悪だが、これはそう簡単に修復できるものではない。お互いが関係改善を望んでいたとしてもね」
国家には面子というものがある。戦艦を撃沈されというとんでもない面汚しをされて友好的な態度を取るなど、日本に媚びへつらっているようにしか見られないだろう。
「まあそれは分かるけど、それがどう私達と関係するの?」
「この事態を打破する為にはね、劇的な何かが必要なんだ。面子など気にしていられないほど衝撃的な何かがね」
「じゃあ何? 外務省に内緒でドイツと交渉する気なの?」
「交渉するというのは、半分は正解だが半分は間違いだね。必要なのはパフォーマンスなんだ。中身は大して重要ではない。全世界があっと驚く会談を開くんだ。そして最大限に衝撃的な展開を演出するには、直前まで誰も知らないのがいいだろう」
「子供の悪戯みたいね」
「ああ、まさにその通りだよ」
「え」
「我々は常識的に考えれば乗り越えられない壁を越えようとしているんだ。そのくらいはしないとね」
「あ、そう。分かった。で、誰と誰が交渉するのよ? 石橋首相でも連れてくの?」
「申し訳ないがそれは秘密だ。万が一にも情報が漏れないとは限らないからね。だが、上手くいけば、この戦争を終わらせられるかもしれない」
「関係の修復以上のことをしようとしてるの?」
「そういうことだ。そしてそれには君の協力が不可欠なのだよ」
「……分かった。ちょっと待ってて。皆と話してくるから」
要するに帝国政府に内緒でドイツと交渉する為に月虹を使いたいらしい。瑞鶴は月虹の皆と話すべく海上要塞に戻った。
前線に近いと言ってもアメリカの野戦砲の射程からは遠く離れており、危険と言ってもアメリカ軍がわざわざ海上要塞を攻撃する理由もないので、大して心配する必要もないだろう。
月虹はキューバのアメリカ軍を適当に爆撃したり砲撃したりして殺して回りつつ、海上要塞内部の整備に取り掛かった。部屋の掃除や家具の整理などはキューバ軍にも手伝ってもらい、月虹専用の基地ができあがりつつあった。
ようやく落ち着ける場所を手に入れた月虹であったが、どうやら世間はそれを許してくれないらしい。月虹に接触を試みる者が現れたのである。
「直に会って話をしたい、ねえ」
瑞鶴は届いた電報に目を通す。
「しかも、送り主は内大臣府秘書官って、何がどうなってるのよ」
「何だそれは?」
ツェッペリンは尋ねる。日本の省庁のことなどツェッペリンが知っている訳がないのである。まあ瑞鶴もドイツの省庁のことなどまるで知らないが。
「何って言われると……私も説明できるほどは知らないわ」
「お前も知らないのか」
「よくは知らないけど、まあ、陛下を常に輔弼している連中ってところかしら。それと、内大臣は陸軍の阿南惟幾がやってるわね」
内大臣府は宮内省の外局であり、構成員十数人の非常に小規模な部署である。その役目は天皇を常侍輔弼することだとされているが、明確に内大臣の役割を規定した法律などは存在しない。しかし重臣会議や大本営政府連絡会議の取り纏めを務めるなど、強力な政治的影響力を有している。
「そ奴は知らんが、まあ大体は分かった。党官房のようなものだな。であれば、どうして我らに電報など送ってきたのか訳が分からんな」
「そう言ってるのよ。阿南は何考えてるのかしら」
内大臣府は内大臣の補佐を主とする部局であり、内大臣府からの電報というのは阿南内大臣が積極的に関与しているということだ。
「で、我らと会いたいらしいが、どうするのだ?」
「まあそう言うなら拒否する理由はないわ。面白そうだし」
「それでよかろう」
という訳で瑞鶴は内大臣府からの使者に会うことにした。まだ海上要塞の整備は終わっていないので、いつも通り瑞鶴艦内の元艦長公室で応接することにした。
「こんにちは、瑞鶴。私は陸軍大将の下村定だ。一応は現役の将官だが、軍務からは離れて今は内大臣府で阿南さんの下で働いている」
瑞鶴に乗り込んで来たのは、あまり軍人らしくない柔和そうな男であった。
「瑞鶴よ。陸軍の人間なんて知らないけど、まあそれなりの人間みたいね」
「お褒めいただき光栄だ」
「でも阿南は来ないのね」
「阿南さんは多忙だからね。こんなところまで自ら来るほどの暇はないんだ」
「あ、そう。まあいいわ。入って」
瑞鶴は下村大将を応接間に案内した。
「で、およそ私達とは関係なさそうな内大臣府が何の用なのかしら?」
「そうだね……。まあ勿体ぶらずに言うとしようか。内大臣閣下は、ドイツとの関係改善を図っている。君達にはそれに手を貸して欲しいんだ」
「はぁ。全く話が繋がらないんだけど」
「君達にやってもらいたい仕事は、ドイツとの交渉人を交渉場所まで運ぶことだ。それだけでいい」
「それだけ? それ私達がやる必要ある?」
「それがあるんだ。現状、日本とドイツの関係は最悪だが、これはそう簡単に修復できるものではない。お互いが関係改善を望んでいたとしてもね」
国家には面子というものがある。戦艦を撃沈されというとんでもない面汚しをされて友好的な態度を取るなど、日本に媚びへつらっているようにしか見られないだろう。
「まあそれは分かるけど、それがどう私達と関係するの?」
「この事態を打破する為にはね、劇的な何かが必要なんだ。面子など気にしていられないほど衝撃的な何かがね」
「じゃあ何? 外務省に内緒でドイツと交渉する気なの?」
「交渉するというのは、半分は正解だが半分は間違いだね。必要なのはパフォーマンスなんだ。中身は大して重要ではない。全世界があっと驚く会談を開くんだ。そして最大限に衝撃的な展開を演出するには、直前まで誰も知らないのがいいだろう」
「子供の悪戯みたいね」
「ああ、まさにその通りだよ」
「え」
「我々は常識的に考えれば乗り越えられない壁を越えようとしているんだ。そのくらいはしないとね」
「あ、そう。分かった。で、誰と誰が交渉するのよ? 石橋首相でも連れてくの?」
「申し訳ないがそれは秘密だ。万が一にも情報が漏れないとは限らないからね。だが、上手くいけば、この戦争を終わらせられるかもしれない」
「関係の修復以上のことをしようとしてるの?」
「そういうことだ。そしてそれには君の協力が不可欠なのだよ」
「……分かった。ちょっと待ってて。皆と話してくるから」
要するに帝国政府に内緒でドイツと交渉する為に月虹を使いたいらしい。瑞鶴は月虹の皆と話すべく海上要塞に戻った。
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