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第十八章 日独交渉
キューバへの帰還
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一九五六年一月十二日、キューバ共和国、グアンタナモ基地。
紆余曲折ありながらも、月虹はヨーロッパからキューバに帰還した。
「やあ、お帰り。皆無事で何よりだよ」
チェ・ゲバラは明るく出迎えるが、月虹の空気は暗かった。それに加えてゲバラが知らない船魄が一人増えている。
「君は月虹の一員なのかい?」
ゲバラは愛宕に尋ねた。
「ええ、高雄の妹の愛宕よ。よろしく」
「そうだったか。仲間が増えるのはいいことだよ。よろしくね」
ゲバラは愛宕とも友好的な関係を築きたいと思っていたが、愛宕はゲバラにほとんど興味も関心も持っていないようだった。高雄さえいれば他はどうでもいい愛宕にとって、人間など本当にどうでもいいのである。
「ところで、なんだか浮かない顔をしているようだが、何かあったのか?」
「それは私が説明するわ」
瑞鶴は先日の海戦の結末をゲバラに報告した。
「――そうだったか。敵を殺してしまったんだね、妙高」
「は、はい……」
「僕個人としては、最も犠牲が少なくて済む道ならば、多少の犠牲は厭わないと思っている。実際、革命では何千人もの人が死んだからね」
「そうですか……」
「まあ、これはあくまで僕の考え方だ。人殺しに対する受け止め方はそれぞれでいいんだよ。もう二度と殺さないと決意を固めてもいいし、とにかく大事なのは、これからどうするかだ。少なくとも、過去に起こったことをいつまでも後悔しているのは無駄でしかない」
「わ、分かりました……」
妙高は未だに気分が沈んだままだった。
月虹はキューバに帰還し、第五艦隊もコスタリカに帰還した。南方に預けていた大和もキューバへの地上支援に再び使われることとなった。有賀中将の指揮と第五艦隊や月虹の航空支援の下、大和はキューバ南部の前線に艦砲射撃を再開したのである。
ゲバラは大和の艦橋に乗り込んで、有賀中将と面会していた。通訳は瑞鶴である。
「大和がようやく戻って来てくれて、我が軍としては嬉しい限りです」
「キューバは日本の友邦です。この程度のことしかできず、申し訳ない」
「何を仰いますか。大和がいるだけでアメリカ軍の動きが鈍ることが確認できています。我が軍にとって、非常に大きな助けです」
大和の艦砲射撃に耐えるには相当本格的な地下壕でも用意しなければならないが、この戦争は前線が流動的で、固定された陣地は両軍ともほとんど持っていない。故にアメリカ軍への効果は絶大であり、大和が近付いてきただけでアメリカ軍の活動は低迷するのだ。アメリカ人とて個人を識別できないほど粉々にされて死にたくはあるまい。
そういう訳でキューバ戦争は再び膠着状態に陥った訳だが、瑞鶴には一つ考えていることがあった。瑞鶴はグアンタナモ基地でゲバラに提案を投げ掛けてみる。
「ここってロクな設備もないし、手狭よね」
「突然だね。確かに、僕達には港湾を整備する人手も予算も足りないが」
かつて米軍の租借地であったグアンタナモ基地だが、キューバ戦争のゴタゴタで荒らされており、軍港と呼べる状態ではない。月虹の軍艦を停泊させておくことくらいはできるが、整備などできる設備は全くない。
「日本の軍港に寄って整備してもらったらどうだ?」
「え? 嫌よそんなの」
「どうしてだい?」
「そこまで隙を晒したら、流石に捕まるでしょ」
これまで月虹がドイツの基地を利用させてもらえていたのは、瑞鶴やツェッペリンが日本に取られることを恐れてドイツが迂闊に手を出せなかったからである。が、完全に日本の勢力圏内であるプエルト・リモン鎮守府などに入れば、日本はすかさず瑞鶴を捕縛してくるだろう。
「日本は君達と手を組むと約束していたんじゃないのか?」
「そうは約束したけど、流石に千載一遇の好機を見逃すとは思えないわね。別に条約を結んだ訳でもないんだし」
「じゃあ僕達キューバ軍が同行するというのはどうかな?」
「うーん……どうかしらね。力づくでも私を捕まえに来ると思うわ」
「僕達への信用がないなあ……」
「仕方ないでしょ。キューバが日本に強く出られないのは、どうしようもないんだから」
「ははっ。そこは理解してもらえて嬉しいよ」
キューバは日本からの支援なしには戦えない。多少強引な手を日本が打ってきても、大人しく従うしかないのである。
「しかし……そうなると、ソ連に頼るくらいしかないんじゃないか?」
「ツェッペリンが嫌がるに決まってるわ。大体、ソ連とは多少の協力関係になったことすらないし」
「確かに、それは道理だね。それだと選択肢がない気がするが」
「そうなのよねえ……」
瑞鶴は溜息を吐くが、そこでゲバラが何かを思いついたかのように声を上げた。
「そうだ。アメリカの海上要塞、あれを奪えばいいんじゃないか?」
「海上要塞? 確かにここよりは遥かにマシな設備をしてそうだけど」
フロリダ海峡周辺に幾つか浮かんでいるアメリカ軍の海上要塞。その構造は基本的に浮きドックを複数くっつけたものらしい。
紆余曲折ありながらも、月虹はヨーロッパからキューバに帰還した。
「やあ、お帰り。皆無事で何よりだよ」
チェ・ゲバラは明るく出迎えるが、月虹の空気は暗かった。それに加えてゲバラが知らない船魄が一人増えている。
「君は月虹の一員なのかい?」
ゲバラは愛宕に尋ねた。
「ええ、高雄の妹の愛宕よ。よろしく」
「そうだったか。仲間が増えるのはいいことだよ。よろしくね」
ゲバラは愛宕とも友好的な関係を築きたいと思っていたが、愛宕はゲバラにほとんど興味も関心も持っていないようだった。高雄さえいれば他はどうでもいい愛宕にとって、人間など本当にどうでもいいのである。
「ところで、なんだか浮かない顔をしているようだが、何かあったのか?」
「それは私が説明するわ」
瑞鶴は先日の海戦の結末をゲバラに報告した。
「――そうだったか。敵を殺してしまったんだね、妙高」
「は、はい……」
「僕個人としては、最も犠牲が少なくて済む道ならば、多少の犠牲は厭わないと思っている。実際、革命では何千人もの人が死んだからね」
「そうですか……」
「まあ、これはあくまで僕の考え方だ。人殺しに対する受け止め方はそれぞれでいいんだよ。もう二度と殺さないと決意を固めてもいいし、とにかく大事なのは、これからどうするかだ。少なくとも、過去に起こったことをいつまでも後悔しているのは無駄でしかない」
「わ、分かりました……」
妙高は未だに気分が沈んだままだった。
月虹はキューバに帰還し、第五艦隊もコスタリカに帰還した。南方に預けていた大和もキューバへの地上支援に再び使われることとなった。有賀中将の指揮と第五艦隊や月虹の航空支援の下、大和はキューバ南部の前線に艦砲射撃を再開したのである。
ゲバラは大和の艦橋に乗り込んで、有賀中将と面会していた。通訳は瑞鶴である。
「大和がようやく戻って来てくれて、我が軍としては嬉しい限りです」
「キューバは日本の友邦です。この程度のことしかできず、申し訳ない」
「何を仰いますか。大和がいるだけでアメリカ軍の動きが鈍ることが確認できています。我が軍にとって、非常に大きな助けです」
大和の艦砲射撃に耐えるには相当本格的な地下壕でも用意しなければならないが、この戦争は前線が流動的で、固定された陣地は両軍ともほとんど持っていない。故にアメリカ軍への効果は絶大であり、大和が近付いてきただけでアメリカ軍の活動は低迷するのだ。アメリカ人とて個人を識別できないほど粉々にされて死にたくはあるまい。
そういう訳でキューバ戦争は再び膠着状態に陥った訳だが、瑞鶴には一つ考えていることがあった。瑞鶴はグアンタナモ基地でゲバラに提案を投げ掛けてみる。
「ここってロクな設備もないし、手狭よね」
「突然だね。確かに、僕達には港湾を整備する人手も予算も足りないが」
かつて米軍の租借地であったグアンタナモ基地だが、キューバ戦争のゴタゴタで荒らされており、軍港と呼べる状態ではない。月虹の軍艦を停泊させておくことくらいはできるが、整備などできる設備は全くない。
「日本の軍港に寄って整備してもらったらどうだ?」
「え? 嫌よそんなの」
「どうしてだい?」
「そこまで隙を晒したら、流石に捕まるでしょ」
これまで月虹がドイツの基地を利用させてもらえていたのは、瑞鶴やツェッペリンが日本に取られることを恐れてドイツが迂闊に手を出せなかったからである。が、完全に日本の勢力圏内であるプエルト・リモン鎮守府などに入れば、日本はすかさず瑞鶴を捕縛してくるだろう。
「日本は君達と手を組むと約束していたんじゃないのか?」
「そうは約束したけど、流石に千載一遇の好機を見逃すとは思えないわね。別に条約を結んだ訳でもないんだし」
「じゃあ僕達キューバ軍が同行するというのはどうかな?」
「うーん……どうかしらね。力づくでも私を捕まえに来ると思うわ」
「僕達への信用がないなあ……」
「仕方ないでしょ。キューバが日本に強く出られないのは、どうしようもないんだから」
「ははっ。そこは理解してもらえて嬉しいよ」
キューバは日本からの支援なしには戦えない。多少強引な手を日本が打ってきても、大人しく従うしかないのである。
「しかし……そうなると、ソ連に頼るくらいしかないんじゃないか?」
「ツェッペリンが嫌がるに決まってるわ。大体、ソ連とは多少の協力関係になったことすらないし」
「確かに、それは道理だね。それだと選択肢がない気がするが」
「そうなのよねえ……」
瑞鶴は溜息を吐くが、そこでゲバラが何かを思いついたかのように声を上げた。
「そうだ。アメリカの海上要塞、あれを奪えばいいんじゃないか?」
「海上要塞? 確かにここよりは遥かにマシな設備をしてそうだけど」
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