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第十七章 大西洋海戦
妙高の諦念
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妙高は自分の艦に戻ったが、すぐに高雄が訪れた。妙高は艦内の質素な自室に高雄を迎えた。
「妙高……。わたくし、こういう時はどうすればいいのか分からないのですが……大丈夫ですか?」
「うん。妙高は大丈夫だよ」
妙高は迷いなく言い放ったが、その声にいつもの明るさはなかった。そして続ける。
「妙高も分かってるんだよ。瑞鶴さんの言う通り、誰も殺さないように戦おうなんて、強い者にしか言えないことだって。だからシャルンホルストさんも、仕方なかったって思ってる」
「そ、そうですか」
「うん。だから、これは妙高の気分の問題なんだよ。気分の問題だから、解決するには時間を置くしかないかな」
「そうですか……。わざわざわたくしが出しゃばる必要はなかったようですね」
「高雄が心配してくれるのは嬉しいよ。そもそも、妙高が直接手を下していなかっただけで、これまでの何人かの船魄を殺してきた訳だし、自分でやったら塞ぎ込むなんて、本当に自分勝手だよね、私」
ニューヨーク空襲の際、第五艦隊と共に戦った時は、瑞牆や雪風が敵を殺していた。その時も妙高は反対こそしたが、結局は彼女達の判断を受けいれて、それ以上気にする事はなかった。敵を殺したことに変わりはないというのに。
「そ、そんなことはありません!」
「あるよ。だって結局、相手を思いやってるんじゃなくて、自分が人を殺したくなってだけなんだから」
「それは……」
妙高の論理的な思考に、高雄は反論することができなかった。
「ごめんなさい、妙高。わたくし、何のお役にも立てなくて……」
結局高雄は特に何の成果も上げられずに自らの艦に戻ってしまった。
○
一方その頃。雪風は瑞牆を訪れて、彼女を詰問していた。
「瑞牆さん、今回の戦闘の発端はドイツの軽巡ライプツィヒに対する攻撃です。これは、皇道派が余計なことをしたのでは?」
ビスマルクがアメリカの仕業だと確信する一方で、雪風は皇道派の関与を疑っていた。
「やだなあ。そんな根も葉もない話で勝手にボクを責めないでくれよ」
「確かに物的証拠はありませんが、日本とドイツの関係を悪化させることを望んでいるのは皇道派くらいしか考えられません」
「どうしてボク達がそんなことをしないといけないのかな?」
「キューバ戦争が長引き情勢が不安定になることを、皇道派は望んでいるのでしょう?」
「そんなことはないよ。ボク達は日本の船魄や軍人がこんな下らない戦争で死ぬことは望んでいない。寧ろ今すぐにワシントンに原子爆弾を落としたいと思っているよ?」
「それはそれでどうかと思いますが……」
――嘘を吐いているようには見えませんが、単に瑞牆が情報を与えられていないだけかもしれない、ですね。
雪風は瑞牆を尋問したところで意味はないと判断した。
「はぁ。今日はこれで十分です」
「そうかい。気を付けて帰ってね」
「そうさせてもらいますよ」
元より実行犯は潜水艦なのだ。第五艦隊で捜査を行っても大した収穫は得られまい。雪風は憲兵隊に結果を報告し、この件については調査を打ち切ることにした。
○
ライプツィヒ攻撃の犯人を一番知りたがっているのはドイツである。ゲッベルス大統領は海軍に調査を行わせ、その報告をデーニッツ国家元帥から受けていた。
「――端的に申し上げますと、犯人の特定は不可能です」
「……理由は?」
「そもそも、我々が使える情報としては、ライプツィヒの損傷とソナーの履歴しかありません。が、魚雷がどのような特性を持っているかというのは重大な国家機密ですから、我が国の魚雷ではないということしか分かりませんでした」
「何も分からないも同然じゃないか」
「その通りです、閣下。申し訳ありません」
国家元帥は深々と頭を下げた。
「まあまあ、そう謝る必要はない。無理なのは承知の上だ。で、別に海軍の公式見解を聞きたい訳ではないのだが、国家元帥はどこの仕業だと思う?」
「難しいところですな。目的が我が国と日本の関係を悪化させることだとすれば、アメリカとソ連に利益があります」
「アメリカは言うまでもないが、ソ連に何か利益があるのか?」
「キューバ戦争が続けばドイツ、アメリカ、日本の国力を消耗させることができます」
「確かにな。じゃあ、アメリカがやったとは考えにくいし、ソ連の仕業か?」
「現に我々が犯人を特定できていないのですから、アメリカという可能性もあるのでは?」
「アメリカがそんな危ない賭けをするか?」
「我々と日本が組めば、アメリカは国連軍に滅ぼされるのです。その程度の危険は冒せるのでは?」
ドイツがアメリカへの武力制裁決議案に拒否権を発動しなければ、国連軍が結成されてアメリカ討伐が始まるだろう。
「それもそうか。まったく、何がどうなっているのやら」
「犯人探しなど早々に切り上げるべきでは? 考えるべきは、今後の外交方針です」
「そうだな。日本と引き続き適度な関係を保てないのか?」
「そんなことをすれば、我が国が弱腰と見られます」
「だよなあ……」
ゲッベルス大統領としては日本と適度に仲良くしておきたいのだが、シャルンホルストを沈められた手前、日本相手に強く出ざるを得ない。両国の望む望まないに関わらず、関係悪化は避け得ないのであった。
「妙高……。わたくし、こういう時はどうすればいいのか分からないのですが……大丈夫ですか?」
「うん。妙高は大丈夫だよ」
妙高は迷いなく言い放ったが、その声にいつもの明るさはなかった。そして続ける。
「妙高も分かってるんだよ。瑞鶴さんの言う通り、誰も殺さないように戦おうなんて、強い者にしか言えないことだって。だからシャルンホルストさんも、仕方なかったって思ってる」
「そ、そうですか」
「うん。だから、これは妙高の気分の問題なんだよ。気分の問題だから、解決するには時間を置くしかないかな」
「そうですか……。わざわざわたくしが出しゃばる必要はなかったようですね」
「高雄が心配してくれるのは嬉しいよ。そもそも、妙高が直接手を下していなかっただけで、これまでの何人かの船魄を殺してきた訳だし、自分でやったら塞ぎ込むなんて、本当に自分勝手だよね、私」
ニューヨーク空襲の際、第五艦隊と共に戦った時は、瑞牆や雪風が敵を殺していた。その時も妙高は反対こそしたが、結局は彼女達の判断を受けいれて、それ以上気にする事はなかった。敵を殺したことに変わりはないというのに。
「そ、そんなことはありません!」
「あるよ。だって結局、相手を思いやってるんじゃなくて、自分が人を殺したくなってだけなんだから」
「それは……」
妙高の論理的な思考に、高雄は反論することができなかった。
「ごめんなさい、妙高。わたくし、何のお役にも立てなくて……」
結局高雄は特に何の成果も上げられずに自らの艦に戻ってしまった。
○
一方その頃。雪風は瑞牆を訪れて、彼女を詰問していた。
「瑞牆さん、今回の戦闘の発端はドイツの軽巡ライプツィヒに対する攻撃です。これは、皇道派が余計なことをしたのでは?」
ビスマルクがアメリカの仕業だと確信する一方で、雪風は皇道派の関与を疑っていた。
「やだなあ。そんな根も葉もない話で勝手にボクを責めないでくれよ」
「確かに物的証拠はありませんが、日本とドイツの関係を悪化させることを望んでいるのは皇道派くらいしか考えられません」
「どうしてボク達がそんなことをしないといけないのかな?」
「キューバ戦争が長引き情勢が不安定になることを、皇道派は望んでいるのでしょう?」
「そんなことはないよ。ボク達は日本の船魄や軍人がこんな下らない戦争で死ぬことは望んでいない。寧ろ今すぐにワシントンに原子爆弾を落としたいと思っているよ?」
「それはそれでどうかと思いますが……」
――嘘を吐いているようには見えませんが、単に瑞牆が情報を与えられていないだけかもしれない、ですね。
雪風は瑞牆を尋問したところで意味はないと判断した。
「はぁ。今日はこれで十分です」
「そうかい。気を付けて帰ってね」
「そうさせてもらいますよ」
元より実行犯は潜水艦なのだ。第五艦隊で捜査を行っても大した収穫は得られまい。雪風は憲兵隊に結果を報告し、この件については調査を打ち切ることにした。
○
ライプツィヒ攻撃の犯人を一番知りたがっているのはドイツである。ゲッベルス大統領は海軍に調査を行わせ、その報告をデーニッツ国家元帥から受けていた。
「――端的に申し上げますと、犯人の特定は不可能です」
「……理由は?」
「そもそも、我々が使える情報としては、ライプツィヒの損傷とソナーの履歴しかありません。が、魚雷がどのような特性を持っているかというのは重大な国家機密ですから、我が国の魚雷ではないということしか分かりませんでした」
「何も分からないも同然じゃないか」
「その通りです、閣下。申し訳ありません」
国家元帥は深々と頭を下げた。
「まあまあ、そう謝る必要はない。無理なのは承知の上だ。で、別に海軍の公式見解を聞きたい訳ではないのだが、国家元帥はどこの仕業だと思う?」
「難しいところですな。目的が我が国と日本の関係を悪化させることだとすれば、アメリカとソ連に利益があります」
「アメリカは言うまでもないが、ソ連に何か利益があるのか?」
「キューバ戦争が続けばドイツ、アメリカ、日本の国力を消耗させることができます」
「確かにな。じゃあ、アメリカがやったとは考えにくいし、ソ連の仕業か?」
「現に我々が犯人を特定できていないのですから、アメリカという可能性もあるのでは?」
「アメリカがそんな危ない賭けをするか?」
「我々と日本が組めば、アメリカは国連軍に滅ぼされるのです。その程度の危険は冒せるのでは?」
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「だよなあ……」
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