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第十七章 大西洋海戦
遊撃部隊の衝突Ⅲ
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「ザイドリッツったら、もうボロボロじゃない」
プリンツ・オイゲンは重巡の主砲を喰らって全身から煙を噴き上げているザイドリッツに向かって、愉快そうに言った。
『姉さんは、どうして一発も被弾していないのでしょうか』
「だって私、運命の女神に愛されてるから。私が撃たれるなんて絶対にあり得ないわ」
『はぁ、そうでした。しかし、命中率には運命の女神の加護はないようです』
「まあ、そうね。私達であれを食い止めるのは無理」
妙高達は多少の損害も構わず突撃する構えである。これをプリンツ・オイゲンとザイドリッツの火力で押し止めるのは不可能だろう。
「後はシャルンホルストとグナイゼナウに勝手にやらせましょう」
『護衛を放棄してよいのですか?』
「流石に援護くらいはしてあげるわ」
『承知しました』
急速に接近する日本側重巡部隊は徐々に進路を曲げ、シャルンホルストに向かって突撃を始めている。狙いがシャルンホルストなのは疑う余地もない。
○
一方。重巡達から先行して、峯風と雪風はシャルンホルストに肉薄していた。その距離は僅かに5km程であった。
『峯風さん、そろそろシャルンホルスト本人が攻撃してくる頃――と、言うまでもありませんでしたね』
シャルンホルストとグナイゼナウの15cm副砲が火を噴いた。片舷に10門は搭載しているようだし、駆逐艦に当たれば十分致命傷である。つまり命の危機である。
「回避だ、雪風!」
『あなたみたいな無茶はできないんですけどね……』
最大で41ノットは出る島風型駆逐艦と違って、吹雪型駆逐艦の雪風は36ノットくらいが限界である。とは言え、雪風も歴戦の軍艦であるし、稀代の幸運艦でもある。峯風が自慢の爆速で予測不能な旋回運動を繰り返している間、雪風は最低限の動きだけで砲撃を回避していた。
大和のように榴弾の爆風に巻き込むのならともかく、動き回っている駆逐艦に直撃弾を得るというのは船魄でも難しく、相手が的確な回避行動を取れば尚更である。シャルンホルストとグナイゼナウ合わせて百発以上の砲弾が放たれたが、峯風にも雪風にも一発も当たらなかった。
『敵艦に横付けしました。そろそろ撃っていい頃合では?』
「そうだな。魚雷斉射!」
『了解です』
峯風が15門、雪風が8門の魚雷発射管を持っているので、全部使って23本の魚雷がシャルンホルストに向けて放たれた。
「よし。逃げるぞ!」
魚雷の再装填は自動化されているとは言え時間がかかる。装填が終わるまで待っているのは非現実的なので、魚雷を撃ち終えたら直ちに逃げることとなる。
『ええ。雪風は置いてとっとと逃げた方がいいですよ。雪風と一緒にいるとロクなことになりませんから』
「まだそんなこと言ってるのか? まあ離れていた方が安全なのは否定しないが……」
結局、峯風と雪風は別々の方向に離脱することにした。そしてその間に魚雷はシャルンホルストに到達し、数発が命中したようであった。
『見たところ、5本はシャルンホルストの中央部に命中しているようですね』
「ああ。だが、戦闘を停止する気配はないみたいだな」
『はい。このくらいでは大したダメージにはならないでしょう』
「後は妙高達に期待するしかないか」
『はい。そうしましょう』
二人がシャルンホルストの副砲の射程から離脱した頃、今度は妙高達重巡部隊がシャルンホルストに横付けしていた。
「そろそろ魚雷を使えそうな距離……」
シャルンホルストまでの距離は5kmを切った。魚雷の命中も現実的に期待できるだろう。と、その時であった。
『妙高、シャルンホルストの主砲がこっちを向いてるわよ』
「こっちが本命だと気付かれたみたいですね……」
どうやら敵は瑞牆が囮で重巡が主力であることに気付いたようだ。つまり妙高の作戦が読まれたということである。
『どうするの?』
「ここで退く訳にはいきません。作戦を続行します。もう少し近付いて、魚雷を撃ったらすぐに離脱します」
『分かったわ』
『承知しました』
「あと、涼月ちゃんは下がっていていいよ」
『ご、ごめんなさい……』
シャルンホルストとグナイゼナウは主砲と副砲を使って全力で攻撃して来る。単縦陣を維持しているプリンツ・オイゲンとザイドリッツも攻撃を続行しており、あちらこちらに砲弾の水柱が上がっていた。当たっていないのが奇跡である。
「今です! 魚雷を全部撃ちます!」
シャルンホルストにちょうど横付けしたところで魚雷を斉射。合わせて36本を一気に放った。
「全艦離脱! 全速力で離脱します! 瑞牆さんも離脱してください!」
進路を直角に変え、ドイツ艦隊と真逆に進めばあっという間に距離は離れる。敵前でこんな無様な逃走劇を演じるのは非常に不名誉であるが、それ故にドイツ軍も予想していなかったようで、すぐには対応できなかった。
かくして遊撃部隊は無傷で離脱することに成功するが、その間にシャルンホルストを魚雷が襲っていた。
『魚雷は命中ね。まあ当然だけど』
「シャルンホルストさんには申し訳ないですけど……。これで撤退してもらえれば……」
妙高はその可能性に全てを懸けている。そもそもシャルンホルストが大破していなかったり、ドイツ政府が強行な姿勢を取るのであれば、諦めて降伏するしかないのだ。
プリンツ・オイゲンは重巡の主砲を喰らって全身から煙を噴き上げているザイドリッツに向かって、愉快そうに言った。
『姉さんは、どうして一発も被弾していないのでしょうか』
「だって私、運命の女神に愛されてるから。私が撃たれるなんて絶対にあり得ないわ」
『はぁ、そうでした。しかし、命中率には運命の女神の加護はないようです』
「まあ、そうね。私達であれを食い止めるのは無理」
妙高達は多少の損害も構わず突撃する構えである。これをプリンツ・オイゲンとザイドリッツの火力で押し止めるのは不可能だろう。
「後はシャルンホルストとグナイゼナウに勝手にやらせましょう」
『護衛を放棄してよいのですか?』
「流石に援護くらいはしてあげるわ」
『承知しました』
急速に接近する日本側重巡部隊は徐々に進路を曲げ、シャルンホルストに向かって突撃を始めている。狙いがシャルンホルストなのは疑う余地もない。
○
一方。重巡達から先行して、峯風と雪風はシャルンホルストに肉薄していた。その距離は僅かに5km程であった。
『峯風さん、そろそろシャルンホルスト本人が攻撃してくる頃――と、言うまでもありませんでしたね』
シャルンホルストとグナイゼナウの15cm副砲が火を噴いた。片舷に10門は搭載しているようだし、駆逐艦に当たれば十分致命傷である。つまり命の危機である。
「回避だ、雪風!」
『あなたみたいな無茶はできないんですけどね……』
最大で41ノットは出る島風型駆逐艦と違って、吹雪型駆逐艦の雪風は36ノットくらいが限界である。とは言え、雪風も歴戦の軍艦であるし、稀代の幸運艦でもある。峯風が自慢の爆速で予測不能な旋回運動を繰り返している間、雪風は最低限の動きだけで砲撃を回避していた。
大和のように榴弾の爆風に巻き込むのならともかく、動き回っている駆逐艦に直撃弾を得るというのは船魄でも難しく、相手が的確な回避行動を取れば尚更である。シャルンホルストとグナイゼナウ合わせて百発以上の砲弾が放たれたが、峯風にも雪風にも一発も当たらなかった。
『敵艦に横付けしました。そろそろ撃っていい頃合では?』
「そうだな。魚雷斉射!」
『了解です』
峯風が15門、雪風が8門の魚雷発射管を持っているので、全部使って23本の魚雷がシャルンホルストに向けて放たれた。
「よし。逃げるぞ!」
魚雷の再装填は自動化されているとは言え時間がかかる。装填が終わるまで待っているのは非現実的なので、魚雷を撃ち終えたら直ちに逃げることとなる。
『ええ。雪風は置いてとっとと逃げた方がいいですよ。雪風と一緒にいるとロクなことになりませんから』
「まだそんなこと言ってるのか? まあ離れていた方が安全なのは否定しないが……」
結局、峯風と雪風は別々の方向に離脱することにした。そしてその間に魚雷はシャルンホルストに到達し、数発が命中したようであった。
『見たところ、5本はシャルンホルストの中央部に命中しているようですね』
「ああ。だが、戦闘を停止する気配はないみたいだな」
『はい。このくらいでは大したダメージにはならないでしょう』
「後は妙高達に期待するしかないか」
『はい。そうしましょう』
二人がシャルンホルストの副砲の射程から離脱した頃、今度は妙高達重巡部隊がシャルンホルストに横付けしていた。
「そろそろ魚雷を使えそうな距離……」
シャルンホルストまでの距離は5kmを切った。魚雷の命中も現実的に期待できるだろう。と、その時であった。
『妙高、シャルンホルストの主砲がこっちを向いてるわよ』
「こっちが本命だと気付かれたみたいですね……」
どうやら敵は瑞牆が囮で重巡が主力であることに気付いたようだ。つまり妙高の作戦が読まれたということである。
『どうするの?』
「ここで退く訳にはいきません。作戦を続行します。もう少し近付いて、魚雷を撃ったらすぐに離脱します」
『分かったわ』
『承知しました』
「あと、涼月ちゃんは下がっていていいよ」
『ご、ごめんなさい……』
シャルンホルストとグナイゼナウは主砲と副砲を使って全力で攻撃して来る。単縦陣を維持しているプリンツ・オイゲンとザイドリッツも攻撃を続行しており、あちらこちらに砲弾の水柱が上がっていた。当たっていないのが奇跡である。
「今です! 魚雷を全部撃ちます!」
シャルンホルストにちょうど横付けしたところで魚雷を斉射。合わせて36本を一気に放った。
「全艦離脱! 全速力で離脱します! 瑞牆さんも離脱してください!」
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かくして遊撃部隊は無傷で離脱することに成功するが、その間にシャルンホルストを魚雷が襲っていた。
『魚雷は命中ね。まあ当然だけど』
「シャルンホルストさんには申し訳ないですけど……。これで撤退してもらえれば……」
妙高はその可能性に全てを懸けている。そもそもシャルンホルストが大破していなかったり、ドイツ政府が強行な姿勢を取るのであれば、諦めて降伏するしかないのだ。
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