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第十七章 大西洋海戦
決死の一撃
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かくして両軍とも攻撃に失敗し、戦況は早速膠着状態に陥った。未だに両艦隊の間では艦上戦闘機同士が戦闘を継続しているが、こちらも決着は着きそうにない。
「うーん……どうしよう……」
『我らの攻撃機はまだ十分残っている。これを活かすべきではないか?』
ツェッペリンは言う。確かに、敵艦隊の攻撃機は先程の攻撃で壊滅したが、こちらの攻撃機は早々に逃げ帰ったお陰で8割は残っている。
「活かすって言っても、ドイツの戦艦に近付いたらあっという間に全滅するとしか思えないんだけど?」
『ドイツの技術の前にそうなるのは当然であろうな』
「……あんたはどっちの味方なの?」
『お前の味方だが?』
「はぁ。あんたが考えなしってのは分かったわ」
『何だと!?』
「でも、覚悟もついた。感謝するわ」
『何の話だ?』
「最初から作戦目標はグラーフ・ローンに魚雷をぶち込むことだって言ってるでしょう? だから、航空隊が全滅してでも魚雷を叩き込もうと思う」
もちろん、瑞鶴だけで実行してはただ全滅して終わりだろうから、他の空母にもこの自爆攻撃をしてもらう他にない。流石の瑞鶴もそれには罪悪感を覚えざるを得なかった。
『なるほど。面白いではないか』
「あんたは嫌じゃないの?」
『我はその程度のこと気にせぬ。他の連中のことを気にした方がよかろう』
「そ、そう。ありがと」
そういう訳で瑞鶴はまず鳳翔と信濃に可否を尋ねたが、どちらも平然と了承してくれた。大鳳には長門が尋ね、快諾してくれたそうだ。
「――じゃあ、そういう訳で、艦爆と艦攻を全部出して、ドイツ艦隊に総攻撃を仕掛ける。目標はグラーフ・ローン。それ以外の艦には構わず、全力で目標を目指して。……我に続け!!」
囮として艦上爆撃機も出し、合計180機で大洋艦隊に大攻勢を仕掛ける。ドイツ艦隊の高角砲によって20機ばかりが落とされたところで、敵艦隊への距離は2kmを切り、ドイツのリボルバーカノーネが火を噴いた。瑞鶴もツェッペリンも、機関砲とはまるで格が違う弾幕を回避するのは不可能であった。
「クソッ……痛い、けど……。もう少し……!」
グラーフ・ローンまで1,000mを切った。瑞鶴機は残り半分。陣形の中央に近付き、弾幕は益々濃くなる。
「射線に入った……! こいつで……!!」
瑞鶴の攻撃隊は魚雷を7本投下する事に成功した。艦隊で合わせて30本は魚雷を放ち、その内十数本がグラーフ・ローンの右舷に命中した。攻撃隊は7割を落とされた。
「よしッ!!」
『グラーフ・ローン、右舷への傾斜約6度を認む』
信濃は淡々と結果を伝えてくれた。一○式魚雷はグラーフ・ローンに明確な損害を与えたのだ。
『グラーフ・ローン、傾斜復旧』
「ええ。それは予想内よ」
この程度で世界最大の戦艦が沈む訳がない。グラーフ・ローンは直ちに左舷に注水して傾斜を回復させた。
「さて……。後は、これでドイツがビビってくれればいいんだけど……」
二度も同じことをする力は残されていない。
51cm砲艦が傾斜する程の損害を受けるのは世界初であり、瑞鶴の目論見が正しければ、ドイツ海軍はこれに怖気付いて撤退を選んでくれる筈だ。
○
一九五五年十二月二十七日、ドイツ国大ベルリン大管区ベルリン、ミッテ区、新総統官邸。
「何だって? グラーフ・ローンが中破だって?」
独日の艦隊が直接衝突する異常事態である。ゲッベルス大統領はOKWの面々を集め、逐一戦況の報告を受け取っていた。
「はい、我が大統領。多数の魚雷がグラーフ・ローンに命中し、浸水が発生したようです」
焦るゲッベルス大統領とは反対に、デーニッツ国家元帥は冷静に報告する。
「大丈夫なんだろうな? 万が一にも沈んだらとんでもないことだぞ?」
「それについてはご安心ください。ダメージコントロールは問題なく成功していますし、グラーフ・ローン級は元より片舷30本の魚雷の直撃に耐え得るように設計されております」
これは片舷に余りにも魚雷を喰らうと復元力の限界を超えて転覆するという意味で、両舷に均等に魚雷を喰らったならば100本は耐えられよう設計されている。
「そ、そうか。だが、その耐え得る量の3分の1は喰らったということじゃないか」
「それはその通りですが、日本側の攻撃機はほぼ全滅しています。このような攻撃を二度も行う余力は残っていません」
「絶対にそう言い切れるのか?」
「はい。どんな小細工をしても空母の艦載機の数を誤魔化すことはできません。鳳翔にはまだ予備の機体が残っているでしょうが、その程度、撃退することは容易です」
空母の容積から艦載機の数を推定することは容易である。どう頭を捻っても物理的な限界を超えるのは不可能だ。
「では、国家元帥はこのまま戦闘を継続するべきだと思うのか?」
「はい。我が方の有利は覆っていませんし、グラーフ・ローンが沈む心配はありません。日本の船魄を手に入れる絶好の機会なのです」
「瑞鶴を手に入れられないなら、あんまり意味はないと思うんだが……」
「メンゲレ博士の言うようには、日本の船魄を誰でもいいから一人手に入れるだけでも、我が国の船魄技術は飛躍的に発展するとのことです」
「分かった分かった。では、ビスマルクに好きにするよう伝えてくれ」
ゲッベルス大統領は戦闘継続を命令した。瑞鶴の読みは外れたのだ。
「うーん……どうしよう……」
『我らの攻撃機はまだ十分残っている。これを活かすべきではないか?』
ツェッペリンは言う。確かに、敵艦隊の攻撃機は先程の攻撃で壊滅したが、こちらの攻撃機は早々に逃げ帰ったお陰で8割は残っている。
「活かすって言っても、ドイツの戦艦に近付いたらあっという間に全滅するとしか思えないんだけど?」
『ドイツの技術の前にそうなるのは当然であろうな』
「……あんたはどっちの味方なの?」
『お前の味方だが?』
「はぁ。あんたが考えなしってのは分かったわ」
『何だと!?』
「でも、覚悟もついた。感謝するわ」
『何の話だ?』
「最初から作戦目標はグラーフ・ローンに魚雷をぶち込むことだって言ってるでしょう? だから、航空隊が全滅してでも魚雷を叩き込もうと思う」
もちろん、瑞鶴だけで実行してはただ全滅して終わりだろうから、他の空母にもこの自爆攻撃をしてもらう他にない。流石の瑞鶴もそれには罪悪感を覚えざるを得なかった。
『なるほど。面白いではないか』
「あんたは嫌じゃないの?」
『我はその程度のこと気にせぬ。他の連中のことを気にした方がよかろう』
「そ、そう。ありがと」
そういう訳で瑞鶴はまず鳳翔と信濃に可否を尋ねたが、どちらも平然と了承してくれた。大鳳には長門が尋ね、快諾してくれたそうだ。
「――じゃあ、そういう訳で、艦爆と艦攻を全部出して、ドイツ艦隊に総攻撃を仕掛ける。目標はグラーフ・ローン。それ以外の艦には構わず、全力で目標を目指して。……我に続け!!」
囮として艦上爆撃機も出し、合計180機で大洋艦隊に大攻勢を仕掛ける。ドイツ艦隊の高角砲によって20機ばかりが落とされたところで、敵艦隊への距離は2kmを切り、ドイツのリボルバーカノーネが火を噴いた。瑞鶴もツェッペリンも、機関砲とはまるで格が違う弾幕を回避するのは不可能であった。
「クソッ……痛い、けど……。もう少し……!」
グラーフ・ローンまで1,000mを切った。瑞鶴機は残り半分。陣形の中央に近付き、弾幕は益々濃くなる。
「射線に入った……! こいつで……!!」
瑞鶴の攻撃隊は魚雷を7本投下する事に成功した。艦隊で合わせて30本は魚雷を放ち、その内十数本がグラーフ・ローンの右舷に命中した。攻撃隊は7割を落とされた。
「よしッ!!」
『グラーフ・ローン、右舷への傾斜約6度を認む』
信濃は淡々と結果を伝えてくれた。一○式魚雷はグラーフ・ローンに明確な損害を与えたのだ。
『グラーフ・ローン、傾斜復旧』
「ええ。それは予想内よ」
この程度で世界最大の戦艦が沈む訳がない。グラーフ・ローンは直ちに左舷に注水して傾斜を回復させた。
「さて……。後は、これでドイツがビビってくれればいいんだけど……」
二度も同じことをする力は残されていない。
51cm砲艦が傾斜する程の損害を受けるのは世界初であり、瑞鶴の目論見が正しければ、ドイツ海軍はこれに怖気付いて撤退を選んでくれる筈だ。
○
一九五五年十二月二十七日、ドイツ国大ベルリン大管区ベルリン、ミッテ区、新総統官邸。
「何だって? グラーフ・ローンが中破だって?」
独日の艦隊が直接衝突する異常事態である。ゲッベルス大統領はOKWの面々を集め、逐一戦況の報告を受け取っていた。
「はい、我が大統領。多数の魚雷がグラーフ・ローンに命中し、浸水が発生したようです」
焦るゲッベルス大統領とは反対に、デーニッツ国家元帥は冷静に報告する。
「大丈夫なんだろうな? 万が一にも沈んだらとんでもないことだぞ?」
「それについてはご安心ください。ダメージコントロールは問題なく成功していますし、グラーフ・ローン級は元より片舷30本の魚雷の直撃に耐え得るように設計されております」
これは片舷に余りにも魚雷を喰らうと復元力の限界を超えて転覆するという意味で、両舷に均等に魚雷を喰らったならば100本は耐えられよう設計されている。
「そ、そうか。だが、その耐え得る量の3分の1は喰らったということじゃないか」
「それはその通りですが、日本側の攻撃機はほぼ全滅しています。このような攻撃を二度も行う余力は残っていません」
「絶対にそう言い切れるのか?」
「はい。どんな小細工をしても空母の艦載機の数を誤魔化すことはできません。鳳翔にはまだ予備の機体が残っているでしょうが、その程度、撃退することは容易です」
空母の容積から艦載機の数を推定することは容易である。どう頭を捻っても物理的な限界を超えるのは不可能だ。
「では、国家元帥はこのまま戦闘を継続するべきだと思うのか?」
「はい。我が方の有利は覆っていませんし、グラーフ・ローンが沈む心配はありません。日本の船魄を手に入れる絶好の機会なのです」
「瑞鶴を手に入れられないなら、あんまり意味はないと思うんだが……」
「メンゲレ博士の言うようには、日本の船魄を誰でもいいから一人手に入れるだけでも、我が国の船魄技術は飛躍的に発展するとのことです」
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