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第十七章 大西洋海戦

開戦

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「しかし、一体何が攻撃してきたのでありましょうか……」
「日本軍の魚雷でも流石に80kmは届きませんよ。潜水艦からの攻撃としか考えられません」
「で、ありますか」
「はい。日本の潜水艦の技術は我が国に匹敵するものです。いえ、航続性能という面で言えば世界一。どこに日本の潜水艦がいても不思議ではありません」

 日本が基準排水量4千トンを超える超大型潜水艦伊六百型を運用しているというのは、海軍関係者ではほとんど事実として受け取られている。静謐性や水中航続距離などは依然としてUボートⅩⅩⅦ型に利があるが、伊六百型の航続距離は地球3周に及ぶと推測されており、その神出鬼没っぷりは他の追随を許さない。

「日本軍がかくも直接的な介入に出るとは、本艦は思えないのでありますが……」
「日本軍は既にアメリカと戦争状態です。今更驚くことではないのでは?」
「ドイツに攻撃を仕掛けてくるのは初めてでありましょう」
「姉さんは、これが日本軍の仕業ではないと思ってるのか?」
「直感に過ぎませんが、その通りであります」
「じゃあ誰が攻撃を?」
「それは分からないのであります」

 とは言いつつも、日本を除けば候補はアメリカとソ連しかない。どちらも日本とドイツとが仲違いすることにそれなりの利益がある。特にアメリカとしては日独同盟など悪夢だ。ビスマルクはそのような考えを巡らせていたが、エンタープライズがすぐそこにいる手前、口にはしなかった。

 その直後、エンタープライズがビスマルクに通信を寄越した。

『エンタープライズです。日本軍は我々を攻撃してきたのです。反撃しましょう。よろしいですよね?』
「少しお待ちください」
『えぇ? もう待てませんよ。まああなたの許可などなくても、勝手にやらせてもらいますが』
「エンタープライズ殿、5分だけ待ってください。必ずや5分後に結論を伝えるのであります」
『ふむ……。分かりました。いいご返事をお待ちしていますよ』

 5分待ってくれるだけでもエンタープライズとしてはかなりの譲歩であろう。

「で、どうするんだ、姉さん?」
「状況は一分を争うのであります。OKWに問い合わせている時間はありません。今すぐに我々で対応を決めなければならないのであります」
「分かった。で、どうする?」

 ティルピッツはビスマルクが土壇場に弱いことは理解しているが、長考している暇はない。

「ええと……」
「じゃあ選択肢は何があるんだ?」
「選択肢は、日本軍と交渉して我々は撤退するか、エンタープライズと共に日本軍と交戦するか、その二つであります」

 エンタープライズを放っておいて大洋艦隊は何事もなかったかのように帰投するというのも手である。

「しかし、我が方の軍艦が大破させられています。ここで黙って逃げるのは弱腰と見られるだけでは?」
「……それは分かっているのであります。ここで逃げるなど言語道断であります」
「じゃあ、決定だな」
「そうでありますな。全艦、月虹各艦の鹵獲を目的とし、作戦行動を開始してください。空母は直ちに艦載機を全機発艦。他の艦は接近する敵機の迎撃に専念を。それと、これをエンタープライズにも伝えてください」

 ビスマルクは限定的な武力行使を命じた。エンタープライズは大喜びであった。

 ○

『電探に感あり。ドイツ軍は発艦を始めた模様なり』

 信濃は真っ先にドイツ軍の動きを探知した。僅かに遅れて他の主力艦達もその動きに気付く。

「へえ。まさか本当にドイツ軍から仕掛けてくるなんてね」

 瑞鶴は楽しそうな声音で言う。

『正直言って予想外だ。我が国との関係に決定的な亀裂を生みかねん』

 長門は言う。

「亀裂って、今更じゃない?」
『これまで帝国海軍とドイツ軍が直接に衝突したことはなかった。これは重大な事態だ』
「あ、そう」
『瑞鶴さーん、どうするんですか……?』

 妙高が不安げに尋ねる。

「向こうから仕掛けてきてくれたのなら、私達としては好都合よ。全空母、発艦始め! まずは艦戦を出して、その後に艦爆と艦攻をね。その他の艦は取り敢えず護衛に専念を。大鳳にも言っといて」
『了解だ』

 大鳳は未だに敵味方識別装置の制御下にあるので、長門伝いで命令を伝えるしかないのである。

「しっかし、この非効率なのどうにかならないの?」
『識別装置は船魄の為にあるのだ。そう簡単に解除できるものか』
「船魄の為ねえ。それと鳳翔、あんたもいいわね?」
『もちろんです。今は瑞鶴さんの指揮に従います』
「よろしく」

 かくして瑞鶴、グラーフ・ツェッペリン、鳳翔、信濃、大鳳は発艦を開始した。

『こちらから攻めかかるのか?』

 ツェッペリンが尋ねる。

「そうねえ。これだけの戦力が揃ってれば、真っ当な戦い方もできる。こっちも攻めることにするわ。全艦、前線を押し出して。まあ、そう簡単にはいかないだろうけど」

 両軍共に艦載機を出し終わると、いずれも敵艦隊目指して押し出し始める。両艦隊の中央、どちらからもちょうど40kmほどの地点で合計500機ほどの艦上戦闘機が交戦を開始した。

『敵の数多く、突破は困難』

 信濃は淡々と言う。

「ええ、分かってるわ。消耗戦ってのは好みじゃないけど、艦載機の補充はしてくれるのよね、長門?」
『……貴様達が妙なことをしなければ、そのくらいはしてやる』
「ありがと。じゃあこのまま殴り合って敵を消耗させるとしましょう」
『消耗戦では物量に劣るこちらが不利なのでは?』

 鳳翔は真っ当な質問をぶつけた。

「大丈夫よ。こっちの方が経験豊富な船魄が多いから、いずれ撃墜比率の差で勝てるわ」
『そ、そうですか』

 役立たずだと言われたようなものである。鳳翔は少しだけ腹が立った。
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