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第十七章 大西洋海戦
第五艦隊の到着
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「これで双方の戦力は互角……いえ、エンタープライズと鳳翔であればエンタープライズの方が強力な船魄ですから、我が方が有利になったと言えます」
グラーフ・ローンはビスマルクとティルピッツに言う。鳳翔の方が艦載機搭載数は多いのだが、鳳翔は一度の実戦を経験したこともなく、エンタープライズに比べれば見劣りすると言わざるを得ない。故に天秤はドイツ軍に傾いているのだ。
「しかし、それで瑞鶴が降伏してくれるでありましょうか?」
「それは私には分かりませんが、瑞鶴は倍の敵を前にしても臆しないと聞いています」
「だが、それは逃げ道がある時の話だ。実際、日本艦隊と刃を交えた時は我が国に逃げ込んできたんだからな」
「ふむ……。こういう時は瑞鶴に聞いてみるのであります」
ビスマルクはそう思い立つと早速瑞鶴に投降を呼び掛けた。が、瑞鶴は『降伏なんてするわけないでしょ』と言って交渉する気もないようであった。
「うむ……。やはり圧倒的な戦力がなければ降伏してはくれないのでありますか」
「優勢ですが圧倒的とは言い難いですからね」
「圧倒的と言ってもいいくらいの戦力差はあると思うんだがな」
ドイツ側の空母はペーター・シュトラッサー、エーギル、ニョルズ、エンタープライズであり、月虹側の空母は瑞鶴、グラーフ・ツェッペリン、鳳翔である。艦載機は合計して450対280であり、相当に優勢である。
「どうしたものか……」
「姉さん、そもそもの話だが、仮に戦闘状態に入ったら、鳳翔は本当に月虹と共に戦うのか?」
ドイツの軍艦と日本の軍艦が戦闘状態に入れば、最悪の場合は戦争に発展するかもしれない。その危険を日本が冒すだろうか。
「我々と鳳翔が交戦した場合、我が国と日本の関係が非常に悪化することは間違いないのであります。しかし戦争などにはならないでしょう。何故ならば、どちらも戦争を望んでいないからであります」
「戦争にならないから、日本軍は私達と戦うことにも躊躇しないと?」
「そうであります。そして日本は自らの船魄技術が流出することを非常に恐れているのであります。故に、瑞鶴やその他日本の船魄が他国に奪われることは絶対に許容しないでしょう」
「分かった。なら、とっとと戦闘を始めた方がいいんじゃないか? 日本軍の援軍がまた来るかもしれない」
「ティルピッツの言う通りであります。本当は話し合いだけで解決したかったものですが、仕方がないのでしょう。ティルピッツ、OKWに戦闘開始の許可を取って欲しいのであります」
「了解だ」
ティルピッツは国防軍最高司令部に現況を伝え戦闘開始の許可を求めた。が、OKWはなかなか結論を出せず、6時間が経っても返答はなかった。
「まったく、OKWは何をやってるんだ……」
「まあまあティルピッツ。国家の重大な決定なのでありますから、そう簡単に結論は出ないというものでありますよ」
「それはそうかもしれないが……」
と、その時であった。グラーフ・ローンが緊張した声で言う。
「お二人とも、大変です。西から接近する未知の艦影を探知しました。それも単艦ではなく艦隊です」
「どうやら、噂をすればというものでありますな。日本軍の増援でしょう」
「どうすんだ、姉さん?」
「困ったものでありますな。ティルピッツ、一先ずはOKWにこのことを伝えてください。それとグラーフ・ローン、シュロス基地に偵察機を飛ばして敵の戦力を把握するよう伝えてください」
そういう訳で人間の偵察機が掴んだ情報は、ビスマルクの予想した通りであった。日本海軍の第五艦隊、戦艦二隻と空母二隻を含む有力な艦隊である。特に旧式とは言え戦艦が敵に加わった影響は大きい。
「敵は西から来ています。このままでは第二隊群が挟み撃ちにされますが」
「そうでありますな。これで挟撃は意味をなくしてしまいました。直ちに第二隊群は第一隊群に合流させます」
「シュロス基地は放っておいていいのですか?」
「流石に我が国の領土――ああいえ、イギリスの領土に直接攻撃してくることはないでしょう。戦力としても偵察にしか役に立たないのでありますし」
「分かりました。では陣形を再構築しましょう。ついでにエンタープライズとも合流するのはいかがですか?」
「名案であります。そのようにしましょう」
大洋艦隊はエンタープライズの許に集結し、空母達を中心にした輪形陣を敷いた。
○
「まさかあんたまで来るとは思わなかったわ、長門」
『命令で来ただけだ』
「あ、そう」
相変わらず瑞鶴と長門の仲は最悪である。
「取り敢えず、第五艦隊には私の指揮下に入ってもらおうかしら」
『……分かった。それが最も合理的だ』
今回の連合艦隊は空母が主体である。瑞鶴が指揮するのが適切だろう。
「それと、鳳翔にも私の指揮を受けるように言っておいて」
『人を召使いのように……』
と言いつつも、長門は鳳翔艦隊にも連絡を付けて、瑞鶴の指揮下に入ることを納得させた。そういう訳で日本艦隊も空母を中心とした輪形陣を組み、両軍はおよそ80kmという近距離に対陣した。
グラーフ・ローンはビスマルクとティルピッツに言う。鳳翔の方が艦載機搭載数は多いのだが、鳳翔は一度の実戦を経験したこともなく、エンタープライズに比べれば見劣りすると言わざるを得ない。故に天秤はドイツ軍に傾いているのだ。
「しかし、それで瑞鶴が降伏してくれるでありましょうか?」
「それは私には分かりませんが、瑞鶴は倍の敵を前にしても臆しないと聞いています」
「だが、それは逃げ道がある時の話だ。実際、日本艦隊と刃を交えた時は我が国に逃げ込んできたんだからな」
「ふむ……。こういう時は瑞鶴に聞いてみるのであります」
ビスマルクはそう思い立つと早速瑞鶴に投降を呼び掛けた。が、瑞鶴は『降伏なんてするわけないでしょ』と言って交渉する気もないようであった。
「うむ……。やはり圧倒的な戦力がなければ降伏してはくれないのでありますか」
「優勢ですが圧倒的とは言い難いですからね」
「圧倒的と言ってもいいくらいの戦力差はあると思うんだがな」
ドイツ側の空母はペーター・シュトラッサー、エーギル、ニョルズ、エンタープライズであり、月虹側の空母は瑞鶴、グラーフ・ツェッペリン、鳳翔である。艦載機は合計して450対280であり、相当に優勢である。
「どうしたものか……」
「姉さん、そもそもの話だが、仮に戦闘状態に入ったら、鳳翔は本当に月虹と共に戦うのか?」
ドイツの軍艦と日本の軍艦が戦闘状態に入れば、最悪の場合は戦争に発展するかもしれない。その危険を日本が冒すだろうか。
「我々と鳳翔が交戦した場合、我が国と日本の関係が非常に悪化することは間違いないのであります。しかし戦争などにはならないでしょう。何故ならば、どちらも戦争を望んでいないからであります」
「戦争にならないから、日本軍は私達と戦うことにも躊躇しないと?」
「そうであります。そして日本は自らの船魄技術が流出することを非常に恐れているのであります。故に、瑞鶴やその他日本の船魄が他国に奪われることは絶対に許容しないでしょう」
「分かった。なら、とっとと戦闘を始めた方がいいんじゃないか? 日本軍の援軍がまた来るかもしれない」
「ティルピッツの言う通りであります。本当は話し合いだけで解決したかったものですが、仕方がないのでしょう。ティルピッツ、OKWに戦闘開始の許可を取って欲しいのであります」
「了解だ」
ティルピッツは国防軍最高司令部に現況を伝え戦闘開始の許可を求めた。が、OKWはなかなか結論を出せず、6時間が経っても返答はなかった。
「まったく、OKWは何をやってるんだ……」
「まあまあティルピッツ。国家の重大な決定なのでありますから、そう簡単に結論は出ないというものでありますよ」
「それはそうかもしれないが……」
と、その時であった。グラーフ・ローンが緊張した声で言う。
「お二人とも、大変です。西から接近する未知の艦影を探知しました。それも単艦ではなく艦隊です」
「どうやら、噂をすればというものでありますな。日本軍の増援でしょう」
「どうすんだ、姉さん?」
「困ったものでありますな。ティルピッツ、一先ずはOKWにこのことを伝えてください。それとグラーフ・ローン、シュロス基地に偵察機を飛ばして敵の戦力を把握するよう伝えてください」
そういう訳で人間の偵察機が掴んだ情報は、ビスマルクの予想した通りであった。日本海軍の第五艦隊、戦艦二隻と空母二隻を含む有力な艦隊である。特に旧式とは言え戦艦が敵に加わった影響は大きい。
「敵は西から来ています。このままでは第二隊群が挟み撃ちにされますが」
「そうでありますな。これで挟撃は意味をなくしてしまいました。直ちに第二隊群は第一隊群に合流させます」
「シュロス基地は放っておいていいのですか?」
「流石に我が国の領土――ああいえ、イギリスの領土に直接攻撃してくることはないでしょう。戦力としても偵察にしか役に立たないのでありますし」
「分かりました。では陣形を再構築しましょう。ついでにエンタープライズとも合流するのはいかがですか?」
「名案であります。そのようにしましょう」
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○
「まさかあんたまで来るとは思わなかったわ、長門」
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「あ、そう」
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「取り敢えず、第五艦隊には私の指揮下に入ってもらおうかしら」
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「それと、鳳翔にも私の指揮を受けるように言っておいて」
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と言いつつも、長門は鳳翔艦隊にも連絡を付けて、瑞鶴の指揮下に入ることを納得させた。そういう訳で日本艦隊も空母を中心とした輪形陣を組み、両軍はおよそ80kmという近距離に対陣した。
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