318 / 341
第十七章 大西洋海戦
エンタープライズの交渉
しおりを挟む
戦場に姿を現したエンタープライズには護衛の一隻もなかった。メキシコ湾からずっと最大戦速で航行するなどエンタープライズ以外にはとても不可能だからである。
「鳳翔様、エンタープライズが呼び掛けてきています」
「そうですか……。受けてください」
「承りました」
夕風がエンタープライズからの通信を受諾するが、それは鳳翔だけに向けられたものではなく、敵味方問わず周辺の全ての通信機に向けられた放送のようなものであった。
『私はエンタープライズ。原子力空母エンタープライズです。私の目的はただ一つ。瑞鶴がドイツ海軍の手に渡ることを阻止することです。ドイツ人の皆さんは、今すぐ撤退することをお勧めします。でないと、皆殺しにしてしまいます』
「こ、これは何とも……」
「つまりエンタープライズは味方ということです。心配要りませんよ、夕風」
「ですが、アメリカとドイツがこんなあからさまに対立することがあるのでしょうか?」
「エンタープライズは独自に動いているだけのようです。アメリカ海軍の意志という訳ではないでしょう」
「ですが、それでもアメリカの軍艦とドイツの軍艦が衝突したら大変なことになると思いますが……」
「そうなったらそうなったで、我が国にとっては良いことではありませんか?」
「え、ええ、まあ……」
アメリカへの制裁を阻んでいるのはドイツだ。アメリカとドイツが仲違いするのは帝国にとって大きな利益となるだろう。
○
さて、エンタープライズの突然の出現は全ての勢力を驚かせた。瑞鶴もである。
「――え、キモ。何で私を名指しした?」
瑞鶴は当然ながら、エンタープライズが助太刀に来たことを全く歓迎していなかった。
『瑞鶴さん、エンタープライズさんはどういうつもりなんでしょうか……』
妙高は問う。エンタープライズと月虹とは少し前に殺し合いをした仲であり、とても信を置ける相手ではない。
「何か知らないけどあいつは私に執着してるし、まあ今だけは味方でしょう」
『そ、そうですか。エンタープライズさんに返事したりはするんですか?』
「そこまでする必要はないわ。エンタープライズが付け上がると面倒だし。私達は静観するだけよ。分かった?」
『は、はい!』
そういう訳で瑞鶴は、依然として誰かが手を出すまで状況を静観することにした。エンタープライズの味方になったつもりはないのである。
○
さて、この状況で一番苦境に立たされているのは無論、ビスマルクであった。
「エンタープライズはどう見ても敵……。グラーフ・ローン、勝てる見込みはありますか?」
「無理に決まっています。理由は言うまでもないでしょう」
「で、ありますよね……。困った困った」
「エンタープライズの言う通りに撤退するのか?」
「もちろんそれも選択肢の一つではありますが、しかしこの絶好の機会、逃したくはないものであります」
「鳳翔が現れた時点で絶好の機会は終わってるんじゃないか?」
「はは、そう言われると何とも。ティルピッツは手厳しいのであります」
普通に考えれば素直に撤退する他にないだろう。だがビスマルクは寧ろこの状況を楽しんでいるように見えた。少なくともティルピッツには、姉がただで瑞鶴を見逃すつもりはないと思えた。
「姉さん、何か策でもあるのか?」
「敵が多く味方が少ないのであれば、敵を減らし味方を増やせばいいだけのことでありますよ」
「他の艦隊は到着するのに半月はかかると思いますが」
とグラーフ・ローンが言うように、もう一隻のグラーフ・ローン級プリンツ・ハインリヒはバルト海におり、モルトケ級二隻はインド洋にいる。
「無論、そんなことは非現実的であります」
「では、何をする気で?」
「味方になってくれそうな敵を引き抜けばいいのであります。この場合の選択肢は、エンタープライズ一択であります。ティルピッツ、エンタープライズとの通信を繋いでくれますか?」
「了解した」
そういう訳でビスマルクはエンタープライズに交渉を持ちかけることにした。
「エンタープライズ殿でありますね? 本艦はビスマルク級戦艦――」
『そういうのはいいです、ビスマルク。要件は何でしょうか? 宣戦布告ですか?』
エンタープライズの声は刺々しい。まあエンタープライズにとっては愛しの瑞鶴を奪おうとしている連中なのだから当然だろう。
「単刀直入に言いましょう。瑞鶴を貴艦にあげますから、この場は我々に協力して欲しいのであります」
「ちょ、姉さん、そんなこと言っていいのか?」
「構わないのであります。で、エンタープライズ殿、お返事は?」
『本当に瑞鶴を下さると? あなた達は瑞鶴が欲しいのではなかったのですか?』
「正確には日本の船魄を拿捕したいのであります。それとグラーフ・ツェッペリンも」
『なるほど、それで瑞鶴を。しかし、瑞鶴だけでは釣り合いが取れません。そうですねえ……高雄と愛宕はこちらの取り分ということにしてください』
「構いません。では我が軍がグラーフ・ツェッペリンと妙高を、アメリカ軍が瑞鶴、高雄、愛宕を持ち帰ることとしましょう」
『ええ、姉妹は色々な遊び方がありそうです』
「好きにするといいのであります」
『ふふ。交渉成立です』
エンタープライズがドイツに喧嘩を売っている状況の方が異常であったし、アメリカ軍としてもこの提案は是非とも受けたいものであった。
「鳳翔様、エンタープライズが呼び掛けてきています」
「そうですか……。受けてください」
「承りました」
夕風がエンタープライズからの通信を受諾するが、それは鳳翔だけに向けられたものではなく、敵味方問わず周辺の全ての通信機に向けられた放送のようなものであった。
『私はエンタープライズ。原子力空母エンタープライズです。私の目的はただ一つ。瑞鶴がドイツ海軍の手に渡ることを阻止することです。ドイツ人の皆さんは、今すぐ撤退することをお勧めします。でないと、皆殺しにしてしまいます』
「こ、これは何とも……」
「つまりエンタープライズは味方ということです。心配要りませんよ、夕風」
「ですが、アメリカとドイツがこんなあからさまに対立することがあるのでしょうか?」
「エンタープライズは独自に動いているだけのようです。アメリカ海軍の意志という訳ではないでしょう」
「ですが、それでもアメリカの軍艦とドイツの軍艦が衝突したら大変なことになると思いますが……」
「そうなったらそうなったで、我が国にとっては良いことではありませんか?」
「え、ええ、まあ……」
アメリカへの制裁を阻んでいるのはドイツだ。アメリカとドイツが仲違いするのは帝国にとって大きな利益となるだろう。
○
さて、エンタープライズの突然の出現は全ての勢力を驚かせた。瑞鶴もである。
「――え、キモ。何で私を名指しした?」
瑞鶴は当然ながら、エンタープライズが助太刀に来たことを全く歓迎していなかった。
『瑞鶴さん、エンタープライズさんはどういうつもりなんでしょうか……』
妙高は問う。エンタープライズと月虹とは少し前に殺し合いをした仲であり、とても信を置ける相手ではない。
「何か知らないけどあいつは私に執着してるし、まあ今だけは味方でしょう」
『そ、そうですか。エンタープライズさんに返事したりはするんですか?』
「そこまでする必要はないわ。エンタープライズが付け上がると面倒だし。私達は静観するだけよ。分かった?」
『は、はい!』
そういう訳で瑞鶴は、依然として誰かが手を出すまで状況を静観することにした。エンタープライズの味方になったつもりはないのである。
○
さて、この状況で一番苦境に立たされているのは無論、ビスマルクであった。
「エンタープライズはどう見ても敵……。グラーフ・ローン、勝てる見込みはありますか?」
「無理に決まっています。理由は言うまでもないでしょう」
「で、ありますよね……。困った困った」
「エンタープライズの言う通りに撤退するのか?」
「もちろんそれも選択肢の一つではありますが、しかしこの絶好の機会、逃したくはないものであります」
「鳳翔が現れた時点で絶好の機会は終わってるんじゃないか?」
「はは、そう言われると何とも。ティルピッツは手厳しいのであります」
普通に考えれば素直に撤退する他にないだろう。だがビスマルクは寧ろこの状況を楽しんでいるように見えた。少なくともティルピッツには、姉がただで瑞鶴を見逃すつもりはないと思えた。
「姉さん、何か策でもあるのか?」
「敵が多く味方が少ないのであれば、敵を減らし味方を増やせばいいだけのことでありますよ」
「他の艦隊は到着するのに半月はかかると思いますが」
とグラーフ・ローンが言うように、もう一隻のグラーフ・ローン級プリンツ・ハインリヒはバルト海におり、モルトケ級二隻はインド洋にいる。
「無論、そんなことは非現実的であります」
「では、何をする気で?」
「味方になってくれそうな敵を引き抜けばいいのであります。この場合の選択肢は、エンタープライズ一択であります。ティルピッツ、エンタープライズとの通信を繋いでくれますか?」
「了解した」
そういう訳でビスマルクはエンタープライズに交渉を持ちかけることにした。
「エンタープライズ殿でありますね? 本艦はビスマルク級戦艦――」
『そういうのはいいです、ビスマルク。要件は何でしょうか? 宣戦布告ですか?』
エンタープライズの声は刺々しい。まあエンタープライズにとっては愛しの瑞鶴を奪おうとしている連中なのだから当然だろう。
「単刀直入に言いましょう。瑞鶴を貴艦にあげますから、この場は我々に協力して欲しいのであります」
「ちょ、姉さん、そんなこと言っていいのか?」
「構わないのであります。で、エンタープライズ殿、お返事は?」
『本当に瑞鶴を下さると? あなた達は瑞鶴が欲しいのではなかったのですか?』
「正確には日本の船魄を拿捕したいのであります。それとグラーフ・ツェッペリンも」
『なるほど、それで瑞鶴を。しかし、瑞鶴だけでは釣り合いが取れません。そうですねえ……高雄と愛宕はこちらの取り分ということにしてください』
「構いません。では我が軍がグラーフ・ツェッペリンと妙高を、アメリカ軍が瑞鶴、高雄、愛宕を持ち帰ることとしましょう」
『ええ、姉妹は色々な遊び方がありそうです』
「好きにするといいのであります」
『ふふ。交渉成立です』
エンタープライズがドイツに喧嘩を売っている状況の方が異常であったし、アメリカ軍としてもこの提案は是非とも受けたいものであった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。
一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか?
おすすめシチュエーション
・後輩に振り回される先輩
・先輩が大好きな後輩
続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。
だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。
読んでやってくれると幸いです。
「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195
※タイトル画像はAI生成です
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
午後の紅茶にくちづけを
TomonorI
キャラ文芸
"…こんな気持ち、間違ってるって分かってる…。…それでもね、私…あなたの事が好きみたい"
政界の重鎮や大御所芸能人、世界をまたにかける大手企業など各界トップクラスの娘が通う超お嬢様学校──聖白百合女学院。
そこには選ばれた生徒しか入部すら認められない秘密の部活が存在する。
昼休みや放課後、お気に入りの紅茶とお菓子を持ち寄り選ばれし7人の少女がガールズトークに花を咲かせることを目的とする──午後の紅茶部。
いつも通りガールズトークの前に紅茶とお菓子の用意をしている時、一人の少女が突然あるゲームを持ちかける。
『今年中に、自分の好きな人に想いを伝えて結ばれること』
恋愛の"れ"の字も知らない花も恥じらう少女達は遊び半分でのっかるも、徐々に真剣に本気の恋愛に取り組んでいく。
女子高生7人(+男子7人)による百合小説、になる予定。
極力全年齢対象を目標に頑張っていきたいけど、もしかしたら…もしかしたら…。
紅茶も恋愛もストレートでなくても美味しいものよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる