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第十六章 第二次世界大戦(後日編)
逃避行の末
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ドイツ海軍はツェッペリンと瑞鶴の追跡を諦めた。そして両艦は大胆にも英仏海峡を我が物顔で通過し、スペイン沖合に出た。
「――しかし、お前はどうして我に着いてきたのだ?」
自分に乗り込んできた瑞鶴にツェッペリンは尋ねた。
「だって、あんたが私に危害を加えないようドイツ海軍に圧力を掛けたんでしょ? それがなくなったら逃げるに決まってるじゃない」
「それはそうだが……どうしてそのことを知っているのだ?」
「まあ、私にはちょっとした特殊能力? みたいなものがあるのよ」
「特殊能力……?」
ツェッペリンは眉を顰め、瑞鶴が嘘八百を言っているのではないかと疑ったが、どうもそういう様子ではなかった。
「まあよかろう。お前の判断は賢明である」
「あ、そう。で、この後はどうするつもりなの?」
「あと……? 何も考えておらんな」
「え、マジ?」
「ああ。そんなことは知らん」
ツェッペリンはドイツから去ってペーター・シュトラッサーを建造せざるを得ない状況を作るのが目的だったので、先のことを考えていないというのは自然であった。瑞鶴にはとても信じられなかったが。
「はぁ……。逃げる先くらい考えときなさいよ……」
「ではお前が考えよ」
「言われなくてもそうするわ。とは言え、場所が悪い。いっそソ連に亡命するのも悪くはないかしら」
「ソ連だと? そうなるくらいだったら自沈してくれるわ」
「あっそう。でも、逃げる先なんて他になくない?」
実のところはアメリカに亡命するというのも選択肢の一つだったのだが、瑞鶴もまた感情的な理由でこれを拒絶していた。まさか日本に戻る訳にもいかないし、逃げる先がないのである。
と、その時であった。瑞鶴の電探が接近しつつある大型艦の影を捉えたのである。
「――ちょっと、戦闘になりそうな予感がするから、私は戻るわね」
ドイツから盗んできた螺旋翼機で自分の艦に戻ると、瑞鶴は艦橋に上がったようで、ツェッペリンに無線電話を繋いできた。
「で、どうなのだ? 接近してくる艦とは?」
『速度は……10ノットくらい。戦うつもりはなさそうね。多分戦艦だろうけど』
「我らと交渉でもしに来たのか?」
『さあね。取り敢えずは、いつでも戦えるように準備しておきなさい』
「あ、当たり前だろうが」
カタパルトを装備して即応性に優れているツェッペリンは、カタパルトに攻撃機を括り付けて戦闘に備えた。
暫くすると水平線から戦艦と思しき影が姿を現し、同時にツェッペリンに対して通信の呼び掛けがあった。ツェッペリンは呼び掛けを受けてやることにした。
『あー、聞こえていますでしょうか?』
「ああ。聞こえているが?」
『よかったです。私はヴィットリオ・ヴェネト級戦艦一番艦、ヴィットリオ・ヴェネト。つい最近船魄として生まれたばかりです』
「イタリアの戦艦か。何の用だ?」
『あなた方の状況は理解しています。その上で、あなた方の亡命先に我が祖国は如何かなと思いまして』
「イタリアに亡命だと? 正気か?」
言うまでもなくイタリアはドイツの隣国である。ドイツに喧嘩を売るとは正気とは思えないし、罠であるとしか考えられなかった。
『手厳しいですね。しかし、近頃我が国とドイツの関係が冷え込んでいることはご存知でしょう? もっとも、我らの総統(ドゥーチェ)とそちらの総統(フューラー)の個人的な友情があったからこその友好関係であって、本質的にイタリアとドイツは仲が悪いとも言えますが』
「それは知っているが」
『あなた方が我らに加わってくだされば、ドイツに対抗することも難しくはありません。あなた方も、他に逃げる場所はないのでは?』
「それはそうだがな……。少し待ってくれ。瑞鶴と相談してから決める」
という訳でツェッペリンは瑞鶴に相談してみたのだが、瑞鶴は二つ返事で「いいんじゃない」と答えた。現地に行ってみれば瑞鶴の特殊能力で何とかなるらしいとのことであった。
「お前の提案を受け入れよう。イタリアに亡命する」
『ありがとうございます。もっとも、暫くは本土ではなくリビアの方に待機してもらうことになるそうですが』
「構わん。とっとと案内せよ」
『かしこまりました』
かくしてヴィットリオ・ヴェネトに連れられ、ツェッペリンと瑞鶴はジブラルタル海峡を堂々と通過して地中海に入り、リビアのトリポリ港に入港した。リビアは独立しているが、一部の港や空港をイタリアに貸し出している状態である。
ツェッペリンと瑞鶴は岸壁に横付けすると、拳銃片手に港に降り立った。
「で、大丈夫そうなのか?」
「ええ。イタリアに敵意はないみたい。本気で私達を戦力に加えたいみたいね」
「便利な力だな」
「ええ、まあね」
暫く待っていると、迎えがやって来た。白いセーラー服、それも腹をあえて丸出しにしたものを着ている、爽やかな感じの少女である。
「先程は通信にて失礼しました。改めまして、イタリア海軍のヴィットリオ・ヴェネトです。よろしくお願いしますね、ツェッペリンさん、瑞鶴さん」
「うむ。世話になるぞ」
「あ、そう。よろしく」
こうして次の亡命先はイタリアになった。ツェッペリンと瑞鶴を手に入れた今、イタリアの海軍力は世界一である。
「そうそう。我らが総統があなた方をお呼びです」
「へえ? ムッソリーニがねえ」
「一度くらいは会ってやってもよかろう」
「会ったことないの?」
「ない」
早速だが、イタリアの最高指導者ムッソリーニが、ツェッペリンと瑞鶴に会いたがっているらしい。
「――しかし、お前はどうして我に着いてきたのだ?」
自分に乗り込んできた瑞鶴にツェッペリンは尋ねた。
「だって、あんたが私に危害を加えないようドイツ海軍に圧力を掛けたんでしょ? それがなくなったら逃げるに決まってるじゃない」
「それはそうだが……どうしてそのことを知っているのだ?」
「まあ、私にはちょっとした特殊能力? みたいなものがあるのよ」
「特殊能力……?」
ツェッペリンは眉を顰め、瑞鶴が嘘八百を言っているのではないかと疑ったが、どうもそういう様子ではなかった。
「まあよかろう。お前の判断は賢明である」
「あ、そう。で、この後はどうするつもりなの?」
「あと……? 何も考えておらんな」
「え、マジ?」
「ああ。そんなことは知らん」
ツェッペリンはドイツから去ってペーター・シュトラッサーを建造せざるを得ない状況を作るのが目的だったので、先のことを考えていないというのは自然であった。瑞鶴にはとても信じられなかったが。
「はぁ……。逃げる先くらい考えときなさいよ……」
「ではお前が考えよ」
「言われなくてもそうするわ。とは言え、場所が悪い。いっそソ連に亡命するのも悪くはないかしら」
「ソ連だと? そうなるくらいだったら自沈してくれるわ」
「あっそう。でも、逃げる先なんて他になくない?」
実のところはアメリカに亡命するというのも選択肢の一つだったのだが、瑞鶴もまた感情的な理由でこれを拒絶していた。まさか日本に戻る訳にもいかないし、逃げる先がないのである。
と、その時であった。瑞鶴の電探が接近しつつある大型艦の影を捉えたのである。
「――ちょっと、戦闘になりそうな予感がするから、私は戻るわね」
ドイツから盗んできた螺旋翼機で自分の艦に戻ると、瑞鶴は艦橋に上がったようで、ツェッペリンに無線電話を繋いできた。
「で、どうなのだ? 接近してくる艦とは?」
『速度は……10ノットくらい。戦うつもりはなさそうね。多分戦艦だろうけど』
「我らと交渉でもしに来たのか?」
『さあね。取り敢えずは、いつでも戦えるように準備しておきなさい』
「あ、当たり前だろうが」
カタパルトを装備して即応性に優れているツェッペリンは、カタパルトに攻撃機を括り付けて戦闘に備えた。
暫くすると水平線から戦艦と思しき影が姿を現し、同時にツェッペリンに対して通信の呼び掛けがあった。ツェッペリンは呼び掛けを受けてやることにした。
『あー、聞こえていますでしょうか?』
「ああ。聞こえているが?」
『よかったです。私はヴィットリオ・ヴェネト級戦艦一番艦、ヴィットリオ・ヴェネト。つい最近船魄として生まれたばかりです』
「イタリアの戦艦か。何の用だ?」
『あなた方の状況は理解しています。その上で、あなた方の亡命先に我が祖国は如何かなと思いまして』
「イタリアに亡命だと? 正気か?」
言うまでもなくイタリアはドイツの隣国である。ドイツに喧嘩を売るとは正気とは思えないし、罠であるとしか考えられなかった。
『手厳しいですね。しかし、近頃我が国とドイツの関係が冷え込んでいることはご存知でしょう? もっとも、我らの総統(ドゥーチェ)とそちらの総統(フューラー)の個人的な友情があったからこその友好関係であって、本質的にイタリアとドイツは仲が悪いとも言えますが』
「それは知っているが」
『あなた方が我らに加わってくだされば、ドイツに対抗することも難しくはありません。あなた方も、他に逃げる場所はないのでは?』
「それはそうだがな……。少し待ってくれ。瑞鶴と相談してから決める」
という訳でツェッペリンは瑞鶴に相談してみたのだが、瑞鶴は二つ返事で「いいんじゃない」と答えた。現地に行ってみれば瑞鶴の特殊能力で何とかなるらしいとのことであった。
「お前の提案を受け入れよう。イタリアに亡命する」
『ありがとうございます。もっとも、暫くは本土ではなくリビアの方に待機してもらうことになるそうですが』
「構わん。とっとと案内せよ」
『かしこまりました』
かくしてヴィットリオ・ヴェネトに連れられ、ツェッペリンと瑞鶴はジブラルタル海峡を堂々と通過して地中海に入り、リビアのトリポリ港に入港した。リビアは独立しているが、一部の港や空港をイタリアに貸し出している状態である。
ツェッペリンと瑞鶴は岸壁に横付けすると、拳銃片手に港に降り立った。
「で、大丈夫そうなのか?」
「ええ。イタリアに敵意はないみたい。本気で私達を戦力に加えたいみたいね」
「便利な力だな」
「ええ、まあね」
暫く待っていると、迎えがやって来た。白いセーラー服、それも腹をあえて丸出しにしたものを着ている、爽やかな感じの少女である。
「先程は通信にて失礼しました。改めまして、イタリア海軍のヴィットリオ・ヴェネトです。よろしくお願いしますね、ツェッペリンさん、瑞鶴さん」
「うむ。世話になるぞ」
「あ、そう。よろしく」
こうして次の亡命先はイタリアになった。ツェッペリンと瑞鶴を手に入れた今、イタリアの海軍力は世界一である。
「そうそう。我らが総統があなた方をお呼びです」
「へえ? ムッソリーニがねえ」
「一度くらいは会ってやってもよかろう」
「会ったことないの?」
「ない」
早速だが、イタリアの最高指導者ムッソリーニが、ツェッペリンと瑞鶴に会いたがっているらしい。
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