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第十六章 第二次世界大戦(後日編)
ティルピッツ
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その後、世界は暫く平和であった。
総統はアルベルト・シュペーア軍需大臣と共にベルリン大改造『世界首都ゲルマニア』計画を開始した。ベルリンの街路を幾何学的な構造に再編し、各所に散らばっていた駅をベルリン中央駅に集約し、また大議事堂や凱旋門といった巨大な建築物を幾つも建設した。
軍事的には、圧倒的に優勢な海軍を持つ日本海軍に対抗するべく、海軍の大拡張計画『第二次Z計画』が開始された。
○
一九四七年二月四日、ドイツ国シュレスヴィヒ=ホルシュタイン大管区、キール。
「――何と、我の妹を建造するのか」
「ああ、そのようだ。一先ず空母を一隻でも増やさなければならないからね」
グラーフ・ツェッペリンはシュニーヴィント上級大将から、彼女の妹つまりペーター・シュトラッサーを建造する予定があると知らされた。
ペーター・シュトラッサーは第二次世界大戦前に少しだけ建造が進められていたのだが、資源不足により解体されてしまっていた。これを再び建造しようというのである。
「そうか。早く会いたいものだな……」
「やはり、家族が増えるというのは嬉しいものなのか」
「ま、まあな」
ツェッペリンは顔を赤くして、上級大将から目を逸らした。妹という存在を楽しみで仕方なかったのである。
○
一九四七年二月十三日、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン大管区、キール。
一方その頃、別の計画が完遂されていた。ビスマルク級戦艦二番艦ティルピッツの船魄化である。グラーフ・ツェッペリンと共に第二次世界大戦を戦い抜いたティルピッツの船魄がいかなるものか、ツェッペリンも楽しみにしていた。
「そろそろティルピッツが来るぞ」
メンゲレ博士がティルピッツの来訪を伝えると、ツェッペリンは緊張してきて深呼吸を繰り返していた。そして数分後、ツェッペリンが待ち受ける一室の扉が叩かれた。
「ティルピッツだ。入ってもいいか?」
聞こえてきたのは凛々しい少女の声である。
「う、うむ。入ってもよいぞ」
「失礼する」
軍服を着た灰色の髪と赤い目の少女。何故だかつまらなそうな表情をずっと浮かべているが、ツェッペリンの向かいに腰を下ろした。しかし今すぐに帰りたそうな雰囲気を醸し出している。
「その、何だ、お前とは随分と色々な作戦を共に戦ったが、それは覚えているのか?」
「当たり前だ。私は戦艦ティルピッツそのものなんだからな」
返答はぶっきらぼうである。
「それはよかった」
「……」
「……」
またしても沈黙。戦友であっても意外と共通の話題がないのである。
「特に話すことはないのか?」
「ま、まあ、そうなるな」
「では、私は失礼させてもらう。時間を無駄にするのは嫌いなんだ」
「急いでいるのか?」
「別に用事がある訳ではないが、この調子ではお互いにとって時間の無駄にしかならないと思うが?」
「否定はしないが……もう少し話していかないか? 例えば、お前の姉のビスマルクは、どうなっているのだ?」
「大西洋の底に沈んでいるが?」
ビスマルクは1941年5月にフランスの西方で撃沈されている。
「そ、そうではなくだな、引き揚げとかをする予定はないのか?」
「ああ、それなら、ビスマルクを再建造する予定はあるらしい。まだ数年はかかりそうだが」
「そうか。その時が楽しみであるな」
「まあ、そうだな。会ってみたいものだ」
こんな調子のティルピッツとは話も弾まず、彼女は結局15分くらいで帰ってしまった。とは言え、数少ない同僚である彼女と会う機会は幾らでもあったので、色々と話を聞くことはできたが。
○
一九四七年五月二十一日、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン大管区、キール。
ティルピッツの覚醒から3ヶ月。シュニーヴィント上級大将が内密にということで、とんでもない報せを持ってきた。
「――何だと!? 我が総統が引退されるだと!?」
「ああ。その意向を固められたそうだ」
「な、何故だ!? 何故こんな急に!?」
「我が総統は戦時中から体調を崩しておられたからな。そろそろ静養に入るべきだろう」
「そ、そうかもしれないが……」
ツェッペリンもそう言われると、何とも言い返せなかった。
「我は我が総統にしかお仕えするつもりはないが……」
「それは困るなあ。君にはドイツに使えて欲しいのだが」
「うむ……。それは分かっておる」
流石のツェッペリンも、総統が引退しても働き続けるつもりではあった。
さて、総統は後継者にヨーゼフ・ゲッベルス宣伝大臣を指名した。総統の後継者と目されていたゲーリング国家元帥や党の序列第二位であったボルマン官房長官などを差し置いての指名ではあるが、ゲーリングは政治力が全くないしボルマンは人気が全くなかったので、消去法的に考えれば自然な選択であった。
ヒトラーは永世総統ということになり、ゲッベルスはヒンデンブルク以来廃止されていた大統領を名乗り、新たな最高指導者に就任した。またゲッベルスは彼に擦り寄ってきたボルマンを全ての役職から解任して田舎の年金生活に追いやり、党内の風通しを随分と改善することに成功した。
総統はアルベルト・シュペーア軍需大臣と共にベルリン大改造『世界首都ゲルマニア』計画を開始した。ベルリンの街路を幾何学的な構造に再編し、各所に散らばっていた駅をベルリン中央駅に集約し、また大議事堂や凱旋門といった巨大な建築物を幾つも建設した。
軍事的には、圧倒的に優勢な海軍を持つ日本海軍に対抗するべく、海軍の大拡張計画『第二次Z計画』が開始された。
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一九四七年二月四日、ドイツ国シュレスヴィヒ=ホルシュタイン大管区、キール。
「――何と、我の妹を建造するのか」
「ああ、そのようだ。一先ず空母を一隻でも増やさなければならないからね」
グラーフ・ツェッペリンはシュニーヴィント上級大将から、彼女の妹つまりペーター・シュトラッサーを建造する予定があると知らされた。
ペーター・シュトラッサーは第二次世界大戦前に少しだけ建造が進められていたのだが、資源不足により解体されてしまっていた。これを再び建造しようというのである。
「そうか。早く会いたいものだな……」
「やはり、家族が増えるというのは嬉しいものなのか」
「ま、まあな」
ツェッペリンは顔を赤くして、上級大将から目を逸らした。妹という存在を楽しみで仕方なかったのである。
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一九四七年二月十三日、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン大管区、キール。
一方その頃、別の計画が完遂されていた。ビスマルク級戦艦二番艦ティルピッツの船魄化である。グラーフ・ツェッペリンと共に第二次世界大戦を戦い抜いたティルピッツの船魄がいかなるものか、ツェッペリンも楽しみにしていた。
「そろそろティルピッツが来るぞ」
メンゲレ博士がティルピッツの来訪を伝えると、ツェッペリンは緊張してきて深呼吸を繰り返していた。そして数分後、ツェッペリンが待ち受ける一室の扉が叩かれた。
「ティルピッツだ。入ってもいいか?」
聞こえてきたのは凛々しい少女の声である。
「う、うむ。入ってもよいぞ」
「失礼する」
軍服を着た灰色の髪と赤い目の少女。何故だかつまらなそうな表情をずっと浮かべているが、ツェッペリンの向かいに腰を下ろした。しかし今すぐに帰りたそうな雰囲気を醸し出している。
「その、何だ、お前とは随分と色々な作戦を共に戦ったが、それは覚えているのか?」
「当たり前だ。私は戦艦ティルピッツそのものなんだからな」
返答はぶっきらぼうである。
「それはよかった」
「……」
「……」
またしても沈黙。戦友であっても意外と共通の話題がないのである。
「特に話すことはないのか?」
「ま、まあ、そうなるな」
「では、私は失礼させてもらう。時間を無駄にするのは嫌いなんだ」
「急いでいるのか?」
「別に用事がある訳ではないが、この調子ではお互いにとって時間の無駄にしかならないと思うが?」
「否定はしないが……もう少し話していかないか? 例えば、お前の姉のビスマルクは、どうなっているのだ?」
「大西洋の底に沈んでいるが?」
ビスマルクは1941年5月にフランスの西方で撃沈されている。
「そ、そうではなくだな、引き揚げとかをする予定はないのか?」
「ああ、それなら、ビスマルクを再建造する予定はあるらしい。まだ数年はかかりそうだが」
「そうか。その時が楽しみであるな」
「まあ、そうだな。会ってみたいものだ」
こんな調子のティルピッツとは話も弾まず、彼女は結局15分くらいで帰ってしまった。とは言え、数少ない同僚である彼女と会う機会は幾らでもあったので、色々と話を聞くことはできたが。
○
一九四七年五月二十一日、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン大管区、キール。
ティルピッツの覚醒から3ヶ月。シュニーヴィント上級大将が内密にということで、とんでもない報せを持ってきた。
「――何だと!? 我が総統が引退されるだと!?」
「ああ。その意向を固められたそうだ」
「な、何故だ!? 何故こんな急に!?」
「我が総統は戦時中から体調を崩しておられたからな。そろそろ静養に入るべきだろう」
「そ、そうかもしれないが……」
ツェッペリンもそう言われると、何とも言い返せなかった。
「我は我が総統にしかお仕えするつもりはないが……」
「それは困るなあ。君にはドイツに使えて欲しいのだが」
「うむ……。それは分かっておる」
流石のツェッペリンも、総統が引退しても働き続けるつもりではあった。
さて、総統は後継者にヨーゼフ・ゲッベルス宣伝大臣を指名した。総統の後継者と目されていたゲーリング国家元帥や党の序列第二位であったボルマン官房長官などを差し置いての指名ではあるが、ゲーリングは政治力が全くないしボルマンは人気が全くなかったので、消去法的に考えれば自然な選択であった。
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