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第十六章 第二次世界大戦(後日編)

戦争の後で

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 さて、ソ連は当初のところはアメリカと表立って敵対することはなかったが、ハワイ失陥などの退潮を見て、本格的にアメリカを討伐することを決意した。それに先立ってドイツと日本にシベリア鉄道を自由に利用することを許可し、ドイツは日本に新型の対空砲や機関砲を送り届けた。

 日本のアメリカ本土上陸、そしてソ連のアラスカ侵攻によってアメリカは降伏し、ついに第二次世界大戦は終結。京都平和条約が締結され、連合国の指導者の中でも特に重大な戦争責任を負うとされた数名が処刑された。

 戦時中は同盟国であったドイツと日本は東アジアの分割を巡って急速に対立を深め、ドイツはアメリカと、日本はソ連とそれぞれ接近して冷戦体制が確立された。そんな中、瑞鶴がオーストラリアに亡命するという事件が起き、ドイツは瑞鶴を確保することに成功した訳である。

 ドイツに向かう瑞鶴がスエズ運河を通過したところで、ツェッペリンは瑞鶴に会うことにした。初めて味方と言える船魄に真っ当な形で会うことができたのである。ツェッペリンは最新のヘリコプターで瑞鶴に乗り込んで、彼女と話すことにした。

「お前が瑞鶴か。日本の船魄は角と尻尾が生えているのだな」
「ええ、そうだけど。ドイツでは逆に羽が生えてるのね。ま、取り敢えず座って」

 大急ぎで完成させられたツェッペリンと違って、瑞鶴艦内の内装は実に整っていた。士官室などまるで宮殿のようである。ツェッペリンは瑞鶴に言われるままに、彼女と向かい合うソファに座った。

 しかし、世界に数少ない同類とは言え、全く話題というものが見つからず、気まずい沈黙が流れていた。

「そ、そうだ、お前のところには船魄がもう一人いるのだろう?」
「長門のこと?」
「ああ。そやつはどういう奴なのだ?」
「そうねえ。まあクソ真面目な奴で、いい軍人だったわ。私とはあんまり仲良くなかったけど」
「そ、そうなのか……」

 余計なことを聞いた気がして申し訳なくなったツェッペリンであった。

「ドイツはあんたしかいないの?」
「ああ、そうだな。近いうちにティルピッツを船魄化する予定らしいが」
「あの戦艦ねえ。まあいいんじゃない」
「何だその反応は」
「いや、まあ、ティルピッツって正直言って長門より弱いし」
「お前、少しは遠慮して発言したらどうだ……」
「私が人に遠慮すると思う?」
「そういう顔には見えんが……」

 船魄同士他愛ない会話を交わして、多少は互いを知り合うことができた。ツェッペリンと瑞鶴はその後も同道して、共にヴィルヘルムスハーフェン港に入った。

 港に入ると早速、ツェッペリンを訪れる者があった。ツェッペリンの生みの親のような男、メンゲレ博士である。

「やあツェッペリン。アジアへの遠征、お疲れ様」
「何の用だ? そんなことを言う為にお前がわざわざ研究室を離れることはあるまい」
「まあ、その通りなんだが……。確保した瑞鶴についての話だ」
「何?」
「瑞鶴は貴重な日本の船魄だ。日本に開示してもらえなかった技術を獲得する絶好の機会なのだ」
「だからどうした?」
「だから、まあ、瑞鶴は調査研究に使わせてもらおうと思ってね。端的に言えば、解剖させてもらうということだ」
「は? 貴様、本気で言っているのか?」

 ツェッペリンはメンゲレ博士を怒りと軽蔑の混じった目で睨みつけた。

「おいおい、そんなに怒ることはないじゃないか。瑞鶴は君にとってはただの他人じゃないか」
「せっかくの同類なのだ。殺すことは許さぬ。もしも瑞鶴に手を出せば、貴様を爆撃して殺す。分かったか?」
「分かった分かった。そう怖い顔をしないでくれ。別に瑞鶴を殺すという訳じゃないんだが……」
「余計な口答えをするな」
「いや、すまない。この話はなかったことにしてくれ」

 そういう訳でメンゲレ博士の計画は儚くも破棄された。また同時に、彼のような研究バカが瑞鶴に手を出さないよう、ツェッペリンはシュニーヴィント上級大将に命じて、海軍に瑞鶴を警備させた。また大和を呼び覚ます研究については引き続きメンゲレ博士に監視付きで続けさせた。

 瑞鶴もほどなくして人々の思考を読む特殊能力でこの辺りの事情を知ったが、特に何も言わなかった。

 さて、数日後のこと。今度は瑞鶴を訪ねる者があった。すっかりくたびれた様子の男が、やけに多い護衛を連れてやって来た。

「君が瑞鶴だね」
「ええ、そうだけど」
「私はドイツ国総統、アドルフ・ヒトラーだ」
「あ、そう。写真で見たのと比べると、随分弱々しいわね」
「おいお前! 余りにも無礼だぞッ!!」

 と怒鳴るのは親衛隊全国指導者のハインリヒ・ヒムラーであったが、総統は一笑に付して瑞鶴を許した。

「別にいいのだ。彼女は我が国の客人で、別に私に経緯を払う必要などない」
「随分と寛大ねえ。話に聞いてたのとは性格も違うわ」
「善人が善良な統治をする訳でも、悪人が悪政を敷く訳でもあるまい」
「なるほど。で、何の用?」
「こうなった以上は、君には我が国の為に働いてもらいたいのだ。君の価値は十分に理解しているつもりだ」
「ええ。流石にタダで匿ってなんて言うつもりはないわ」
「それはよかった。こちらとしても、君とは良好な関係を築いていきたい。困ったことがあったら何でも私に言ってくれたまえ」
「分かった。感謝するわ」

 こうしてドイツとの関係も良好で、瑞鶴は安住の地を手に入れたと思ったのだが、それも長くは続かなかった。
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