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第十六章 第二次世界大戦(後日編)
ソビエツキー・ソユーズ撃沈作戦Ⅱ
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至近距離で発射された魚雷は数十秒でソビエツキー・ソユーズに到達し、その左舷からは巨大な水柱が幾つも上がった。少なくとも5本は命中していること間違いないだろう。
「ツェッペリン、状況はどうなっている?」
「魚雷は命中したが……損害を与えられたかは分からぬ。それと、我はもう疲れた……」
「おいおい」
空元気で誤魔化していたが、ツェッペリンは艦載機を撃ち落とされる負担にすっかり疲れ果てていた。ソユーズへの雷撃を終えるとツェッペリンはまたしても座ったまま寝入ってしまった。
「ど、どうしますか、閣下?」
「ベッドに運んでやってくれ。さて、奴はどうなったのか……」
ツェッペリンが気絶した今、国防軍に戦果を確認することはできなかった。人間の偵察機など送り込んでも一瞬で撃墜されるだけであろう。
○
その頃。魚雷を脇腹に喰らったソビエツキー・ソユーズの艦橋にて。
「ソユーズ、被害状況はどうなっているんだ?」
わざわざソユーズに同乗して来たクズネツォフ元帥は尋ねる。ソユーズは苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「同志クズネツォフ、浸水が予想より激しく、このままでは、転覆の虞もあります」
「ほんの数発の魚雷でそんな被害が出るとは……。我が国の造船技術の限界、と言ったところか」
魚雷の衝撃というのは単に厚い装甲で防げるものではない。色々と方法はあるが、水中で急速に発生する気泡による圧力を和らげるような水雷防御が必要なのである。
「申し訳ありません、同志……」
「いやいや、別に君を責めている訳ではないんだ。君は十分に仕事を果たしたが、設計段階での問題はどうしようもないからね」
「はっ……」
「これ以上の戦闘は不可能だな。撤退するとしよう」
「同志! 私はまだ戦えます!!」
撤退と言われた途端、ソユーズはまだ戦わせてくれと訴えるが、クズネツォフ元帥はそれを聞き入れる気などなかった。
「既に本艦は傾き始めている。これでは対空砲火ならともかく、主砲をマトモに使うのは不可能だ。それは君もわかっているだろう」
「そ、それは、そうですが……」
「そんな状態でドイツを襲撃したところで、無駄死にするだけだ。それに、同志スターリンからのご命令もある。君を生かして返すようにとね」
「しかし、今から本国に撤退するのは厳しいかと」
「分かっている。だから、ポルトガルに寄港することとしよう。一応は今でも中立国だからね」
「承知しました、同志クズネツォフ」
そういう訳でソビエツキー・ソユーズは早々に戦闘能力を失い、ポルトガルのアルマーダに(ポルトガル政府は非常に嫌がったが)寄港することとなった。
ドイツはこれを見て、ポルトガル政府にソビエツキー・ソユーズを追い出すように要求したが、ポルトガルはソユーズを恐れて何も手出しはできなかった。ドイツはポルトガルへの侵攻も計画したが、戦争が終息しつつある現状で戦線を増やすのは国民が耐えられないとして、結局は捨て置くことになった。
○
一方その頃。ソユーズが中立国に入ったからと言って攻撃を禁止されたツェッペリンは、不満が爆発していた。明らかに有利だったのに戦闘を無理やり止められたからである。
「ポルトガルなど気にすることはない! とっとと攻撃してソユーズを沈めればよいではないか!」
そう怒鳴るツェッペリンを、シュニーヴィント上級大将はたしなめる。
「中立国の権利は厳に守られるべきだ。ポルトガルに手を出す訳にはいかないんだ」
「クッ……」
「それに、港の中で沈めたところで、修理されてまた浮かんでくるだろう。仮に戦っても意味はないぞ」
「そ、それはそうかもしれんが……クソッ」
どう足掻いてもツェッペリンはソユーズとの決闘を諦める他にないのであった。それはいいとしても、更に信じられない話が飛んできた。
「――何だと? この状況でソ連と和平交渉に移るのか?」
「ああ、そのようだ」
「何故ソビエツキー・ソユーズを放置して交渉に入るのだ! 奴を沈めてからの方が有利に交渉できるに決まっているではないか!」
「それは無理だと言ったじゃないか」
「だとしても、何か外交的な手段を使ってソユーズを追い出すこともできよう。何故今……」
「仮にそうしたとしても、ソ連が第二第三の船魄を出してくるかもしれない」
「そんなもの、我が沈めてくれるわ!」
「ソユーズ一隻に艦載機を全滅させられたのにか?」
「そ、それは…………」
結局のところソ連はドイツの制海権を脅かすこともできなかった訳だが、ソ連にも独自の船魄を生み出す技術があるとドイツに示すことができた。そして現在の圧倒的に有利な状況が保たれているうち和平を締結しようと、ドイツは焦っているのだ。
「これは我が総統のご判断だ。それを疑うのか?」
「まさか、そんなつもりはない」
「ああ。もっとも、我が総統が本当に正しい情報を得ておられるのかは、疑問だがな」
「? どういうことだ?」
「党内部の、些細な問題さ。気にしなくていい」
「そんなことを言われると気になるではないか」
「マルティン・ボルマンという男が問題なんだ。奴のせいで総統とロクに話ができん」
党官房長官ボルマンは、総統に入る情報、面会する人間をほとんどコントロールしている男である。ヒムラーやゲーリングはボルマンを排除しようとしているが、総統に気に入られている彼に楯突くのは困難であった。愚痴をこぼしても仕方のないことではあるが。
「ツェッペリン、状況はどうなっている?」
「魚雷は命中したが……損害を与えられたかは分からぬ。それと、我はもう疲れた……」
「おいおい」
空元気で誤魔化していたが、ツェッペリンは艦載機を撃ち落とされる負担にすっかり疲れ果てていた。ソユーズへの雷撃を終えるとツェッペリンはまたしても座ったまま寝入ってしまった。
「ど、どうしますか、閣下?」
「ベッドに運んでやってくれ。さて、奴はどうなったのか……」
ツェッペリンが気絶した今、国防軍に戦果を確認することはできなかった。人間の偵察機など送り込んでも一瞬で撃墜されるだけであろう。
○
その頃。魚雷を脇腹に喰らったソビエツキー・ソユーズの艦橋にて。
「ソユーズ、被害状況はどうなっているんだ?」
わざわざソユーズに同乗して来たクズネツォフ元帥は尋ねる。ソユーズは苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「同志クズネツォフ、浸水が予想より激しく、このままでは、転覆の虞もあります」
「ほんの数発の魚雷でそんな被害が出るとは……。我が国の造船技術の限界、と言ったところか」
魚雷の衝撃というのは単に厚い装甲で防げるものではない。色々と方法はあるが、水中で急速に発生する気泡による圧力を和らげるような水雷防御が必要なのである。
「申し訳ありません、同志……」
「いやいや、別に君を責めている訳ではないんだ。君は十分に仕事を果たしたが、設計段階での問題はどうしようもないからね」
「はっ……」
「これ以上の戦闘は不可能だな。撤退するとしよう」
「同志! 私はまだ戦えます!!」
撤退と言われた途端、ソユーズはまだ戦わせてくれと訴えるが、クズネツォフ元帥はそれを聞き入れる気などなかった。
「既に本艦は傾き始めている。これでは対空砲火ならともかく、主砲をマトモに使うのは不可能だ。それは君もわかっているだろう」
「そ、それは、そうですが……」
「そんな状態でドイツを襲撃したところで、無駄死にするだけだ。それに、同志スターリンからのご命令もある。君を生かして返すようにとね」
「しかし、今から本国に撤退するのは厳しいかと」
「分かっている。だから、ポルトガルに寄港することとしよう。一応は今でも中立国だからね」
「承知しました、同志クズネツォフ」
そういう訳でソビエツキー・ソユーズは早々に戦闘能力を失い、ポルトガルのアルマーダに(ポルトガル政府は非常に嫌がったが)寄港することとなった。
ドイツはこれを見て、ポルトガル政府にソビエツキー・ソユーズを追い出すように要求したが、ポルトガルはソユーズを恐れて何も手出しはできなかった。ドイツはポルトガルへの侵攻も計画したが、戦争が終息しつつある現状で戦線を増やすのは国民が耐えられないとして、結局は捨て置くことになった。
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一方その頃。ソユーズが中立国に入ったからと言って攻撃を禁止されたツェッペリンは、不満が爆発していた。明らかに有利だったのに戦闘を無理やり止められたからである。
「ポルトガルなど気にすることはない! とっとと攻撃してソユーズを沈めればよいではないか!」
そう怒鳴るツェッペリンを、シュニーヴィント上級大将はたしなめる。
「中立国の権利は厳に守られるべきだ。ポルトガルに手を出す訳にはいかないんだ」
「クッ……」
「それに、港の中で沈めたところで、修理されてまた浮かんでくるだろう。仮に戦っても意味はないぞ」
「そ、それはそうかもしれんが……クソッ」
どう足掻いてもツェッペリンはソユーズとの決闘を諦める他にないのであった。それはいいとしても、更に信じられない話が飛んできた。
「――何だと? この状況でソ連と和平交渉に移るのか?」
「ああ、そのようだ」
「何故ソビエツキー・ソユーズを放置して交渉に入るのだ! 奴を沈めてからの方が有利に交渉できるに決まっているではないか!」
「それは無理だと言ったじゃないか」
「だとしても、何か外交的な手段を使ってソユーズを追い出すこともできよう。何故今……」
「仮にそうしたとしても、ソ連が第二第三の船魄を出してくるかもしれない」
「そんなもの、我が沈めてくれるわ!」
「ソユーズ一隻に艦載機を全滅させられたのにか?」
「そ、それは…………」
結局のところソ連はドイツの制海権を脅かすこともできなかった訳だが、ソ連にも独自の船魄を生み出す技術があるとドイツに示すことができた。そして現在の圧倒的に有利な状況が保たれているうち和平を締結しようと、ドイツは焦っているのだ。
「これは我が総統のご判断だ。それを疑うのか?」
「まさか、そんなつもりはない」
「ああ。もっとも、我が総統が本当に正しい情報を得ておられるのかは、疑問だがな」
「? どういうことだ?」
「党内部の、些細な問題さ。気にしなくていい」
「そんなことを言われると気になるではないか」
「マルティン・ボルマンという男が問題なんだ。奴のせいで総統とロクに話ができん」
党官房長官ボルマンは、総統に入る情報、面会する人間をほとんどコントロールしている男である。ヒムラーやゲーリングはボルマンを排除しようとしているが、総統に気に入られている彼に楯突くのは困難であった。愚痴をこぼしても仕方のないことではあるが。
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