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第十五章 第二次世界大戦(攻勢編)

イギリスの少女

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「そいつはまだ目覚めないのか!?」

 チャーチルは拳銃片手に、未完成の船魄の少女が眠る研究室に殴り込んだ。

「か、閣下!? いや、その、計画は破棄との話だったのでは……」
「それは撤回する! 今すぐそいつを完成させろッ!!」
「で、ですから、我々に彼女が目覚めない理由は分からず、手詰まりに陥っているのです」
「貴様らそれでも科学者か!? とっとと仕事をしろ!!」
「そう言われましても……」

 イギリスの船魄技術は今のところ、アメリカからの技術提供や日本からの諜報など、外からの情報に頼り切っている。アメリカはどうやら自力で船魄技術の完成に至ったようだが(どうして上手くいったのかはアメリカ人にも分からないらしい)、イギリスの科学力では船魄らしきものを作り出すことしかできなかった。

「クソッタレがッ!! だったらそいつを今すぐ殺せ!!」
「で、ですが、それはあまりにも――」
「そんなものが残ってたら、俺が処刑される理由が増えるだけだろうが!! いいからとっとと殺せ!!」
「い、いや――」
「やる気がないなら俺がやる! そこをどけ!!」

 チャーチルは拳銃を構え、ベッドの上に横たわる少女に向かっていく。研究員達はそれを制止するが、チャーチルは聞く耳を持たなかった。そして少女の瞳の目の前に銃口を突きつけた。

「これが最後のチャンスだ。死にたくなかったら、戦闘機の一機くらい動かして見せろ!!」
「…………?」

 少女は虚ろな目で拳銃を見つめ、意味のある言葉を発することはなかった。

「何なんだ、こいつは。まるで話にならんな。ただの廃人じゃないか」
「た、確かに、自我を確立するまでは、そう言われても仕方はないのですが……」
「クソッ。おい! いい加減何か言ったらどうだ!?」

 チャーチルは少女の眉間に銃口を突きつけながら、少女に怒鳴りつける。だが少女は相変わらず何も感じていないようであった。チャーチルはその無反応さに苛立つ。

「お前、ここで何も言わなかったら、俺に撃ち殺されるんだぞ? 死にたいのか?」
「……私、は…………」
「はっ、喋れるじゃねえか」
「ま、まさか、喋るとは……」

 これまで一言も言葉という言葉を喋ったことのない少女が、単語を発したのである。研究員達は大いに驚いた。

「だが、それだけじゃ意味はない。言ってみろ。お前の仕事は? お前の存在意義は?」
「……私……仕事…………」
「そうだ。お前の役目は?」

 チャーチルは銃口を少女の眉間に押し当てる。

「私、は……私は……敵を、殺す…………」
「おお、そうだ! お前の役目は敵を殺すことだ! グレートブリテンを脅かす全ての敵を殺すんだ!」
「グレートブリテン……。そう、ブリテン…………。私の、祖国……」
「そうだ! お前はグレートブリテンを守る武器だ!」
「武器…………」
「ああ、そうだ。お前は武器だ。お前は祖国を侵略する敵を皆殺しにする武器だ! さあ言ってみろ! お前の名前は何だ?」
「名前……。私の、名前…………」
「そうだ、名前だ! 言え!!」

 少女に向かって叫びながら、銃口をグリグリと押し付ける。その瞬間、虚ろだった少女の瞳に光が宿った。

「私は……。私の名前は……ユニコーン、です」

 ついに少女は自らの存在を思い出した。チャーチルが起こしたこの奇跡に、人々はざわめく。

「は、ははっ、言えたじゃないか。そうだ。お前は空母ユニコーンだ。お前の仕事はドイツ人を皆殺しにして、絶滅させることだ」

 航空機補修艦という他に例のない艦種として生み出された異色の軍艦であるが、実際にはほとんど空母として運用されていたユニコーン。しかし、本国が焼け野原になっても燃料さえあれば単独で戦い続けられるという点を買われて、アジアから密かに回航され、ベルファストで改造を受けていたのである。

「ええ、そうですわね。わたくしは航空母艦、そう、艦載機は全てわたくしの手の内に」

 ユニコーンは起き上がり、チャーチルに微笑んだ。

「そ、そうだ、いいぞ……」
「伝わってきますわ。わたくしの駒となるべき艦載機達、その息吹が」
「そうだ。その意気だ!」

 ユニコーンは天井に手を伸ばし、何かを指さしている。

「何をしてるんだ?」
「か、閣下! ユニコーンの艦載機が動き出してます! ユニコーンは完全に覚醒しました!」
「おお、そうか。素晴らしい! 素晴らしいぞ!!」

 港に停留している空母ユニコーンから、艦載機が続々と飛び立った。ついにグラーフ・ツェッペリンに対抗し得る兵器を手に入れ、チャーチルは大いに歓喜した。

「ん? おい、戦闘機がこっちに向かってきてるぞ? ユニコーン、何のつもりだ?」
「何のつもり、ですか? それは当然、こうするに決まっています」
「な、何だ……?」

 ユニコーンが微笑んだ。次の瞬間、けたたましいプロペラ音が研究室に響くと、次いで耳をつんざく銃声が響き、研究室の屋根に大穴が空いた。そしてチャーチルの姿はにわかに見えなくなった。

「か、閣下は……?」
「お、おい、あれ……」
「なっ……」

 チャーチルの胴体は真っ二つになって、赤黒い血液と臓腑が飛び散っていた。もちろん即死である。そして、チャーチルの返り血を浴びて血塗れのユニコーンは、研究員達に微笑むと、パンと手を叩いて命令する。

「ほら、皆さん、何を呆けているのですか? 早くこの豚の死骸を片付けなさい。それと、紅茶を用意してくださる?」

 空にはユニコーンの戦闘機が飛び交っており、いつまたチャーチルのように殺されてもおかしくはない。ユニコーンの命令に逆らう者はいなかった。
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