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第十五章 第二次世界大戦(攻勢編)
第二次ゼーレーヴェ作戦
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ドイツ国防軍は英仏海峡の制海権、制空権を完全に確保し、満を持して英国本土への上陸作戦を敢行した。グレートブリテン島が敵の攻撃に晒されるのはノルマン・コンクエスト以来実に900年ぶりのことである。
ロンメル元帥率いるB軍集団はフランス北海岸の各地から出撃し、ポーツマス、ブライトン、ドーバーに上陸作戦を敢行した。グラーフ・ツェッペリンはまだ中破したままだが、空からの援護を任されている。
「何だこれは。戦車の一両もないではないか」
「まあ、連合国軍はフランスで一度全滅しているんだ。装甲車両などほとんど残っていないだろう」
イギリスにはドイツ軍に対抗する陸上戦力など残されていない。ホームガードと呼ばれる民兵を主体にして、ドイツ軍の上陸が予想される場所に塹壕を掘って待ち構えている。
「甚だつまらん。奴らの塹壕も、ただの溝だ。全く機能しておらん」
「それでも歩兵にとってはそれなりの脅威だ。排除しておいてくれ」
「うむ。我もこれには少し同情してしまいそうだがな」
塹壕というのは普通、空襲や砲撃に備えて退避壕が設置されているものだが、イギリスの塹壕にそんなものは見受けられない。ツェッペリンの言うように、ただ地面に刻まれた溝に過ぎないのである。
ツェッペリンが爆弾を落とし機銃掃射をするだけで、兵士達には隠れる場所もなく、塹壕はあっという間に即席の共同墓地と化した。
「奴ら、逃げていくぞ。追撃してもよいか?」
「忍びないところだが……我が軍の犠牲を増やす訳にはいかない。降伏の意を示していない限りは、殲滅してくれ」
「分かった。皆殺しにしてくれよう」
車の一両もなく、走って塹壕から逃げ出すホームガードの兵士達。ツェッペリンは彼らを背中から機銃掃射して、降伏する者を除いて一人残らず殺し尽くした。このようなツェッペリンの攻撃によって、イギリス軍の水際防御は完全に破壊された。イギリス軍の損害は初日で10万を超えたが、ドイツ軍の損害は僅かに400であった。
グレートブリテン島に立ち入ることを阻むものは何もなく、ドイツ軍は悠々と上陸して、イギリス本土にハーケンクロイツの旗を高く掲げた。
「ツェッペリン、陸軍から通信が入っている。君と話したいそうだ」
「陸軍? まあいい。構わんぞ」
シュニーヴィント上級大将が持ってきた奇妙な通信を、ツェッペリンは受けることにした。自分に話したいと言ってくれる人間がいると嬉しいのである。
「我こそはグラーフ・ツェッペリンである。我と話したいというお前は誰だ?」
『初めまして。私はエルヴィン・ロンメル陸軍元帥だ』
砂漠の狐ことエルヴィン・ロンメル元帥。国民からの人気と総統からの信頼によって、第二次世界大戦始まってから5年で少将から元帥に昇進した英雄である。
「ほう。元帥自ら話したいことでもあるのか?」
『別段用事があるということはないのだがね。貴官のお陰で我々はほとんど損害を出さずにイギリス上陸を成功させられた。それにささやかながら感謝したいのだよ』
「こんな簡単な仕事で礼を言う必要はない」
『ははっ、流石だな。ともかく、今後ともよろしく頼むよ』
「ああ。ヨーロッパの空は今後ともドイツのものである」
ツェッペリンの援護の下、陸軍は前進していく。
しかし、イギリスの防衛体制は酷いものであった。ホームガードは2人に1丁しか銃を持っておらず、その銃も猟銃のような戦争にはとても向いていないものばかり。銃を持っていないものは、鉄パイプに銃剣を固定した即席の槍――チャーチル曰く『ホームガードパイク』を持って、ドイツ軍に死に物狂いに突進してきた。
当然、そんな抵抗に意味はない。圧倒的に優勢な火力を持つドイツ軍の前にイギリス軍の試みは粉砕され、ロンメル元帥の進撃を妨害することすら叶わなかった。
○
さて、ゼーレーヴェ作戦が発動されて2週間が経過した。イングランド南部はほぼ制圧され、南部に集中していた飛行場が制圧されたことでイギリス空軍はほぼ完全に戦闘能力を喪失している。
ロンメル元帥はついにロンドンを包囲し、ついにその攻略に乗り出したが、ロンドンはこれまでとは違い正規軍によって防衛されているようであり、総攻撃には相当な犠牲がつくと思われる。
ロンメル元帥はここで、ロンドンに対し降伏勧告を発した。
『――ロンドンには要塞としての機能はなく、援軍も望めない。籠城は全くの無意味であり、貴官らの抵抗は数十万のロンドン市民の命と、歴史的な建造物の数々を無為に失うだけである。よって、英国政府に勧告する。ロンドンを無防備都市とし、速やかに我が軍に明け渡すべし』
この勧告はロンドンの開城を求めイギリス自体の降伏は要求しないものであった。しかし、ロンドン守備隊総司令官のハロルド・アレグザンダー元帥は、ロンメル元帥の勧告を真っ向から拒否した。
『開城とは笑止。我らの王都ロンドンを外国勢力の手に明け渡すことは決してあり得ない。我々は最後まで戦って死ぬのである』
と、ドイツ軍に電文を寄越した。ロンメル元帥は『ロンドン守備隊の脱出は全て許可する』と申し出たが、アレグザンダー元帥は『ロンドンは国王陛下が統治されるか瓦礫の山になるかのどちらかしかない』と返答した。
ロンメル元帥率いるB軍集団はフランス北海岸の各地から出撃し、ポーツマス、ブライトン、ドーバーに上陸作戦を敢行した。グラーフ・ツェッペリンはまだ中破したままだが、空からの援護を任されている。
「何だこれは。戦車の一両もないではないか」
「まあ、連合国軍はフランスで一度全滅しているんだ。装甲車両などほとんど残っていないだろう」
イギリスにはドイツ軍に対抗する陸上戦力など残されていない。ホームガードと呼ばれる民兵を主体にして、ドイツ軍の上陸が予想される場所に塹壕を掘って待ち構えている。
「甚だつまらん。奴らの塹壕も、ただの溝だ。全く機能しておらん」
「それでも歩兵にとってはそれなりの脅威だ。排除しておいてくれ」
「うむ。我もこれには少し同情してしまいそうだがな」
塹壕というのは普通、空襲や砲撃に備えて退避壕が設置されているものだが、イギリスの塹壕にそんなものは見受けられない。ツェッペリンの言うように、ただ地面に刻まれた溝に過ぎないのである。
ツェッペリンが爆弾を落とし機銃掃射をするだけで、兵士達には隠れる場所もなく、塹壕はあっという間に即席の共同墓地と化した。
「奴ら、逃げていくぞ。追撃してもよいか?」
「忍びないところだが……我が軍の犠牲を増やす訳にはいかない。降伏の意を示していない限りは、殲滅してくれ」
「分かった。皆殺しにしてくれよう」
車の一両もなく、走って塹壕から逃げ出すホームガードの兵士達。ツェッペリンは彼らを背中から機銃掃射して、降伏する者を除いて一人残らず殺し尽くした。このようなツェッペリンの攻撃によって、イギリス軍の水際防御は完全に破壊された。イギリス軍の損害は初日で10万を超えたが、ドイツ軍の損害は僅かに400であった。
グレートブリテン島に立ち入ることを阻むものは何もなく、ドイツ軍は悠々と上陸して、イギリス本土にハーケンクロイツの旗を高く掲げた。
「ツェッペリン、陸軍から通信が入っている。君と話したいそうだ」
「陸軍? まあいい。構わんぞ」
シュニーヴィント上級大将が持ってきた奇妙な通信を、ツェッペリンは受けることにした。自分に話したいと言ってくれる人間がいると嬉しいのである。
「我こそはグラーフ・ツェッペリンである。我と話したいというお前は誰だ?」
『初めまして。私はエルヴィン・ロンメル陸軍元帥だ』
砂漠の狐ことエルヴィン・ロンメル元帥。国民からの人気と総統からの信頼によって、第二次世界大戦始まってから5年で少将から元帥に昇進した英雄である。
「ほう。元帥自ら話したいことでもあるのか?」
『別段用事があるということはないのだがね。貴官のお陰で我々はほとんど損害を出さずにイギリス上陸を成功させられた。それにささやかながら感謝したいのだよ』
「こんな簡単な仕事で礼を言う必要はない」
『ははっ、流石だな。ともかく、今後ともよろしく頼むよ』
「ああ。ヨーロッパの空は今後ともドイツのものである」
ツェッペリンの援護の下、陸軍は前進していく。
しかし、イギリスの防衛体制は酷いものであった。ホームガードは2人に1丁しか銃を持っておらず、その銃も猟銃のような戦争にはとても向いていないものばかり。銃を持っていないものは、鉄パイプに銃剣を固定した即席の槍――チャーチル曰く『ホームガードパイク』を持って、ドイツ軍に死に物狂いに突進してきた。
当然、そんな抵抗に意味はない。圧倒的に優勢な火力を持つドイツ軍の前にイギリス軍の試みは粉砕され、ロンメル元帥の進撃を妨害することすら叶わなかった。
○
さて、ゼーレーヴェ作戦が発動されて2週間が経過した。イングランド南部はほぼ制圧され、南部に集中していた飛行場が制圧されたことでイギリス空軍はほぼ完全に戦闘能力を喪失している。
ロンメル元帥はついにロンドンを包囲し、ついにその攻略に乗り出したが、ロンドンはこれまでとは違い正規軍によって防衛されているようであり、総攻撃には相当な犠牲がつくと思われる。
ロンメル元帥はここで、ロンドンに対し降伏勧告を発した。
『――ロンドンには要塞としての機能はなく、援軍も望めない。籠城は全くの無意味であり、貴官らの抵抗は数十万のロンドン市民の命と、歴史的な建造物の数々を無為に失うだけである。よって、英国政府に勧告する。ロンドンを無防備都市とし、速やかに我が軍に明け渡すべし』
この勧告はロンドンの開城を求めイギリス自体の降伏は要求しないものであった。しかし、ロンドン守備隊総司令官のハロルド・アレグザンダー元帥は、ロンメル元帥の勧告を真っ向から拒否した。
『開城とは笑止。我らの王都ロンドンを外国勢力の手に明け渡すことは決してあり得ない。我々は最後まで戦って死ぬのである』
と、ドイツ軍に電文を寄越した。ロンメル元帥は『ロンドン守備隊の脱出は全て許可する』と申し出たが、アレグザンダー元帥は『ロンドンは国王陛下が統治されるか瓦礫の山になるかのどちらかしかない』と返答した。
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