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第十五章 第二次世界大戦(攻勢編)
前哨戦Ⅲ
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本国艦隊は前進を続ける。グラーフ・ツェッペリンの座標は本土に残っている監視塔から辛うじて掴むことができており、それによればツェッペリンは180km先にいるらしい。
「もう少し、もう少しなんだ……」
「我々の命運がグラーフ・ツェッペリンの気分次第とは、非常に不愉快ですね」
「わざわざ言うな」
場合によっては次の攻撃を受けた時点で本国艦隊は全滅するだろう。ムーア大将はただただ、ツェッペリンの気分が彼らに有利になるよう祈ることしかできなかった。
グラーフ・ツェッペリンまで100kmを切った地点で、次の敵襲である。
「敵です!! 敵が来ます!!」
「もう少しなんだ!! 何もかもに優先して前進せよ!! 全艦前進一杯!!」
「そ、そんなことをすれば機関が吹っ飛びます!」
「その程度でツェッペリンを沈められるなら安いもの! とっととやれ!!」
ツェッペリンは四度目の攻撃を開始する。これまでのパターンと同じく、ツェッペリンは損傷しているアンソンを狙ってきた。
「アンソンは爆弾で攻撃を受けている模様!」
「魚雷は今のところ確認できません!」
「魚雷の備蓄が尽きたのか……? ならばまだまだ耐えられるぞ!」
ツェッペリンは既に、狙いを外したものも含めて200本以上の魚雷を消費している。用意しておいた魚雷を使い切っていてもおかしくはない。
アンソンは上空から散々に大量の爆弾を投下され、上甲板が破壊されて艦内が丸見えになっている始末であったが、浮力にも主機にも損傷はなく、航行を続けることが可能であった。船というのはやはり、浸水させないと沈まないのである。
「アンソンが狙われているうちに、本艦で決着をつけるんだ!」
「はっ!」
アンソンはよくツェッペリンの攻撃に耐え、戦闘が2時間に及んだところでようやく機関停止に陥って、戦闘能力を喪失した。それまでにグラーフ・ツェッペリンに落とされた爆弾は50発を超える。
「敵が撤退していきます!」
「アンソンで爆弾を使い切ったか。なら、いけるぞ!!」
「し、しかし閣下、グラーフ・ツェッペリンがいつまでも同じ場所に留まっているとは……」
「心配は要らん。作戦はある」
グラーフ・ツェッペリンは空母であり、本気で逃げられたらデューク・オブ・ヨークが追いつくことなど不可能である。だが、ムーア大将とアイゼンハワー大将がそれを想定していない筈もないのである。
○
「敵は戦艦残り一隻になったが、もう80kmまで近寄られているな」
「そろそろ危険だ。ツェッペリン、一時後退しよう」
「やむを得んか」
ツェッペリンはここから一歩も動かずにイギリス本国艦隊を全滅させたかったのだが、そうはいかないらしい。不本意ながら後退することに同意した。しかし、その時であった。
「レーダーに感あり! 多数の敵機がイギリス本土から飛んできます! およそ500機!!」
「何? ツェッペリン、迎撃できるか?」
「無論だ。無駄な悪足掻きであるな」
ツェッペリンはすぐに戦闘機を差し向けて、接近するイギリス空軍を瞬く間に壊滅させていく。だが、彼らはどれだけ落とされても、撤退する気配すらなかった。
「――何なのだ、こやつら。死に物狂いという奴か?」
「それは面倒だな。全滅してでも君に一撃魚雷を叩き込みたいということか」
「そんなことはさせん」
ツェッペリンは少し焦っていた。全く味方を顧みずに突撃してくる敵が300機ほど。全てを完全に落とし切るのは困難かもしれない。
「20kmを切ったが、まだ40機は残っておる……」
「ツェッペリン、落としきれないのか?」
「やってるだろうが! 黙っていろ!」
「高角砲と機銃を使え! 実戦は初めてだが、訓練通りにやるんだ!」
「わ、分かった!」
グラーフ・ツェッペリン自身の個艦戦闘能力もまた相当なものである。ツェッペリンは10.5cm高角砲と3.7cm機関砲、それに15cm副砲に意識を集中させ、すぐそこにまで迫っているイギリス軍機に攻撃を開始した。
人間の航空機にツェッペリンの対空砲火を回避できる筈もなく、次から次に墜落していく。
「おお、流石だ、ツェッペリン」
「と、当然であろう」
「いや、一機残ってるぞ!!」
「何!? 何故こんな近くに!?」
「まさか体当たりする気か!」
「ば、馬鹿なッ……」
最後に残った一機の戦闘機は、グラーフ・ツェッペリンの艦尾に突入した。特攻であった。ツェッペリンの薄い装甲を貫いて艦尾に大穴が開き、戦闘機の燃料が引火して大火事を起こしている。
「クソッ……。やってくれたな……痛いぞ……」
ツェッペリンは激しい痛みに顔を歪める。ツェッペリン本体が攻撃を受けるのはこれが初めてだからである。
「大丈夫か、ツェッペリン?」
「大丈夫に見えるか……?」
「強がる余裕もないのか。各員、速やかに被害の確認とダメージコントロール、急げ!!」
シュニーヴィント上級大将の命令で兵士達が動き出す。そしてすぐに損害の具合は判明した。
「閣下、右側の推進軸2本が切断されています」
「つまり面舵しかできないということか?」
「はい。修理には一度ドックに入る必要があるかと」
「これが狙いだったかのか……」
上級大将は顔をしかめた。グラーフ・ツェッペリンは事実上機動力を奪われたのである。
○
「――こ、これが作戦、ですか?」
「その通りだ! グラーフ・ツェッペリンの足を止め、その間にデューク・オブ・ヨークの主砲をぶち込む!! 全ては我々にかかっているのだ!! 突撃ッ!!」
航空艦隊のほぼ全て、パイロット500人を生贄にして、僅かな勝利の可能性が顔を覗かせた。ツェッペリンまでの距離は僅かに60km。デューク・オブ・ヨークはボイラーを破壊せんばかりに重油を燃やし、33ノットという空母並みの速度で突撃した。
「もう少し、もう少しなんだ……」
「我々の命運がグラーフ・ツェッペリンの気分次第とは、非常に不愉快ですね」
「わざわざ言うな」
場合によっては次の攻撃を受けた時点で本国艦隊は全滅するだろう。ムーア大将はただただ、ツェッペリンの気分が彼らに有利になるよう祈ることしかできなかった。
グラーフ・ツェッペリンまで100kmを切った地点で、次の敵襲である。
「敵です!! 敵が来ます!!」
「もう少しなんだ!! 何もかもに優先して前進せよ!! 全艦前進一杯!!」
「そ、そんなことをすれば機関が吹っ飛びます!」
「その程度でツェッペリンを沈められるなら安いもの! とっととやれ!!」
ツェッペリンは四度目の攻撃を開始する。これまでのパターンと同じく、ツェッペリンは損傷しているアンソンを狙ってきた。
「アンソンは爆弾で攻撃を受けている模様!」
「魚雷は今のところ確認できません!」
「魚雷の備蓄が尽きたのか……? ならばまだまだ耐えられるぞ!」
ツェッペリンは既に、狙いを外したものも含めて200本以上の魚雷を消費している。用意しておいた魚雷を使い切っていてもおかしくはない。
アンソンは上空から散々に大量の爆弾を投下され、上甲板が破壊されて艦内が丸見えになっている始末であったが、浮力にも主機にも損傷はなく、航行を続けることが可能であった。船というのはやはり、浸水させないと沈まないのである。
「アンソンが狙われているうちに、本艦で決着をつけるんだ!」
「はっ!」
アンソンはよくツェッペリンの攻撃に耐え、戦闘が2時間に及んだところでようやく機関停止に陥って、戦闘能力を喪失した。それまでにグラーフ・ツェッペリンに落とされた爆弾は50発を超える。
「敵が撤退していきます!」
「アンソンで爆弾を使い切ったか。なら、いけるぞ!!」
「し、しかし閣下、グラーフ・ツェッペリンがいつまでも同じ場所に留まっているとは……」
「心配は要らん。作戦はある」
グラーフ・ツェッペリンは空母であり、本気で逃げられたらデューク・オブ・ヨークが追いつくことなど不可能である。だが、ムーア大将とアイゼンハワー大将がそれを想定していない筈もないのである。
○
「敵は戦艦残り一隻になったが、もう80kmまで近寄られているな」
「そろそろ危険だ。ツェッペリン、一時後退しよう」
「やむを得んか」
ツェッペリンはここから一歩も動かずにイギリス本国艦隊を全滅させたかったのだが、そうはいかないらしい。不本意ながら後退することに同意した。しかし、その時であった。
「レーダーに感あり! 多数の敵機がイギリス本土から飛んできます! およそ500機!!」
「何? ツェッペリン、迎撃できるか?」
「無論だ。無駄な悪足掻きであるな」
ツェッペリンはすぐに戦闘機を差し向けて、接近するイギリス空軍を瞬く間に壊滅させていく。だが、彼らはどれだけ落とされても、撤退する気配すらなかった。
「――何なのだ、こやつら。死に物狂いという奴か?」
「それは面倒だな。全滅してでも君に一撃魚雷を叩き込みたいということか」
「そんなことはさせん」
ツェッペリンは少し焦っていた。全く味方を顧みずに突撃してくる敵が300機ほど。全てを完全に落とし切るのは困難かもしれない。
「20kmを切ったが、まだ40機は残っておる……」
「ツェッペリン、落としきれないのか?」
「やってるだろうが! 黙っていろ!」
「高角砲と機銃を使え! 実戦は初めてだが、訓練通りにやるんだ!」
「わ、分かった!」
グラーフ・ツェッペリン自身の個艦戦闘能力もまた相当なものである。ツェッペリンは10.5cm高角砲と3.7cm機関砲、それに15cm副砲に意識を集中させ、すぐそこにまで迫っているイギリス軍機に攻撃を開始した。
人間の航空機にツェッペリンの対空砲火を回避できる筈もなく、次から次に墜落していく。
「おお、流石だ、ツェッペリン」
「と、当然であろう」
「いや、一機残ってるぞ!!」
「何!? 何故こんな近くに!?」
「まさか体当たりする気か!」
「ば、馬鹿なッ……」
最後に残った一機の戦闘機は、グラーフ・ツェッペリンの艦尾に突入した。特攻であった。ツェッペリンの薄い装甲を貫いて艦尾に大穴が開き、戦闘機の燃料が引火して大火事を起こしている。
「クソッ……。やってくれたな……痛いぞ……」
ツェッペリンは激しい痛みに顔を歪める。ツェッペリン本体が攻撃を受けるのはこれが初めてだからである。
「大丈夫か、ツェッペリン?」
「大丈夫に見えるか……?」
「強がる余裕もないのか。各員、速やかに被害の確認とダメージコントロール、急げ!!」
シュニーヴィント上級大将の命令で兵士達が動き出す。そしてすぐに損害の具合は判明した。
「閣下、右側の推進軸2本が切断されています」
「つまり面舵しかできないということか?」
「はい。修理には一度ドックに入る必要があるかと」
「これが狙いだったかのか……」
上級大将は顔をしかめた。グラーフ・ツェッペリンは事実上機動力を奪われたのである。
○
「――こ、これが作戦、ですか?」
「その通りだ! グラーフ・ツェッペリンの足を止め、その間にデューク・オブ・ヨークの主砲をぶち込む!! 全ては我々にかかっているのだ!! 突撃ッ!!」
航空艦隊のほぼ全て、パイロット500人を生贄にして、僅かな勝利の可能性が顔を覗かせた。ツェッペリンまでの距離は僅かに60km。デューク・オブ・ヨークはボイラーを破壊せんばかりに重油を燃やし、33ノットという空母並みの速度で突撃した。
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