上 下
283 / 386
第十五章 第二次世界大戦(攻勢編)

前哨戦Ⅲ

しおりを挟む
 本国艦隊は前進を続ける。グラーフ・ツェッペリンの座標は本土に残っている監視塔から辛うじて掴むことができており、それによればツェッペリンは180km先にいるらしい。

「もう少し、もう少しなんだ……」
「我々の命運がグラーフ・ツェッペリンの気分次第とは、非常に不愉快ですね」
「わざわざ言うな」

 場合によっては次の攻撃を受けた時点で本国艦隊は全滅するだろう。ムーア大将はただただ、ツェッペリンの気分が彼らに有利になるよう祈ることしかできなかった。

 グラーフ・ツェッペリンまで100kmを切った地点で、次の敵襲である。

「敵です!! 敵が来ます!!」
「もう少しなんだ!! 何もかもに優先して前進せよ!! 全艦前進一杯!!」
「そ、そんなことをすれば機関が吹っ飛びます!」
「その程度でツェッペリンを沈められるなら安いもの! とっととやれ!!」

 ツェッペリンは四度目の攻撃を開始する。これまでのパターンと同じく、ツェッペリンは損傷しているアンソンを狙ってきた。

「アンソンは爆弾で攻撃を受けている模様!」
「魚雷は今のところ確認できません!」
「魚雷の備蓄が尽きたのか……? ならばまだまだ耐えられるぞ!」

 ツェッペリンは既に、狙いを外したものも含めて200本以上の魚雷を消費している。用意しておいた魚雷を使い切っていてもおかしくはない。

 アンソンは上空から散々に大量の爆弾を投下され、上甲板が破壊されて艦内が丸見えになっている始末であったが、浮力にも主機にも損傷はなく、航行を続けることが可能であった。船というのはやはり、浸水させないと沈まないのである。

「アンソンが狙われているうちに、本艦で決着をつけるんだ!」
「はっ!」

 アンソンはよくツェッペリンの攻撃に耐え、戦闘が2時間に及んだところでようやく機関停止に陥って、戦闘能力を喪失した。それまでにグラーフ・ツェッペリンに落とされた爆弾は50発を超える。

「敵が撤退していきます!」
「アンソンで爆弾を使い切ったか。なら、いけるぞ!!」
「し、しかし閣下、グラーフ・ツェッペリンがいつまでも同じ場所に留まっているとは……」
「心配は要らん。作戦はある」

 グラーフ・ツェッペリンは空母であり、本気で逃げられたらデューク・オブ・ヨークが追いつくことなど不可能である。だが、ムーア大将とアイゼンハワー大将がそれを想定していない筈もないのである。

 ○

「敵は戦艦残り一隻になったが、もう80kmまで近寄られているな」
「そろそろ危険だ。ツェッペリン、一時後退しよう」
「やむを得んか」

 ツェッペリンはここから一歩も動かずにイギリス本国艦隊を全滅させたかったのだが、そうはいかないらしい。不本意ながら後退することに同意した。しかし、その時であった。

「レーダーに感あり! 多数の敵機がイギリス本土から飛んできます! およそ500機!!」
「何? ツェッペリン、迎撃できるか?」
「無論だ。無駄な悪足掻きであるな」

 ツェッペリンはすぐに戦闘機を差し向けて、接近するイギリス空軍を瞬く間に壊滅させていく。だが、彼らはどれだけ落とされても、撤退する気配すらなかった。

「――何なのだ、こやつら。死に物狂いという奴か?」
「それは面倒だな。全滅してでも君に一撃魚雷を叩き込みたいということか」
「そんなことはさせん」

 ツェッペリンは少し焦っていた。全く味方を顧みずに突撃してくる敵が300機ほど。全てを完全に落とし切るのは困難かもしれない。

「20kmを切ったが、まだ40機は残っておる……」
「ツェッペリン、落としきれないのか?」
「やってるだろうが! 黙っていろ!」
「高角砲と機銃を使え! 実戦は初めてだが、訓練通りにやるんだ!」
「わ、分かった!」

 グラーフ・ツェッペリン自身の個艦戦闘能力もまた相当なものである。ツェッペリンは10.5cm高角砲と3.7cm機関砲、それに15cm副砲に意識を集中させ、すぐそこにまで迫っているイギリス軍機に攻撃を開始した。

 人間の航空機にツェッペリンの対空砲火を回避できる筈もなく、次から次に墜落していく。

「おお、流石だ、ツェッペリン」
「と、当然であろう」
「いや、一機残ってるぞ!!」
「何!? 何故こんな近くに!?」
「まさか体当たりする気か!」
「ば、馬鹿なッ……」

 最後に残った一機の戦闘機は、グラーフ・ツェッペリンの艦尾に突入した。特攻であった。ツェッペリンの薄い装甲を貫いて艦尾に大穴が開き、戦闘機の燃料が引火して大火事を起こしている。

「クソッ……。やってくれたな……痛いぞ……」

 ツェッペリンは激しい痛みに顔を歪める。ツェッペリン本体が攻撃を受けるのはこれが初めてだからである。

「大丈夫か、ツェッペリン?」
「大丈夫に見えるか……?」
「強がる余裕もないのか。各員、速やかに被害の確認とダメージコントロール、急げ!!」

 シュニーヴィント上級大将の命令で兵士達が動き出す。そしてすぐに損害の具合は判明した。

「閣下、右側の推進軸2本が切断されています」
「つまり面舵しかできないということか?」
「はい。修理には一度ドックに入る必要があるかと」
「これが狙いだったかのか……」

 上級大将は顔をしかめた。グラーフ・ツェッペリンは事実上機動力を奪われたのである。

 ○

「――こ、これが作戦、ですか?」
「その通りだ! グラーフ・ツェッペリンの足を止め、その間にデューク・オブ・ヨークの主砲をぶち込む!! 全ては我々にかかっているのだ!! 突撃ッ!!」

 航空艦隊のほぼ全て、パイロット500人を生贄にして、僅かな勝利の可能性が顔を覗かせた。ツェッペリンまでの距離は僅かに60km。デューク・オブ・ヨークはボイラーを破壊せんばかりに重油を燃やし、33ノットという空母並みの速度で突撃した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...