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第十五章 第二次世界大戦(攻勢編)
前哨戦Ⅱ
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「うっ……我は、寝ていたのか?」
「ああ、ぐっすり寝ていたぞ」
ツェッペリンが目覚めると、すぐ側に椅子を置いて、シュニーヴィント上級大将が座っていた。
「…………貴様、なぜ我の寝室にいるのだ?」
「私が君をここまで運び込んだんだぞ? 感謝して欲しいところだ」
「それはそうだが、だからと言ってずっと人の寝室に居座る奴がおるか!!」
ツェッペリンはシュニーヴィント上級大将に怒鳴りつけるが、上級大将は飄々としている。
「君はほとんど倒れたようなものなんだぞ? 一人で放っておけるものか」
「そ、それは……」
「それに、ここには君を除いて男しかいなんだ。悪く思わないでくれ」
「はぁ。分かった分かった」
反論の糸口をすべて塞がれ、ツェッペリンは納得する他になかった。
「で、状況はどうなっているのだ?」
「イギリス本国艦隊はなおもここに接近中だ。直線距離にしておよそ400kmと言ったところだ」
「そんなに近付かれているのか? いや、奴らに艦載機はないか」
艦載機を使えば直接に攻撃できる距離であるが、イギリスの空母は全滅しているので、依然としてツェッペリンに手を出すことはできない。
「では、残っている奴らも沈めるとしよう」
ツェッペリンは意気揚々とベッドから出て艦橋に向かって歩き出す。
「体調は大丈夫か? 気分が悪いとかはないか?」
「お前は我の親か何かか? まあ多少は頭が痛いが、問題はない。我が総統のゼーレーヴェ作戦を邪魔させる訳にはいかん」
ツェッペリンの体調は随分と良くなっており、今のところは心配する必要はなさそうだ。ツェッペリンは艦橋に上がると、早速自らの飛行甲板とフランス北部の飛行場から艦載機を出し、三度目の攻撃を開始した。
○
「敵影を確認しました! およそ100機です!」
「諦めてくれた訳ではなかったか……」
随分と間が空いたが、三度目の襲撃。ムーア大将にはいよいよ手駒がなくなってきている。
「キング・ジョージ5世が攻撃を受けています!」
「よし。そこまでは狙い通りだ……」
囮として連れて来ていたキング・ジョージ5世が、ムーア大将の狙い通りに集中攻撃を受けている。だが、既にボロボロの船体は、そう長くは持たない。
「キング・ジョージ5世、浸水が激しく、ダメージコントロール間に合いません!」
「クソッ。もう限界か」
戦闘開始20分程度で、キング・ジョージ5世は限界を迎えた。浸水が排水を上回り、沈没は時間の問題だろう。
「キング・ジョージ5世、総員退艦が下令されました」
「構わん。これ以上は酷というものだ」
キング・ジョージ5世は抵抗を諦め、乗組員は速やかに脱出を始めた。その様子はツェッペリンも観察しているらしく、総員退艦と同時にツェッペリンの艦載機は興味を失い、次の戦艦に狙いを定めた。
「奴の次の狙いは、ハウのようです」
「それならば、我々にまだ勝機はある……」
ハウはキング・ジョージ5世級戦艦五番艦である。ツェッペリンの猛攻に一度は耐え抜くことに成功したキング・ジョージ5世の同型艦であるから、ツェッペリンに弾薬を消費させるにはもってこいである。
「ハウが攻撃を受けています!」
「敵は前回より多数の雷撃機を擁している模様!」
「ハウの右舷に雷撃が集中しています!」
「まさか、キング・ジョージを沈めた時に弱点を見抜いたのか……?」
キング・ジョージ5世級の装甲は全体的に厚いが、水線下の防御は同時期の戦艦と比べても薄めである。つまり魚雷が弱点なのだ。
「多数の魚雷が命中しています! 正確には分かりませんが、10は超えているかと!」
「ダメだ……そんなことをされたら、ハウは耐えきれない……」
ムーア大将の懸念は的中した。片舷に多数の魚雷を浴びたハウはたちまち傾き、1時間もしないうちに完全にひっくり返ってしまったのである。
「ああ、そんな……」
「狼狽えるな! 沈んだ船のことなど気にするな!」
「閣下!! 続いてアンソンが攻撃を受けています!!」
残る戦艦はたったの2隻。ムーア大将の座乗するデューク・オブ・ヨークとアンソンだけである。それぞれキング・ジョージ5世級の二番艦と四番艦だ。そのアンソンがツェッペリンに攻撃を受けている。
「ハウを沈めて、まだ魚雷が残っているのか……?」
「敵は航空爆弾を主に使っているようです。対空兵装の無力化が目的かと」
「次の攻撃への伏線ということか」
アンソンへの攻撃は、甲板上の高角砲や機関砲が吹き飛ばされるに留まった。そしてツェッペリンの艦載機は弾薬を使い果たして撤退していった。
「次に奴が来たら、その時こそ終わりだな」
ムーア大将は自らを嘲るように笑った。と、その時であった。
「閣下、連合国遠征軍司令部から通信です」
「何? 今更何の通信をすると?」
大将は嫌々ながらも通信を受けた。
『――こちらはアイゼンハワー大将です。ムーア大将閣下、閣下の現状は理解しています。そこで、我々は起死回生の手を考えています』
「起死回生の手? そんなものがあるのなら、どうして今まで何もしなかったのですか?」
『あなた方がここに来てくれなければ実行できない作戦だったからです』
「……まあいいでしょう。で、何をするおつもりで?」
ムーア大将はアイゼンハワー大将の作戦とやらに乗ってやることにした。そうでもなければ何の戦果も残せずに本国艦隊が消滅することは目に見えている。
「ああ、ぐっすり寝ていたぞ」
ツェッペリンが目覚めると、すぐ側に椅子を置いて、シュニーヴィント上級大将が座っていた。
「…………貴様、なぜ我の寝室にいるのだ?」
「私が君をここまで運び込んだんだぞ? 感謝して欲しいところだ」
「それはそうだが、だからと言ってずっと人の寝室に居座る奴がおるか!!」
ツェッペリンはシュニーヴィント上級大将に怒鳴りつけるが、上級大将は飄々としている。
「君はほとんど倒れたようなものなんだぞ? 一人で放っておけるものか」
「そ、それは……」
「それに、ここには君を除いて男しかいなんだ。悪く思わないでくれ」
「はぁ。分かった分かった」
反論の糸口をすべて塞がれ、ツェッペリンは納得する他になかった。
「で、状況はどうなっているのだ?」
「イギリス本国艦隊はなおもここに接近中だ。直線距離にしておよそ400kmと言ったところだ」
「そんなに近付かれているのか? いや、奴らに艦載機はないか」
艦載機を使えば直接に攻撃できる距離であるが、イギリスの空母は全滅しているので、依然としてツェッペリンに手を出すことはできない。
「では、残っている奴らも沈めるとしよう」
ツェッペリンは意気揚々とベッドから出て艦橋に向かって歩き出す。
「体調は大丈夫か? 気分が悪いとかはないか?」
「お前は我の親か何かか? まあ多少は頭が痛いが、問題はない。我が総統のゼーレーヴェ作戦を邪魔させる訳にはいかん」
ツェッペリンの体調は随分と良くなっており、今のところは心配する必要はなさそうだ。ツェッペリンは艦橋に上がると、早速自らの飛行甲板とフランス北部の飛行場から艦載機を出し、三度目の攻撃を開始した。
○
「敵影を確認しました! およそ100機です!」
「諦めてくれた訳ではなかったか……」
随分と間が空いたが、三度目の襲撃。ムーア大将にはいよいよ手駒がなくなってきている。
「キング・ジョージ5世が攻撃を受けています!」
「よし。そこまでは狙い通りだ……」
囮として連れて来ていたキング・ジョージ5世が、ムーア大将の狙い通りに集中攻撃を受けている。だが、既にボロボロの船体は、そう長くは持たない。
「キング・ジョージ5世、浸水が激しく、ダメージコントロール間に合いません!」
「クソッ。もう限界か」
戦闘開始20分程度で、キング・ジョージ5世は限界を迎えた。浸水が排水を上回り、沈没は時間の問題だろう。
「キング・ジョージ5世、総員退艦が下令されました」
「構わん。これ以上は酷というものだ」
キング・ジョージ5世は抵抗を諦め、乗組員は速やかに脱出を始めた。その様子はツェッペリンも観察しているらしく、総員退艦と同時にツェッペリンの艦載機は興味を失い、次の戦艦に狙いを定めた。
「奴の次の狙いは、ハウのようです」
「それならば、我々にまだ勝機はある……」
ハウはキング・ジョージ5世級戦艦五番艦である。ツェッペリンの猛攻に一度は耐え抜くことに成功したキング・ジョージ5世の同型艦であるから、ツェッペリンに弾薬を消費させるにはもってこいである。
「ハウが攻撃を受けています!」
「敵は前回より多数の雷撃機を擁している模様!」
「ハウの右舷に雷撃が集中しています!」
「まさか、キング・ジョージを沈めた時に弱点を見抜いたのか……?」
キング・ジョージ5世級の装甲は全体的に厚いが、水線下の防御は同時期の戦艦と比べても薄めである。つまり魚雷が弱点なのだ。
「多数の魚雷が命中しています! 正確には分かりませんが、10は超えているかと!」
「ダメだ……そんなことをされたら、ハウは耐えきれない……」
ムーア大将の懸念は的中した。片舷に多数の魚雷を浴びたハウはたちまち傾き、1時間もしないうちに完全にひっくり返ってしまったのである。
「ああ、そんな……」
「狼狽えるな! 沈んだ船のことなど気にするな!」
「閣下!! 続いてアンソンが攻撃を受けています!!」
残る戦艦はたったの2隻。ムーア大将の座乗するデューク・オブ・ヨークとアンソンだけである。それぞれキング・ジョージ5世級の二番艦と四番艦だ。そのアンソンがツェッペリンに攻撃を受けている。
「ハウを沈めて、まだ魚雷が残っているのか……?」
「敵は航空爆弾を主に使っているようです。対空兵装の無力化が目的かと」
「次の攻撃への伏線ということか」
アンソンへの攻撃は、甲板上の高角砲や機関砲が吹き飛ばされるに留まった。そしてツェッペリンの艦載機は弾薬を使い果たして撤退していった。
「次に奴が来たら、その時こそ終わりだな」
ムーア大将は自らを嘲るように笑った。と、その時であった。
「閣下、連合国遠征軍司令部から通信です」
「何? 今更何の通信をすると?」
大将は嫌々ながらも通信を受けた。
『――こちらはアイゼンハワー大将です。ムーア大将閣下、閣下の現状は理解しています。そこで、我々は起死回生の手を考えています』
「起死回生の手? そんなものがあるのなら、どうして今まで何もしなかったのですか?」
『あなた方がここに来てくれなければ実行できない作戦だったからです』
「……まあいいでしょう。で、何をするおつもりで?」
ムーア大将はアイゼンハワー大将の作戦とやらに乗ってやることにした。そうでもなければ何の戦果も残せずに本国艦隊が消滅することは目に見えている。
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