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第十四章 第二次世界大戦(覚醒編)
レニングラード上陸
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ドイツ沿岸の制海権を完全に確保したドイツ国防軍であるが、次なる目標は二つ考えられる。一つはイギリスへの上陸であり、もう一つはソ連の奥地への上陸である。
しかし、結論が出るまでにそう時間はかからなかった。イギリスは海を封じておけば大した脅威ではないが、大陸国家の権化のような存在であるソ連は未だに巨大な脅威であり、ドイツが敗北する可能性は残っている。それ故に、次の目標はソ連の脅威を排除することと決定された。
○
一九四四年十一月四日、レニングラード近海
グラーフ・ツェッペリンは2ヶ月ほどレニングラードの沿岸50kmほどの地点に留まり、クロンシュタットとレニングラードを一方的に攻撃し続けていた。
ドイツ本国からは絶え間なく補給が届き、フィンランドの飛行場にツェッペリンと接続した艦載機を配置し、ツェッペリンは最大で200機の艦載機を同時に使える体制を整えている。もっとも、船魄の制御効率の関係から、実際に動かすのは100機が限度であったが。
「しかし、すっかり敵が来なくなってしまったな。つまらん」
グラーフ・ツェッペリンはあまりにも贅沢な愚痴を零していた。レニングラードを最初に空襲してから2週間ほどは赤軍と赤色空軍がレニングラード救援の為に山のように押し寄せて来たが、ツェッペリンはこれを完膚なきまでに叩きのめした。
最終的な戦果はツェッペリンもよく数えていないので不明だが、航空機2,500機、戦車4,000両は破壊したものと思われる。
「まあ、あの死体と鉄屑の山を見たら、誰も近寄りたくはないだろうな」
シュニーヴィント上級大将は軽く応えた。
「もっと高く山を造りたいものであるがな」
「敵を殺すことに意味はない。軍人の目的は常に勝利することだ」
「そういうものか?」
そういう訳でツェッペリンが退屈していると、本国から通信が届いた。
「――おお、これはこれは」
「何だ?」
「我らが総統は、レニングラードへの上陸作戦を決定された。君にはその援護を頼みたいとのことだ」
「ようやく準備が整ったか。今か今かと待ち侘びていたぞ」
「仕方ない。上陸作戦なんて、そう簡単に実行に移せるものではないからな」
本当ならもう何ヶ月が準備期間が欲しいところではあったが、そう悠々と準備している暇などなく、国防軍は最低限の備えだけで上陸を敢行することとなった。作戦名はドイツ恒例の色を冠したもので『黒作戦』と名付けられた。
○
数日後、黒作戦が発動された。ドイツ海軍からは応援にアトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲン、また旧式戦艦のシュレスヴィヒ=ホルシュタインとシュレジエンが投入された。
「上空に敵なし。地上からも増援が来る気配はない」
「了解した。では黒作戦を開始する」
シュニーヴィント上級大将の指揮の下、海軍が下準備を開始した。戦艦と重巡洋艦がレニングラード沿岸の港に激しい砲撃を行い、ツェッペリンは改めてレニングラードのあちらこちらに爆撃を行う。瓦礫の山の瓦礫すら粉々に粉砕せんばかりの勢いである。
「敵などもう見当たらぬが、とっとと上陸したらどうなのだ?」
「ふむ……。恐らくは地下に隠れているんだろう。だが確かに、これ以上の攻撃に意味があるとも思えないな」
地上にはソ連軍の姿はなく、レニングラードは静寂に包まれているが、それは恐らく地下壕や陣地にソ連兵が引っ込んだからだと思われる。となると、砲撃しても爆撃しても意味はないだろう。
「ツェッペリンは上陸地点の上空に艦載機を展開しておいてくれ。上陸を開始する」
「奴らが頭を出せば、瞬時に機銃で粉砕してくれよう」
「その意気で頼む」
本格的な上陸作戦の経験がない国防軍であるが、レニングラードに直接上陸するという大胆な作戦を実行に移した。
ソ連の抵抗は想定より遥かに少なく、レニングラード全体でも精々1個師団程度の部隊しか残っていなかった。トーチカに立て籠って勇敢に戦うソ連兵も、地上から連絡を受けたツェッペリンに集中的に爆撃を受けて粉微塵にされ、あっという間にレニングラード市域は制圧されていった。
○
「同志スターリン、申し上げます。レニングラード守備隊は、玉砕しました……」
ジューコフ元帥は悔しそうに拳を握りながら、スターリンにそう報告した。それが部下を想ってのことなのか演技なのかは定かではないが。
「そう、か……。あのレニングラードが、たったの3日で陥落するとは」
「グラーフ・ツェッペリンは正真の化け物です。我が軍はまるで機関銃で、武装した陣地に騎兵で突撃しているかのような有様でした」
「この3ヶ月ほどで、我々は船魄というものの威力を痛感した。アメリカ海軍も瑞鶴とかいう空母に壊滅させられたのだ。我が国の海軍では、とても太刀打ちはできまい」
「弁解のしようもありません、閣下」
クズネツォフ元帥はすぐさま謝罪を入れるが、スターリンは最早そんなことはどうでもよく、すぐにクズネツォフ元帥を黙らせた。
「社会主義を外国勢力から防衛するには、我々にも船魄が必要なのだ。クズネツォフ元帥、今や船魄以外は何も必要ない。全ての生産能力をソビエツキー・ソユーズを完成させることに注ぐのだ」
「承知しました。全力でソビエツキー・ソユーズの完成を急ぎます」
「いつまでに完成させられるのか、一週間以内に報告しろ」
「はっ」
ソ連はバルト海でドイツ軍に対抗することを事実上諦めた。だがそれも全て、ソビエト政権の最終的な勝利の為である。
しかし、結論が出るまでにそう時間はかからなかった。イギリスは海を封じておけば大した脅威ではないが、大陸国家の権化のような存在であるソ連は未だに巨大な脅威であり、ドイツが敗北する可能性は残っている。それ故に、次の目標はソ連の脅威を排除することと決定された。
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一九四四年十一月四日、レニングラード近海
グラーフ・ツェッペリンは2ヶ月ほどレニングラードの沿岸50kmほどの地点に留まり、クロンシュタットとレニングラードを一方的に攻撃し続けていた。
ドイツ本国からは絶え間なく補給が届き、フィンランドの飛行場にツェッペリンと接続した艦載機を配置し、ツェッペリンは最大で200機の艦載機を同時に使える体制を整えている。もっとも、船魄の制御効率の関係から、実際に動かすのは100機が限度であったが。
「しかし、すっかり敵が来なくなってしまったな。つまらん」
グラーフ・ツェッペリンはあまりにも贅沢な愚痴を零していた。レニングラードを最初に空襲してから2週間ほどは赤軍と赤色空軍がレニングラード救援の為に山のように押し寄せて来たが、ツェッペリンはこれを完膚なきまでに叩きのめした。
最終的な戦果はツェッペリンもよく数えていないので不明だが、航空機2,500機、戦車4,000両は破壊したものと思われる。
「まあ、あの死体と鉄屑の山を見たら、誰も近寄りたくはないだろうな」
シュニーヴィント上級大将は軽く応えた。
「もっと高く山を造りたいものであるがな」
「敵を殺すことに意味はない。軍人の目的は常に勝利することだ」
「そういうものか?」
そういう訳でツェッペリンが退屈していると、本国から通信が届いた。
「――おお、これはこれは」
「何だ?」
「我らが総統は、レニングラードへの上陸作戦を決定された。君にはその援護を頼みたいとのことだ」
「ようやく準備が整ったか。今か今かと待ち侘びていたぞ」
「仕方ない。上陸作戦なんて、そう簡単に実行に移せるものではないからな」
本当ならもう何ヶ月が準備期間が欲しいところではあったが、そう悠々と準備している暇などなく、国防軍は最低限の備えだけで上陸を敢行することとなった。作戦名はドイツ恒例の色を冠したもので『黒作戦』と名付けられた。
○
数日後、黒作戦が発動された。ドイツ海軍からは応援にアトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲン、また旧式戦艦のシュレスヴィヒ=ホルシュタインとシュレジエンが投入された。
「上空に敵なし。地上からも増援が来る気配はない」
「了解した。では黒作戦を開始する」
シュニーヴィント上級大将の指揮の下、海軍が下準備を開始した。戦艦と重巡洋艦がレニングラード沿岸の港に激しい砲撃を行い、ツェッペリンは改めてレニングラードのあちらこちらに爆撃を行う。瓦礫の山の瓦礫すら粉々に粉砕せんばかりの勢いである。
「敵などもう見当たらぬが、とっとと上陸したらどうなのだ?」
「ふむ……。恐らくは地下に隠れているんだろう。だが確かに、これ以上の攻撃に意味があるとも思えないな」
地上にはソ連軍の姿はなく、レニングラードは静寂に包まれているが、それは恐らく地下壕や陣地にソ連兵が引っ込んだからだと思われる。となると、砲撃しても爆撃しても意味はないだろう。
「ツェッペリンは上陸地点の上空に艦載機を展開しておいてくれ。上陸を開始する」
「奴らが頭を出せば、瞬時に機銃で粉砕してくれよう」
「その意気で頼む」
本格的な上陸作戦の経験がない国防軍であるが、レニングラードに直接上陸するという大胆な作戦を実行に移した。
ソ連の抵抗は想定より遥かに少なく、レニングラード全体でも精々1個師団程度の部隊しか残っていなかった。トーチカに立て籠って勇敢に戦うソ連兵も、地上から連絡を受けたツェッペリンに集中的に爆撃を受けて粉微塵にされ、あっという間にレニングラード市域は制圧されていった。
○
「同志スターリン、申し上げます。レニングラード守備隊は、玉砕しました……」
ジューコフ元帥は悔しそうに拳を握りながら、スターリンにそう報告した。それが部下を想ってのことなのか演技なのかは定かではないが。
「そう、か……。あのレニングラードが、たったの3日で陥落するとは」
「グラーフ・ツェッペリンは正真の化け物です。我が軍はまるで機関銃で、武装した陣地に騎兵で突撃しているかのような有様でした」
「この3ヶ月ほどで、我々は船魄というものの威力を痛感した。アメリカ海軍も瑞鶴とかいう空母に壊滅させられたのだ。我が国の海軍では、とても太刀打ちはできまい」
「弁解のしようもありません、閣下」
クズネツォフ元帥はすぐさま謝罪を入れるが、スターリンは最早そんなことはどうでもよく、すぐにクズネツォフ元帥を黙らせた。
「社会主義を外国勢力から防衛するには、我々にも船魄が必要なのだ。クズネツォフ元帥、今や船魄以外は何も必要ない。全ての生産能力をソビエツキー・ソユーズを完成させることに注ぐのだ」
「承知しました。全力でソビエツキー・ソユーズの完成を急ぎます」
「いつまでに完成させられるのか、一週間以内に報告しろ」
「はっ」
ソ連はバルト海でドイツ軍に対抗することを事実上諦めた。だがそれも全て、ソビエト政権の最終的な勝利の為である。
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