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第十四章 第二次世界大戦(覚醒編)
バルト海作戦
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バルト海はフィンランド、スウェーデン、ソ連、ドイツに囲まれた細長い海である。ソ連がバルト三国を併合する前はバルト三国にポーランドも沿海の国であった。つまりバルト海を制するということは、これらの地域のどこにでも横から殴り込めるということなのだ。
グラーフ・ツェッペリンはアトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲン、その他駆逐艦12隻を引き連れて、キールを出港して一旦途中のゴーテンハーフェン基地(旧ポーランドのダンツィヒ=ヴェストプロイセン帝国大管区)に立ち寄り、本格的に赤軍の支配が及んでいる地域に突入した。
「赤色海軍は、まあ我々と比べれば大した海軍ではないが、決して油断するなよ」
シュニーヴィント上級大将は言う。実歳、日米英の海軍と比べれば貧弱なドイツ海軍と比べてもなお、ソ連海軍は貧弱である。主力艦としては第一次世界大戦より前の戦艦を数隻保有しているだけであり、空母は一隻もない。
「ふん。ロシア人など恐るるに足らずだが、手を抜いて沈められるなど、未来永劫笑い者になるであろうな」
「それくらいがちょうどいい。ただ、ソ連で面倒なのは、水上艦艇ではないだろうがな」
「閣下! Z4リヒャルト・バイツェンが敵潜水艦を捕捉しました!」
「噂をすれば、来たな」
「何? 潜水艦だと?」
「ああ。我々に太刀打ちできる水上艦艇など、ソ連には存在しないだろうからな」
赤色海軍でバルト海に配備されているのは軽巡洋艦と駆逐艦くらいである。水上だけならグラーフ・ツェッペリンを抜いたドイツ海軍でも十分だろう。それ故にソ連は潜水艦建造に力を入れ、数だけなら米英に引けを取らない量の潜水艦を保有しているのだ。
「ど、どうするのだ?」
グラーフ・ツェッペリンの強がった態度が崩れた。空母のツェッペリンには潜水艦相手に何もできないのである。
「安心してくれ、とは言い切れないが、これを想定して巡洋艦と駆逐艦を連れて来たんだ。我々を信じてくれ」
「わ、分かった。とっとと沈めろ!」
シュニーヴィント上級大将の命令で護衛部隊が潜水艦狩りを始めた。ツェッペリンは落ち着かない様子で後方に待機していた。
「潜水艦の位置を特定したとのこと! これより攻撃を開始します!」
「ああ、頼んだぞ」
駆逐隊が潜水艦の直上に移動し、次々に爆雷を投下した。
「……敵潜水艦の反応が消滅しました。撃沈です!」
「よし。よくやってくれた。行くぞ、ツェッペリン」
「わ、分かった。シュニーヴィントよ、た、大義であった」
グラーフ・ツェッペリンは北上を再開した。その後も何度となく潜水艦が襲って来たが、ドイツ艦隊はこれを撃沈することに成功した。敵の水上艦艇にも航空機にも全く妨害を受けなかったからである。しかし流石に無犠牲という訳にはいかず、駆逐艦を3隻持っていかれてしまった。
「――我が方の消耗は、最低限に収まったと言えるだろう。十分な戦果だ」
「本当に大丈夫なのだろうな?」
「奴らの潜水艦を30隻は沈めた。もう戦力は尽きた筈だ」
「ソ連は何百と潜水艦を保有しているのではなかったのか?」
「何百は過大評価だが、まあ百隻以上持っていることは確かだ。とは言え、ソ連の潜水艦は広いソ連領海に分散して配置されているし、一番重点を置いているのは太平洋だ」
「なるほどな」
ソ連は数の上では世界最大の潜水艦隊を保有しているが、それは余りにも広大な領域を守らなければならないからである。それに、ソ連の潜水艦は沿海警備が主な任務であり、日米の潜水艦のように遠洋で活動することや、敵の艦隊を正面切って相手取ることは想定外である。
「閣下、レニングラードまで500kmを切りました」
「おお、もうここまで来たか」
「我らの攻撃目標はクロンシュタットであったな?」
ロシア第二の都市であるレニングラードのすぐ手前にある島がクロンシュタットであり、赤色海軍バルト海艦隊の母港になっている。ヨーロッパにおいては赤色海軍の最大の基地なのである。
「では早速、やってやろうではないか。奴らに一泡吹かせてくれる」
「もう一泡吹かせるどころじゃない気がするんだが」
グラーフ・ツェッペリンはすぐに艦載機を全艦発艦させ、航空隊は旧バルト三国の上空などを悠々と飛行しながら、クロンシュタットに一直線に向かった。
「クロンシュタット上空に到達したぞ」
「様子はどうだ?」
「健気に対空砲火をしてくるが、全く大したことはないな。港には何十隻とソ連の駆逐艦が停泊している」
「分かった。では攻撃を開始してくれ」
「ああ。甚だつまらぬ戦いではあるがな」
ツェッペリンはクロンシュタット港への爆撃、雷撃を開始した。停泊していた軍艦は片端から大破着底させ、港湾施設も爆弾で破壊した。ソ連軍は港湾が破壊され軍艦が沈んでいくのを眺めていることしかできなかった。
「全ての敵艦を沈めたぞ。これで赤色海軍はお終いだ」
「バルト海の制海権は我々のものだな」
かくして、大西洋からバルト海にかけて連合国の水上戦力は全滅したのである。
グラーフ・ツェッペリンはアトミラール・ヒッパーとプリンツ・オイゲン、その他駆逐艦12隻を引き連れて、キールを出港して一旦途中のゴーテンハーフェン基地(旧ポーランドのダンツィヒ=ヴェストプロイセン帝国大管区)に立ち寄り、本格的に赤軍の支配が及んでいる地域に突入した。
「赤色海軍は、まあ我々と比べれば大した海軍ではないが、決して油断するなよ」
シュニーヴィント上級大将は言う。実歳、日米英の海軍と比べれば貧弱なドイツ海軍と比べてもなお、ソ連海軍は貧弱である。主力艦としては第一次世界大戦より前の戦艦を数隻保有しているだけであり、空母は一隻もない。
「ふん。ロシア人など恐るるに足らずだが、手を抜いて沈められるなど、未来永劫笑い者になるであろうな」
「それくらいがちょうどいい。ただ、ソ連で面倒なのは、水上艦艇ではないだろうがな」
「閣下! Z4リヒャルト・バイツェンが敵潜水艦を捕捉しました!」
「噂をすれば、来たな」
「何? 潜水艦だと?」
「ああ。我々に太刀打ちできる水上艦艇など、ソ連には存在しないだろうからな」
赤色海軍でバルト海に配備されているのは軽巡洋艦と駆逐艦くらいである。水上だけならグラーフ・ツェッペリンを抜いたドイツ海軍でも十分だろう。それ故にソ連は潜水艦建造に力を入れ、数だけなら米英に引けを取らない量の潜水艦を保有しているのだ。
「ど、どうするのだ?」
グラーフ・ツェッペリンの強がった態度が崩れた。空母のツェッペリンには潜水艦相手に何もできないのである。
「安心してくれ、とは言い切れないが、これを想定して巡洋艦と駆逐艦を連れて来たんだ。我々を信じてくれ」
「わ、分かった。とっとと沈めろ!」
シュニーヴィント上級大将の命令で護衛部隊が潜水艦狩りを始めた。ツェッペリンは落ち着かない様子で後方に待機していた。
「潜水艦の位置を特定したとのこと! これより攻撃を開始します!」
「ああ、頼んだぞ」
駆逐隊が潜水艦の直上に移動し、次々に爆雷を投下した。
「……敵潜水艦の反応が消滅しました。撃沈です!」
「よし。よくやってくれた。行くぞ、ツェッペリン」
「わ、分かった。シュニーヴィントよ、た、大義であった」
グラーフ・ツェッペリンは北上を再開した。その後も何度となく潜水艦が襲って来たが、ドイツ艦隊はこれを撃沈することに成功した。敵の水上艦艇にも航空機にも全く妨害を受けなかったからである。しかし流石に無犠牲という訳にはいかず、駆逐艦を3隻持っていかれてしまった。
「――我が方の消耗は、最低限に収まったと言えるだろう。十分な戦果だ」
「本当に大丈夫なのだろうな?」
「奴らの潜水艦を30隻は沈めた。もう戦力は尽きた筈だ」
「ソ連は何百と潜水艦を保有しているのではなかったのか?」
「何百は過大評価だが、まあ百隻以上持っていることは確かだ。とは言え、ソ連の潜水艦は広いソ連領海に分散して配置されているし、一番重点を置いているのは太平洋だ」
「なるほどな」
ソ連は数の上では世界最大の潜水艦隊を保有しているが、それは余りにも広大な領域を守らなければならないからである。それに、ソ連の潜水艦は沿海警備が主な任務であり、日米の潜水艦のように遠洋で活動することや、敵の艦隊を正面切って相手取ることは想定外である。
「閣下、レニングラードまで500kmを切りました」
「おお、もうここまで来たか」
「我らの攻撃目標はクロンシュタットであったな?」
ロシア第二の都市であるレニングラードのすぐ手前にある島がクロンシュタットであり、赤色海軍バルト海艦隊の母港になっている。ヨーロッパにおいては赤色海軍の最大の基地なのである。
「では早速、やってやろうではないか。奴らに一泡吹かせてくれる」
「もう一泡吹かせるどころじゃない気がするんだが」
グラーフ・ツェッペリンはすぐに艦載機を全艦発艦させ、航空隊は旧バルト三国の上空などを悠々と飛行しながら、クロンシュタットに一直線に向かった。
「クロンシュタット上空に到達したぞ」
「様子はどうだ?」
「健気に対空砲火をしてくるが、全く大したことはないな。港には何十隻とソ連の駆逐艦が停泊している」
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「ああ。甚だつまらぬ戦いではあるがな」
ツェッペリンはクロンシュタット港への爆撃、雷撃を開始した。停泊していた軍艦は片端から大破着底させ、港湾施設も爆弾で破壊した。ソ連軍は港湾が破壊され軍艦が沈んでいくのを眺めていることしかできなかった。
「全ての敵艦を沈めたぞ。これで赤色海軍はお終いだ」
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