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第十四章 第二次世界大戦(覚醒編)
ネーデルラント沖海戦
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「連合国の大艦隊です! 戦艦は10隻はいる模様!」
幾分か過大評価であったが、ドイツ軍は早々に連合国軍の行動を察知した。
「戦艦か。まあ最悪の場合は逃げればいいだろう」
シュニーヴィント上級大将は言う。グラーフ・ツェッペリンは戦艦なぞより遥かに優速であり、戦いの主導権はこちらが握っていると行ってもいい。しかしツェッペリンは不愉快そうであった。
「シュニーヴィントよ、我が逃げるとでも思っているのか? 随分と舐められたものではないか」
「君はそう言うだろうと思ったが……相手は恐らくここら辺にいる連合国の軍艦全てを擁する大艦隊だぞ」
「だからどうしたと言うのだ? 戦艦だろうが何だろうが、我が全て沈めてくれる」
「本当に、できるのか?」
「ああ。我らには秘密兵器があるではないか。人間にはロクに使えぬが、我ならば存分に使いこなしてくれよう」
「分かった。思う存分に戦ってくれ」
「言われるまでもない」
グラーフ・ツェッペリンは一里として退く気はなく、英米海軍と全面戦争をするつもりであった。ツェッペリンは一度攻撃気を帰投させ、補給を済ませて再度飛び立たせた。
○
さて、連合海軍を率いるのは、イギリス本国艦隊司令長官のヘンリー・ムーア大将であった。ムーア大将はネルソン級戦艦二番艦ロドニーを旗艦として、グラーフ・ツェッペリンに向けて突入を開始した。
しかし、状況は連合国遠征軍司令部が考えているより悪い。ここにある戦艦ネルソン、ウォースパイトはノルマンディー上陸作戦の後に機雷にぶつかって損傷しており、速度は僅かに15ノットしか発揮できない。一応連れてきてはいるものの、グラーフ・ツェッペリンに発見されれば置き去りにして突撃する他ないだろう。
そんなことを考えている内に、敵は向こうからやってきた。世界最高の技術力を誇るイギリスのレーダーが、200km先のドイツ軍機を捉えたのである。
「敵です! 数はおよそ70! グラーフ・ツェッペリンの艦載機と思われます!」
「来たか……」
ムーア大将はイギリス空軍の半分を潰滅させた敵を前にして、全身に冷や汗をかいていた。
「全艦全速前進! ネルソンとウォースパイトは置いていく! 空軍に支援を要請せよ!」
「はっ!」
作戦通り、突撃には空軍の援護がついてくる。地上から離陸する650機の戦闘機と、海軍の空母から発艦した戦闘機が100機、これが空を守ってくれる予定だ。
「空軍が接敵! 交戦を開始しました!」
「思ったより早いな。我々の航空隊も合流を急がせろ!」
「はっ!」
「ここで、せめて足止めでもできなければ、我々はお終いだぞ……」
大将は拳を強く握りしめた。連合軍の動かせる全戦力を集中させ、戦略的にやれることはやりきった。後は祈ることしかできない。だが、神は連合国を見放したらしい。
「前衛部隊が突破されました!」
「ツェッペリンの艦載機がこちらに迫ってきます!!」
「クソッ! 何としてでも叩き落とすんだ!! 戦艦に近寄せるなッ!!」
連合国の戦艦の役目は主に対空兵装のプラットフォームである。戦艦達には高角砲と機銃をこれでもかと積み込んでいるのだ。ムーア大将はロドニーの艦橋に上がり、目視で戦闘を指揮することとした。
「敵機、来ました!」
「対空砲火を始めます!」
「頼むぞ……」
高角砲が旋回し、砲撃を開始する。空を焼き尽くしているようにすら見える濃密な対空砲火を前にしては、どんな敵も為す術なく撃墜される――そう願っていたが、それは単なる願望に過ぎなかった。
濃密な爆炎をすり抜けて、黒十字の識別マークを翼につけた爆撃機が急降下してきたのである。
「ば、馬鹿な。この砲火を前にして……」
「閣下! ネバダが敵を落としました!! 奴は無敵などではありません!!」
「嬉しい報告だが、そんなことで大局はひっくり返らんだろう……」
ムーア大将は目の前でグラーフ・ツェッペリンの恐ろしさを見せつけられ、抵抗を諦めかけていた。
「閣下! どうかお気を確かに!」
「そうです! ドイツ軍などにやられるネルソンではありません!!」
「す、すまない。全艦、速度を緩めるな!! 全力で突き進めッ!!」
ここまで来たら戦艦の防御力に期待するしかない。刺し違えてでもツェッペリンに一太刀入れるしかないのだ。
だが、その時であった。
「ラミリーズのX・Y砲塔と機関室が吹き飛びましたッ!!」
「何!? そ、そんな馬鹿なッ!!」
攻撃は一瞬の出来事であり、気付いた時には砲塔が吹き飛ばされていた。艦橋から見てみると、リヴェンジ級戦艦三番艦ラミリーズの後ろ半分が炎に包まれ、惨憺たる有様になっている。
「あ、あり得ない……。一撃で戦艦を半分破壊するなど……」
あまりにも酷い状況に、ムーア大将はすっかり気が動転してしまっていた。
「閣下、これは恐らく、フリッツXによる攻撃かと」
「フリッツX……そうか……これが……」
ドイツ軍の滑空誘導爆弾フリッツXは、音速に近い速度で目標に突入する非常に強力な爆弾である。昨年にはイタリアの戦艦ローマがこれによって一瞬で沈められた。しかし、威力は格別であるが目視誘導なので、母機が先に落とされることがしばしばであった。
だがグラーフ・ツェッペリンにかかれば、対空砲火を掻い潜りながらフリッツXを命中させることも難しい事ではないのだ。戦艦の装甲もフリッツXの前にはまるで無力なのである。
幾分か過大評価であったが、ドイツ軍は早々に連合国軍の行動を察知した。
「戦艦か。まあ最悪の場合は逃げればいいだろう」
シュニーヴィント上級大将は言う。グラーフ・ツェッペリンは戦艦なぞより遥かに優速であり、戦いの主導権はこちらが握っていると行ってもいい。しかしツェッペリンは不愉快そうであった。
「シュニーヴィントよ、我が逃げるとでも思っているのか? 随分と舐められたものではないか」
「君はそう言うだろうと思ったが……相手は恐らくここら辺にいる連合国の軍艦全てを擁する大艦隊だぞ」
「だからどうしたと言うのだ? 戦艦だろうが何だろうが、我が全て沈めてくれる」
「本当に、できるのか?」
「ああ。我らには秘密兵器があるではないか。人間にはロクに使えぬが、我ならば存分に使いこなしてくれよう」
「分かった。思う存分に戦ってくれ」
「言われるまでもない」
グラーフ・ツェッペリンは一里として退く気はなく、英米海軍と全面戦争をするつもりであった。ツェッペリンは一度攻撃気を帰投させ、補給を済ませて再度飛び立たせた。
○
さて、連合海軍を率いるのは、イギリス本国艦隊司令長官のヘンリー・ムーア大将であった。ムーア大将はネルソン級戦艦二番艦ロドニーを旗艦として、グラーフ・ツェッペリンに向けて突入を開始した。
しかし、状況は連合国遠征軍司令部が考えているより悪い。ここにある戦艦ネルソン、ウォースパイトはノルマンディー上陸作戦の後に機雷にぶつかって損傷しており、速度は僅かに15ノットしか発揮できない。一応連れてきてはいるものの、グラーフ・ツェッペリンに発見されれば置き去りにして突撃する他ないだろう。
そんなことを考えている内に、敵は向こうからやってきた。世界最高の技術力を誇るイギリスのレーダーが、200km先のドイツ軍機を捉えたのである。
「敵です! 数はおよそ70! グラーフ・ツェッペリンの艦載機と思われます!」
「来たか……」
ムーア大将はイギリス空軍の半分を潰滅させた敵を前にして、全身に冷や汗をかいていた。
「全艦全速前進! ネルソンとウォースパイトは置いていく! 空軍に支援を要請せよ!」
「はっ!」
作戦通り、突撃には空軍の援護がついてくる。地上から離陸する650機の戦闘機と、海軍の空母から発艦した戦闘機が100機、これが空を守ってくれる予定だ。
「空軍が接敵! 交戦を開始しました!」
「思ったより早いな。我々の航空隊も合流を急がせろ!」
「はっ!」
「ここで、せめて足止めでもできなければ、我々はお終いだぞ……」
大将は拳を強く握りしめた。連合軍の動かせる全戦力を集中させ、戦略的にやれることはやりきった。後は祈ることしかできない。だが、神は連合国を見放したらしい。
「前衛部隊が突破されました!」
「ツェッペリンの艦載機がこちらに迫ってきます!!」
「クソッ! 何としてでも叩き落とすんだ!! 戦艦に近寄せるなッ!!」
連合国の戦艦の役目は主に対空兵装のプラットフォームである。戦艦達には高角砲と機銃をこれでもかと積み込んでいるのだ。ムーア大将はロドニーの艦橋に上がり、目視で戦闘を指揮することとした。
「敵機、来ました!」
「対空砲火を始めます!」
「頼むぞ……」
高角砲が旋回し、砲撃を開始する。空を焼き尽くしているようにすら見える濃密な対空砲火を前にしては、どんな敵も為す術なく撃墜される――そう願っていたが、それは単なる願望に過ぎなかった。
濃密な爆炎をすり抜けて、黒十字の識別マークを翼につけた爆撃機が急降下してきたのである。
「ば、馬鹿な。この砲火を前にして……」
「閣下! ネバダが敵を落としました!! 奴は無敵などではありません!!」
「嬉しい報告だが、そんなことで大局はひっくり返らんだろう……」
ムーア大将は目の前でグラーフ・ツェッペリンの恐ろしさを見せつけられ、抵抗を諦めかけていた。
「閣下! どうかお気を確かに!」
「そうです! ドイツ軍などにやられるネルソンではありません!!」
「す、すまない。全艦、速度を緩めるな!! 全力で突き進めッ!!」
ここまで来たら戦艦の防御力に期待するしかない。刺し違えてでもツェッペリンに一太刀入れるしかないのだ。
だが、その時であった。
「ラミリーズのX・Y砲塔と機関室が吹き飛びましたッ!!」
「何!? そ、そんな馬鹿なッ!!」
攻撃は一瞬の出来事であり、気付いた時には砲塔が吹き飛ばされていた。艦橋から見てみると、リヴェンジ級戦艦三番艦ラミリーズの後ろ半分が炎に包まれ、惨憺たる有様になっている。
「あ、あり得ない……。一撃で戦艦を半分破壊するなど……」
あまりにも酷い状況に、ムーア大将はすっかり気が動転してしまっていた。
「閣下、これは恐らく、フリッツXによる攻撃かと」
「フリッツX……そうか……これが……」
ドイツ軍の滑空誘導爆弾フリッツXは、音速に近い速度で目標に突入する非常に強力な爆弾である。昨年にはイタリアの戦艦ローマがこれによって一瞬で沈められた。しかし、威力は格別であるが目視誘導なので、母機が先に落とされることがしばしばであった。
だがグラーフ・ツェッペリンにかかれば、対空砲火を掻い潜りながらフリッツXを命中させることも難しい事ではないのだ。戦艦の装甲もフリッツXの前にはまるで無力なのである。
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