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第十四章 第二次世界大戦(覚醒編)

北海の戦いⅢ

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 グラーフ・ツェッペリンはその後もイギリスの上空を我が物顔で暴れ回り、イギリス南東部の主要な空軍施設を次々と破壊していった。イギリスがドイツと違って高射砲をあまり重視していなかったこともあり、飛行場を破壊された時点で抵抗らしい抵抗をすることはできなかった。

「閣下、申し上げます。無事に集結できた空軍機は合計でおよそ650機とのこと。閣下のご命令があれば、いつでもグラーフ・ツェッペリンに攻撃を仕掛けられます」

 アイゼンハワー大将にそのような報せが入った。戦闘開始からおよそ半日で連合国の空軍戦力は3分の1にまで減らされてしまったのである。

「たったの、それだけか……」
「閣下、この程度の戦力ではグラーフ・ツェッペリンに返り討ちにされるだけかと考えます」

 リー=マロリー空軍中将はアイゼンハワー大将にそう告げた。400機をほぼ無傷で殲滅する相手に650機をぶつけたところで意味があるとは思えない。

「分かった。作戦は中止する。遺憾だが、残存する部隊は全て西方の飛行場で待機させろ」
「はっ」

 いくらグラーフ・ツェッペリンが化け物でも艦載機の航続距離までは誤魔化せないだろう。ツェッペリンの魔の手が及ばないイギリス南西部の飛行場に、残存する航空艦隊は退避した。

「アイゼンハワー大将、これからどうするつもりだ? グラーフ・ツェッペリンはこうしている間にも英仏海峡に接近してきているんだぞ?」

 モンゴメリー陸軍元帥はアイゼンハワー大将に決断を迫った。悠長に考え事をしている時間はない。しかしアイゼンハワー大将は、明確な答えを出すことはできなかった。

「現状の我々の戦力では、グラーフ・ツェッペリンを撃沈することは極めて困難だ。空母の艦載機を足しても、焼け石に水というものだろう……」

 大将は暗い声で、一つずつ確かめるように言った。

「だが、一つ希望があるとすれば、戦艦による波状攻撃だ。戦艦が撃沈される前にグラーフ・ツェッペリンに接触して、飛行甲板に主砲弾の一発でも叩きつけることができれば、我々は勝てる」

 戦艦に特攻させるというのが、アイゼンハワー大将の思い付く唯一の勝ち筋であった。これは他の将軍隊も同意するところである。しかし、それを受け入れられない者もいる。ラムゼー海軍大将である。

「お言葉ですが、今ヨーロッパにある戦艦は、ネルソンとロドニーを除いた5隻は第一次世界大戦レベルの旧式艦です。ネルソンとロドニーにしても、艦齢20年近く旧式艦と呼べるものであり、とても実用に耐えうるとは思えません」
「例え前弩級戦艦であっても、グラーフ・ツェッペリンの飛行甲板に一発でも当てれば無力化できると思うのだが、違うか?」
「当てられればそうでしょうが、いずれの戦艦も速力、装甲は劣るものばかりです。それに制空権が確保できていない以上、目視でグラーフ・ツェッペリンを観測できるまで近づかなければなりません。それは自殺行為かと」
「では、大将はどうするべきだと思う?」
「艦隊を温存しましょう。反撃の戦力を確保しておくのです」
「なるほど。戦略としてそれはありだ」 

 グラーフ・ツェッペリンには無力でも、反撃ができる戦力を確保しておくことには意味がある。グラーフ・ツェッペリンを英仏海峡に釘付けにできるからだ。もちろんそうしている間は英仏海峡はドイツのものになる訳だが。

「それで? その後はどうする?」
「赤軍に勝ってもらうまで待っていればよろしいかと」
「正気か、ラムゼー大将? そんな戦略は論外も論外だ。話にならん」

 モンゴメリー陸軍元帥はラムゼー海軍大将に真っ向から反対した。

「いくら赤軍が優勢とはいえ、ドイツを滅ぼすのにまだ何ヶ月とかかるだろう。だが人間は3日も飲まず食わずにいたら死ぬんだぞ? そんなことも分からないのか、お前は?」
「フランスに備蓄などはないのですか?」
「補給を円滑にする為の一時的なプールしかない」

 長期的に補給なしで戦えるような備蓄はフランスにはない。

「ではフランス政府に食糧を提供させるというのは?」
「ド・ゴールなんぞにそんな力があるものか」

 シャルル・ド・ゴール少将は、かつて自由フランスを名乗る亡命政府を率い、現在はフランス臨時政府の首班である。しかし今のフランスに中央政府らしい能力はなく、200万の連合国軍の兵站を支える能力などない。

「食糧が尽きればどうなるか……。フランス全土が殺し合いの舞台になるだろうな」
「では元帥閣下は、現有の戦力だけでグラーフ・ツェッペリンに決戦を挑めと仰るのですか?」
「その通りだ。それ以外の選択肢はありえない! アイゼンハワー大将、貴官もそう思うだろう?」

 モンゴメリー陸軍元帥に問われ、アイゼンハワー大将は暫し考え込んでから、ゆっくり口を開いた。

「…………そうだな。ほんの一日であろうと、フランスへの補給線を切られる訳にはいかない。何としてでもここで、グラーフ・ツェッペリンを、撃沈しなければならない」

 無謀であるとは察しつつも、彼らにそれ以外の選択肢はなかった。
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