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第十四章 第二次世界大戦(覚醒編)

北海の戦い

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 キールを意気揚々と出撃したツェッペリンは北海に出て英仏海峡に向けて一直線に航行していた。ドイツ本国からはささやかながら戦闘機が飛ばされ、ツェッペリンの進路上の偵察を行っていた。

「閣下、偵察部隊から報告です。北緯56度7分、東経4度1分付近に、重巡洋艦程度の艦艇を含む、8隻程度の部隊を確認したとのこと」
「我々を探し回っているのかもな。ツェッペリン、どうする?」
「質問の意味が分からぬな。我が前に立ち塞がるというのなら、一隻として残さず殲滅するまでである」
「別に立ち塞がってる訳じゃないと思うが、見つかる前に消した方がよさそうだな」
「うむ。とっとと沈めよう。発艦を開始する」

 ツェッペリンは爆撃機や雷撃機を含んだ全ての艦載機を出撃させ、報告にあった敵戦隊を撃滅しに向かった。

 ○

「何だ、駆逐艦しかおらんではないか。偵察の連中は何をやっている」
「悪く言わないでやってくれ。人間の目ではそう精確な偵察はできないものなんだ」
「まあよい。攻撃を開始する」

 敵は駆逐艦8隻だけの小部隊であったが、ツェッペリンにとっては初の対艦戦闘である。

「相手は腐っても船だ。航空機ほど簡単には壊せないぞ」
「分かっておる」

 ツェッペリンはまずJu87を急降下させ、駆逐艦の艦橋に500kg爆弾を投下した。駆逐艦のささやかな機銃による迎撃は何の意味もなく、あっという間に全ての駆逐艦が艦橋を吹き飛ばされて機能不全に陥った。

「全ての艦橋を潰した。これで戦えまい」
「艦橋を狙って破壊したのか?」
「そうだが、何だ?」
「いや、感心しただけだ。そんなこと、ルーデル大佐くらいにしかできんだろうからな」

 ルーデル大佐とは、恐らくグラーフ・ツェッペリンに比肩するただ一人の人間であり、一人で一個師団の価値があると謳われ、彼の為だけに『黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章』という新たな勲章が制定されたという、生ける伝説である。

「ルーデルか。会ってみたいものだな」
「今度手配しておこう」
「そうか。では、奴らに止めを刺すとしよう」
「そうだな」

 シュニーヴィント上級大将は少々俯いて応えた。最早抵抗する能力のない敵艦を沈めるというのは抵抗があるものだ。ツェッペリンは特に気にしていないようであったが。

「これで終わりだ」

 ツェッペリンはFi167で雷撃を行い、駆逐艦のど真ん中に次々と魚雷を命中させた。脆い駆逐艦はたちまち沈んでいき、後には若干の残骸と救命ボートと脱出した兵士が浮かんでいた。

「ふむ、兵士が浮かんでおるな。撃ち殺そう」
「ツェッペリン、その必要はない。やめておけ」
「何? 我らの存在が露見するのではないか?」
「もう彼らに無線通信設備は残っていないだろう。そうなれば、どこかから味方の船が来て助けてもらうまで漂流しているしかない。その時には我々は現在位置から遠く離れている」

 無線が残っていればツェッペリンの艦載機がどの方角から来たか報告される危険性があったが、それが不可能ならば敵兵を殺す必要はない。

「……よかろう。残っている者は捨て置くこととする」
「ああ。そんなものには構わず、先を急ごう」
「分かった」

 かくしてツェッペリンを事前に捕捉しようとする連合国軍の企みは完全にねじ伏せられ、この前哨戦だけで重巡洋艦2隻、駆逐艦21隻が撃沈されたのである。

 ○

 戦闘が開始されて2日。首相官邸を訪ねたラムゼー大将はチャーチル首相に怒鳴りつけられていた。

「戦況はどうなっている! たった一隻の空母を相手に何をやっているんだ!」
「我々としても手を尽くしてはいるのですが、ツェッペリンに近づくことすらままならないのです。不甲斐ないとしか」

 航空偵察を行おうにも、ツェッペリンを視界に入れた途端に尽く撃墜されて、情報が入ってこないのである。

「クソッ。ドイツ人風情が」
「しかし閣下、ツェッペリンの概ねの位置ならば特定できます。哨戒部隊の連絡が途絶えた位置を集計すれば、おおよその位置は分かります」
「で? それはどこだ?」
「ちょうどアムステルダムの北側200kmほどにいるものかと思われます」
「何!? もうすぐそこじゃねえか!」

 ロンドンから僅かに600kmほどしか離れていない。ドイツ軍の艦載機は航続距離が短いからよかったものを、もし相手が日本軍だったらロンドンが爆撃されていることだろう。

「はい。ですから連合軍はこれより、基地航空隊を全力で出撃させ、グラーフ・ツェッペリンの撃沈を敢行いたします。閣下にはそのご報告に参りました」
「敵の精確な位置は分からないんじゃなかったのか?」
「まず我が方の戦闘機2,000機で索敵を行い、ツェッペリンを発見します。その後は戦闘機を爆装して、ツェッペリンの飛行甲板を破壊することに注力します」
「爆撃機は使わないのか?」
「爆撃機は余りにも低速であり、ツェッペリンの戦闘機の前には無力だと判断しました。よって爆装した戦闘機を用います」
「分かった。とっとと沈めろ」
「はっ。ご期待ください」

 敵の位置も分からない内の全力出撃。それはドイツ軍が以前に踏んだのと同じ轍の先にある行為であった。
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