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第十四章 第二次世界大戦(覚醒編)
連合国遠征軍最高司令部
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一九四四年八月四日、イギリス、ロンドン、ダウニング街10番地(首相官邸)。
大英帝国のウィンストン・チャーチル首相は、『例え戦争に勝ったとしてもイギリスの国威と国力を使い潰すだけだ』という警告を無視してドイツとの戦争を推し進めた狂信的な反独主義者であり、同時に熱狂的な戦争愛好家である。また昨年にはインドで意図的な大飢饉を起こして数百万の無辜の民を虐殺し、世界最悪の虐殺者、差別主義者としても知られている。
閣僚、官僚、高級将校はとっくにチャーチル首相が気狂いであることに気付いていたが、国民からの絶大な人気を誇る首相に逆らうことは困難であった。それでも戦争に勝ちつつあるからよかったものの、今日は良からぬ報せが彼のもとに舞い込んできた。
「首相閣下、昨日キールへの空襲を敢行した部隊ですが、全滅したとの報告が入りました」
「全滅? はっ、馬鹿なことを言うんじゃない」
「私もにわかには信じられませんでしたが、間違いありません。生存者――正確には帰投した者は一人もおりません。文字通り一機残らず撃墜されたのです!」
「……本当に言ってるのか?」
「嘘など申し上げる理由がありません!」
「つまりは、ドイツと日本が開発しているオカルト兵器は本物だったってことか」
「とても信じられませんが、その通りかと」
連合国は船魄の情報をそれなりに掴んでいるが、枢軸国が現実逃避の為に開発している馬鹿げた玩具だと思っていた。今日この日までは。
「グラーフ・ツェッペリンは確かに、我が国のどの空母よりも高性能だ。それが化け物になったってんなら、一大事だな」
実際のところ、グラーフ・ツェッペリンの全長は確かにイギリスのどの空母よりも大きいが、格納庫の広さはイギリス空母で最も広いアーク・ロイヤルと同じくらいである。まあアーク・ロイヤルは海の底に赴任しているが。
「はい。我が方は爆撃機が半数以上だったとは言え、10倍の敵を相手取れるなど尋常ではありません」
一般的にある部隊の戦闘能力はその数の自乗に比例するものである。普通の軍隊が10倍の敵と交戦すれば、1パーセントの敵を撃墜することもできずに全滅するだろう。
「でありますから、我々は直ちにグラーフ・ツェッペリンを沈める必要があります。まだ空母一隻に留まっているうちに」
ドイツが船魄技術を更に発展させ、より大量の航空機を船魄によって制御するようになれば、連合国の敗北は避けられまい。そうなる前に、敵が少数に留まっているうちに、船魄を殲滅しなければならないのだ。
「分かった。ドイツ人など素直に絶滅してればいいものを、俺に喧嘩を売るとはいい度胸だ。グラーフ・ツェッペリンを沈めるぞ」
「はっ」
チャーチルの意向も受け、連合国遠征軍最高司令官アイゼンハワー大将は、グラーフ・ツェッペリンの撃滅を決定した。しかし連合国は万全な準備を整えられているのは言い難かった。というのも、ドイツ海軍で稼働している主力艦は既に戦艦ティルピッツとグラーフ・ツェッペリンしかなく、連合国の海軍の大半がアジアに配置されているからである。
アイゼンハワー大将としてはインド方面にいるイギリスの空母などを呼び戻してからグラーフ・ツェッペリンの討伐に赴きたいと思っていたが、ドイツ海軍がそれを待ってくれる筈などなかった。
○
4日後。ロンドン、キャンプ・グリフィス、連合国遠征軍最高司令部にて。
「アイゼンハワー大将閣下、グラーフ・ツェッペリンが動き出しました。デンマークを回って西に向かっていると見受けられます」
「了解だ。報告ご苦労」
整備を終えたグラーフ・ツェッペリンはイギリス方面に向けて数隻の駆逐艦と共に出撃していた。
「どうやら、現有の戦力だけでグラーフ・ツェッペリンを迎え撃つ他になさそうだ。ラムゼー大将、勝ち目はありそうか?」
海軍戦力司令官、イギリス海軍のバートラム・ラムゼー大将にアイゼンハワー大将は問う。
「そう言われましてもな。船魄なるものの実力は全く未知数です。現在の情報では机上演習すらままなりません」
最初にグラーフ・ツェッペリンと戦った部隊は完全に全滅してしまい、こちら側の戦果は不明である。それさえ分かっていればツェッペリンを撃沈するのにどれほどの航空機が必要か、数学的に判定することも可能だったのだが。
「我が方で今出せる艦隊空母はフューリアスとフォーミダブルだけです。護衛空母はまだ何隻が出せますが、少なくとも10倍の敵を全滅させるような相手には、全く太刀打ちできないでしょう」
「了解した。では遺憾ながら、イギリス本土の基地航空隊を使う他にないだろう」
バトル・オブ・ブリテンが終結してようやく安全になったイギリス本土を再び戦火に巻き込もうという決定である。
「しかしアイゼンハワー、もしも負けたらどうするつもりだ?」
地上戦力指揮官、イギリス陸軍のモンゴメリー元帥は問う。
「そんな時のことは考えないようにしよう。簡単な話だ。勝てばいいんだ。我が方の戦力は無尽蔵と言ってもいい。負ける訳がない」
もしも敗北してイギリス海峡の制海権が奪われれば、想像もしたくない悲惨な結果が待っていることは間違いないだろう。
大英帝国のウィンストン・チャーチル首相は、『例え戦争に勝ったとしてもイギリスの国威と国力を使い潰すだけだ』という警告を無視してドイツとの戦争を推し進めた狂信的な反独主義者であり、同時に熱狂的な戦争愛好家である。また昨年にはインドで意図的な大飢饉を起こして数百万の無辜の民を虐殺し、世界最悪の虐殺者、差別主義者としても知られている。
閣僚、官僚、高級将校はとっくにチャーチル首相が気狂いであることに気付いていたが、国民からの絶大な人気を誇る首相に逆らうことは困難であった。それでも戦争に勝ちつつあるからよかったものの、今日は良からぬ報せが彼のもとに舞い込んできた。
「首相閣下、昨日キールへの空襲を敢行した部隊ですが、全滅したとの報告が入りました」
「全滅? はっ、馬鹿なことを言うんじゃない」
「私もにわかには信じられませんでしたが、間違いありません。生存者――正確には帰投した者は一人もおりません。文字通り一機残らず撃墜されたのです!」
「……本当に言ってるのか?」
「嘘など申し上げる理由がありません!」
「つまりは、ドイツと日本が開発しているオカルト兵器は本物だったってことか」
「とても信じられませんが、その通りかと」
連合国は船魄の情報をそれなりに掴んでいるが、枢軸国が現実逃避の為に開発している馬鹿げた玩具だと思っていた。今日この日までは。
「グラーフ・ツェッペリンは確かに、我が国のどの空母よりも高性能だ。それが化け物になったってんなら、一大事だな」
実際のところ、グラーフ・ツェッペリンの全長は確かにイギリスのどの空母よりも大きいが、格納庫の広さはイギリス空母で最も広いアーク・ロイヤルと同じくらいである。まあアーク・ロイヤルは海の底に赴任しているが。
「はい。我が方は爆撃機が半数以上だったとは言え、10倍の敵を相手取れるなど尋常ではありません」
一般的にある部隊の戦闘能力はその数の自乗に比例するものである。普通の軍隊が10倍の敵と交戦すれば、1パーセントの敵を撃墜することもできずに全滅するだろう。
「でありますから、我々は直ちにグラーフ・ツェッペリンを沈める必要があります。まだ空母一隻に留まっているうちに」
ドイツが船魄技術を更に発展させ、より大量の航空機を船魄によって制御するようになれば、連合国の敗北は避けられまい。そうなる前に、敵が少数に留まっているうちに、船魄を殲滅しなければならないのだ。
「分かった。ドイツ人など素直に絶滅してればいいものを、俺に喧嘩を売るとはいい度胸だ。グラーフ・ツェッペリンを沈めるぞ」
「はっ」
チャーチルの意向も受け、連合国遠征軍最高司令官アイゼンハワー大将は、グラーフ・ツェッペリンの撃滅を決定した。しかし連合国は万全な準備を整えられているのは言い難かった。というのも、ドイツ海軍で稼働している主力艦は既に戦艦ティルピッツとグラーフ・ツェッペリンしかなく、連合国の海軍の大半がアジアに配置されているからである。
アイゼンハワー大将としてはインド方面にいるイギリスの空母などを呼び戻してからグラーフ・ツェッペリンの討伐に赴きたいと思っていたが、ドイツ海軍がそれを待ってくれる筈などなかった。
○
4日後。ロンドン、キャンプ・グリフィス、連合国遠征軍最高司令部にて。
「アイゼンハワー大将閣下、グラーフ・ツェッペリンが動き出しました。デンマークを回って西に向かっていると見受けられます」
「了解だ。報告ご苦労」
整備を終えたグラーフ・ツェッペリンはイギリス方面に向けて数隻の駆逐艦と共に出撃していた。
「どうやら、現有の戦力だけでグラーフ・ツェッペリンを迎え撃つ他になさそうだ。ラムゼー大将、勝ち目はありそうか?」
海軍戦力司令官、イギリス海軍のバートラム・ラムゼー大将にアイゼンハワー大将は問う。
「そう言われましてもな。船魄なるものの実力は全く未知数です。現在の情報では机上演習すらままなりません」
最初にグラーフ・ツェッペリンと戦った部隊は完全に全滅してしまい、こちら側の戦果は不明である。それさえ分かっていればツェッペリンを撃沈するのにどれほどの航空機が必要か、数学的に判定することも可能だったのだが。
「我が方で今出せる艦隊空母はフューリアスとフォーミダブルだけです。護衛空母はまだ何隻が出せますが、少なくとも10倍の敵を全滅させるような相手には、全く太刀打ちできないでしょう」
「了解した。では遺憾ながら、イギリス本土の基地航空隊を使う他にないだろう」
バトル・オブ・ブリテンが終結してようやく安全になったイギリス本土を再び戦火に巻き込もうという決定である。
「しかしアイゼンハワー、もしも負けたらどうするつもりだ?」
地上戦力指揮官、イギリス陸軍のモンゴメリー元帥は問う。
「そんな時のことは考えないようにしよう。簡単な話だ。勝てばいいんだ。我が方の戦力は無尽蔵と言ってもいい。負ける訳がない」
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